第247話「肉団子」 サニツァ

 夏の東スラーギィの砂漠はあっつい。すごくあっついし喉が渇く。

 それからずっと軍事訓練を続けているから疲れるし、戦争中は昼も夜も関係ないから、辛い昼間でも構わないで動くからもっと疲れる。

 それからもう、ジャーヴァルから来たっていう遊牧民の皆が喧嘩ばっかり! 軍事訓練とか演習で団結しようってのにダメダメのダメ!

 ダメよ、悪い子、いけないよ。ブットイマルスがおしおきだ。

「喧嘩しちゃダメって言ってるでしょ!」

 中洲要塞から東、旧中央進路の中間にある補給基地の広場で、カラチゲイの目が青い男の人とプラヌールの肌の茶色い男の人が殴り合ってた。周りの人達は口笛鳴らして騒いだり、「やっちまえ!」だとか「目を潰せ!」だとか「キンタマ潰せ!」だとか「殺せ!」だとか無責任なことばっかり平気で言うの。それから殴り合ってた二人が短刀取り出したから仲裁します。

「言う事聞かない……!」

 カラチゲイの男の人をブットイマルス。縦に潰れて頭が潰れて胴に混じって、骨がボキゴキに砕けて肩と股関節の位置が同じくらいになった。ブジュブリって鳴ってズボンが血とうんちと内臓でもっこりする。

「……悪い子!」

 プラヌールの男の人もブットイマルス。逃げようとしたからちょっと当たるところがずれて、左肩から左大腿が地面につくぐらい潰れて、即死しなかったから頭から縦に潰し直し。

「喧嘩ダメ!」

 殺した二人を囲んでいた人達に指差して、覚えた遊牧の言葉で注意する。

「喧嘩ダメ! 喧嘩ダメ! 絶対ダメ!」

 出来るだけ皆に、一人ずつそうやってから潰れた死体を広場に立てた柱に縄で縛って吊るす。

 昨日、オルシバおじいちゃんとカイウルくんが皆に私闘は厳禁、抗争は上に相談するって決めたばっかりなのにこんなことする。ちゃんと禁を破ったら厳罰に処すってことも言ってたのにどうして分からないんだろ?

 広場には商人さんの女の子を襲った悪い奴が生きたまま腰骨に鉤を引っ掛けて吊るされてて、そろそろ渇きで死にそう。

 食糧を盗んだ悪い奴は腹一杯に砂を食べさせられて、柱に縛られて苦しんでいる。

 脱走しようとした悪い奴は脛を砕かれて広場で物乞いしていたけど仲間にトドメを刺されて、埋葬は許可されないで放置されている。

 殺人した悪い奴は墓穴にスラーギィ式に生きたまま入れられて、殺された人の棺桶を上に乗せてから土を入れて復讐埋葬。

 命令違反の悪い奴は背中の皮を剥いでから鞭打ち。その後大体死んじゃう。

 こういうこと色々やってるのにまだ悪いことをする。何でだろ?

「このブットイマルスがぶっとい内は喧嘩も悪いことも許さないよ!」

 皆の鼻先すれすれにブットイマルスをビュンビュン振ったら逃げていった。ホントに言ったこと分かってるのかな? ある程度は喋れるようになったけど通じてるかな。

 ずっと聞いているうちにセレードの言葉も大体聞こえるようになった。ジーくんのヤゴール語も、アッジャール語も少し分かる。遊牧民は方言が色々みたいで混ざってるけど、大体似た感じ。プラヌールの人のは全然分からないけど。

 この後に自分が寝てる部屋に火が点けられてびっくりして起きちゃった。でも犯人が全然分からなかった。オルシバおじいちゃんの判断で、とりあえず無作為に選ばれた二人を犯人が出てくるまでの人質にして、自首しなかったら焼き殺すことに決定。

 焼き殺されるかもしれない人達の仲間の人があれこれ探し回って、酔っ払いながら「兄弟殺された復讐してやる」って言ってたらしい人が引き出されてきた。尋問すると犯行を白状。人質は解放されて、引き出された人は自分の手に任された。

 ただの復讐をするだけじゃいけないよねきっと。やっぱりこれを機会に仲良しにならないといけないんだ。何で争うんだろう? お腹が空いているからかな?

 食べ物は十分にあるけど、東スラーギィでの訓練中はお腹いっぱいには食べられないよね。配給された分以上は食べられないし、食いしん坊は特に辛いかも。よし、閃いた。

「オルシバおじいちゃん、この前に喧嘩して潰した二人のお友達を集めて!」

「ああ……何か思いついたか。分かった」

「うん!」

 ゼっくんの指示でオルシバおじいちゃんの言うことを聞いて喧嘩する皆を仲良しにする仕事が今のお仕事。オルシバおじいちゃんはやろうとすることを応援してくれるよ。確か「お前がやれば違いなんて大して無いって馬鹿でも気付く」とか言ってた。ちょっとまだセレード語は難しいね。

 それからお友達の皆が集った。皆、おしおきした自分とか相手側のお友達とかを睨みつけておっかない顔をしてる。

「皆ね、お腹がいっぱいになれば喧嘩しなくていいと思うの」

 言葉はちゃんと通じているか、下手っぴだから怪しい。オルシバおじいちゃんが通訳し直してないから大丈夫かな?

「じゃあちょっと待っててね!」

 まず、火付けの悪い奴の首の血管を指で千切って、出てくる血を桶に溜める。暴れないように、こぼれないようにしっかり抑える。出が悪くなったら逆さにしたり絞ったりして出す。

 お友達の人達が何人か立ち去ろうとしたけどオルシバおじいちゃんが座らせる。あ、カイウルくん達は野外で補給基地にいない人達を率いて訓練中ね。

 次に胸の皮を千切って破いて、お腹まで裂いちゃう、人の皮って鹿とかより脆い。

 お腹に指を入れて拡げて裂いて、食道と直腸を手で千切って内臓を取り出す。気道も千切って肺も出す。それからまだ動いている心臓は短刀で薄切りにして、お友達の皆に一切れずつ「どーぞ」って配る。

「あ! 手で千切れない人は刃物を使ってね。私はちょっと力持ちだから手でやる方が早いことがあるだけだからね」

 皆は心臓の刺身を食べない。美味しいのに。ちょっと細切れ過ぎたかな?

 それから全身の皮を剥ぐ。慣れるまでは人の皮って綺麗に剥ぎ辛いよね。簡単に途中で千切れちゃう。

 次に靭帯だとか紐に使えそうな部位を千切って分ける。

 うんちがくさいくさい腸を手で扱いて中身を絞り、血と脂肪を詰めて、靭帯紐で一人分ずつに切って分けられるように縛って腸詰を作る。これは先に鍋で煮る。

 今度はきっと大丈夫。頭蓋骨を割って脳みそを取って、皆に千切って配ると、あれ? また食べない。お塩欲しいのかな。

 次は用意した石臼に骨から取った肉に軟骨に骨髄、腸詰に使わなかった内臓を入れて全部綺麗にねっちりしちゃうまで潰して混ぜる。

 何だかえずいてる人がいる。お腹の調子悪いのかな? お腹の調子が良くなるって聞いた香辛料を「これも入れるよ!」って言ってから混ぜる。

 混ぜるのに時間が掛かるからお歌を歌う。遊牧民の言葉で歌えるかな?

「いっぱい食べよう、おいしく食べよう。いっぱい仲良し、おいしく仲良し、あったかお鍋が楽しいな! お肉がたくさん肉団子。脂がたくさん、栄養たくさん、お腹がいっぱい友達いっぱい! 一緒に食べればこれから仲良し、みーんな仲良し、お鍋を食べたら幸せだ!」

 潰して混ぜてねっちりになったら手で一口大に丸めて腸詰を煮ている鍋に入れていく。後はパパって切ったり千切った――ジーくんも手伝った――野菜とかを入れて、腸詰も中身が出ないようにして出来上がり!

「皆で食べていっぱい仲良し!」

 まだ喧嘩しているのか皆、ご飯を前にしているのに笑ってない。

「おいしいよ、あったかいよ」

 椀に入れて差し出すと受け取ろうとしない。何で? 人間食べるの初めてかな?

 ジーくんがその椀を取って肉団子を食べる。

「お母さん美味しい!」

「やった!」

 ほらどうだ、美味しいよ!

「好き嫌いするのは子供だってお姉ちゃんが言ってた」

「そうだよね! 好き嫌いしてたらおっきくなれないよね! ジーくん偉いね! 強いぞジーくん!」

 オルシバおじいちゃんも椀を手に取って食べた。

「てめぇらビビってんじゃねぇ! 戦場じゃ人ぐらい食うだろが!」

 遊牧民の人達って年齢はあんまり関係無くて序列は実力主義らしいんだけど、年長で実力がある人はやっぱり尊敬されるみたい。オルシバおじいちゃんが喋ると、自分が「食べて」って言っても今まで手を出さなかった皆が肉団子鍋を食べ始めたよ! 作った物を食べて貰えるのって嬉しいよね。

 皆の椀に肉団子や野菜に腸詰を入れる。一番若い子の椀には潰さないで煮ておいた睾丸を入れてあげた。

「若い子はおちんちん食べると良いって聞いたからあげる!」

 皆食べてる食べてる!


■■■


 補給基地の広場で悪い奴等をみせしめにするようなことは無くなって来た。代わりに今は使わなくなったブットイマルスを、ブットイマルスここにあり! って感じで置いている。男の子は力自慢が好きだから持てるかどうかやってみるのかと思ってたけど、誰も近寄らない。長くて太くて重くてぶっと過ぎるのかもしれない。

 今度は訓練、演習中ではない西スラーギィの放牧地の方で争いがあるからそっちの手伝いに行くよ。秋になったから冬支度の季節になって、それで食べ物の確保か何かで揉めてるみたい。

 もう東スラーギィの方は大分仲良しになったから今度は西だ。ブットイマルスを忘れずに。

 オルシバおじいちゃんは旅団長さんだから東スラーギィに残って、族長さんの代理をするカイウルくんのお手伝いだ。

 カイウルくんはジャーヴァルに行く前はちっちゃくて声変わりもしてなかったけど、帰ってきたら背も伸びて声も大人になってた。ただお髭が薄いのを気にしてるみたい。

 今日は中洲要塞の広場で、今まで人を殺したことが無い子達を集めて、出来るだけ皆おんなじ経験をさせようってあの、オルシバおじいちゃんが始めた石で殴り殺す儀式をやる。

 子供達が皆、初めてだから緊張しているけど、手を叩いて「がんばれがんばれ!」って応援されて、捕まえたオルフ難民の頭を殴って潰す。

 上手く出来ない子もいるし、あっさりやれちゃう子もいる。中々出来ない子もいるからお酒飲ませたり色々やってから殴らせる。

 やっちゃえやっちゃえ僕もやりたい私もやりたいって雰囲気を作ると躊躇する子もいなくなってくる。

 レスリャジンじゃないけどセレード人の、族長さんの親戚でアソリウス島の次期伯爵さんって貴族の子、ヤニャシュシュくんがいて皆が出来るようにって盛り上げてくれる。ヤニャシュシュくんも今年の春ぐらいは人の頭を殴って割ることが難しかったみたいなんだけど、今じゃ子供達に割るお手本を見せるぐらいになってる。ミーちゃんよりちょっとお兄さんなぐらいの歳の子だよ。

 躊躇する子が後回しにされて列を作り始めた。やっぱり女の子が多いかな。それでヤニャシュシュくんが凄い物を持って現れた。

「うわっ、おっぱいとチンチンだ!」

「何あれ!」

「先っちょおっきすぎない?」

 ザガンラジャード棒! ジャーヴァルのアウル妖精さんが作った木彫りのおっぱいとチンチンで、男の人のおっきくなったチンチンのタマタマの部分が女の人のおっぱいになってる何だかすっごい奴。アウルの神様なんだって!

「頑張れよお前等! やれば出来るやれば出来るんだぞ! 頑張れもっと頑張れもっと殺せよ躊躇するなよ頭をバカってブチ割って殺すなんて簡単なんだよ出来るんだよやれば出来るんだよやれよやるんだよ俺がやって見せるぞほら見ろ見るんだやれば出来るぞ!」

 ヤニャシュシュくんはザガンラジャード棒を持って、ちっちゃいキーキャー泣き喚くオルフ人の女の子の襟首掴んで引きずり回す。

「容赦をするな! 躊躇するな! こいつはまだ小さいが何れ大きくなって俺達に復讐しに来る! 皆のために殺せ! 自分のために殺せ! そして何より楽しいから殺せ!」

 ザガンラジャード棒は棍棒にも使えるようになってて、チンチンのところを持っておっぱいのところで殴ると頭蓋骨だって割れる。

「ほらお前等やってみろ! これ使うか?」

 人を殺すのを恐がってた、プラヌール族の女の子がチンチンのところを持って、小さい声でこの人? って感じに半べそに困った感じで言って、顔を隠して泣いているオルフ人のおじさんを指差す。

「そうだ! 叩け、思いっきり叩け!」

 女の子がザガンラジャード棒でおじさんを叩く。縛られているし抵抗もほとんどしないし簡単。最初は遠慮して叩いていたから痛くておじさんは暴れていたけど、段々と馴れてきて骨を割りだして、ぐったりしてきて、動かなくなって、皮膚が裂けて血が飛び散り始めてやっと殺せた。

「おめでとー!」

 ヤニャシュシュくんが女の子を肩車して走り回る! 皆も「やったね!」「おめでとー!」って言う。自分もジーくんも「おめでとー!」って褒める。

「僕もやる!」

「ジーくんもやるの?」

「うん! ヤニャーカ兄ちゃん、僕やるよ!」

 ジーくんが僕も殺す! って立ち上がって手をいっぱいに上げる。

「ヤニャーカって俺か? よぉしよし! お前ジールトだっけ。いいぞぉ、お前! ジールト、お前男だな!」

「うん! お母さんとお姉ちゃん守れるようになりたい! 敵は殺す!」

「お前! 良い男だな!」

「うん!」

 いやー! もう、ジーくんと将来結婚したいもう! いやー! もうなんか堪んないからゴロゴロ転がっちゃう!

 ヤニャシュシュくん、言い辛いからヤニャーカお兄ちゃんがザガンラジャード棒をジーくんに貸してくれた。だけどジーくんには重くて、両手で持っても何だか足元フラフラ、やっと「うんしょっ」って肩に担いだけど、大丈夫かな?

 次はオルフ人の元気そうなおばあちゃん。ジーくんは「えいや!」って躊躇しないで叩きにいったけど、ザガンラジャード棒に振り回されちゃって肩を叩いただけ。おばあちゃんも、痛い、とかそんなことを言う程度。

「うー」

 唸ってジーくん、むきになって何回も叩くけど頭に中々届かない。やっぱりジーくん、ちっちゃ過ぎるのかな?

「うーん、ジールトはまだ子供過ぎるかなぁ」

「む!」

 ヤニャーカお兄ちゃんがそう言うとジーくん、ちょっと怒っちゃって、得意の鉄砲を持っておばあちゃんの頭を撃って吹っ飛ばした。それから砕けた脳みそをグチュグチュって潰してザガンラジャード棒を返した。

「おーやるな! 悪い悪い」

 ヤニャーカお兄ちゃんがそう言ってジーくんを抱っこして頬ずりする。「やー!」ってジーくん、子供扱いされるの嫌がるけど、見てて可愛いから助けてあげない。

 そんな感じで皆で悪い奴等をやっつけて仲良しになっていると、今度は偉い人達を集めて会議をしていたカイウルくんが、仲良くしなさいって言ったのにしなかった、レスリャジン氏族の旧長老派って呼ばれてる人の一家を広場に連れて来る。色々噂話を皆がしてるけど、要は偉い人の言うことを聞かない悪い子なんだって。

 これから大人の人達のお仕事になるから皆で死体とか殺し残しをお片づけする。死体って重たいから協力して運ばないと難しい。頭潰し仲間で、言葉はあんまり通じなくても協力して運んだよ。えらい!

 顔と髪と服とか、返り血で汚れちゃった子達を濡らした手拭いでゴシゴシしてあげる。

 カイウルくんが、中洲要塞に集った色んな人達に告げる。

「この者、レスリャジン氏族のアスパル百人隊管轄のカシルダン十人隊の長レスリャジンのカシルダンは、族長代理であるカイウルクと氏族長会議が各隊に割り当てた放牧地の境界線を著しく越境し、共有財産であり尚且つ割り当て地域の互助組に優先権がある井戸の占有行為を行った。言い分によれば、新たに我等がレスリャジンの仲間となったイゲデイ十人隊の長ムンガルのイゲデイが先祖からの土地に侵入してきたとのことだがそれは誤りである。放牧地や井戸の割り当ては隊の増加に合わせて常に変更が加えられるものであり、変更があり次第常に連絡を入れている、また連絡が遅れることもあり得るので越境に関しては話し合いや注意をすることによって、事情があれば一度や二度の間違いならば咎めなく許している。しかしこの者カシルダン、再三の注意を無視し、話し合いの場でも強硬にして聞く耳持たず、このスラーギィの秩序を乱す者と判断した。よって死刑。一家の者は身請け人がいなければ連座とする。また共犯である同互助組は解散、受け入れ先が見つかるまで待機。同十人隊は共犯ではない片割れの互助組から新たに編制し直すものとする。身請け人、希望するならば名乗りを上げて前に出ろ」

「スラーギィ氏族のゲラバタル百人隊のイルギン十人隊のアッジャールのバラジ。カシルダンの妻は妹だ。妹とその子供達を私が身請けする」

「では連れて行け」

 バラジって人が妹とその子供達、それから妹の家具とか絨毯とか反物とか色々な財産を乗せた荷車と馬や家畜を受け取った。遊牧民は男の人と女の人の財産は一緒にしないみたい。

 それからカシルダンって悪い人と、そのお父さんがカイウルくんの刀で首を切り落とされて終わった。

 ヤニャーカお兄ちゃんは「俺も首斬りてぇ!」って言ってた。お兄ちゃんは刀が得意で、魔術も一緒に使うと烈風剣って凄いのが出るんだって!


■■■


 秋も過ぎて冬になりそう。

 寒くなると心配なのが食べ物。食べ物が無いと死んじゃうし、死にたくないから盗賊になっちゃうからダメ。

 中洲要塞では今、イスタメルの方から送られてきた山積みの食糧を皆に分配している。前に中洲要塞の強化工事をしていた時に比べれば全然忙しくなかったけど、船が運んでくる荷物はたくさんあった。

 遊牧民の人達は村だとかそういう定住するところがあったり無かったり色々。夏は別の人に貸してる冬だけ住む家があったり、全く無くて組み立て式の幕舎暮らしだったりでバラバラ。住所を元に食べ物を配ったりすることが出来ないから氏族、その下の百人隊、またその下の十人隊、またその下の互助組ごとに分けて、受け取りに来るように呼びかけて今年は特別に無料で配る。

 十人隊ってのは十人の訓練された立派な体格の男の兵隊さんを出せる単位で、家族も入れると五十人以上いるから、十人隊分の食べ物は五十人分以上、六十、七十人? くらいの食べ物に加えて軍馬と家畜の分になる。互助組は十人隊一つにつき二つか三つ。幾つかの家族が協力して遊牧生活を送る単位で、動く部落みたいな感じ。

 今のスラーギィは軍隊の視点で見ると、レスリャジン騎兵旅団二千とスラーギィ連隊一千、レスリャジン氏族千人隊、スラーギィ氏族千人隊、ムンガル氏族千人隊、カラチゲイ氏族千人隊、プラヌール氏族千人隊の編制になってて大体八千人隊規模。まだ編制途中だったり家族のいない兵隊さんもいて正確じゃないけど、でも大体四万人くらい人が最低でいる。遊牧民が多いからその分の家畜の飼料が集められていることになる。要塞の建築資材の山に比べたら少ないような気がしてたけど、そういう風に考えるとやっぱり多いかも。

 食べ物を受け取りにスラーギィ中から空荷の車を馬や牛に引かせた人が集まって来る。

 人が集るついでに冬越しの不安や困りごとをカイウルくんが族長代理として解決する氏族長さん達の会合が開かれていて、付き人とか息子さんとかも来てて、真面目な話し合いなんだけ毎晩お酒を飲んでドンチャン騒いでいる。久しぶりに会った親戚の人とか友達がいたら騒ぎたくなっちゃうよね。

 中洲要塞の外、対岸の方では若い子からおじさん達まで集って羊の毛皮を取り合って競争している。ジーくんと一緒に見に行く。ミーちゃんは「川渡るの疲れる」って言って来てくれないし、ゼっくんは「そんなもの見てどうする」ってつまんないの。

 競争する時は二組に分かれるんだけど、氏族で分けないでバラバラに混ぜちゃってる。族別対抗戦には絶対しないって聞いた。

 一回勝負する度に勝った組には瓶のお酒が賞品として渡される。負けても勝った方が飲めって差し出すからあんまり関係ないかも。

 ジーくんが興奮しながら「おお!」とか「うわ!」って言って身体を動かしながら見てる。ちっちゃいけど馬に乗れるから何やっているか分かるんだろうね。自分は馬に乗らないから何だか人と馬がわちゃわちゃ動いているようにしか見えないんだけど。

 馬上で皆が寄って集って羊の毛皮を引っ張り合い、取ったら地面に縄で作った円に入れて、制限時間内に入れた回数で勝った負けたを繰り返す。

 風もあって寒いけど、人も馬も動き回って汗を掻いて湯気を上げている。地面が蹄に穿られて土が散って、あと馬のうんことおしっこでもびちゃびちゃになったり。

 楽しんでいるジーくんを見て楽しんでいると、横にゼっくんが来た。

「あ、ゼっくん! 一緒に見よ」

「北関門の防御を固める。準備しろ」

「あ、お仕事なんだ」

「お前がいれば同胞達も盟友達も助かる」

「そうなんだ! サニャーキにお任せだよ!」

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