第237話「難工事だ」 サニツァ


「朝だ! 起きろ! コケコッコー!」

 朝だ、起きた。労働者の仮設住居から外に出る。

 早起きの食事当番さん達からご飯を貰う。パン焼き部隊のところでミーちゃんが働いているよ。ミーちゃんは早起きが得意なんだ。

「ミーちゃん、おはよう!」

「サニャーキ、おはよ!」

 あんまり喋るとお仕事の邪魔になって怒られちゃうからこれだけ。

 ご飯を食べる。今日のパンは葉っぱの印がついてるよ。ミーちゃん、鍛冶屋さんに色々作って貰ったんだって!

 今日のお仕事は昨日と同じ、木の伐採と抜根。それもマトラから南のイスタメルに流れるセルチェス川じゃなくて、北のスラーギィってところに流れるダルプロ川! 川沿いに道を作って、それから川の中も工事する。凄く大変! ベリリクカララババさんとかが簡単に道を作ってあるけどたくさんの人とか荷物を運ぶのには狭いんだよね。

 長時間労働でも疲れない工夫があって、それは音楽! 軍楽隊の人が作業を応援するために曲を色々演奏して太鼓をドンドン叩いてくれるよ。体がウキウキしちゃって、気がついたらお仕事終わってる感じ!。

 斧を持つ。皆で適切な間隔を保って労働!

「労働の一撃は!」

『勝利の一撃!』

 そして木に上から斜めにガーン! って打ち付ける。葉っぱが落ちてくる、鳥がびっくりして鳴いて飛ぶ。刃が根元まで刺さったから抜く。

「伐採の一撃は!」

『進歩の一撃!』

 次は真横からガーン! って打ち付ける。葉っぱがまた落ちてくる、虫も落ちてきた。刃が根元まで刺さったから抜く。

 斜めと真横から打って幹から外れやすくなった部分を掴んで毟ってムジっと取る。これでまず倒す方向を決める。

 次に倒すために反対側から上から斜めにガーン! 真横からガーン! ってやってから毟ってムジっと取るを繰り返す。木が自重で倒れそうになってきたら楔を倒したくない方に打ってその方向だけ支えてから、周りの労働者さんに警告。

「倒れるぞー!」

 倒す方向に向かって手で押してメキメキバキって木が折れて、他の木の枝にぶつかったり折ったりしながら倒れる。まだ柔らかいところが木と切り株でくっついてたら斧で切り離す。

 次は倒した木の枝を全部斧や鉈で落として、縄で結んで引っ張って行って製材所の労働者さんに「お願いします!」って引渡す。

 次に切り株の処理。皆でその周りの穴を掘って、周りに伸びる根を切って地中から離して、浮いた切り株に縄を結んで引っ張って引きずり出す。ただ木材が欲しいのなら無理に引きずり出さなくていいけど、道や水路の邪魔になる物は抜いちゃう。後は根を落として土も落として乾かして薪にする。

 切り株を抜いたら穴が出来るから土を被せて埋める。切り株だけじゃなくて泥溜まりとか川に削られているせいで真っ直ぐに道が作れないところから埋める。ただ土で埋めても崩れそうなところは、製材所から杭や木の板を受け取ってきて杭打ち作業と板張りで地盤を固める。

 真っ直ぐ道を繋げたい、水路を船で通れるようにしたいけど大きな岩が邪魔になることがある。壊せそうなところから鉄杭を当てて大槌で叩いて端から剥がすように崩して小さくして運ぶ。危ないけど穴を開けたり亀裂を入れてそこに爆薬を仕込んで一気にドカーン! って壊すこともある。

 水路工事もそんな風に同時に進めていて、川底を掘る仕事で出てくる砂利を陸側の道路に撒いて歩きやすくして、雨が降っても簡単に泥だらけのズルズルにならないようにするお仕事もある。

 山の森と川は平らな場所は少ないし、段差が多くて坂があっても凄く急な箇所が多くて危険。そういう場所は、基底部は壊した岩の破片を土台にして再利用し、上に盛った土は杭打ちや板張りで頑丈にした長い緩い坂にしちゃう。最終的には車が通れるようにしたいから階段じゃダメ。ここで手を抜くと後で通る皆が困っちゃう。

 川は掘ったり岩をどかしたりするだけだと水の量が足りないから、堤防を作って川幅を狭くする工事もする。川幅が広くて浅いところは思いきって川の真ん中に土台を作って、流れが二本になるから片方を塞いで一気に半分ぐらいにする。川の流れで削れないような頑丈な堤防にしないといけないから、川底を掘って出てきた岩、壊して撤去した岩を組み合わせたり、コンクリートで固めたりと大工事になる。

 ダルプロ川は北に向かって下り坂になっているんだけど、坂だけじゃなくて岩盤の上を流れて、滝って言うほどじゃないけど段差が出来ているところがある。人が移動するならそんなに苦労しない段差でも、船で通ったら壊れちゃう。そういうところは、川幅を狭くして周りを堤防で固めて水深を上げるか、やっぱりまた鉄杭を当てて大槌で叩いて剥がすように削る。

 川の流れの中で崩す作業は大変。土嚢を積んで水が流れない作業場を作ってから崩す。乾いてからは爆薬も使って崩す。陸の段差工事の時と同じように長くて緩い坂を作る時はもっと大変。川の流れを変えて湖や沼、新たに窪地に充水した人造湖を迂回するようにしたりと大工事。

 それからたくさん作った堤防だけど、小船を真っ直ぐスラーギィまで流せる水深を確保する程度になっているけど大きめの船だと浅い。最終的には岩盤が川岸の壁になっているようなところ以外は全部、その大きめの船が安全に通れる幅に――狭いところは逆に拡げてから――して堤防で固めて深くするんだって。水を逃がさないように広い川縁とかも土を沢山盛って杭や板で固めないといけないから終わりが見えないんじゃないかってくらい。すごい大変、大工事だ!


■■■


 気がついたら、何か葉っぱがたくさん落ちてると思ったら秋になってきた。

 山道と水路工事はどんどん進んで、スラーギィの草原のところまで到達! 作った山道の方は商人さんだとかが利用し始めてるよ。水路の方も荷物を積んだ小船を使って物を下流に運べるようになってきた。水路の方は外国人の利用が禁止なんだって。川を何故か渡ろうとした北の外国人さんが森林警備隊の人に射殺されちゃったりもする。ダメって言ったのに悪い子だよね。

 山の中にある小さい沼とか湖とかに流れ込んで無駄になっている小川の水をどんどんダルプロ川に繋げて注いでいるから水深がどんどん上がっている。堤防工事はまだ終わらない。一旦基礎が出来上がっているから上に伸ばすだけで済むから拡張工事は早いと言えば早い。

 それから今はまだ計画段階だけど、この制御した水を使って畑を拡げたり、水車を利用した工場を一杯作るんだって! 将来はご飯も服も武器も一杯だって、すごいね!

 大工事も難しい山場を乗り越えたということで、ゼっくんに呼び出されて違う作業現場に向かうように言われたよ。ずっと会ってないから会えるかなって思ったら無理だった。お仕事忙しいからしょうがないよね。寂しいよね。急に会いに行ったらびっくり? 怒られちゃうね。

 新しい作業現場に行く途中で、マトラの道路の拡張工事が行われてたんだけどわざと不便に作ってたりして変だった。直ぐに道を塞ぐための崖を崩せるようにしたり、橋も直ぐに再建出来ないように両岸の間隔を伸ばして、底を深くしたり。あと使わないような貯水池や廃材置き場を高いところに作って、まるで敵が来たら落として潰すみたいに。西だけじゃなくて北から侵略者がやってくるのかな? スラーギィのところから?

 次の新しい工事はなんとセルチェス川とダルプロ川の接続工事なんだって! 離れたところの大きい川を繋げるってすごい! 妖精さんだから思いついたのかな?

 工事は冬が来る前に終わらせないとダメなんだって。そうじゃないと冬の間も工事しなきゃならなくて一杯労働者さんが死ぬかもしれないんだって。急いでやらないといけない、

 急ぐし大きい工事なんだけど、セルチェス川とダルプロ川の間には山がある。水路が山を越えないといけない。川が山を越えるの?

 ラシージ親分さんが指揮を執るよ。疑問の答えは、山を貫通する隧道を掘ってそこを固めて水を通す道を作るんだって! 普段は通さないから水門を作ってから。水ビショビショの状態で隧道は掘らなくていいみたい。

 水量が必要だから、広い元の川幅を意識した広さの隧道を掘る。ただ人を通すんじゃなくてたくさんの水を通す。

「難工事だ!」

 聞いた時に、直感的にそう言っちゃった。

 まず労働者さん達が隧道を掘る。掘りながら最優先で運ばれてくる資材によって遅滞なく隧道の壁に天井を固める。木材で仮補強したら直ぐに煉瓦で固める。

 隧道を掘るのは一方向だけじゃなくて、入口のセルチェス川の方からと、出口のダルプロ川の方、それから工期短縮のためにあえて迂回した山の間にある盆地の出口と入口の四箇所が主体で、もっと早く掘れるようにそれぞれの中間地点に縦穴を掘って更に早く掘れるようにしてある。それから労働作業は素早く行われるように指導されている代わりに、交代要員が多い。昼も夜も四交代制で掘るからとっても早い。怪我や病気になっても直ぐに補充の労働者さんがやってくる。

 自分はその色んな作業現場を行ったり来たりするよ。そう、削岩サニャーキ。

 岩盤砕きが最もマトラで早いのは自分。特注の大鶴嘴でもって隧道掘りを邪魔する岩盤をぶっ叩く!

「おりゃ! おりゃ! おりゃ! おりゃ!」

 叩けば火花、石屑が散る。

「うりゃ! うりゃ! うりゃ! うりゃ!」

 削って行けば岩が大きく剥がれそうになるから掴んで崩す。岩盤から剥がれた石は別の労働者さんがどんどん後ろに運ぶ。

 一人じゃない、皆で協力し合って難工事を成功させるんだ!

「岩を粉砕!」

『岩盤粉砕!』

 叩いて削って崩す!

「敵を粉砕!」

『階級粉砕!』

 叩いて削って崩す!

「壁を粉砕!」

『岩壁粉砕!』

 叩いて削って崩す!

「鎖を粉砕!」

『革命万ざーい! 万ざーい! 万ざーい!』

 叩いて削って崩す!

 特別に鍛冶屋さん――戦闘用千歯扱きを作ってくれた妖精さん!――が専属でついていて、替えの大鶴嘴を直ぐに研いで渡してくれるから早い早い!

 かなり難しい仕事だからよく分からないけど、自分が手で掘るのとラシージ親分さんが爆薬を仕掛けて崩すのを交互にやってる感じ。無闇に爆薬でドッカンドッカン壊していたら隧道が崩れちゃうんだって。おっかないね!


■■■


 寒くなってきた。そろそろ冬かな?

 隧道工事は掘削前にかなり調査を重ねて細密な計画を立てていたおかげで、途中でちょっとした地下水脈にぶつかった以外は順調だった。

 隧道を通す山の上の水は全部下に流してそういった地下水脈を断つようにしていたらしいんだけど、土が貯水していた分が出ちゃったみたい。でも排水装置が用意されていたし、ラシージ親分さんが魔術で漏水箇所を固めてから木と煉瓦で補強したから大丈夫。

 親分さんの魔術があるから普通は終わらないような難工事も終わらせられるんだって。すごいね! 私の魔術? も何だか妖精さん達の凄い役に立ってるって褒められたよ。やったね!

 隧道も長くなって空気が悪くなってきたけど労働者さん達が「わっせ! わっせ!」って排水装置と同じような造りの送風機を手で動かして空気を送ってくれたから大丈夫。横穴掘りと縦穴掘りが合流したらもっと大丈夫。

 一箇所だけじゃなくて色んなところでラシージ親分さんと岩盤砕きに回った。初めはあっちこっちバラバラにお仕事してて何時になったら終わるのかな? って思ったけど、繋がって来ると一気に成果が現れたみたいですごい。両側から掘って、向こう側の労働者さんと顔が会った時に「こんにちはー!」ってすると向うも「こんにちはー!」ってしてくれたよ!

 盆地のところは堤防で固めて隧道に繋がる水路と、山の上から流す水をその水路に落とす水道橋が建設されている。すごい景色!

 隧道が全部繋がった。セルチェス川の入口の方はコンクリートと鉄筋凄く頑丈に出来ていて、鋼鉄の水門がある。八つついている起重機を回すと、それぞれ対応する八つの扉が少しずつ下から上に開く。一気に開くと鉄砲水になって隧道が壊れちゃうかもしれないから少しずつ流せるように。セルチェス川もその上流の方で流れを分散したり集結させたりする仕組みになっているからそっちとも連携すれば危険は無いんだって! 妖精さん達の建設技術って凄いね! 村にいるおっちゃん達じゃ絶対敵わないや。

 工事の完成を祝って、労働者さん達が水門に集ってマトラ労働歌を斉唱!


  侵略の雨、祖国を濡らし

  破壊の風が切り刻む

  恐れず戦え、同胞同志

  不断に戦い築くのだ

  守りの家、豊饒の大地、革命守る労農軍

  真に勝利するその日に

  祖国に日差しが降り注ぐ

  振るえその腕、進めその脚、血と汗に塗れよ

  真の献身が明日に実る

  明日の明日へ繋げよう


 明日に繋がったかな?

 その後、工事従事者に対しての慰労会が開かれた。ご苦労さん、ってことで何と、噂だけしか聞いたことがなかった砂糖って調味料を使ったお菓子がたくさん食べれたよ! あの背の高い妖精のお姉さんが作ってくれて、甘くて凄いの!

 ミーちゃんも「甘くて美味しいね!」って喜んでた。労働者さん達も「おぴょぴょん!」って喜んでた。

 ゼっくんは食べてなくて「参加者の権利だ」って言ってたから、自分の分を半分こしてあげたら、凄いしかめっ面をして食べてた。甘い物嫌いなのかな?

 ベリリクカララババさんが水門の見学に来たって聞いた時にはもう次の労働現場に行かなくちゃならなくなってた。たくさんの木材が必要なんだって。そう、伐採サニャーキ。

 途中で雪が降ってきた。雪が振ると皆いっぱい死んじゃうから好きじゃないなぁ。お腹減るの早いし、食べ物を春までとっておかないとダメだから一杯食べられないし。

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