第255話「ごめんね、でも」 サニツァ


 ガートルゲン地方にあるヘレンデン市。今はここで妖精さん達が一生懸命工場を作って、前線工廠にしているよ。これから南部よりももっと大きい戦争になるから、ここで沢山の武器弾薬を作って備える。

 ちょっと前まではここにたくさんの人が住んでいたんだけど、その人達は今、外で整列して、銃剣で刺されてから自分で掘ったお墓の穴に蹴られて落ちてる。悪い奴等に味方した上に、反省してごめんなさいをしなさいって言っても言うこと聞かなかったみたい。悪い子だね。

 ゼっくん軍、ちょっとの間お別れしていたジュレンカちゃん師団とも合流して今はガートルゲン地方の守りを固めると同時に、北の言うこと聞くのか聞かないのか分かんないナスランデン地方の人達を説得する準備をしている。

 ガートルゲンに住んでいる諸侯さん達の連合軍が今は西の国境沿いで警備しているんだけど、弱いし裏切っちゃうかもしれないしで何だか難しい状況みたい。

 他にも裏切りそうな人達とか、降伏しないで抵抗している人達は順調に正義の保安隊の皆がやっつけてる!

 自分は工場建設のために邪魔な建物を撤去しつつ、既存の建物を改造したり空き地に建物を建てたりで忙しい! 大変で疲れちゃう、だからこそ皆でお歌を歌う。労働監督官さんが声を掛ける。

「同志労働者諸君! 労働歌を歌おう! 我等が労働闘争によってマトラの未来を防衛するのだ!」

『はーい!』

「マトラ労働歌、一番!」

『マトラ労働歌、一番!』

「斉唱! せーの……!」


  侵略の雨、祖国を濡らし

  破壊の風が切り刻む


 邪魔でボロボロな木造住宅は不潔な上に邪魔邪魔で邪魔。壁をブットイマルスで崩して、柱をブットイマルスで折って、屋根をブットイマルスで落とす。こういう安普請の建物の廃材は薪にしかならない。ボロボロだし、釘の打ち方が滅茶苦茶で汚くて錆びてるし、腐ってるし鼠が齧ってるし虫が住んでる。きっちゃなくてちょーばっちぃ!


  恐れず戦え、同胞同志

  不断に戦い築くのだ


 壊すだけじゃなくてお掃除もする。瓦礫に家具、埃に油、死体にうんこ。ちゃんと使えそうな物は分別してまとめておく。煉瓦は出来るだけ使い直せるように崩すし、柱や梁に使っているような立派で大きい木は手に入れるのも難しいから大事にする。椅子と寝台は宿舎に運び込む。建物からは色んな物、食べ物とか筆記用具とか敷布とか着替えとか靴に武器にお金、隠れてた子供とかがたくさん出てくるから分別専門部隊もいる。

 

  守りの家、豊饒の大地、革命守る労農軍


 ゲロゲロに汚い下水溝掃除は大変だったけど頑張った。腐った死体は蝿に蛆に鼠の犬まで集ってて、臭過ぎて鼻とか目が痛かった。うんこと腐った何かが混じったグチョグチョの泥は凄いし、それにボロ布が混じってると、引っ張った時に広がってむあって臭い泥が広がって飛んで酷い。便所穴と同じで、穴を掘ってきったないのは全部埋めた。


  真に勝利するその日に

  祖国に日差しが降り注ぐ


 最初は汚い物を撤去して疫病の蔓延を防がないといけなかったから臭い仕事が続いた。臭くて汚くなった服は洗濯しないといけない。今度は水の確保。川沿いの町じゃないから井戸から組まないといけないから大変だった。井戸の綺麗な水は飲用、料理用水にして、池とか沼みたいなきったない水は雑用、洗濯用水にした。樽でざぶんって汲んだけど皆次々と汚すから終わらない!


  振るえその腕、進めその脚、血と汗に塗れよ


 マトラから護送されてきた工業機械の搬入組み立てはとっても慎重に。動力確保に風車や動力車を作る。大砲や鉄砲の穴を削る機械は特に悪い奴等に狙われるみたいだから重点警護!


  真の献身が明日に実る

  明日の明日へ繋げよう


 大量の鉄鉱石と石炭も運んで積む。鉄が出来たら溶鉱炉へ運ぶ。溶鉱炉で部品を作ったら組み立て工場か加工場へ運ぶ。完成品を倉庫に運ぶか、外へ持っていく車に載せる。優先して作られるのは榴弾、次に大砲。榴弾は撃って爆発すると壊れるし、大砲もたくさん撃つと歪んで脆くなって破裂しやすくなっちゃう。

 こんな感じで壁内全体を丸ごと造りかえるのはヘレンデン市だけで、あとはひろーく土地を使って、西から攻めてくるかもしれないロシエ軍に備える。備えるんだけど、どうするんだろう? ゼっくんが知ってる。


■■■


「作業止め、日中作業班による本日の労働終了! 作業止め、日中作業班による本日の労働終了! 食事と睡眠を取り、明日の労働に備えよ! 食事と睡眠を取り、明日の労働に備えよ!」

 朝とお昼に働く労働者のお仕事が終了!

「夜間作業班、労働始め! 夜間作業班、労働始め! 全時間を惜しまず労働闘争に注ぎ込み最終勝利への一歩を踏み出せ! 全時間を惜しまず労働闘争に注ぎ込み最終勝利への一歩を踏み出せ!」

 ヘレンデン市はまだ労働者施設が完備されていないから三交代じゃなくて二交代制。夜と早朝に働く労働者にお仕事を引き継いでから、服を洗濯部隊に出して、体を洗って、食堂で配食係からご飯を貰う。今日も二人分の夕飯を籠に入れて、司令部のゼっくんのところに行っちゃおう! お昼は作業現場の近くの食堂で食べる。だから夕飯はゼっくんのところで食べる!

 ヘレンデン市の改築は進んだ。お話を聞くと、ガートルゲン地方全体! に防衛線を構築しなきゃならないんだけど、ここの地理とか現地の情報が不足していて中々計画が立てられないんだって。ゼっくん軍だけじゃなくて妖精の傭兵隊とか、フェルシッタの良い傭兵さんとかが工事と警備作業につくから人手はいっぱいあるように思えるけど、それでも人手不足に物不足。人夫を雇ったり物を買ったりするには現地情報がたくさんいる。どこに暇な人がいるとか、どこの町から食べ物を買えば一括注文で楽だとか、どこの組合に声をかければ職人さん達が集るとか、手続きが難しい。

「ご飯だご飯だお休みだ! お日様さよなら、お月さんこんばんわ!」

 司令部に入る。現地情報をゼっくんに神聖教会の頭の良い人が教えている最中だった。最近、ずっと教えっぱなし。ゼっくんがお馬鹿なはずがないから、その情報の量がすっごいんだね。

「ゼっくん、ジーちゃんおこんばんわ! あ、ジーちゃんのご飯も持ってくれば良かったよね?」

「不要です」

 頭の良い人、アタナクト派の姉妹のジルマリア、ジーちゃんが頭の頭巾を外して、暑いからか疲れているからか、ちょっと紅潮した白くてツルペンな頭に掻いている汗を手拭いで拭いている。

「ゼっくん、ご飯だよ!」

「まだいい」

「仕事の邪魔です」

 ゼっくんとジーちゃんに言われちゃった。

「ごめんね」

 椅子に座って待つ。大きな机の上には紙の束と地図がたくさんあって、筆記用具とか色んな線を描く道具がある。補佐の人達の机にも書類がたくさん。手紙を開封して読んで分類したり、お仕事終わったのにまだ忙しいみたい。夕暮れで部屋が暗くなったらお仕事お終いじゃなくて、火が灯ったランプがたくさん吊るされ始める。

 ジーちゃんのおケツはいっつも修道服が小さくてぱっつんぱっつんになってる。替えの服を貰う前におケツがおっきくなっちゃったのかなって思う。手直しすればいいと思うんだけど、アタナクトの人は戒律がめちゃくちゃ厳しいみたいだし、直してくれないのかも。

 おケツをじーっと見ていたらジーちゃんに睨まれた。

「まだいるんですか」

「お仕事終わるの待ってるの」

「誰の」

「ゼっくんとあなた!」

「何故」

「ご飯が一緒!」

「出て行きなさい」

「なんでー?」

「馬鹿と遊んでいる暇がありません」

 あ、やっぱりだ!

「おケツがぱっつんぱっつんで疲れてるんだ!」

「か……関係ありません」

 ジーちゃんが怒った顔から変な顔になった。図星ってやつだね。イライラするのは疲れてる時だ。

「確かに。人間、当初からだが何故そのような悪戯に窮屈な格好をしているんだ? 汗の量も尋常じゃない。そちらの決まりごとは知らないが体調不良を理由に怠けられても困る。万全を尽くすよう要請する」

 ゼっくんもぱっつんぱっつんが気になってたみたい。大きさの合わない服を着ていたら疲れてお仕事にならないよね。脇とか背中とか濡れちゃってるくらいだし。

「着たくてこんなもの着るか!」

 ジーちゃんがおっきな声を出して、修道服を裾から腰まで手で裂いちゃった! 白い脚におケツまで見えちゃってはしたないよ! もうちょっとで下の毛まで見えそう。司令部には妖精さんとジーちゃんのお手伝いの姉妹しかいないから大丈夫だけど、変態さんとか元気な男の子がいたら大変だったよね。

 ジーちゃんには何だか事情があるみたい。予備が無いのかも。お手伝いの人達が何か予備を用意している感じでも無いみたいだし。そうだ!

「私が代わりを探してきてあげる! 大きさは?」

「何、何?」

 ジーちゃんの肩に胸、腰とおケツに脚を触ってざっと採寸。手、指、指関節で長さを把握。すーがくは難しいけど、こういう感じで測るのは得意。

「何!?」

「サニャーキにお任せだよ!」

 外に出る。建物の解体をしていた時に反物屋さんがあったのを思い出したのだ!

 補給隊の管理官さんに押収した物資を使いたいから許可を求める。

「服が破れちゃったジーちゃんのおケツにお毛毛が見えたら大変なの! 風邪引いちゃうし、変態さんが寄ってきたらお仕事にならない!」

「それは大変だ!」

 ヘレンデン市内には、今は火薬の加工場になっている修道院があるんだけど、そのせいかアタナクト派の黒灰色の修道服用の反物がたくさんある。既製品や、修道院から回収したお古の修道服もある。死体から剥がせばジーちゃんにぴったりのもあるかもしれないけど、もうきったないからダメだよね。それに、やっぱりあのおケツに合う修道服はなかなか無いかも。肩幅も結構広かったし。どうせならぴったりがいいよね!

 お古の中から、とりあえず着れそうなものを探す。太ったおばちゃん姉妹が着ている感じの一着。大きさはブカブカだけどまずはしょうがない。

 それからもう一着のお古を解体して構造を確認。反物を切って縫って作るのはちょっと時間が掛かっちゃうよね。

「たっだいまーん!」

 下腹部に手を当てながら司令部に戻る。誰も笑わない。

「ただいまんこ」

 当てた手を外に開く。お手伝いの姉妹の人達に睨まれちゃった。あれれ? 遊牧民さんとかにやると鼻水垂れるくらい笑うのにね……あ、顔を手で隠して堪えてる姉妹がいた! やったね。これはデニちゃんの得意技。二回目は声を低くするのが秘訣。

 ジーちゃんはまだお仕事中。後ろから見ると破れた修道服からおケツの片方が見えてて、プルっと上がって、太ももすべすべに脂が乗ってて焼いて食べたら美味しそう。ただの脂肪のぽよぽよじゃなくて筋もあるから絶対歯応えもあって美味しい! でも友達だから食べちゃだめよ。だめだめ。お腹が空いているからそんなこと考えちゃうの。

「とりあえずお古だけど着てみて!」

「着て、ここで?」

 ジーちゃんがそうしぶーい顔をすると、ゼっくんは地図と資料を見比べながら「興味は無い」と言う。

「ゼっくん目隠し!」

 でもゼっくんの目を手で隠した。それはそれ。

 ジーちゃんがお古に着替える。ぱっつんぱっつんの着ていた修道服は脱ぐのも大変みたいで、お手伝いの姉妹が「もう裂きましょう。役目は果たしました」と言って破いた。

 破いてから脱いだら良くなったみたいで、息を吹きながらお古に着替えた。ブカブカだ。

 それからジーちゃんは破けた服を二回、三回、四回とビリビリに破いてぐるぐるに丸めて壁に「死ね!」って投げつけて落ちたのを「糞が!」って蹴っ飛ばしてランプに手を掛けたところで姉妹達に止められた。

「後でちゃんと大きさ合わせたやつを縫うから待っててね!」

「あー……はいはい」

 ちょっと、ランプの灯りだからはっきりしないけど、ジーちゃんの赤っぽかった顔が白くなってる感じ。気分は良くなったみたい。

「済んだなら早く手を退けろ」


■■■


 防衛線の構築は最終的に北はエヤルデン湿地から南はウルロン山脈。西はオーボル川から東はイーデン側までのすっごく広い地域を覆う。

 ここガートルゲン以外でもオルメンを中心にする地域でも聖戦軍に加わった良い子の諸侯や、今まで孤立して可哀想だった聖領が接続したせいで防衛範囲が拡大しているみたい。南部から増援が駆けつけているみたいだけど大丈夫かな? とにかく大変だね。

 ガートルゲンの兵隊さん達がナスランデンの人達に聖戦軍に加わろうって説得しているみたいだけど今のところダメ。北の方ではエデルトの兵隊さん達が作戦を失敗してばかりでやっぱりダメみたい。

 ダメダメで大変なことばっかりだけど、それでも労農兵士は諦めない。戦い続けるのだ! だから皆でお歌を歌う。労働監督官さんが声を掛ける。

「同志労働者諸君! 労働歌を歌おう! 我等が道路建設闘争によって機動力を確保し、いかなる敵をも粉砕するのだ!」

『はーい!』

「マトラ労働歌、んん! 二番!」

『マトラ労働歌、二番!』

「斉唱! せーの……!」


  反撃の牙、鉄で覆い

  号砲鳴りて突き進む


 ガートルゲンの道路は一応整備されているけども、泥に弱かったりする。マトラみたいにコンクリートで覆ったり、削った石をキツキツに敷き詰めて、接着に外れないようセメントで固定したりしている暇は無い。石を砕いて砂利を敷く。応急的に板張りにしておく場所もあるけど。あと道幅を広げる工事は基礎工事をして土を盛って横に崩れないように杭で覆ったり手間がいっぱい掛かる。資材はガートルゲン攻略時に無人になった村や町があるから、そこから丸ごと持ってきたりもする。


  忘れず戦え、同胞同志

  果敢に戦い破るのだ


 川に湖にある橋が細かったり脆かったり、船を通すために橋自体が無かったりで不便が多い。橋は全般的に砲兵隊が通れるように補強。船を通す川には大砲の揚げ降ろしが出来る船着場を整備して船も用意。咄嗟に浮き橋を架けられる準備をする。


  阻む塹壕、囲む要塞、遥かなる進撃路


 道そのものが池というか川というか、湿地に沈んでいる悪い道もある。干拓事業はかなり大変なので工夫が要る。単純に迂回する道を作る方法。水を流し込んでくる川の行く先を変えて、別の土地に流す方法。別の土地に流すとそこの農民さんが怒るけど、保安隊が鎮圧するから大丈夫。

 水は抜いたけどべちゃべちゃの土地はしっかり杭打ちをして砂利や木材で補強。どうしても手がつけられなさそうなところは橋を架ける。

 橋は架けるけども水も抜いておく場合もある。氾濫すると近辺を泥沼にしそうだったり、橋桁工事を素早く行うためだったり。


  敵を砕くその時に

  戦士の血肉が糧となる


 関税を取るためにわざと道幅を狭くして、馬車一台がようやく通れるような関門があるから撤去しないといけない。関門の撤去は火薬で爆破。そして瓦礫の撤去。関門は砦や城になっているから解体すれば建材に使える。全面は無理だけど、城壁の石で作った頑丈な道路も敷いた。


  握れ剣と銃(つつ)、踏めよ軍靴で、死と灰に塗れよ


 西のオーボル川沿いは、反対岸からロシエの悪い兵隊がつけ狙っているから要注意。監視塔を増やして柵も伸ばす。ガートルゲンの兵隊さん達がこっちの工事をしているけど、ちょっと下手糞だったり仕事が遅かったりするから手伝うことになってしまう。もう人がいなくなった町とか砦とか城とかから要らなくなった大砲を運んで防御も固める。


  敵の滅びが我等の願い

  滅び去るまで戦わん


 工事は南のウルロンの山の方まで伸びるから山での工事もしないといけない。狭いけど山や谷で思ったよりもあっちこっち行けちゃう道の要衝に防御陣地をいくつも築く。岩を落として道を塞ぐ用意も。それから敵がオーボル川に橋を架けた時に破壊するための船も山の方に沢山用意。

 あっちこっち手伝ったけど、一番困るのが悪いロシエの兵隊が川を越えてきて鉄砲を撃ってきてお仕事を邪魔すること! 折角一生懸命作った建物を焼いたり、労働者さんを撃ち殺したり酷い! 遊牧民さんの伝令も結構死んじゃってる。最低!

 ゼっくんから命令。

「ナスランデン地方へ先行し、かの地に多数潜むと思われるロシエ非正規部隊ことロシエ義勇兵旅団を可能な限り抹殺しろ。今後の作戦行動上において非常に邪魔だ。情報部現地調査隊が先導する。以上だ」

「それはサニャーキがブットイマルスだね!」

 マトラとレスリャジンの本軍がメイレンベルに陽動攻撃をして、その陽動の隙を突いてゼっくん軍が北のナスランデン地方を攻撃する。ゼっくんの悪者退治を助けよう!


■■■


 ナスランデンの土地を先導してくれるのは情報部現地調査隊の妖精さん達。何となく偵察隊の妖精さんっぽい雰囲気がある。服装は現地の人みたいな格好で、耳が尖ってなくて人間みたい。武器は音が鳴る鉄砲じゃなくて弩や刺剣とか、偵察隊の音のしない夜襲装備。顔を隠すために痘痕面が酷い人の顔の皮を被ってる。病気は大丈夫みたいだけど。

「情報部って、シックルちゃんのお友達?」

「同志特命作業員、同志シクルは上官でした」

「あなたお名前は?」

「ありません」

「あった方が可愛いよ?」

「情報部員は亡き同志シクルを最後に固有呼称を持たない方針です」

「あだ名もダメ?」

「個人を特定されてはいけませんので駄目です」

「何て呼べばいいの?」

「おいでも、お前でも、お好きに」

「同志ちゃん!」

「お好きに」

 ライネベルン城っていう、ナスランデン南部ではまあまあ有力なオーデップ公爵の持ち城にロシエ兵が駐留していることを現地調査隊が把握。その近くまで連れて行ってもらう。

 お城は戦城というよりは、高い丘の上にあって森に囲まれているお屋敷みたいなところで防御施設は無い。家臣が住んでいる城下町は丘の下の湖畔にあるけど障害ではない。尖塔がたくさんあって、屋根がなんとなくトゲトゲ。壁が白くて窓の位置が等間隔で、何だか可愛い感じ。物語に出てくるみたいな感じがする。夜に見るとやっぱり不気味かも。

 ナスランデン地方の人達は聖戦軍と悪い奴等のどっちに属しているかどうか良く分からないらしいけど、悪いロシエの兵隊を囲っているところは明確に悪い。

「同志特命作業員、ここからロシエ兵を追い出して下さい。中心拠点を失った者達は歩兵部隊が掃討します。敵をバラバラにして組織的行動力を粉砕して下さい」

 頭領さんは”神の鞭”って呼ばれてる。不信心者みたいな悪い奴等にお仕置きをして痛い目に遭わせる人って意味だね。

 神が悪魔を遣わす。今日、ここで悪い奴等にお仕置するのはダヌアの悪魔。ダヌアの悪魔が振るうのはブットイマルス。つまり神のブットイマルス。

「神と悪魔の力だブットイマルス!」

「騒がないよう……」

「うおりゃー!」

「……お好きに」

 お城の森を駆け抜ける。城の門が見えた。門番がいて、番犬が二頭こっちに向かって吠えて、調教師が首輪に繋がる綱を抑える。

「信心を誤り、また浅くまた間違う者へ神は悪魔を遣わす」

 矛槍を取り落とした門番をブットイマルス! 縦に肩、胴、腰、地面にぶっ潰れてぺしゃんこ!

 番犬がキャンって鳴いて、調教師の陰に隠れる。一人ニ頭まとめて下段に薙ぎブットイマルス! 門の柱にべっちゃり潰れて砕けた石に混ざる。

「不信心や異心を犯さぬ者はおらず、いと篤き者にも疑いを持って遣わす」

 城の格子門をブットイマルス。鉄錠が弾け飛ぶ。入る。

 巡回の守備兵がこっちに松明と矛槍を向けるけど「ギャー!」って叫んで腰を抜かしたところをブットイマルス! 下半身以外肉団子にして地面の石畳に捻じ込む。

「魔王が最果ての彼方より悪魔を送り出す」

 広場を横断して生垣を破って、兵舎の扉とその回りの壁をブットイマルスで叩き崩す。中には裸だったり下着だったりする兵士が寝台にいっぱい。壁に掛かっている服はロシエ兵の物! 月明かりの反射程度だけど目を慣らしておいてるから見える。

 寝てる、起きてる、寝ぼけて、むにゃむにゃ何か言ってて……とにかくブットイマルス! 寝台ごと潰して敷布をぐちゃぐちゃに内臓で濡らして床砕いて、頭ごと壁を砕いて柱を圧し折る。

 動き出す、暴れ出す、叫んでロシエ語だから分かんないけど、びっくりしている顔が無くなるようにブットイマルス! とにかくいっぱいいる。二段寝台なら上下二人ごと床にめり込ませる。

「魔王はあなた方の信仰を試すために侵略する」

 いっぱいいるからブットイマルスを薙ぐようにぐるぐるぶん回す。立ってるロシエ兵の上半身が千切れて、腕が吹っ飛んで顔が無くなる。

 床に這い蹲っても寝転がっても上から叩き潰して、掬い上げて打って内臓とか腕とか脚とかを部屋にバラ撒く。

「あなた方は真なる唯一正しい聖なる神の教えに従わなければならない」

 武器を手に取ろうとするロシエ兵でも、鉄砲を掴もうとする人を優先して狙ってブットイマルス! ブットイマルスで突いて壁と混ぜる。

 ロシエ兵が逃げたり、泣いて命乞いしたり、聖なる種の飾りを出して祈り出すけど神と悪魔のブットイマルスは許さない。潰して潰して、床に壁に寝台に椅子に敷布に毛布に服とか武器とか何でもそれに混ざるようなにブットイマルスで殴って潰して混ぜる。

「一つとなりその侵略に抵抗して信仰の正しさを証明しなければならない」

 柱を折り過ぎたみたいで兵舎が傾いてきたから壁を破って外に出る。全員を潰すのは無理だけど、びっくりさせて城の外に逃げるようには出来る。

 騒ぎで城中の人が起き始めて松明とかランプの灯りが増え始めたけど止める理由にはならない。次の兵舎も襲って、ロシエ兵と中の物と兵舎を叩いて潰して、もう一回叩いて混ぜてぐちゃぐちゃにして薙ぎ払って吹っ飛ばして破片を浴びせる。

「死せる後に苦しみは無く、生ける内に苦しみが有る」

 次の建物は兵舎じゃなくて使用人さんの部屋と倉庫だったけど、ロシエ兵に味方する悪い奴等だから一緒に道具と建物に混ざるようにぐちゃぐちゃに叩いて混ぜて、柱を叩き折って建物を崩す。ランプを叩いて割って、転がってる松明を投げて燃やす。

 馬小屋の柵を殴って壊して、お馬さんを脅かして外に出す。兵舎から生き残りが逃げてて、馬に撥ね飛ばされてる。

「その苦しみは唯一正しい聖なる神の教えに従っているか試され、魂が高潔であるかを試される」

 城の扉をブットイマルスで破って中に入る。目につく人は女でも聖職者でもお年寄りでもブットイマルスで潰して進む。聖なる種の飾りを掲げてお祈りしても潰す。悪魔だから潰す。

 ロシエ兵じゃない人ばっかりかもしれないけど潰して進んで、城の守備兵が鉄砲を構えているからブットイマルスを盾に走って体当たり。倒れたら足で踏んで腹とか胸を潰す。あ! 胸の骨潰す時のボギンってのが足裏からすると気持ちいいかも!

「魂が高潔であるようにしなさい」

 城の廊下を走って、適当に窓をブットイマルスで擦って割って、扉があれば殴ったり蹴ったりして破って中に人がいる感じがしたらとにかく殴る。ブットイマルスで潰したり、殴ったり蹴ったり踏んだりでも一発で死ぬからどっちでもいい。

 卓とか衣装棚を倒して障害物にしても体当たりをすれば吹っ飛ぶし、陰に人が隠れても一緒に潰れる。生きてるなら胸を踏んでボギン!

「知恵を持って適応しなさい」

 女の人とか子供が、部屋に入ったこっちを見て窓から飛び降りる。生きてても落ちて鈍ってるだろうから後回し。

 城の部屋は、隠し部屋は分からないけど大体全部回った。後は松明とかランプを割って燃えやすいところに投げて回って、隠れている人を燃やす。

「勇気を持って行動しなさい」

 逃げ回っている人をブットイマルスで潰して、吹っ飛ばしてから足で踏んづけて骨を砕いて内臓潰しながら城の外に出る。窓から飛び降りた人は結構いたけど、足を折ってて大分鈍ってるから後回しにして、元気に動いている武器を構えた守備兵とかロシエ兵を優先してブットイマルスを盾にしながら突っ込んで体当たりと踏みつけで殺して回る。足は止めない、敵が同士討ちをしてしまうような位置取りで走って回る。鉄砲で撃たれるのはやっぱり痛いから、こういういっぱい鉄砲を持った敵に囲まれている時は工夫が必要。

「節制を保って自律しなさい」

 お城の外に大体逃げられるような足がある人は逃げちゃう。逃げ遅れとか、逃げ遅れに肩を貸したり担いだりして鈍足になっている人達をブットイマルス! 固まってるから一緒に潰せて楽ちん。

 ロシエとかエグセンの言葉は分かんないけど、聞いているうちに命乞いとか神様へのお祈りとか、女子供とかって言葉は何となく聞き分けられる感じになる。あんまり余計なことを考えてもしょうがないから女子供だろうとブットイマルスでぶっ潰す! 悪い奴等に味方している奴等も悪い奴等だからしょうがないよね。聖なる神様も改心しなさいって悪魔を遣わすわけだし。

 あれ、死んで改心ってするんだっけ?

「正義を保って自戒しなさい」

 門の外へ出て、森に逃げ込んでいる人達を追撃しようか迷ったけど、現地調査隊の皆とか、後で来るんだと思うけど歩兵部隊の皆がやっつけるから追わないでおいた。自分のお仕事は、敵をバラバラにして組織的行動を取らせないようにすること。部隊として固まって動いているなら狙う必要があるけど、そうじゃないなら後回し。

 次に狙うのは丘を下った城下町だ!

「信仰を守って礼拝しなさい」

 道を走る。ダヌアの悪魔の衣装は走り辛いけど、でも敵をびっくりさせないといけないから我慢だね。

 城下町のお城側の入り口ではロシエ兵も混じった敵がいて、密集横隊で一斉射撃の準備をして待っていた。

「秩序を守って団結しなさい」

 ブットイマルスを盾に、右左に走って照準を合わせ辛くして進む。横隊の指揮官が剣を振り下ろして叫ぶ。

 一気にダン! って鳴ってガン! って衝撃が来たけど、当たった銃弾の数は少ない感じ。ブットイマルスが盾になったし、ダヌアの悪魔の下の甲冑が防いだ。防げてないところにも当たって痛いけど、大丈夫! 後で水で冷やせばいいの。

「さすれば悪魔を討ち滅ぼすことが出来る」

 密集横隊にブットイマルス! 突き出した銃剣鉄砲なんて捻じ曲げて圧し折って、兵士の塊を斜め上からグチブッチャンでまとめて潰す! 今までに無いくらい肉が分厚くて骨が多かった!

 ブットイマルスを振り上げて潰す! 肉厚骨多い!

 密集横隊だから逃げようとしても敵は皆ぶつかりあって転ぶ。何回もブットイマルスを振り上げて振り下ろして潰して進んで次を潰す。

 銃剣で突っつかれたり銃床で殴られるのは平気だけど、至近距離から鉄砲で撃たれると体がグラグラする。ダヌアの悪魔は体より大きいから穴が開いても全然痛くないところがあるけど、やっぱり甲冑が守ってないところも撃たれるから凄く痛い。前に撃たれた時よりも痛い。これだと顔とか撃たれたらすっごく腫れそう。鉄砲が施条式なのかも。ロシエの猟兵はそれを持ってるって聞いた。

「人を導くのは聖なる神であり悪魔にあらず」

 ジーちゃんのお手伝いの姉妹さんから聞いたけど、力持ちと頑丈の奇跡が使える場合、何回も鉄砲で撃たれて頑丈の奇跡を使うと疲れたり渇いたりして使えなくなる状態になっちゃうことがあるから力を過信しちゃいけないんだって。物知り!

 だから鉄砲を持っている人を優先して、ブットイマルスで銃弾を受けるようにして走って、盾のブットイマルスを振らないで体当たりで吹っ飛ばして踏んづけて殺すようにする。

「聖なる神の名を己の私利私欲に利用してはならず」

 城下町の外で戦ってるから撃たれる感じもするから、町の中に入る。

 ブットイマルスで殴って潰すより、ブットイマルスを盾に人の集りの中に飛び込むようにする。殺すことより吹っ飛ばすことを優先して、転んだ人の体の一部を踏んづけて走り去るように作戦を変える!

「父や母、祖父や祖母を敬わなければならず」

 攻撃するより走ることに専念。何だかこうしてるとあんまり撃たれない感じがする。

 殴るのは、今度は人より建物。建物の陰に入って敵の鉄砲から逃げて、柱を殴って折って屋根を崩して、松明にランプを利用して出来るだけ建物を燃やす。

「不法に人を殺してはならず」

 建物を優先していると今度は敵がある程度組織的になって来た。隊列を組んで、密集隊形。あれに突っ込んで一斉射撃を何回も受けたら疲れて痛くて倒れて普通の女の子になっちゃうかもしれない。

 ルドゥくんと一緒に夜襲した時みたいに弓とか鉄砲で支援してくれればいいんだけど、現地調査隊の皆はそういうことしないのかな?

 うーん、何か寂しくなってきたかも。

「不道な姦淫をしてはならず」

 こうやって聖句唱えてないと何だか頑張れなくなっちゃいそう。

 そうだ! 思いついた。そう、ブットイマルス投げ。

 距離を取って、暗がりからブットイマルスを敵の密集隊形に向けて回転つけてぶん投げる! するとどうだ、人の塊がバチョンってあちこちに吹っ飛んでバラバラになった!

 ブットイマルスを拾いに行くのはまだ早い。

「人の陰口を言い、また侮辱してはならず」

 壊して回った建物の柱に回転をつけて投げる! 車輪を投げる! 死体を投げる! 竃を投げる! 大きい石を投げる! 扉も壁も寝台も何でも重い物を敵に投げまくる!

 重たい物が速く人にぶつかると死ぬ。こんな簡単なことを忘れてたなんてうっかり!

「人の財産を盗んではならず」

 あっちこっち走り回って重たい物を見つけたら敵兵に投げつけて殺す! 重たい物が速く敵兵にぶつかると死ぬ。

 民間人はそこまで工夫しなくていいから殴ったり、首を握り潰したりで、掴んで地面に一回叩き付けるだけで簡単。その死体も敵兵に投げつける。

「裁きの場において偽証をしてはならず」

 有利な状況に持ち直せたけど、今度は敵があちこちに隠れちゃって見当たらない。ある程度危険覚悟でブットイマルスを拾いに行ったけど敵はいなかった。撃ってもこなかった。

 城下町の火事が広がり始めている。火の粉が散って夜だけど結構明るくなってきている。

「結んだ契約を破ってはならず」

 人が逃げ込むとしたら教会かなって思って突入した。やっぱり逃げ込んでいる人はいたけど思ったより少ないし、敵兵もいるけどお坊さんと一緒に震えて、こっちに聖なる種の飾りを向けて祈ってる。

「神よ、悪魔よ! 我々は敬虔なる聖なる神の僕であります! どうかお慈悲を!」

 お坊さんがフラル語で喋ったから言葉は分かった。お慈悲をってことは、試練は勘弁してちょうだいって意味になるよね。お坊さんがそんなこと言っていいのかな?

 ごめんね、でも悪魔だから慈悲を与えるのは神様のお仕事なの。どうやって与えるのかは知らないけど、この場はどうしようもないよね。とりあえず教会にいた人達は全部ブットイマルスで潰しておく。

「属する共同体を裏切ってはならない」

 ここで一つ考えた。また思いついちゃったね。

 ダヌアの悪魔の衣装を脱いで、一般サニャーキに変身。ブットイマルスは目立つから置いておく

「これらを破れば悪魔がその身に襲いかかる」

 普通の女の子っぽくして城下町をうろつく。男の人や敵兵が逃げ遅れだとかって勘違いして避難場所を教えてくれるからそっちに向かう。そして手近な人を掴んで「悪魔だぞー!」って敵兵から優先して人で殴り殺していく。人で人を殴るとボギゴギグチャって音が凄くて面白い。

 そうやって隠れた敵を殺していると、段々と人も城下町から消えていった。あんまり広くない町だったから一人で何とか出来た。

 それからも聖句を唱えて歩いてみた。その言葉を聞いて泣き出したり呻き声を上げる人がいるから発見に役立った。

 出発する前に、ジーちゃんに聖句の発音を確認して貰った。「イスタメル訛りが不気味で丁度良い」って、失礼だよね。ゼっくんも「そのままでいい」だって。そのままの君が良いってことだから、やだ、顔があっつくなってきちゃった!

 あんまり疲れるといけないから、仕事はこのくらいにして家から食べ物と水を見つけて食事休憩をして現地調査隊の連絡を待った。

 朝になる前に同志ちゃんがやって来た。

「次へ向かいます。一日休憩は入れますが、目的地付近で取ります」

「ねえ同志ちゃん、私ね、支援射撃が欲しかったの。一人で戦ってるとね、寂しいなって」

「散った敵を狩るだけで限界です。増援が無いと出来ません」

「歩兵部隊と合流はしないの?」

「我々が通過した後を、広く散開して追ってきます」

「そっちに大体任せられない?」

「同志特命作業員、殲滅する必要はありません。敵をある程度追い散らすだけで良いのです。あなた、城と城下町を完全に潰してしまっているじゃないですか。やり過ぎということはありませんが、ここまでする必要はありません。ある程度の残党は残していても結構、後続の歩兵部隊がその時になれば集結して攻めます」

「うっそー!?」

「本当です」

 疲れて倒れちゃうことにおっかなびっくりしてまでやる必要無かったんだ!

 お城も町も火事で崩れていった。


■■■


 ライネベルン城の後のロシエ兵退治は、無理をしなくていいってことが分かって楽ちんだった。同志ちゃんの先導で敵の野営地とか拠点に夜襲を仕掛けて、敵が大体散らばったところで引き上げて大丈夫。現地調査隊は無理をしないで、逃げたはいいけど迷子になった感じの敵を殺すか捕まえて、拷問して情報を得る。そして抵抗力が弱くなったところへ歩兵部隊が襲撃、撃破。

 そんな感じでナスランデン地方を北上し、ロシエ義勇兵旅団って呼ばれてる悪い奴等をやっつけ続けた。ロシエ兵を匿う悪い諸侯だけど、後から降伏するかもしれないからってわざわざ襲うことはしなかった。降伏させるのはゼっくん軍の本隊のお仕事。

 悪いことはしちゃ駄目だよってナスランデンの人達に教えるために、悪魔に関する聖句を教えて、ブットイマルスを振って各地の悪い奴の代表みたいな奴をぺちゃんこに縦から潰して柱にぶら下げる。そして同志ちゃん達の方針でロシエ兵とか悪い奴等の部下達には皆を集めて見ている前で変身して貰った。

『にゃんにゃんねーこーさーん! にゃんにゃんねーこーさーん!』

 って楽しく妖精さん達と歌って、耳を削いで頭にねこちゃんみたいになるよう縫って、ねこちゃんみたいな爪になるよう指先の肉を剥いで、肛門抉って直腸を抜いて伸ばして尻尾に見立てて変身! うーん、あんまり可愛くなかった。

『ぴょんぴょこうさぎさーん! ぴょんぴょこうさぎさーん!』

 って楽しく妖精さん達と歌って、耳を削いで頭にうさぎさんみたいになるよう落とした手を指が立つように縫って、真っ赤な目になるよう潰して、真っ直ぐ立たないように内腿と脇腹を縫いつけて変身! うむむ、やっぱり可愛くない。

 ゼっくん軍はジュレンカちゃんの師団も合流して三万以上の兵力になっていて何だか無敵状態。ナスランテン地方の各拠点をこっちが頑張ってた時に次々と降伏、陥落させていった。ヘレンデン市の前線工廠から大砲、榴弾、榴散弾をたくさん受け取れたから遠慮しないで砲撃しまくれたらしい。

 そしてついにナスランデン地方の最大勢力クネグ公領の境界線のところまで南ナスランデン連合軍とロシエ義勇兵旅団が追い詰められた。

 クネグ軍は北上を拒んで軍を展開。そんな状況だから敵は降伏。降伏する先はクネグ軍。ゼっくん軍に降伏したら虐殺されると思ったからみたい。

 そのクネグ軍の野営地にゼっくんと向かう。身辺警護! 大事なゼっくんは守ってあげないとね。体は弱いし、おヒゲだし。

 野営地で偉い貴族の軍人さんに案内された先には、筋肉ムキムキでヒゲが長くて三本の三つ編みにしているおっきいおじいちゃんが斧を持っていて、泣いてるロシエ兵を切り株に抑えつけては首を次々と薪みたいに斬って積んでた。手早さが薪割りの要領。

「息子よ見ろ、これが敗者の姿だ! 敗北とはこういうことを言うんだ! 糞を被ってでも負けるな、親を殺してでも勝て!」

「はい父上!」

 首斬りを見ている男の子は、おじいちゃんお父さんの割りにはちっちゃいね。ジーくんよりちっちゃいかも。男の子が欲しくても女の子ばっかり生まれたり、病気とか戦争で死んじゃうとこうなることもあるよね。

「ガートルゲン及びナスランデン方面軍の総指揮を執るゼクラグだ」

「おう!? 話には聞いてたがチビすけ将軍とは時代は変わるな。俺がクネグ公、シレム・パンタブルム=ユロングよ。聖戦軍だったな」

「そうだ」

「クネグも聖戦軍に参加するぞ。この首の山は決意表明だ」

「了解した。そのように手続きを取る」

 クネグのおじいちゃん公爵さんが仲間になった! ガートルゲンの兵隊さんとナスランデンの兵隊さんと協力して頑張ろう!

 ロシエ義勇兵は皆殺し、南ナスランデン連合軍の人達はこれから聖戦軍に入って悔い改めます、ごめんなさいってことで許された。悪魔の試練を乗り越えたんだね! おめでとう!


■■■


 クネグ軍を中心にしたナスランデン諸侯連合軍が結成される。そしてナスランデンとガートルゲンの南北西部国境線の防御体制を構築する仕事に入る。

 西の国境線には十万ぐらいのロシエの悪い兵隊がいるんだって。しかも頭領さんやゼっくんに対して手紙で撤兵しろ、あっち行けだって。生意気!

 東のオルメンとかの方では色々軍隊があっちこっち動いているみたいだけど、ゼっくん軍は西に集中していて大丈夫みたい。

 クネグのおじいちゃん公爵さんの土地への道が湿地とかであんまり良くないみたいだから、そこを重点的に、おじいちゃん公爵さんが大変になった時にすぐ応援に駆けつけられるようにしよう! ロシエの悪い兵隊に邪魔された道路建設の続きだ。

 ナスランデン北側から海まで広がるエヤルデン湿地は湖とか水路が無数にあって道路と橋の建設だけだと交通に不便があるから船も沢山必要。沢山木材が必要になったから持ち主がいなくなった森林を伐採しまくった。

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