第185話「ベルリク親父」 ベルリク

 長官級会議を行う。出席者六名で、新築のにおいが立つバシィールの議場を初使用。広々とし過ぎて寒気をちょっと感じる。暖房代わりに一番大人しい猫を連れてきて膝の上。

 総統ベルリク=カラバザル・グルツァラザツク・レスリャジン、と猫。

 総統秘書アクファル。

 軍務長官ラシージ。

 内務長官クロストナ・フェンベル=グルツァラザツク。

 財務長官ナレザギー。

 魔法長官ルサレヤ。

「総動員を近く行う。期日未定。同時期、ロシエか聖王と聖皇の領域か、まだ状況は判断出来ないがどちらかに遠征軍三十五万を老兵中心で送り込む。スラーギィの騎兵軍、マトラ、ワゾレ、シャルキク、ユドルムの方面軍二十五万。新設したいヤゴール、イラングリの方面軍の十万増強分を含める。予備役、民兵、自警団、内務省軍を全召集して遠征軍の抜けた隙を埋める防御体制を構築。食糧配給や、労働力喪失の影響、乳幼児死亡率から何から徹底して前後を比較しろ。これは演習でもあり、改善点を洗い出す目的がある。各長官にはこの程度のことはやって貰えないと困る。戦争の出来ない帝国連邦など、ただのカスだ……ということで質問は」

 ラシージ挙手。

「はいラシージ」

「軍増強の際の、各王国、部族に対する説得状況を教えて下さい」

「後日行われる凱旋式典のおりに、全員と個別面談を行うのは予定通り。招待する手紙には自領の軍の全容を把握した上で来るように書いた」

「分かりました」

 つまらなそうに視線を落としている我が妻。

「はいジルマリア」

「ありません。言われた通りに出来る体制は整っておりますので」

 言い終わり、舌打ちで締めくくられる。ちゃんとやってるからわざわざ聞くなってか。

 アクファル挙手。

「はいアクファル」

「挙げてみただけです」

「マジかよ。可愛いから許す」

 ナレザギー挙手。

「あんまり可愛くない」

「はいはーい、僕ナレザギー。南の国の王子様だよ」

「はいナレザギーの殿下様」

「内務省の持ってる徴税権、国庫管理権、金と金の流れに関する権限は全部こっちに下さい」

 ジルマリアが横目で、口の端を吊り上げるナレザギーを睨む。内務省の能力の半分を寄越せと言うに等しい。

「その上で軍務省の出す予算案を基礎にして組む先軍的なことを止めて、財務省が出す予算案を基礎にして組むように変えて下さい。それと予算案決議の拒否権も下さい」

 ラシージは反応示さず、目線も動かさず。

「やんのかこら」

「やるから言ってるんじゃないか」

「先生」

 ルサレヤ先生に目線。今まで肩書きは変わってきたが、先生が一番落ち着くな。

「うむ。今まで空席だった財務長官も決まった。役割分担は適正に行われる必要があり、ナレザギー財務長官の発言は妥当。ただ予算案決議の拒否権は持っていて良いが、各長官の合意を得るのが基本だ。強行的に拒否をする場合は総統からの罷免を覚悟しろ。説得も出来ないようでは失格だ」

 魔法長官のお仕事の一つであろう。議長役というか、まとめ役として非常に心強い。締めてくれる。古く輝く権威の強さよ。

「毛玉てめぇ、ちゃんとやれよ」

「やるって言ってるじゃないかこのハゲ猿」

 ジルマリアの横目が続いている。

「おいハゲ何時までナレザギー睨んでるんだよ」

 この仕事が生き甲斐のジルマリアから金を使う権限を取り上げるということは恨みを買う行為である。

「部署は切り離しても動くようにしてあるので引継ぎは直ぐ出来ます」

「それはどうも、ご用意がよろしいようで」

「当然です」

 ただ過労で倒れかねないジルマリアの負担を減らすのは積極的にやりたいところ。まだまだ役割分担が効率的に出来ていない箇所も多々ある。

 アクファル挙手。

「はいアクファル」

「折角集まったので外交問題について意思の統一を図るべきです。今までは総統閣下が考え、個別に下知してきましたが、全員が揃った上での協議は現在まで行われておりません」

「流石アクファルだな、めっちゃ可愛いぞ」

 ということで現在の外交状況を含めた所感を述べる。

「聖王領は一致団結しているわけではなく、先の侵略への対抗手段として結成された中央同盟の成れの果てであるため、利害の不一致が出てくると瓦解し易い。また念願の聖王ではあるけども、ロシエ系カラドス朝の系譜であるし、自分は可愛いと思うが所詮は脳みそお花畑の女である。求心力は低い。

 アタナクト聖法教会が中央集権化した聖皇の影響圏諸国は一致団結して抵抗してくる。エデルトがバルリー問題から外れたことにより第十六聖女ヴァルキリカの力が多少は弱るが、単体でも豪腕であるから侮りがたい。

 エデルトとその実質の属国オルフの圧力が無くなった今、軍事圧力を我々に彼等が掛けることは困難になっている。以前までは開戦した場合ヤゴール、ペトリュク、ワゾレ、マトラの四正面での戦いが予測された。

 今ではワゾレとマトラの隣接したニ正面だけである。そしてこのニ正面、一正面と見做せる場所は非常に防御側に有利となっている。高所で足場が悪く、防御施設で待ち構え、川の水源を握り、敵に奪わせる物が無く、あっても速やかに破棄して焦土化出来る。

 旧バルリーを確保した上でのこの状況、物理的には勝利が確定している。

 だがマトラ低地を強請るほどの精神的な勝利にはまだ遠い。

 マトラ低地への領土要求をはねつけるような報道がされている。遠回しにマトラ低地が欲しいと手紙に書いたなら、領土要求には屈しないという直接的な返事がされている。バルリーに関しては厳重抗議程度でそこは認めるという態度。

 竜跨隊には偵察のついでにバルリー人の骨、痛んだ燻製をマトラ低地にばら撒かせる。我々と戦ったらこうなると実際に見せて教え、現地人を不安にさせる。感情を極端にさせる。

 極端に感情が振れるようにした上で、今度は亡命したバルリー人の買取を公表する。

 逃げ込んだバルリー人の多くはマトラ低地にいる。親戚もいるだろうし、そう遠くまで逃げられない者もいるし、言葉が通じ合う者も隣接地域なので多い。難民なんてものは迷惑な存在だが同情は出来る。

 その難民に値段がついた時、どこまで同情出来る者がいるか? 現地人と難民が衝突を始めるだろう。難民だって自己防衛をしなくてはいけない。

 その気が無くても疑心暗鬼になって本来は発生しなかった衝突が起きる。殺し合いになる。そして我々は治安維持活動の要請に対して応じられる用意があると、そのように公表する。

 一気に土地を得られなくても段階的に浸透する隙を作っていく。そして一定の我が方の工作員がマトラ低地に行き渡ったところで自国民の保護を宣言し、もしこれに危害が加えられたのならばそこから更に浸透していく。

 ユバール戦争の趨勢もこちらに影響する。被害は甚大だがロシエがユバールに食い込んで押しているそうだ。

 その上で聖王と聖皇、そしてエデルトがロシエに対して抗議声明を発表。そしてロシエの東部国境のオーボル川沿い、東南部国境のシェルヴェンタ辺境伯領側に軍を配備。ユバール国内には既にエデルトの軍事顧問や武器が入っている。

 ロシエが勝つか負けるかは現時点では予測出来ないが、聖王と聖皇を直接軍事介入するところまでもつれ込ませると我々が精神的に勝利する可能性が高まる。マトラ低地に関わっている余裕が無くなると高まる。ロシエにはそこそこ勝利して貰わなければいけない。

 まず思いつくのは我が軍の旧式装備の提供。旧式装備は民兵や自警団用に取っておくよりも、全員に標準装備を与えるべきだ。

 傭兵公社については現在マトラ国境とイラングリ国境において有事にあると考えるので無しだ。

 それからスカップくんを通じてランマルカにも支援を要請しよう」

 という現状や展望をアクファルが持っている資料を見せながら説明した。

 ラシージが挙手。

「はいラシージ」

「武器供与の件で。旧式装備の排除は当然のことで武器弾薬、交換部品は全国、共通規格で共有すべきであり、そのように計画を推進中です。しかし工廠の稼働状況と照らし合わせると段階的にせざるを得ないのが現状で、一大国に影響を与える程の旧式装備の供与となれば一時的な弱武装地域を出現させることに同意して頂かなければなりません。また装備を送るにしてもランマルカとの協議をした上で決定するべきです。あちらでは共和革命派の支援が行われていると推測――ほぼ間違いありません――その点を考慮し、連携しなければ有効的ではないでしょう。大陸宣教師スカップとの話し合いの場を設けるべきです。マトラの情報局経路で接触を図りますが、よろしいですか?」

「もっともな話だ。そうしてくれ」

「はい」

 自分が指名。

「はいジルマリア」

「どうぞ」

「聖女がどんなこと考えてるか、どうしたらマトラ低地を引渡すのか聞いて来てくれ。それから今、聖女は何て言ってるんだ? 南メデルロマから手を引いたんだから強情一点張りじゃあないんだろ」

「使いの者によれば”バルリー如きならともかく、よくもこんな面倒な事態にしてくれたものだ”と怒っているようです。国境を跨ぐ呼称マトラ低地全域に対する要求が神聖教会圏各勢力の団結を生んでいる以上は現状、魂のやり取りのように取引不可能。ユバール戦争、対ロシエで団結しようという流れもあって火に油を注ぐ行為で尚更態度は硬くなっています。不当な侵略に屈するなという世論が醸成されて意地の問題に発展してしまっています」

「自治権そのまま、連邦に加盟するだけなら?」

「他には」

「こちらが主張する国境線での演習、最新兵器や共和革命派に詳しい人物の輸出。中大洋貿易路での様々な事件、色々あるぞ。あるよなナレザギー?」

「まあ、あるだろうね」

「ではそのように伝えます」

「どんな反応をしそうだ?」

「自領を切り売りするために反対派閥や良識派を炙り出して粛清する程アタナクト聖法教会は狂っていませんよ。消耗戦が始まるだけです」

「じゃあこれはランマルカ次第になってしまいそうだ。主導権を握るのが難しいがしょうがない。革命ロシエの誕生を念頭に入れておこう。それに旧バルリーの話題どころではなくするのが最低目標だし、上手く行っている」

 これに対してジルマリアが呟いた。

「悪魔め」

 なんというか。

 ラシージは瞑目。

 アクファルが「ふう」と鼻から息を吹く。

 ナレザギーは机を、小指から人差し指の順に叩くを繰り返す。

 ルサレヤ先生はそっぽ向いて口を開く。

 喋ったジルマリア本人が顔を手で覆い、肩を震わせて「ヒッ、ヒッ、ヒィ」と声を絞り出す。

「おいっ、へへっ、喋った奴が笑ってんじゃねぇよ!」

「だって……おっかしいんだもん……ウッククク」

 アクファルは背中を向けて壁に寄りかかり、ナレザギーは机に突っ伏して脚をバタバタ、ルサレヤ先生は顔に皺寄せて下向いて首を振る。


■■■


 マトラ共和国の建国記念公園で凱旋式典が行われる。黄金の国家名誉大元帥騎馬像が見下ろす場所。

 大層なお祭り騒ぎで行われるのだろうと思ったが、普段はむっつり静かな偵察隊でさえさめざめと泣いている。

 妖精でも泣くのか、妖精でさえも泣かせる大業だったのか。観衆の大半を占めるマトラ妖精は手にマトラ自治共和国の手旗を持って泣いている。

 旗柱に掲げられる各妖精共和国とマトラ自治共和国の国旗は半旗が混じる。

 祝砲、弔砲を兼ねる空砲が断続的に放たれる。教導団砲兵指揮官ゲサイルの指揮で音楽のように調子良く鳴る。

「抱いて下さい総統閣下!」

 背後から抱きついて来たのはぷよんと柔らかいボレス。

「おめでとうございます。おめでとうございます」

 左隣に座って腕を組んできた、民族的には部外者のジュレンカは拍手しつつも貰い泣き程度である。

「ヌガァア! ウワァア! ガァアア!」

 辛かった昔を思い出したか絶叫を繰り返し、血圧が上がり過ぎて古傷が開いて血の涙を流して自分のズボン、右脚にしがみ付いて染みを作るゼクラグ。

 無言で自分の膝の上に座ったゾルブは、その腹を抱く自分の腕に涙と鼻水を垂らす。

 感動した妖精達に取り囲まれるともみくちゃにされるので偵察隊が、自分達が座る主人席に近づく妖精を制限しているのだがこの四人だけでも相当暑苦しい。

 主賓席には帝国連邦内から招待した各国、部族の代表も集まっている。イスタメル州、ヒルヴァフカ州、大内海連合州からは大使。外部からはランマルカの大陸宣教師スカップとオルフ人民共和国残党の大陸残留組の将軍。

 身内でやる行事で、しかも周辺国は参加する状況ではないからこのくらいか。ヤヌシュフも面子に加えたいところだが、そこまですると折角のエデルトの”好意”をないがしろにすることになる。

 革命オルフの将軍は……スカップが連れて来たので断ることも出来なかった、暇も無かったというところか。アッジャール朝から問われたら言い訳は出来る。

 例外として、今日は私服姿のカルタリゲン中佐がどこかにいるということぐらいか。

 ラシージが演台に立つ。

「マトラの妖精達を代表し、今日この素晴らしき日に生きて立ち会えたことに同胞諸君、盟友諸君、同志諸君、共同体諸君そして今日まで間違いの無い指針を示し導いてくれたベルリク=カラバザル・グルツァラザツク・レスリャジン総統閣下に最大限の感謝を表明します。幾百年の屈辱に耐え、幾万の犠牲の末、収奪されるだけだった弱き我々は決意と団結と不断の努力の末に、史上最強の火力、筋力、魔力を備えた無敗の軍事力を手に入れることが出来ました。この力によりかつては無限の恐怖のような存在だったバルリー共和国を完膚無きまでに、極めて短期間の内に撃破し同民族百万の根絶に成功しました。そして古き我々の故郷を奪還することが叶いました。故郷奪還につきマトラ共和国の首都を旧バルリー共和国の首都ファザラドへと遷都し、名をダフィデストと改めます。奪還した西側へ遷都することにより復興を確かなものとします。このマトラ復古の機会を与えてくれた帝国連邦将兵の皆様方にマトラ民族を代表し、改めて感謝を申し上げます……」

 ラシージが諸手を上げる。

「帝国連邦万ざぁーい!」

『万ざぁーい! 万ざぁーい!』

 何十万と詰め掛けて外気も熱した妖精達が手を上げ、旗を振り、断続的に放たれる砲声も掻き消す。

「全てを総統に!」

「我等が世代を集中せよ!」

「肉体と精神を捧げろ!」

「慈しみの鉄腕に接吻を!」

 いつの間にやら老いた姿となったマトラ共和国大統領ミザレジが演台に立ってラシージに並んで叫ぶ。

「最大不滅の我等が大英雄、第二の太陽、無敗の鋼鉄将軍、鉄火を統べる戦士、雷鳴と共に生まれた勝利者、海を喰らう龍、文明にくべられし火、踏み砕く巨人、空を統べし天馬、楽園の管理者、空前絶後の救世主……帝国連邦初代総統ベルリク=カラバザル・グルツァラザツク・レスリャジンよ永遠なれ! その偉業を称え万歳三唱!」

『万歳! 万歳! 万歳!』

「帝国連邦国歌ぁ!」

 その叫びと共に一瞬で波が引いたように妖精達が鎮まる。空砲も止む。

 熱狂を瞬時に打ち消すこの統制は気味が悪いほどだ。参加している非妖精の者達を見れば動揺が見られる。

 先ほどまでは聞こえもしなかった鳥の鳴声が少し聞こえる。

 待機していた、曲の音が大きくなるよう可能な限り大編制になった合奏団と、今日は楽器となる大砲を三部隊、重砲を一部隊揃えた砲兵が指揮者の振る指揮棒に従って演奏を開始。

 妖精と、歌を知っている者が合唱。


  垣根を越える同盟を、

  偉大なる総統は団結する!

  不滅の帝国を実現する、

  約束された連邦万歳!

 ・左翼砲兵隊、空砲一斉発射

  栄光あれ祖国

  民族は一つに

  結束せよ、同胞よ!

  旗に集え、兄弟!

 ・中央砲兵隊、空砲一斉発射

  祖国に捧げよ、力

  捧げるは皆がため


  高炉で燃える鉄鋼と、

  広大なる農土で繁栄する!

  創造の帝国を実現する、

  組織された連邦万歳!

 ・右翼砲兵隊、空砲一斉発射

  歓喜あれ祖国

  人民は一つに

  結束せよ、同胞よ!

  旗に集え、兄弟!

 ・左翼砲兵隊、空砲一斉発射

  祖国に捧げよ、力

  捧げるは皆がため


  世界に冠たる軍勢で、

  愚かなる敵勢を撃砕する!

  無敗の帝国を実現する、

  訓練された連邦万歳!

 ・中央砲兵隊、空砲一斉発射

  勝利あれ祖国

  国家は一つに

  結束せよ、同胞よ!

  旗に集え、兄弟!

 ・右翼砲兵隊、空砲一斉発射

  祖国に捧げよ、力

  捧げるは皆がために!

 ・重砲兵隊、一番、二番、三番、四番、順に空砲発射


 続いて、重砲の砲声の反響が消えるのを待って、マトラ共和国国歌演奏。

 妖精と、歌を知っている者が合唱。帝国連邦国歌はともかく、こちらを歌える人間は少ない。二つの曲の歌詞を書いた紙は一応、主賓等には配ってある。


 ・重砲兵隊、一番、二番、三番、四番、順に空砲発射

  我等が父マトラの山よ

  我等が母マトラの森よ

  我等はこの地の子、この地より湧く乳を飲む

  二つを永久に結ぶ緒は切れない

  幾万と耐えてより、銃剣持ちて塹壕から出よ

  死すともこの地に還り、我等が子孫に還る

  永遠の命、何を惜しまん突撃せよ!

 ・左翼砲兵隊、空砲一斉発射

  永遠の仇、何を怯まん突撃せよ!

 ・中央砲兵隊、空砲一斉発射

 ・時間を少し空け

 ・右翼砲兵隊、空砲一斉発射


 砲声の反響が消えるのを待たずに続いて、行進曲が接続して演奏される。

 べったりくっついている四人を引き剥がして演台の方へ行く。

 まずは陸軍攻撃行進曲の演奏が始まる。

 そして国内の各部隊から選出された儀仗隊が出る。西から場内に入って横断し、総統に敬礼してから東へ消えていくという段取り。

 最初はマトラ、ワゾレ、シャルキク、ユドルム各方面軍の順番。マトラ人民義勇軍時代の地味で視認性が低い軍服姿で、儀仗用としては地味だ。

 歩兵、山岳兵、騎兵、砲兵、工兵、後方部隊の並び。

 次にレスリャジン部族軍。以前に旧セレード騎兵の軍服に倣った詰襟の遊牧衣装風の物はそのまま。セレード王国の行進曲に繋げて変わる。

 帽子を被る男騎兵、髪を隠す大きめのスカーフと顔の上半分を覆う仮面の女騎兵、駱駝や荷車の並び。

 それから各国、管区の軍。民族衣装そのままの姿が多い。各地の民謡を行進曲に編曲したものが演奏されて面白い。

 遊牧系は着飾った騎兵を揃えて来ている。王族貴族の子弟が多い。行進訓練と同時に各国の貴人同士で交流を深めるということをしていた。

 獣人は歩兵ばかりだがフレク族はデカくて角もあって立派で、ダグシヴァル族は意外に恐い見た目の山羊を更に凶悪にした外見で、チェシュヴァン族はずんぐりして可愛い。

 玄天教徒のケリュン族は普段着ではない儀式用の、夜空を表す真っ黒な衣装でしかも黒馬で揃えて目立っていた。しかし肌まで黒い黒旅団の黒人とギーレイ族の行進によって印象が薄くなった。

 目立つと言えば水軍自慢のヤシュート軍は船を引っ張って登場し、魔神代理領海軍式の船上から行う敬礼を披露した。

 ランマルカ革命前進軍も行進に登場する。マトラ人民義勇軍が参考にしただけにこちらも地味な軍服。その時にはランマルカの行進曲が演奏される。

 そしてオルフ人民解放軍も登場。こちらはオルフ諸侯時代の儀礼服を着ているので派手である。この場合はオルフの行進曲が演奏される。

 会場が一瞬静まり返るのは、派手でも地味でもない軍服の内務省軍。ジルマリアの精勤により彼等に殺された者は一体どれ程に及ぶか、と思うところだが儀仗隊として参加しているのは一般警察と重要施設警備隊である。本当に恐ろしい治安維持警察、特別行動隊、補助警察隊は顔を見せない。

 ナレザギーの会社軍兵士も、あまり目立たないが参加している。

 見慣れぬ者は声を大きく上げてしまう、姿で圧倒する竜跨隊。他と違うのは飛んでやってきて、跨兵が降りて整列して敬礼し、また乗って飛び去る。

 最後列はレスリャジン部族が中心だが、徐々に全部族から選りすぐった者達が混ざりつつある親衛隊。

 グラスト分遣隊や情報局特別攻撃隊はこういう場に出る性格ではないので出ていない。それから当たり前だが、ナレザギーの聖戦士団のようなヤバいのは出ていない。

 数の絞られた儀仗隊だけとはいえ、パっと頭の中で思い浮かべられないほどの各軍に敬礼され、返礼して、ずっと立っているとかなり疲れてくる。

 閉会の挨拶を行う。

「帝国連邦総統ベルリク=カラバザル・グルツァラザツク・レスリャジンです。同胞マトラ妖精の故郷が奪還されたことを記念するこの式典は意義深いものであります。これは帝国連邦は同胞のためならば古く過去に遡り、軍事力を行使してでもその故郷を取り戻す意志があることを世界に知らしめるものであり、そして同胞諸君にはその行動理念を理解して頂きたいと意図したものであります。帝国連邦は発足して間も無く、その伝統や歴史を今積み重ねている最中です。ここに何を重ねるかが今後、未来の帝国連邦の性格を決定付けます。私が何を積み重ねたいか、皆さんは理解しておられるでしょうがあえて宣言をいたします」

 抑えてお上品に喋るか本音で喋るかは迷ったが、我が帝国連邦は普通の国ではない。

「世界に恐怖される最強の軍事大国として敵対する者達の死体と瓦礫を積み重ねる。遊牧民の同胞諸君、周辺の農民共に膝を屈したくないのならば最強の騎兵であり続けなければならず、定住民の豊かといわれる文化に溺れてはならない。妖精の同胞諸君、また人間に玩具のように嬲られたくないのならば大軍と工廠を揃えて如何なる敵も火力で粉砕しなければならない。獣人の同胞諸君、その優れた形質を生かして帝国連邦に貢献し続けなければただの少数民族如きであることを忘れてはいけない。我が帝国連邦内では少数の定住民諸君、君達は何でも出来るだけの地力があることを忘れてはいけない。魔神代理領共同体の一部として我々が担うべきは火力筋力そして魔力に練られた剣である。剣の本分は敵を打ち殺すこと。打ち殺せもしない剣に価値は無い。各々は常にどのようにして敵を打ち殺すか考えて修練するように。同胞諸君、我々の次の伝統を積み重ねるまでの時間は残り少ない。西には神聖教会諸国、東には龍朝天政が億万に迫る首を用意しているぞ! 時来たらば、殺せ! 魔神代理領共同体の帝国連邦は戦を厭わず!」


■■■


 式典に招待という形でスカップくんを召喚した目的を果たす。

 マトラ共和国各所にある妖精以外の誰かがいたら不自然極まりない場所の一つ、妖精達の半地下になっている寝室の一つで密談をする。

「総統閣下、ご招待に預かり光栄です。またオルフの同志達の参加を拒否しないで頂いたことに感謝を申し上げます。外に向けた行事ではないものの、まだ諦めていないことを表明出来ました。忘れ去られ、オルフの地ではアッジャールの系譜に連なる者が支配することが当たり前だと、それが伝統であると勘違いされることは避けたい。革命の狼煙、民族の炎を絶やさずにいたいのです」

「こちらとしてもアッジャール朝オルフの首に一押しで刺さる刃は捨てる気がありませんので、利害の一致です」

「そうでしょうとも。それで、何か格別のご相談がおありと存じますが」

「ロシエをユバール戦争で泥沼の消耗戦の末に勝たせたい。聖王と聖皇の勢力を西に、長期間注力せざるを得なくさせたい。マトラ低地を圧力で落としたい。流石に東に大きな脅威を抱えた状態で西に大侵攻をかけることは……やってみても良いのですが、個人趣味で走れる程に帝国連邦は小さくありませんので」

「マトラ同胞の安全を考えると私は慎重策を支持しましょう。さてランマルカとしてはロシエを支援することは微妙な問題なのです。ロシエの混乱、特にユバール戦争の敗北時に訪れるであろう嵐のような混乱は革命の転機です。革命ロシエを作り出し、人間と神聖教会の総合力を削りたいと意図します」

「やるのなら支援対象が違うということですね」

「そうです、支援するのはロシエの共和革命派。彼等に実体を伴う力を与え、ユバールの最前線で戦う王党派の背中を撃たせるのです」

「革命ロシエを神聖教会諸国は……」

「恐れます。民主的で科学的な下からの憎悪に満ちた革命がもたらす暴力はオルフ革命闘争で広く、誤って知れ渡らせました。実質はオルフ諸侯の内戦の延長線上にあったわけですが、殊更に貴族と聖職者が革命の下で弾圧された話を広めました。一部は事実ですから良く信じられます。今、神聖教会諸国では共和革命派に対する恐怖心は以前より増しております。表面化はまだしておりませんが、一つ噴出孔を開けたならば噴出するでしょうし、工作員を使って出させます。また革命を行ったとしてもロシエの困窮状態は変わらず、今ユバールに行っているように略奪戦争に移るしかありません。圧政下に置かれた市民解放など革命に熱狂する者達が好む名目を掲げれば、掲げる者を混ぜれば放っておいても人間同士で殺し合います。その時、恐ろしく強大な東方の悪魔大王と争う余裕などあるでしょうか」

「そして、革命ロシエが余りにも勝利し過ぎた時に誰かが救世主のように現れて、適当なところで戦争を仕上げることも出来る」

 スカップくんが手を一度大きく打ち鳴らす。

「最大不滅の我等が大英雄! 誇張ではない」


■■■


 場所を移して首都バシィールに戻り、各行政自治体の代表に見学をさせた。もし首都に屋敷を構えたいのならばと確保してある空き地も見せた。

 この首都バシィール、帝国連邦内では一番孤立した位置にある。周囲をイスタメル州に囲まれ、北側はアッジャールの侵攻で一躍無敵の防壁として名を馳せたマトラの森林山岳地帯。仮に帝国連邦で大反乱が起こったとしてもバシィールまで侵攻することは恐ろしく困難なのである。

 バシィールとマトラがある限り、その他全てを失ってもまた取り戻せる。一、二年あれば十分に。

 見学をさせつつ、食事をさせつつ、そして一人ずつ呼んで個別面談を行う。二個方面軍、十万増強の根回しを行う。


■■■


 一番目。バシィール直轄市。

 ここの主は自分自身である。しかし城単体ならともかく、都市に発展しつつあるこの地を代理人無しに管理運営することは不可能である。

 バシィール市長を選出する必要がある。目下この都市に必要とされるのは都市計画に頭が回る人物、市民感情がどうこう考える以前の状態であるでまずは箱物行政が出来る人物である。

 ということで都市計画責任者、チェシュヴァン族の中では著名な建築家ハシン・ラッザーを任命した。

「急な呼び出しで悪いのですが、都市計画の責任の他に行政の責任も持って下さい。今日からあなたがバシィール市長です」

「は? いえ、どういう話の流れで」

「これでハシン市長は自分の好きなように、誰からの許可を得ることもなくバシィールを思い通りに造り上げることが出来るのです。自分の仕事を自分で承認出来るんですよ。予算の方は財務省に申請して貰うのは変わりませんが」

「おお何と! しかし、私は政治に関してはまるで分からないのですが。弟子を育てるのとは全く話が違います」

「細かいところは以前までのように内務省が行います。そもそも今のバシィールには市民というものが存在しないと同義なのですることは無いんですよ。今後、ここには行政自治体の王や部族長が屋敷を建てに来ます。きっとおそらく、結構な我がままを言います。あなたにそれなりの肩書きがついていないと反論するのも厳しい。そういうことです。無茶を押し付けているのではなく、あなたの助けになります」

「確かに、分かりました、お引き受けします。しかしその市民の政治? をしなくてはならなくなった時は辞退させて頂きますよ」

「それで結構」


■■■


 二番目。スラーギィ特別行政区。

 レスリャジン部族族長である自分自身がまたもやここの主である。しかし実質の管理運営をしているのは族長代理、親戚のカイウルクである。

 スラーギィ内部は分割される。

 ダルプロ川沿いにスラーギィ氏族。北東はアベタル氏族。南東はスタルヴィイィ氏族。南西はシトプカ氏族。北西はフダウェイ氏族。

 それぞれにそのように土地が貸与されている。

 これでもカラチゲイ、ムンガル、プラヌールが他所へ移って組み換えをした後なので大分すっきりした方だ。

 またレスリャジン部族直轄の土地はスラーギィとバシィールにマトラを跨いで存在するのでそこも複雑。

「あんなにチビっ子達がベタ惚れなところ見せてから自分の懐に呼び込んでお話ししようってんだから親父様は卑怯だね! どう考えても逆らったら皆殺しって脅しじゃないか」

「皆殺しじゃない。派閥に割って半殺しだ」

「半殺しぃ?」

 カイウルクがウフフと微笑む。

「新しい土地の割り当てで喧嘩しただとかは聞いていないが、順調か」

「うん。表面化する前に氏族長達が団結して馬鹿を殺してるよ」

「おお? その殺した報告は上がってるのか」

「うん、大丈夫。問題があるとすれば東スラーギィとの境が区別し辛くて、ギーレイ族と接触しないように協議してあるから衝突は無いけど、荒地だとしても結構土地が遊んでるんだよね」

「そこは空けとけ。杭でも打てるなら話は別だがな」

「うーん、岩も使えば結構いけるかも。あっそうそう、鉄道だけどさあれ何?」

「陸を走る船だな。家畜が入らないように柵つけたり、横断用に陸橋作ったりしないとならない」

「ふーん」

「鉄道に家畜入れたらぶっ殺すって、事前に周知しておいてくれ。まだ走ってないけどよ」

「はーい」


■■■


 三番目。マトラ共和国。

 マトラ県以前よりこのマトラの地で指導者として働いてきたミザレジ大統領は老人の姿に変わってしまった。寿命は近い、しかし間に合ったのかもしれない。

「何も成せぬままに老いるのが怖かった。行く末を見届ける前に死ぬのが怖かった。それも総統閣下が払拭してくれました」

 式典の時はまだ叫べる程であったが、ここに来たときは介添え人無しには歩くのも難しくなっていた。

「妖精でも怖いのか」

「意志の弱い連中はともかく、強い我々はあなた方とそこまで変わりません。老いるのは死ぬ直前、むしろ人間より恐ろしく感じているかもしれません。歳を取ると朝起きるたびに自分の顔を触って、肌がたるんでいないか、皺が深くなっていないか。脇や股間を見て白髪が増えていないか確認します」

 ミザレジの顔を触る。あのうるさくてしつこい感じだった顔が、脂が抜けて弛んでしまっている。

「それでも最近は鏡を見ても、この年老いてしまった顔を見ても怖くなくなりました。役目を終えた気がします」

「後は若いのに任せろ」

「はい。ナルクスという後任がおります」

「ナルクスだな。分かったぞ」

「総統閣下万歳」

 ゆっくりと斜めにミザレジが諸手を上げる。


■■■


 四番目。ワゾレ共和国。

 マトラ共和国とわざわざ分けて運営される。違いはまず国内外からの立ち入りを極めて厳格に制限しており、一種の閉鎖空間である。閉鎖的でありながら、交通の要衝としても機能するよう厳重に警備を行う体制を整え、決められた道以外を歩けないようにする。住民は全て軍属であり、建造物も全て軍事施設である。滞在、移動許可地域外に何者かがいたら即座に抹殺することになっている。

 経済活動も積極的に行うマトラ共和国とは一緒に出来ないのだ。

 大統領のエルバゾはマトラ妖精の中でもタカ派である。ラシージがそう言うのなら間違いないだろう。

「総統閣下、式典でのお言葉には感銘を受けました。閣下がこれから何百万と呪われる分、我々が何百万と祝福しましょう。更に西へ、東へ参りましょう」

「そいつも呪いだ」

「ならば億万の呪いを貴方に捧げます」

 エルバゾには、元気だった頃も含めてミザレジのような茶目っ気が欠片も感じられない。ルドゥにもある情も嗅ぎ取れない。

「時に総統閣下、ランマルカからの密偵を複数こちらで預かっておりますが、大陸宣教師とやらに引渡しますか?」

「情報局には伝えたか」

「いえ。ごっこ遊びをしている連中に教えられませんよ」

 マトラの共和革命派をお遊び呼ばわりとは中々である。

「引き換えに要求したいものはあるのか?」

「いえ。無いので困っております」

「無事に返してやれ。友情の証だとな」

「そのように」

 マトラ妖精の中にも民族主義派閥が存在する。


■■■


 五番目。シャルキク共和国。

 シャルキクに求めることは明白で、それは大規模工業地帯への発展。ハマシ山脈から鉱石、石炭を掘り出し、エシュ川を伝って運び、イリサヤルの都市で加工する。

 大統領はセルハド。聖王領に遠征していた時の工作部隊の長で、ヘレンデン市を工廠に改造した経験がある。

 何だか一々聞くことも無い気がするが。

「鉱山奴隷は役に立ってるのか?」

「同胞達の方が作業効率が高く、必須ではありません。危険な鉱区への突撃作業員としてはある程度確保しておきたいところですが、それは刑務作業員で十分です。鉱山奴隷は管理も面倒なので辺境開拓の方へ回した方が良いかと思います」

「あー……内務長官と相談は?」

「いえ。内務長官と相談すると良いんですね」

「行って来い」

「は」

 何かズレてるな。


■■■


 六番目。ユドルム共和国。

 破壊して地図からも消滅させた旧レーナカンドを中心とする、帝国連邦の東西、そして北大陸東西接続点でも重要地域。ここを抑えているだけで色々と融通が利く。

 ユドルム方面軍司令と臨時大統領を兼ねるのは東方遠征時に良く働いてくれたストレム。まだ臨時大統領としているのは治めるべき民衆がいないからである。余計なことをされないよう、レーナカンド政権の虐殺からは人を住まわせていない。ワゾレ共和国と似たような閉鎖空間である。

 では何故共和国を名乗らせているかというと、いずれ人口が増え次第妖精達だけを入植させる予定なのだ。

「遠征で出撃した際の旧レーナカンドの守備状態は?」

「はい。取り外し可能な関門を複数設置しております。水源の管理は徹底しております。水道を通して素早く空、満水に出来る壕を掘っております。素早く地雷を設置出来るように配慮しております。崖を崩して道を潰す用意も出来ております。丸太の束を落とすような復旧に時間の掛からない罠も多数設置しております。最低限の守備人員で無限の敵と持久戦を行う用意は出来ております」

「うん。良し」


■■■


 七番目。東スラーギィ軍管区。

 荒地、砂漠だらけの不毛な土地で水源にも乏しく、最近では北側に南メデルロマと接触しており、中々難しい地域である。

 この地を任せるのはギーレイ族のガロダモ、ニクール。ルサレヤ先生の元獣人奴隷で、抜け毛が多そうなこと以外に何か欠点があるかも思いつかない。

「南メデルロマにはオルフ残党やら残留ランマルカ軍を置いてはいるが、連中は部外者だ。督戦するためにも年寄りのニクールが残って、イシュタムが黒旅団の長として遠征する場合には随行する形が良いと考えているんだが」

「撤兵して戦線を縮小したらどうだ」

「あそこを取られたら割と簡単に国が東西に分断される。ヒルヴァフカ州経由だと全くそんなこともないが、鉄道を引くのはスラーギィだ。縦深を確保しないと奇襲を受けたなら瞬時に切断される。長大な鉄道を守るのが難しいなら、せめて時間を稼いで戦力を集中させる余裕を持たないとならない」

 馬や駱駝の輸送が時代遅れになる鉄道はこの東西に長い帝国連邦に必須だ。東スラーギィは南メデルロマという突出部がある限り、地形的障害が無い故、脅威に常にさらされる。あの微妙な地域は絶対に必要だ。

「オルフが対外侵略に打って出るのは疲弊した現在、まだ後だ。お前の思想を受け継いだ連中が馬鹿みたいに殺した後だぞ。世代交代を待つぐらいじゃないと人が足りんし、ランマルカや内部に反乱分子を抱えているし処分しない形で内戦に決着をつけた。しばらく動けん」

「未来が今より状況が良いと?」

「マトラ低地とやらの要求を下げて、ロシエの懲罰戦争に参加したらどうだ。東に集中するべき今ならこれは当然だ」

「要求を下げられなくしたのは向うの報道屋だ。俺自身は昔は妖精達の領土だった場所もあるよね、としか手紙に書いていない。誤報を出したのは連中だと罪をなすりつけて決着させる方法がある。お互いにやる気になれば簡単だ」

「で、引き下げるのか?」

「ニクールが頑張れば引き下げる必要はないし、上手くいけばあそこも手に入って、しかも懲罰戦争をやるとしたら恩まで売れる。何より新しく手に入れたマトラ西側は強大な城壁だ。東に集中するからこそ必要な縦深、陣地だ」

「良いとこ取りを狙うのは理想だが」

「出来ることと出来ないことはある。ただこういった要求を出して相手に譲歩を迫れる。こっちがちょっかい出して悪いのにな。マトラ低地への要求を引っ込めるからあれこれと協力しろとは言える」

 犬頭の横目で目を合わせていたニクールが、目線を外して力が抜けるように頭を下げた。

「お前が”頭”だ。そうしたいのならそうしよう。正直、その多方面への外交は理解の範囲を越える。口に出すと馬鹿を言いそうだ」

 自分との話し合いとはいえ、それで弱気になるニクールを見るのはちょっと辛いな。城主時代は頼れる先輩に間違いなかった。

「ならば良し。それと頼んだ件だが」

 長官級を集めた会議でも気になった人手不足の解消を出来るところからしないといけない。運命に導かれて現れたような有能な人物に頼りきりでは後代が苦しむ。最善は無能でも機能する国家組織の構築だ。無能を排除して有能を積極誘致する組織にすれば良いのだが、そう簡単に出来るかは試したことがない。場合によっては歴史ある魔神代理領に全土を分割して州にして貰うような仕組みも考える必要がありそうだ。

 さて、そんな壮大な話に至る前に小さいことから解決する。

 ニクールに秘書局長を任せても良いような獣人奴隷を紹介してくれと頼んでおいたので、その返事を聞く。

「秘書局長に出来るような優秀な奴だったな。そういう奴が欲しいのは分かる。だがどんな熟練でも帝国連邦なんてのは運営を始めたばかりの未知の組織だ。満足な秘書の長は発足時からいるような、多くの情報に触れている者がやるべきだ。アクファルが適任だがその代わりとなると奴隷から探すより、古くからいる者から探す方が良い」

「うーん」

 年寄りは話が長いし説教を好むし、決め付けるような言い方をする。実年齢を考えなくてもニクールは間違いなく年寄りだ。しかもそれで正しいことを言うのだから文句つけるにも苦労する。

「頭で働く奴隷はお前に要らない、遠くから買う必要がない。言語の障害の克服の必要がある時点で海外の獣人奴隷は埒外だ。護衛ならもう偵察隊の連中がいるから全く買う必要はない」

「おーん」

「北の草原地帯の言語に詳しくないといけないからそっちの出身じゃないとダメだ。共通語やフラル語も必須だが、自分の国の位置を考えろ。まず遊牧諸語が母語ではないとダメだ」

「だよなぁ」

「頭だけではなく舌も脚も回らなければ秘書は務まらん。ただの学者じゃダメだ。特に前線を回るそのやり方を変える気が無いのなら兵士を兼ねる必要がある。秘書局長に総統代理のような大権を与えるなら別だがな」

「そうねぇ」

「アクファルを教育係にして未熟な状態から育てるにしても一定水準の、そして高い素養を求める必要がある。ある程度の権威が組織の長に必要だ。総統の妹程の権威はいらないが、並の者程度では発言力が足りない。秘書局の職員が各省から出向されているということは省益を代弁しに来ているも同然。発言力の高い者達が選ばれているだろう。それに負ける秘書局長では話にならん。そこにアクファルを据えたくないのなら相応の人物しかいない」

「おう」

「クトゥルナム」

「それはイヤ」

「何が不満だ? 全てを兼ね備えているぞ」

「顔が悪い」

「本人に言ったか」

「言うかよ。言ったかも、言ってない、たぶん」

「じゃあ気に入る顔にしてやるんだな」

「難しいこと言うな」


■■■


 八番目。西トシュバル軍管区。

 ユドルム山脈より西部の高原地帯で、割と豊かな渓谷も多くて農業が盛んである。ただ東征の際に略奪を行ったので荒廃している地域も多い。

 略奪をしたとなれば恨まれるのも当然だが、そこは強制移住、反乱する気も起きないくらいの内務省による監視と処刑で抑制されている。

 西トシュバルではレスリャジン部族より外れ、昇格したアッジャール系のカラチゲイ部族を中心にして統治させている。軍管区なので軍の命令が何よりも優先する形であるが、ここでは主に軍とはカラチゲイ部族の部族軍のことである。

 アッジャール朝の行った少数民族を間に挟んでのオルフ人統治の方法を制度化して粗いところを手直ししたものが軍管区制度でもある。

 先代の氏族長ジェグレイより後を継いだのはその子キジズ。かなり若く、これからまだまだ骨も大きくなるような感じ。

 彼は先代の重臣達が補佐する形で部族を統率している。そういう形だからこそ族長になれたとも言う。西トシュバルの各土着部族との婚姻やらなんやらを推進して支配領域を拡大してしまったが故に、面倒になっていることは調べで分かっている。下手に在地勢力が健在だとこうなる。

「キジズくん」

「はい」

 キジズくん、顔つきこそ違うがジャーヴァルに連れて行ったばかりのカイウルクを彷彿とさせる青臭さに溢れる。頭をグリグリと撫でてみたい。

「傀儡は嫌だろ」

「はい、親父様。嫌です」

 呼び名は頭領だ族長だ総統やら大王やら色々あるが、今遊牧民界隈では”親父”呼称で統一される向きがある。

「どうしたら良いと思う?」

「軍事力です」

「おおそうだ。殺したい一派がいるか?」

「……四つあります」

「ほお、四つもか。不利だなぁ。しかもこういう場所じゃないと喋るどころか顔に出すことも無理だったなぁ」

 勿論、今まで行った個人面談は全て盗聴が出来ない城内の一室に、城の周囲を妖精だけで固めた上で行っている。

「はい」

「君は族長なのにカラチゲイ部族の中では非常に弱い。はっきり言ってその辺の子供の方が素直に親兄弟に守られているだけマシな部類だ」

「はい」

「君は西トシュバル軍管区の長も兼ねているな」

「はい」

「なあ、西トシュバル軍とカラチゲイ族は同じものなのか?」

「いえ、違います。西トシュバル軍の下に、カラチゲイ族からやってきた者達が部隊に配属されています。指揮官もカラチゲイ族なので実質は部族の軍ですが」

「そう、そこが他の自治管区、王国の軍と違うところだ。あくまでも軍務省の下に各軍管区があるわけだ」

「つまり、軍事力が欲しかったら部族からではなく軍務省に要求すれば」

「後は自分で考えることだ。ああ、それとラシージ軍務長官は今日、庁舎じゃなくて城にいるよ」

「ありがとうございます!」

 少年キジズは走り去った。これからどうするのかは彼次第。実力が不足していれば、彼より強い族長が新しく挨拶に来るだけだ。


■■■


 九番目。ダルハイ軍管区及びムンガル自治管区。

 スラン川の水源にあるダルハイ山地が軍管区で軍務省の管理下にあり、その東隣の昇格したラグト系のムンガル部族の故地及びその周辺地域をムンガル自治管区とする。

 どちらの長も先代オロバルジから後を継いだその弟サヤンバル。息子ではなく弟が継いだあたり、かなり内部抗争があったんじゃないかと思って事前に情報を仕入れたが、満場一致で選ばれたそうだ。

「サヤンバル殿、ダルハイ軍管区を廃止してムンガル自治管区に編入してくれないかなって思ってるかな?」

「は? はい。単刀直入ですね、はい。率直に言いましてその通りです」

「西トシュバルと西イラングリが軍管区なのは分かっているね?」

「はい。では軍管区として統合されると?」

「しかしそれではムンガルが独自にとった領地を横取りされるようで気に食わない、そうだね」

「は」

 サヤンバル、結構な歳だ。初めは直球に話を始められて困惑顔だったが、今は冷静。

「軍管区は軍管区だ。意味がある。自治管区は制限はつくが君達のものだ。その制限は君達を守るものでもある。分かるね」

「はい」

「この帝国連邦、アッジャール朝やバルハギンの部族連合帝国とは違う。統合は無い」

「分かりました」

 悔しそうな顔もしないか。

「ラグト王の称号が得られるまでその名に恥じぬように」

「は!? はい! 親父様」

 分かり易く顔に出したものだ。


■■■


 十番目。西イラングリ軍管区。

 スラン川西岸の、意図的に都市農村を焼き尽くした荒廃した土地。

 そこで支配的というか単独で居るのが昇格したプラヌール部族。顔も言葉も北の草原の者とは違うジャーヴァル北方系。

 先代サティンバダイの長子、通訳としても会議に顔を出していたカランハール。

「スラン川沿いの暮らしはどうだ?」

「衝突する部族もおらず、悠々としたものです。ジャーヴァルの方から移住してくる者もいて、人も増えております。ただ、焼いた都市を復興して住みたいと言う者が後を絶ちません。補給基地に住み着こうとする者もおりまして、排除はしております」

 西イラングリの荒廃は意図したもので、敵が攻めて来た時に何も与えないために設置している。

「カランハール殿には引き続きその方針でお願いする。軍管区において住民圧力なんてものは存在しないのだから」

「分かっております。ただ、皆が分かっておらんのです」

「ではやることは分かっているわけだ」

「……失礼しました総統閣下、その通りです。徹底します」

「よろしい」


■■■


 十一番目。上ラハカ自治管区。

 自治とは言っても徴税に関しては財務省の指導が入り、独自外交は不可能で、民兵軍は制限される上に有事には軍務省指揮下に入り、内務省からの監視を跳ね除ける権限は一切無い。一応、連邦全体への発言力を保障するために連邦議会の議席は確保することになっている。

 しかし連邦議会は未だ開かれていない。というか必要も無いし、誰からも開かないのか? と聞かれたこともない……後にしよう。

 ここは旧ガズラウ王オルマードの一派が居住している。部族としてはオルマード本人がアッジャール族だが、イディル=アッジャール朝時代に彼の傘下に者達は諸族と入り混じり、今やアッジャール朝も名乗れず、民族意識も良く分からないことになっている。

 さてそのオルマード、部屋に入るなり平伏する。

「おおこれはオルマード王! 一体どうしてまた床に額突いておられるのか」

「言い訳は致しません! 調子に乗って名乗りました!」

 このオルマード、上ラハカ王なる王号を管区内で名乗っていたのだ。マジで笑える。

「しかし名乗った王号は勿体無いなぁ。いっそラハカ王にして中流、下流も統治してみるか?」

「不可能です! 統治出来ません!」

「だろうなぁ。内戦しようとしたらぶっ殺すしな」

「お許し下さい! 生きることを許されているだけでも幸運だというのに!」

 今のオルマード、王ではまずない。そして族長か? というとそれも違う。自治管区長という立場で官僚に仕事をさせる行政機構を持って、自衛程度の民兵組織は持つが国の長のような独立性は無い。一番は、自治管区長の任命権は内務長官が持っており、そこから世襲にしてあげるかどうかは評価次第である。

「助言だ。内務長官に会いに行ったら殺されるから謝罪の手紙で済ませとけ。それから返事次第で考えろ。何となく分かると思うが、あいつは半端ではなく堅物だ。賄賂と贈り物とか、下心無くても出すなよ。死ぬぞ」

「ありがとうございます総統閣下!」

 

■■■


 十二番目。中ラハカ自治管区。

 旧オド=カサル王の息子サラー。東征に連れて行った旧王だが、式典の参加前に酒の中毒で死んでしまっている。オド=カサル陥落後から精神が不安定になっていたらしい。

 さてこのサラー、問題がある。まるで貴族や王族のように未婚の身内達をラハカ川流域の諸族と婚姻させようとして内務省に警告されたのだ。

 婚姻は警告に恐怖した諸族が断ったことで消滅した。内務省としては警告を受けて話が流れたから罰しないということにはなっている。

「さてサラーくん、何だか不機嫌な顔をしているね」

「子供のように呼ばないで下さい」

 ツンツンしている少年と青年の狭間にあるサラー。どうしようか。

「おー? サラーくん、野心的だな。どういった意図があったかカラバザルの親父さんに言ってみなさい」

「統一されずに本来の力を発揮していないラハカ川流域を再興する。戦争は弱かったがアルルガンは豊かだった。国がやらないから自分でやる」

 とても野心的だ。しかしこいつ、知らないようだ。

「さてサラーくん、賢いようだから教えてあげよう。そのアルルガンがどうだった等と喋る連中が消滅するまでは上下だろうが左右だろうがあそこは分裂したままだ。何故か分かるか?」

「反抗勢力を抑える」

「そうだ。それとラハカ川流域の開発は財務長官の会社がやるから君がやる必要は一切無い。自治管区が出来ることを並べて考えると良い。もし君がどうしてもそういった豊かさを作り出したいのなら自治管区長なんか辞めて、そういった領域を超えられる会社を作るか参加するか、それとも官僚になるかだな。もし君が財務長官だったら? 内務長官、いや総統だったらどうだ? ラハカ川流域なんてものじゃないぞ。分かるか?」

 サラーくん、頭を下げた。

「分かりました」

 声は不機嫌だったが。


■■■


 十三番目。下ラハカ自治管区。

 旧イリサヤル王の妻ヒルミシュ。旧王は船に目覚めてジュルサリ海で帆走を楽しんでおり、政治とは一切縁を切ったそうだ。酒で死ぬよりは良い。

 また呪いか何か知らないがこのヒルミシュ、ケリュン族出身だそうだ。これだけ各部族に浸透しているくせに自民族だけでまとまった勢力を持たないのだから頭が良いのか悪いのか分からなくなってくる。

「総統閣下、ジュルサリ海の南岸がですね、ダグシヴァル王領になっておりますが手付かず、未開発なんですよ。これは開発計画書です」

 と計画書を見せられる。斜め読みだが、人から金の使い方、月次に年次計画と計画に変更が出てきた場合の対処、自己で補える範囲などなど文句の付けるところは無さそうな内容である。

「ダグシヴァル族と領有権について話し合いたいのですが、勿論直接私が行けば良いし今この首都に集まっているので直ぐにでも行けるのですが、一言総統閣下にお断りを入れた上で行かなければと思いました。それから現在の民兵軍の活動範囲を越えることもあります。あのエルバティア族に対抗するための新しい枠組みが必要なのでその点ではお力添えが必要なのです」

 このおばさんは何というか、力強いなぁ。

「お話は自治管区長の権限の外ですね。開発計画を語る人には同じようなことを言ってありますが、会社を作ってやるか、既存の会社に参加したり相談するか、ですね。今すぐに動かしたいのなら会社を立ち上げて内務省に、この開発計画書を提出するのが手っ取り早いですね。こういうことに関しては総統がお墨付きを与えることは出来ません。手続きに則って行うように。私を口利きに利用するということが何なのか説明が必要ですか?」

「いえ……失礼しました」

「やる気があるのは非常に結構。ですが領分は越えないように。例えば管区の金を個人事業のために私的に流用するとか。私の親族がこの前、横領した金額分だけの土砂を食わされて処刑されましたから、ねえ、それは嫌でしょう」

「はい! 気をつけます」

 開発熱があることは良いが、総統に頼まないで内務省の担当部署に聞けよと思う。

 しかし今まで絶対君主制のように王の命令で動いていた者達にこの仕組みが容易に理解出来るわけもない。自分に通したら話が一足飛びに進むと思われている。これはいけない。いけないがこの流れが変わることはしばらく無さそうだ。だからと言って一々処罰していたら帝国連邦内から指導者層が払底する。

 秘書局に対応窓口を設置して内務省と連携させるのが穏当だろう。嘆願とまではいかないが、窓口を作っておくのは悪いことではない。

 しかしこの汚職が蔓延しそうな窓口もちょっと恐い。これこそ利害から超越した獣人奴隷を配置に……局長は別として、窓口の方は官僚型の獣人奴隷で良いな。共通語が話せればここに関してはそこまで親切にしてやる必要も無い。ニクールに局長って言って相談したのが悪かった。これは改めて後で相談しよう。


■■■


 休憩である。ナシュカが作った冷たくて甘い氷菓を食べ、熱くて渋いお茶を飲む、を交互に繰り返す。

 ザラも氷菓を食べて、温めのお茶を飲む。そして古参の給仕に氷菓を一口あげて喜ばせている。

 たかが十三人、されど十三人。帝国連邦という枠組みの下とは言え国家代表格を相手にするのは疲れるし、まだ残りがいる。これでももしもっと連邦が拡大したり、ちょっと話す程度では済まない程に課題が山積しだしたらこういった個別面談は不可能になる。今よりも大きい行政区を作る必要があるだろう。

 全体をまとめる連邦政府。

 大きな区画をまとめる、仮称だが西部連邦管区、旧アッジャール連邦管区、旧ラグト連邦管区、まだ手に入れてもいないが対天政用の東部連邦管区。連邦管区という呼称も自治管区や軍管区と名前が被るから別が良いか?

 仮称連邦管区の下に今の既存の各行政自治体。仮称連邦管区の能力次第では各行政自治体を統合したり分割したりすることも考える必要がある。州や群や県で分けることも必要か。それと遊牧民の牧草地で土地割りをする場合は特例が必要かもしれない。

 まだ先の話だが、これは管理運営をしている内務省の官僚達が管理に困ってから整理することだ。

 休憩なのに考え込んでしまった。

 ザラの便所を手伝ったり、リュハンナのおむつ替えたり、猫軍団の中を転げ回ったり、馬で短距離を一走りして気分転換。

 カイウルクと妖精以外の代表連中が実際的にも腐る懸念がある程のお土産を持ってきているそうなので、適当に物色する。

 飲食物、服飾、宝石、特産品、動物、などなどだ。奴隷がいないのは一応古い体制から一段階脱却した証なのかもしれないし、居たけども管理者が突っ返しただけかもしれない。

 食べ物と飲み物は都市開発中の連中に分けてやるか。酒に関しては正直、内臓が足りないくらいセリン経由に貰い過ぎて余っている。

 しかしこんな物じゃなくて都市に設置する実用家具とか、そういう気の利いた物を持ってくる奴はいないのかよ。金銀の杯ではない、今欲しいのは鉄の釜だ。


■■■


 十四番目。東トシュバル自治管区。

 西トシュバルには絶対的に支配的なカラチゲイ部族がいるのだが、ここにはそういった部族がいない。またこちらも渓谷などが多くて農業に適しており、寒い地域の割には豊か。中途半端に豊かなせいで山と谷を越えれば方言から言語まで違う部族が孤立して存在しているという面もある。

 ここの自治管区長は――また――ケリュン部族長の息子のバルダン。大内海連合州内にあるケリュン部族の本拠地からやって来た。トゥルシャズの弟でクトゥルナムの叔父。

 立ち回りの上手さに定評があるとは聞いていたが、気付くと結構、組織に食い込んでいる。頭が良いのは本当に間違いなさそうだ。

「バルダン殿、ケリュン族の方は優秀な者が多いようですね。官僚登用試験に合格した者も多い」

「は。お褒め頂きありがとうございます、総統閣下」

「しかし記録によるとアッジャール朝でもラグト朝でもあなた方は、立ち回りが上手いせいかある程度進出したところで警戒され、あまり出世というか、難しかったようですね」

「はい、その通りです。しかしそれは処世術でございます。広く各指導者に仕え、土地は離れても玄天の下で繋がって存続を図るのです。我々はある種一つのまま、それなりの立場に居続けております。我々より遥か上、絶頂に達したと思われたアルルガン族もアッジャール族もラグト族も、何れも地に落ちてしまいました。我々は上下はしつつも大きな失敗はしておりません」

「そこにレスリャジン族も加わりそうですか?」

「いえ。時代は徐々にどこの部族の天下、などという単純な仕組みから脱しております。レスリャジンは絶頂は一度と味わいつつも、少し下に落ちて大怪我もせずも地にも至らず、かと」

 これはしぶといな。微妙に信頼出来ない胡散臭さも演技の内か。

「役割を正確に認識していることは分かりました。それなりに要求して、それなりに応えましょう」

「分かりました。東トシュバルに進出させて頂いた分は必ずやお返しし、そして応分に帝国連邦にお仕えします」

 ケリュン族が一番に帝国連邦を理解しているかもしれない。


■■■


 十五番目。ヤゴール王国。

 アッジャール朝オルフと東西に平野部で長く国境を接する国だ。非常に戦略上で重要だ。

 オルフ王国との争いに備えて他の国より多く民兵軍を所有している。国王直率の部隊は正規軍と装備、練度に遜色は無い。

 ヤゴール族の王シュミラ。オド=カサルの陥落を見て、そして譲渡されて自分を王と仰いで臣従した。臣従ということは軍事的には死を賭して協力するが、自治についてはある程度好きにさせてもらうということでもある。帝国連邦の方針とは食い違うところがある。

「ヤゴール王、今まで不安に思っていたことを解消しましょう。こちらを全面的に信頼するか、己の力に頼るかということです」

「……軍権も自治権も大幅か、徹底的にか譲渡しろという話ですね」

「ヤゴール方面軍を編制します。ユドルム山脈以西より兵士を集めて五万規模を目安とします。その分そちらの正規軍か民兵軍か曖昧だった部隊が正規軍となります。王の近衛軍はそのままで良いでしょう。自治権に関して軍を除いて干渉しませんよ」

「そういうことでしたら、反論は一切ございません」

「ええ。ヤゴールを中心に配置されますし、まだ編制はされておりません。それと今日は城内にラシージ軍務長官がおりますので、ご相談があれば伺ってみては?」

「なるほど、ううーむ、これは……これは」

 陽気な人間ではないヤゴール王シュミラ。癖なのかもしれないが簡単に思いつめた顔になるのが少々恐い。

「ご子息に軍人はおられますか」

「勿論! おりますとも。息子のラガは東征にも従軍しております」

 跳ねるように立ち上がり、晴れやかな顔になった。

「ヤゴール方面軍は正規軍としてヤゴールの物ではありません。しかし指揮官がヤゴールの王子だったならば? ヤゴールの王子がヤゴール方面軍を率いて勝利記録を打ち立てたならば、どうでしょうね」

「ええ! そうですとも。流石は総統閣下」

「司令官の座を得るには能力と努力と実績も必要なことはお忘れなく。それらが足りなくても今後の活躍で上り詰めることは十分可能であることもお忘れなく」

「はい、総統閣下」

 ヤゴールの王子達の中でもラガ王子は演習でも将校として優秀だと聞くし、身分もあって指揮に遠慮が無く程良く高慢との前評判だ。


■■■


 十六番目。フレク王国。

 オド川上流にいたフレク族は、鹿頭の素朴な生活を送る獣人部族であった。

 しかし今では体力を生かして砲兵として働き、小さな部族から大きな王国へと変貌しつつある。

「一騎討ちでブチ殺してきましたぞ!」

 ドカっと机に置かれたのは相当にデカい、ハマシ山脈北方のフレク族の近縁部族の長の髑髏杯。これで酒を飲んだら酔い潰れる前に胃が裂ける。

 生え変わるとはいえ戦いで角を二本とも圧し折られた様子のフレク王リョルト。

「鉄砲なんぞ弓が使えない雑魚の玩具と思っていましたが、施条式になると格段に違いますな!

旋回砲や携帯砲も我々に丁度良い。このフレクの王国、王国の広さにしてきましたぞ! まあ人口は微増程度ですが、その内に増えるでしょう」

 力は強いが温厚な部族という前評判だったが、火器に目覚めて変わったようだ。非常によろしい。

「北側はどうでしたか?」

「山脈沿い、北東に向かって縦長の土地が広がっておりました。海沿いに進むとずっと右手の方向にハマシが連なって見えます。途中で湾と山脈の組み合わせがあって道が切れたので今回の冒険ではそれ以上進めないと判断して、風除けを作って旗を立てて来ました。また行けるように宿営地は目印に残して来ております。馴鹿もかなり放牧出来そうですよ。海獣や白い熊もおりまして、狩猟放牧で暮らすのなら結構行けますね。それと南側で鉱石が出るなら北側でも出るのでしょう」

「我々の世代では分かりませんが、次世代以降となればその恩恵に預かれるかもしれませんね」

「そうそう、それと北海冒険に出て難破した人間の船をいくつか見つけましたの目ぼしい物は拾って、骨は掘り返せるように埋葬して来ましたよ」

「おお? お宝ですか」

「小遣い程度ですな。それよりも身元を証明する物や書類がありますので、一つ手紙と一緒に送ってやろうと思いまして」

 フレク王が大きな、この度の遠征で潰れて指が変形したままの手を見せる。

「書記を貸して欲しいのです。共通語は何とか読めますが上手に書けません。同族は大体読み書きも出来ませんし、出来ても我々の記録記号が書ける程度なので」

「手配しましょう」

 フレク族の文字というのは保管記録を取ったり、家畜に屋号の焼印を入れたり、看板で道案内をしたりする程度で文章を書けるものではない。


■■■


 十七番目。チェシュヴァン王国。

 チェシュヴァン族は”地リスの金玉野郎”などと不名誉なあだ名をつけられ、イブラカン砂漠という厳しい環境が重なっても比較的大きな勢力を維持してきた。ケリュン族とはまた別の生存戦略を持っている。

 彼等の特技は地下設備を伴った土木建設技術。これには灌漑も含まれ、大規模なオアシス農業も含まれる。

 その土木建設技術を生かして貰っているのが軍への工兵として配備と、東スラーギィのイブラカン砂漠水準の開発、そして帝国連邦横断する予定の鉄道建設である。

 鉄道建設はまだ土台固めの段階だ。鋼鉄で作る軌道のような物に関してはランマルカの指導が入ってイリサヤルで集中的に生産中。

 機関車については部品一つ一つを設計図から作っている国産一号機が試作中。運行実験もしていないのでまだ先が長い。ランマルカから輸入した物は海路運搬中である。

 チェシュヴァン王マリムメラク。服装は小奇麗だが王であるという特別な格好はしておらず、また獣人の中でもチェシュヴァン族は正直、大きいか小さい程度の見分けしかつかない。

「チェシュヴァン王、その内あなた方はマトラ妖精に次いで帝国連邦に欠かせない存在になるでしょう」

「それは勿体無いお言葉です、総統閣下。しかし我々は非力ですよ」

「単体だと弱いように見えるだけですし、不得意なところを自覚して良く生き残っています」

「褒められるのは慣れていないのでどうもこそばゆいですね」

「鉄道の建設、あれで世界が縮みます。水の次は鉄を流す時代ですよ」

「鉄ですか……鉄ですね」


■■■


 十八番目。ヤシュート王国。

 ガズラウの譲渡によって臣従した。余り大きくはないがバシカリ海での洋上貿易によって船の扱いに長けた者が多い。

 ヤシュート族は人口が少ない。ガズラウを手に入れたことによって人口は増えたが、それは他の部族の割合が増えて支配的なヤシュート族が割りを食うという事態となっている。

 ヤシュート王アズリアル=ベラムトは懇願するような口調であった。

「総統閣下、この度軍を増強するとお聞きしました。今、我がヤシュート族は他の部族と比べて王国内でも徐々に少数派と化しております。どうかお心添え頂けないでしょうか」

 ヤシュート族は花嫁に対して要求する持参金の量が多いことで有名。嫁が来ない。それから次男、三男以降は結婚しないで家長の召使いのように働くのも通例で、分家は余り行わない。

 お前らの慣習改めたらどうだ? というのは酷。長男、家の跡継ぎを鉄壁に守ることによってヤシュート族というのは他の部族に埋没せずに生き残ってきたのだ。

「ヤシュート族を特別待遇にした場合、目立つ。臆病者と言われたらそちらが困るからそのようにしません。何が悪くてヤシュート族が少ないままなのかもこちらが言わなくても分かっていますね」

「はい」

「スラン川はイラングリ王国が瀕死に陥った時から手付かずです。下ラハカ自治管区でジュルサリ海の南岸の開発を考えていると聞きます。私が紹介したと言って良いですから各長に相談してみて下さい。ヤシュート王国内だけで家や土地の切り分けを行うより良いはずです」

「沿岸部に押し込められて以来、一つ塊にならなければいけないと思い込んでいました。帝国連邦となった今なら行けるとこはいくらでもありますね!」

 悩みが解決したようだ。後は自力でどうにかするしかないし、そうするだろう。

「今日あなたと話せて良かった! 総統閣下万歳!」


■■■


 十九番目。ダグシヴァル王国。

 ウラフカ山脈の閉鎖的な山羊頭のダグシヴァル族。こちらからの王号を受けて臣従したことは謎とも言えた。本来は塩を欲しがっていた程度なのに。

 ダグシヴァル王”変な”デルム。名前の種類が少ないと、誰の息子、とか、名前を複数連ねて個性的にする、という手法が取られる。ダグシヴァル族の場合はあだ名が正式な本名になる。

 ”変な”デルムは確かに変だ。異様に長い髭を二本の三つ編みにして頭へ巻いて頭髪のようにして背中に流す。右目が青、左目が緑。耳や角だけではなく唇に鼻に舌! に宝飾の輪を通している。指が両手共に自然な形で六本。腕が変に長い。蛇で作った尻尾を尻からぶら下げる。そして煙管を頬に開けた穴から奥歯で噛んで吸っている。良くもここまでやった。

「総統程じゃないが、あの椎の実弾丸の小銃で結構ウラフカの支配領域を広げてます。今までいうこと聞かなかった連中も傘下に入れてる」

 口で喋って、頬から煙草を吸って鼻から煙を吐いている”変な”デルム。山羊の変な横長の瞳孔で、しかも時折くるっと回って縦長にしたりする左右違う色で見られると変な気になってくる。

「兵士は前より出せる。というか反抗しないように外に出さなきゃこっちが困る」

「それは良いことを聞いた。拡充するので出して貰います。軍務省に報告して下さい」

「へへへ、良いですよ。正直言うとね、女子供でも銃で優秀な敵の戦士を簡単に殺せるようになったから兵が余ってるんですわ。銃が足りないぐらい」

「ムンガル、フレク、ダグシヴァルと外交問題へ発展させずに領域を広げて貰っているのはありがたい話です。銃は贔屓が目につかない程度に都合しましょう。何か名目を考えておきます」

「それは有難い。魔神代理領の方、あー帝国連邦もそうだけど、分かるでしょ、あっちまで進みませんよ。そうなると東のエルバティアの連中ですが、これもダメなんでしょう?」

「可能なら無傷で帝国連邦へ、それか魔神代理領への加盟、そういう方向で行きたいですね」

「うーん……そういう選択肢もあるって奴等に言っておいてやります」

「頼みます。成人の儀式ですが、罪人の提供という形で定期的に調達可能、傭兵公社の運営で平時でも外国へ傭兵として戦争に行ける、とかも教えておいてください。加盟しなくても兵士だけ出して貰える可能性がありますので」

「ははは、ベルリク親父を敵にしなくて良かったです」

 山羊頭の面を見ても嘘か真かは分かりかねるが、強い説得力は力に宿ることを改めて確信する。


■■■


 二十番目。ウルンダル王国。

 位置する地域として東トシュバルに分類され、まとまりの薄い部族集団を中心的なウルンダル市の名を冠した王権でまとめている。独立的ではなく、イディル=アッジャール朝や帝国連邦のような大きな勢力の下で王を名乗る型の王である。旧体制的な区分だと”子たる”王である。

 そんなウルンダル王ブンシクはアッジャール族であり、政治に疲れている様子。年寄りであることは間違い無いが、自分なりに頼りにはしている。

「総統閣下のお身内から王国の後継者を出されますようお願いします。人の離散集合、粛清や登用の繰り返しでもはや私の家系に求心力はありません。総統がそうされたように」

「ご子息はやる気が無いのですか?」

「もう少し愚かであれば」

 権力への欲が無い王子とはこりゃ参った。息子のダーリクが大人で政治に関心を見せていたらやってみるか? と聞けるんだが。

 他に誰か? サリシュフだと可哀想にも程があるな。父上? 親に王冠を配る息子もちょっと、変だな。

「まだ堪えろ、とご子息にもそのように伝えて下さい。その座席は使いようがあります。玉座と引き換えに敵を誘惑が出来る。どうしても王号が嫌なら、そうですね、暫定的に私が王座について、王を宰相にしておく。その息子が愚かではないというのならそのまま、とりあえず今の世代は世襲宰相にしてもいいです」

「ああ、それならばやり易いです。威光をお借りしたい。責任放棄をしなくても済みます」

「その方針でいきましょう。あ、戴冠式は面倒というか今そっちに行く暇が無いですから書類上でやっておいて下さい」

 そしてウルンダル王、椅子から離れて地に伏した。

「つきましては、お手をつけなくても結構ですので娘を貰っていただけると更に滑らかにことが進むのですが」

「外戚の威光も欲しいので?」

「ははっ! 卑しくも左様にございます」

 ここで正室だ側室だと増やすきっかけを作ったら次から次へとどうぞどうぞとなる。

 政治的に正しいかどうかはともかく面倒臭い。愛のあるセリン、放っておいても問題ないジルマリアみたいな女か分からんし、確かめるのも時間が掛かる。それに、

「昔、言ったことをもう一度言えと?」

 股の血じゃなくて傷からの血を寄越せ、だったけ? 忘れたな。たぶん違うけど大体こんな意味。

「滅相もありません!」

「では、手続きはするので連絡を国で待っていて下さい。次に婚姻の話だとか何だとかいきなり話し始めたらお前以外を吊るす」

「失礼しました。ご容赦を」

「許します。立って下さい」


■■■


 気付いたらもう大分日が沈んでいる。疲れたせいで変なことを喋りそうな気もしている。

 二十一番目。チャグル王国。

 西イラングリの西隣、帝国連邦東方における最大勢力であるチャグル族の国。

 チャグル族は南部ノルガ=オアシスのノルガ分派、中部のファルジ分派、北部のサソン分派に分かれるというちょっと面倒な構成になっており、また各分派の下にも服属部族が多数。これらの管理は主にチャグル王が行っており、内務省もあまり手が出せていない。

 このチャグル王国が一番帝国連邦の中で独立的である。彼等の服属部族の中には帝国連邦という存在を理解しているかも怪しい連中がいる。

 元々チャグルの三分派は一つの王を頂くことはしなかったが、今はザロネジ公となったゲチク公がノルガ=チャグル王を殺して以来転機が訪れ、ファルガ王とサソン王が決闘で統一王を決めた。そしてそのサソン王ニリシュが統一王となる。

 このニリシュ、決闘で勝っただけに若々しくて逞しい。顔も美しい。そして自分に臣従して以来従順で疑うところもなく、内務省の評価では非常に協力的で陰謀の気配も無いという。

「瑕の無い玉のようだ」

「は、は?」

 瑕が無く美しい。完璧で裏切る様子も無いし、チャグル王にその意志が無いことも分かる。三分派を統制するにはこちらの力が必要だとも理解している。

 だが体に傷跡も無い戦士を見て、優れた歴戦の者かと疑ってしまうのは心情だろう。

 何故落ち度がない? 可愛い幼い娘子のようだ。

 チャグル王の顔に人差し指で軽く爪を立てながら線を描く。もし顔に古傷があったらこんな感じかという具合に。

「総統閣下、何でしょうか!? 私には分かりません!」

 チャグル王が椅子を倒して転げ落ちた。

 あ、しまった。疲れたせいで変なことをしてしまった。

「ヤゴール王がな、ヤゴール方面軍五万の編制の協力に非常に意欲的な態度を見せてくれた。イラングリ方面軍五万の編制にチャグル王が協力してくれたらとても嬉しいのですが」

 チャグル王の手を取って引き起こす。王は手が震えている。

「正規軍だと活躍してもあまり王国の名誉という感じではありませんが、そこの方面軍司令にそちらの王族の王子のような者が就任した話は別、というのは理解出来ますか?」

「大体、いえ、いえ! 分かります、分かりますとも」

 自分の席に座り直す。いつの間に自分は椅子から立ったのか記憶が無い。あれ? 立って待ってたっけ?

「実力主義なので司令に確約は出来ませんが、王国の軍からでも優秀でチャグルを代表するような方を出して頂けるとこちらも助かります。まだ編制前なので軍務長官と相談して頂きたい」

「分かりました。善処致します」


■■■


 長い個別面談が終わり、ナシュカの飯を食い、前から欲しかった個人用の大浴場に入った。

 そして寝室で足に集結する猫軍団を足の裏で撫でつつ、アクファルに酒を注いで貰いながら個別面談後の各代表の反応を情報局員から聞いた。

 特に酷かったのはチャグル王で震えて寝込んでしまったらしい。対照的にウルンダル王は上機嫌だったとか。

 ベルリク親父はもう”おねむ”で全部は聞けそうにないので明日にその報告をして貰うことにした。深夜帯にもまた何か情報も上がってくるだろうし。

 連邦議会……どうしようかな。開会要請が議員の過半数を占めたらとかでいいんじゃないか? ここの伝統、やり方も作っておかないと後代が迷惑する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る