第229話「悪い子!」 サニツァ

 修道院が焼けた後、肉を皆で食べてハゲの院長さん待ってたけど全然帰って来なかった。妖精さん達は武器とか食べ物とか農具とか家畜とか、持てる物は全部持ってどっかに行っちゃった。

 ずっと焼けたところで待っててもしょうがないから村に帰ることにした。

 ちっちゃい子達の足に靴代わりに布を巻いて歩いて、疲れた子は負んぶした。

 村に到着すると街道沿いでデニちゃんが通行人狩りの囮役をやってる。見たことないような長い金髪してるけどあれはカツラ。

 デニちゃんは美人さんでお尻がおっきいよ。デニちゃんがやると”おバカ”な男の人が村の中までスケベな顔でやってくる。”村に新しい血が欲しいから寄ってちょうだい”って言うんだったかな? 自分が言っても笑われるだけだけど、デニちゃんがそういうこと言うと男の人はスケベになっちゃうんだって。おバカだね。

 単独行動を取っている男の人を狙うためにデニちゃんが働く。滅多にいないけど女の人の場合は大体足が遅いからあれこれ作戦を立てないでそのまま襲う。

 人を襲ってるってバレたらいけないから狙うのは必ず一人。身包み剥いで、身元が分からないように顔を潰して、耳と手は別に切り落として一緒にならないよう川に捨てる。

 ちなみに山賊をやれる程ここの村はお金持ちじゃありません。武器を買う余裕が無い。

「デーニっちゃん! たっだいまーん!」

 まーん! のところで両手を股間に。昔のデニちゃんもこういうことやって”はしたない”って怒られてた。結婚してからは絶対やらない。

「おかえりんこ。あんた、戻って……何その子供の群れ?」

「ほらミーちゃん、たっだいまーんは?」

「デニャーキ、ただいまんこ」

 ミーちゃんも股間に両手。

「はいまんこまんこ。でその後ろのひーふー? し、ご、ろ、七? 何?」

 デニちゃんがちっちゃい子達を指差して数える。

「んふ? 兄弟と姉妹!」

「はぁ? 村に連れて来てどうすんのよ。食い扶持無いわよ」

「でも神様の下の兄弟と姉妹だよ?」

「その神様がいるんだっけ、修道院はどうしたの。追い出されるのはあんたぐらいなもんでしょ」

「敵に焼かれて皆死んじゃった! 妖精さん達は助かったよ」

「あ……そっか。あんたが痣作って来るなんていつぶりか、ね」

 デニちゃんにおでこの痣を指で突っつかれる。修道院を消火した後のたんこぶがすごくて、少しの間だけど目が腫れ物で見えなくなるぐらいだった。

「鉄砲で撃たれた。すっごく痛かったの!」

「痛いって……でも健康な男の子は引き取れると思うけど女の子は無理だわきっと。無理に置いても殺すことになるって」

「お仕事出来るよ」

 ちっちゃい子達が不安そうに見てくる。子供でも分かっちゃうか。

「今、春撒き収穫してるから手伝いで食わせてやっても良いと私は思うけど、でもやっぱ無理でしょ、食べさせる物が無いよ。麦もどこにどれだけ税で持って行かれるか分かんないから隠し倉に多めに入れるって言うしさ。どう食べさせるの?」

「パンが無ければ肉を食えばいいじゃない! 修道院じゃ一杯食べれたよ」

「ここにそんなもん無いわよ」

「デニちゃんがいるじゃない」

「私はネズミ獲るのが精々……まあいいや、村長さんに相談しなさい。あんたの家まだあるし誰も住んでないから行きなさいよ」

「はーい! 皆、お姉ちゃんに続け!」

 目印に手を上げて家に戻る。


■■■


 村に戻ってからお話を聞くと、イスタメル公国が悪魔に降伏したって噂。聖戦軍とか敗残兵とかがまだ諦めていないんだって。頑張るね。

 今ラシュティボル伯爵が悪魔と手を結んで国を統一している最中だって聞く。この村に来るお役人様の偉い人、領主様より更に上の人なんだって。

 それとマリオル人も悪魔と、そしてラシュティボル伯軍と同盟を組んだんだって。元々あの人達は魔神教徒だからそんなもんかって感じ。

 春撒き麦の収穫作業は、秋が近づいて暑さが和らいだせいか少し楽になってる。でも今年は男の人達がほとんどいないから作業もそうだけど、食べ物を狙ってやってくる盗賊が来ないか見張る人が足りない。襲われたら大変。男の人が足りない。

 軍を脱走して戻ってきた男の人はいるけどやっぱり少ない。デニちゃんの旦那さん、村長さんの次男くんも戻って来てたけど腕が無くて働けないから殺した。こういう時は大体、お酒を一杯飲ませてフラフラにしてから、後ろから斧で頭を一発で叩き割るようにする。死ぬことに気付かないようにしてあげる。

 ダラガンくんは行方が分からない。一緒にいた男の人からは、夜中に敵に襲われた時からはぐれたきりって聞いた。

 男の人が足りないから今回は警備を自分がやる。千歯扱きで敵をグッチャグチャにしたお話したらそうなったよ。

 武器は敗残兵狩りで手に入れた鉄で補強された木槌。扉を打ち破ったり地面に杭を打つのに使う道具。自分が武器を使うとすぐに壊しちゃうからこういう頑丈なやつが良い。

 今年は戦争でどこも食べ物に困ってるみたいで、川の下流からマリオル人の海賊が船でわざわざ昇って来た。兄弟のおじいちゃんみたいに星を見たら時間が分かるかな? って夜に外に出てたら運良く気がつけた。それから木槌で岸に上がって来た五人くらいを殴り殺して追い返した。でも後から気付いたけど川に一番近い家の女の人が攫われちゃってた。船を追いかければ良かった。

 攫われた女の人は強姦された後食べさせるのが勿体無いから殺して捨てられるんだって。昔は妊娠したら放り出されるくらいで済んだらしいけど。酷いよね。

 収穫作業はいつもよりずっと大変で、雨も今年は多めで半分は腐らせるかもしれないって村長さんが言ってた。

 連れて来たちっちゃい子達だけど、やっぱり女の子は要らないって殺して川に流した。ミーちゃんは元々ここの子だから殺さなかったけど。

 それから修道院からここまでの旅と農作業と食べ物が少ないせいで体調を崩した男の子も殺して川に流した。ミーちゃんと年長の男の子が二人だけ生き残った。

 上流の方からも死んだお年寄りとか子供がカラスにつつかれながら流れて来てたから他所の村も同じみたい。そういえば隣のおばあちゃんも自分達が戻ってくる前に殺したからいなくなってた。今はその男の子二人が死んだ隣のおばあちゃんの家で暮らしている。

 ミーちゃんは向かいのお店から自分の家にお引越しした。それで「サニャーキ、お母さん」って言われちゃった!

 やっと神様が届けてくれた! 修道院で敬虔にお祈りしていたからだね。早くダラガンくん戻って来ないかな?


■■■


 夏は冬と違って食べ物を探すことがいっぱい出来る。

 うんこを集めて堆肥を作ってるところに行くと虫がたくさんいる。ミーちゃんと一緒に虫を拾って集める。

「むーしむしむっしっしー!」

「むーしむしっしーしー」

 中でも一番食べ応えがあるのがカブトムシの幼虫。

 川の草むらにもいっぱい虫がいる。

「むーしししっしっしー!」

「むーししっしー」

 クモもいいけどやっぱりバッタとかコオロギ。ミミズはたくさん潰してから焼くとお肉みたい。

 山菜って言われるような野草も採るけど量が少ない。だからそうじゃない雑草から柔らかい物を選んで採る。固いのとかすごく不味いのとかはダメ。

「くさくさもっさもさ!」

「くさくさもっさもさ」

 野ぶどう、野いちごを見つけたら超嬉しい!

「ミーちゃん、その黒いのベラドンナって言って毒だよ。死んじゃう!」

「サニャーキ、物知り」

 キノコの見分けが得意なおばちゃんとキノコ採りにも行く。あまり遠くに行くと山賊に襲われちゃうし、避難出来ないから村の近くで採る。

「きーのこのこのこのっこのこ!」

「きーのこのっこっこ」

「それ毒だね、捨てな」

「ぎゃー毒だー!」

「毒だー」

 木の幹に向かって振りかぶってべっちーん!

 村の周りで食べ物を集めていると、イスタメルじゃ東の方にいるメノアグロ人の山賊がやって来るのが見える。帽子とスカーフが派手でヒラヒラで服で分かる。

 野いちごを摘んで笑ってるミーちゃんを抱えて走って村に戻り、見張り台番の人に「山賊! 山賊!」って言って鐘を鳴らしてもらって皆に報せる。

 軍服を着ていない武器を持った男が多めの集団をこの辺で山賊って言う。マリオル人は海賊が多いらしいけど、ここは海じゃないから盗賊? 違いが良く分かんないや。たぶんあんまり変わんない。

 木槌を持っていつでもやっつけられるように待機。鐘で村に戻ってきた男の人達も槍や鉄砲を持って防壁へ配置につく。投げる石が入った袋を用意。村の門は閉じる。逃げ遅れた人は壁の内側から縄を使ったり、梯子を下ろして中に入れる。

 山賊の中には聖戦軍の兵隊さんも混じってるのが見えてくる。旗を掲げてないから遠くからだと分かり辛かった。

 メノアグロ人はアタナクト派で、聖戦軍の兵隊さん達もアタナクト派ばかりみたい。

 修道院を襲った聖戦軍の兵隊、敵の言葉だとノミトス派は悪魔だって言ってたけど、この人達は違うのかな? ここの村はイスタメル人の村だからノミトスさんの教えなんだけど。

 山賊なのか兵隊さんなのか分からない集団が閉じた門の前に並ぶ。昔一回、こんな感じになったことがあったけど、その時の相手は丸太を抱えて門を破る気でいた。確か油浴びせて松明投げてやっつけてたと思うけど。

 村長さんが門の内側に梯子を掛けて、顔だけ門の上に出るようにして立つ。

「用件は何か? この村は貧しい、奪う物など無いぞ」

 相手の代表が何か言うがフラル語だ。

「フラル語は分からん。イスタメル語は話せないのか?」

 メノアグロ人が何か喋る。メノアグロの言葉は全然分からない。マリオル人とかバルリー人とかの方がまだ通じる。

「村長さん! 私ちょっとフラル語分かるかも」

「うーん、話してみなさい」

「はーい!」

 村長さんが梯子から下りて代わりに昇る。胸が出る高さまで。

 聖典から引用した言葉を並べればたぶん大丈夫。

「彷徨える、者達」

 それから手に持った木槌を振り上げて「ウォーウォー!」って言ってから首振って、ダメってやる。戦いはダメ。

 相手の代表が喋り、聞き取れるところは「悪魔」「軍勢」「糧」「長い」ぐらい。それから指差しで、武器は持たないで軍服着てるのに棒切れを杖にしているだけの人を見せてくる。怪我をしていて血塗れの布を巻いている人も多い。それから背中を指して、何か持ってるみたいに揺すり、手で地面に何か落とす? それと最後に両手でお腹を押さえた。

「家族、友人、知人、見知らぬ人々にも糧を与えなさい」

 そして聖典から言葉を引用。分かった、お腹空いてるんだ!

「村長さん、お腹空いたって!」

「そんなもん見れば分かる。食わせるもんが無い」

 代表の人を指差して「汝、朝餉、夕餉」って言ってから両手を振って、食べ物無いよってやる。そうすると代表の人が畑の方を指差してから、棒切れを持って大上段に振って、振り終わりで引く動作が入る。

「ねーねー、その鋤貸して!」

 槍代わりに四又鋤を持ってるおばちゃんから借りて、代表の人に刈った麦を集める動作を見せて「収穫、勤労?」って言ったら大きく何度も頷いた。

「村長さん! あの人達農作業やるって!」

「そうきたか」

 村長さん、前に比べて痩せた顎を撫でて考え始めた。

「……秋撒きの仕事もさせられればなぁ」

 それから秋に麦を撒く仕事も出来るか約束させるのにすごく時間が掛かった。聖典の引用で何となく言葉は通じるけどちゃんとしていない。「種よ広がれ、恵みの地に我々は辿り着いた」って引用を思い出して組み合わせてどうにか身振り手振り入れて話が始まった。

 疲れて皆が座りだしても終わらない。だって何て言っていいか分かんないんだもん。

 食べ物は出せないけど、途中で水は出すってことで自分が酒樽に水を入れて山賊と兵隊さんに持っていったら皆びっくりしてた。「奇跡!」って言ってた。


■■■


 男の人が増えた。敗残兵の皆を受け入れたので畑仕事の進み具合がすごい早い!

 それからデニちゃんと結婚したいって言う男の人が一杯出てきたよ。何も言わなくてもおバカになっちゃってるみたい。普段は村長さんの家に住んでるから大丈夫だけど、外を歩く時は一緒にいるようにしている。

 酒樽に水を入れて運んでいるのを見せたから自分をからかってくる男の人はあんまりいない。一人で十人と綱引き遊びして「だっしゃー!」って勝ったし。

 修道服は生地が良くて頑丈だからそのまま着てる。ミーちゃんもちっちゃい子達も同じで、靴は履いてる。私は裸足の方が調子良いから裸足。その格好のせいか神様へのお祈りをする時に呼ばれるのでちょっぴり尊敬されてる。おじいちゃんおばあちゃんの兄弟姉妹の真似をしているだけだけどね。

 悪いことをしようしている人を見つけて「こらダメだぞ!」って怒ると敗残兵の男の人達は言うこと聞く。

 山賊と兵隊さんは悪魔と戦って負けたから逃げ来たんだって。だから村長さんが言うには「敗残兵」だって。

 村長さんは悩んでるみたい。デニちゃんを家に迎えに行くといっつも困った顔している。

「働かない人いるよね」

「あぁ……参ったな。下手に間引きも出来んしなぁ」

 兵隊の方の隊長さんに「勤労、悪魔、勤労」って働かない人を指差して言ってみても、何か言うんだけど早口のフラル語を使うので分かんない。

 働く男の人と働かない男の人がいる。

 怪我で動けない人と、働かないで女の人に声を掛けて回ってる人とかいる。折角髪の毛切ったけど、美人さんは頭ハゲでも美人さんだからかも。

 お年寄りやちっちゃい子を食べ物が無いからって殺したのにそういう人も殺さないなんておかしいよね。村長さんも困ってるし、今はデニちゃんが困ってる。

「あなた悪い子!」

 男の人は皆畑に出ている時間に洗濯をしているデニちゃんを邪魔して、お尻を触った奴を木槌で後ろから潰しに行く。でも外れて当たって、その肩の位置が脇まで下がって服に血染みが広がる。倒れてから頭を木槌で叩き潰した。頭が破裂して脳みそが出た。

「デニちゃんもう大丈夫。嫌な奴やっつけたから」

「あんた……」

 村に残る、働かない敗残兵を殺して回る。まずは村をフラフラして、働けるのに働かない一番悪い奴から。

 さっきのスケベは西の偉い貴族の人らしい。何もしないくせに偉そうで嫌い。

 次は村長さんの家で寝泊りしている、盗み食いしてお酒ばっか飲んでる太ったお坊さん。フラル語がちょっとも通じないし、祈りも変、こんなの兄弟じゃない。ちっちゃい子でもちょっとだけ分かるのにこの人は大人なのにちんぷんかんぷん。偽物だ。嘘吐きはいけないって姉妹のおばあちゃんが言ってた。

 今日も偽のお坊さんはお酒を飲んで顔を赤くしている。後ろから近づいて頭に「こら飲んだくれ!」って拳骨、骨が折れて拳がめり込んだ。目とか鼻とか耳から血を出して死んだ。

 それから怪我人を集めた家に行って、一人ずつ引きずり出して家が汚れないようにして木槌で潰して殺した。言葉は分かんないけど、助けて、って言ってたと思う。村の皆を助けてないのに。

 畑仕事から人が戻ってくる。

「働かない人達は皆やっつけた! 顔も耳も手もやっておいたよ!」

 潰した死体は広場に並べて見せた。

 服は血で汚れてるけど洗えば着れるし、解して新しい服も作れるから脱がしてある。顔は潰し、耳は手で千切り、手首は折ってからねじったり引っ張ってもいだ。

「純真さに比べればなんと悪の慈悲深きことか」

 隊長さんが、聖なる種の形に指を切りながらフラル語で聖典の言葉を引用した。


■■■


 死体を全部川に流してから村長さんの家に呼ばれた。

 お説教かな? と思ったけど怒ってるわけでもないし、困った顔だった。

「お前はやってくれたが、あそこまでされたら村に置いておけない。新しい村の住人がお前を許すことが出来ないだろう」

 敗残兵の人達は、皆がそうなのか知らないけど村に住むみたい。

「私、悪い子?」

「良い子だが、そうだな……善良な心であの行いをしたんだろうが、彼等には受け入れられない。それからもう彼等は村として手放せない。腐るに任せるしか無かった麦が収穫出来ているし、秋撒き麦の作業が出来る見通しも立った。兵隊に行った連中がどれだけ戻ってこれるかも分からん。サニツァは確かに十人分は働いてはくれるんだが、替えられない」

「うん」

「村の存続のためだ。持てる物は渡す。すまんが出て行ってくれ」

「うん、分かった」

「良い子だ」

 村長さんに頭をなでなでされる。

「えへへ」

 村のためならしょうがないね。


■■■


 早朝にミーちゃんを連れて村を出て行くことになった。デニちゃんと暮らすか聞いてみたけど「サニャーキ、お母さんと一緒」って言った。

 保存の効くパンやお金に予備の服とか裁縫道具とか、山歩くのに山刀、使ってた木槌とか旅に必要な物は全部持たせてくれた。

 デニちゃんが街道まで見送りに来てくれた。村の人達は敗残兵の、新しい村の人達に遠慮したみたい。

「あんたの力ならどこでもやってけるよ。あの糞野郎ぶっ殺してくれてせいせいしたし」

「デニちゃんは大丈夫?」

「私はこのケツがありゃ大体大丈夫よ。喪が明けたらあの隊長さんと結婚して上手くやるさ」

「そうなんだ!」

「追放されたけどさ、連絡くらい寄越しなさいよ。ダラガンも帰ってくるかもしれないんだし」

「うん」

「ミリアンナ、あんたも元気でね。サニツァはクソバカだけど力はあるから」

「デニャーキ、お姉ちゃん」

「はいはい」

 デニちゃんがミーちゃんの髪を手でボサボサにした。

 自分は行く道を決めるために、木槌を地面に立てて手を離す。

「あっちだ!」

 行く先に指を差す。方角はたしか東。

 

■■■


 ずっと東? に歩いた。

「どこに行こうかなぁ」

「どこかなぁ」

 道の行く先にすごくいっぱいの人やお馬さんが見えてきた。

「兵隊さんいっぱいだね」

「悪魔の軍勢」

「ミーちゃん分かるの?」

「ワンワンいる」

「ワンワン?」

 イスタメルの兵隊さんが旗を掲げ、長い列を作って歩いている。それから楽器を持って、歩きながら曲を演奏してる人達もいる。

 その中にお馬に乗った黒い犬頭の獣人が混じってる。あれが絶対に悪魔だ。

「道塞いだら怒られちゃうね」

 ミーちゃんを抱き上げて道の脇に行く。戦争に行って帰って来なかったお父さんが昔そんなこと言ってた。

 イスタメルの兵隊さんの中でも偉そうなハゲの人が自分のところで馬を止めた。

「そこの姉妹、よろしいか?」

「うんいいよ!」

「聖戦軍かメノアグロ人の山賊か、その両方か、アタナクト聖法教会派の武装集団をこの界隈で見かけなかったかな?」

 村に逃げて来た敗残兵の人達だ。

「その人達はもう私の村で村人になっちゃったよ」

「何という村かな?」

「ふうん? 私の村は村だよ」

「そうか。名前が無いところなんだね」

「うん! 名前は無いよ」

「隠し畑か……姉妹はどこの修道院に所属しているのかな?」

「あっちにずっと歩いて行ったらある修道院。だけど敵に焼かれちゃってちっちゃい子以外死んじゃった」

「そうか。君達はこれからどうするのかな?」

「わっかんない!」

 ねー、ってミーちゃんに頬ずり。とりあえず二人でご飯が食べられればいいね。

「そうか……東の方は大分軍が治安を回復させつつある。我が軍だけではなく魔人代理領軍もいるが怖がらずに。彼等は見慣れない格好をしているが規律が高い。一時保護を申し出ても受け入れてくれるはずだ。それとノミトス派の修道院を頼りなさい。大分聖戦軍に焼かれてしまったがまだ残っているし軍が守っている」

「分かった! ありがとう、ハゲのおっちゃん!」

「ハゲ……」

「ミーちゃんも」

「ハゲ、ありがと、ございます」

 喋れる言葉が増えてきてる。

「良く言えました。えらい!」

「おじさんはハゲじゃなくてな、ラシュティボル伯ラハーリ・ワスラブだ。偉いんだぞ」

「そうなんだ! えらい!」

「ははは、君みたいな子ばかりなら戦争なんてしなくていいだろうね」

「ふうん?」

 ハゲのおっちゃんが笑う。わっかんないや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る