第160話「一つ何か」 ゲチク
「閲兵用意完了しました」
「うむ」
自分ゲチク直下の師団を編制する許可を与えられた。
アッジャール、オルフ、エデルト式の武器を混在した形で渡され、貰った兵隊も同じように混在したようなものであって、ある程度曰く付き。懲罰部隊が多い。
小悪党は大悪党が仕切るってことか。品行方正なお坊ちゃんよりは自分向きではある。悪人は悪人なりに、自分より凄い悪人を尊敬してしまうものだ。
ノグルベイとタザイールを供に、彼等が側近で、自分が頭であると見せつけつつ横列を不細工に組んだ、これから自分が親父になって子供になる兵隊共を閲兵する。
アッジャール式騎兵が五十騎。騎乗で弓が使える連中でこういう手馴れた兵隊が多く欲しいものだが、この数で限界。将軍周辺を固める親衛隊として使う。
「おい」
騎乗でフラフラしている酔っ払いを引き摺り下ろすと大笑いが起こる。躾の程度はこんなものだ。
軽騎兵が五十騎。軽騎兵という名称は大分誇張したようなもので、強い弓も射れない遊牧系の少年である。直接戦闘に参加させるのは厳しいところだ。伝令、斥候、小間使いが良いところ。
「してこい」
糞か小便を我慢してもぞもぞしている少年へ、顎で遠くの方をしゃくる。
間に合わせ極まる乗馬歩兵が二百騎。騎兵銃や拳銃に刀に槍と武器はバラバラで、服装も胸甲に兜姿から裸に近い者までバラバラで、駄馬に混じってラバ、ロバが混じって、人も人種もバラバラという喜劇もの。とりあえず馬に乗れるという連中を適当にまとめてみたらしいが思ったより酷い。解隊して各部に分散してしまった方が良いだろうか?
一騎、鞍無しでロバの胴体を股で挟んでいる奴がいた。手に持った武器は石器の斧でボロボロのズボン一丁で、顔は髪と髭で見えないぐらい。あととんでも無く臭い。
「体を洗ってこい」
ニヤっと笑っただけで何やら言葉が通じていない様子。異様に輝く銀色の目が不気味さを増させている。物狂いじゃないだろうな。
槍騎兵が三百騎。主にタラン族からなる少数民族系で構成されており、人も装備も良好。シトゲネ太后の贈物的な意味合いが含まれており、この有象無象共を扱い切るためには必須の鞭である。三人居れば派閥が出来ると言われる面倒臭い人間の群れを統制するにはこういう頼れる一団がいる。
彼等は正に精強という面持ちで隙が無い。言うことが無いのでつまらない。
「ヤー! ゥラッ!」
『ゥラッ!』
槍騎兵隊長が喚声を上げて旗付きの槍を掲げるのに合わせ、隊員が槍の石突で地面をドッと突く。音が完全に揃っていた。
「素晴らしい」
オルフ式歩兵連隊が完全充足で千二百名。小銃と三日月斧は数が揃い、伝統の赤い軍帽軍服も揃いで着用。ただ擦り切れたり色落ちして格好悪いのばかりである。懲罰隊だから悪い装備なのだ。
小銃も見た目が悪いので一人から一丁借りて見てみると銃は大分酷使された物が回されている。一発撃ったら斧で突撃するしかなさそうだ
「諸君、軍服の色落ちだが、血染めでも、独自に染料が入手出来たらそれで、方法は問わないから白い色だけは残さず染めるように。敵に舐められるぞ」
オルフ式擲弾兵が、二百名の中隊二つで四百名。戦闘で壊滅した部隊から引き抜いて来られた正規兵だ。赤い軍服もちゃんとしているが、擲弾兵の象徴たる司教帽が不足していて三角帽や上に膨らませた頭巾が混じっている。擲弾兵ではない、部隊を失った歩兵が混じっている。
救世神教の祭帽は、色意匠は違うが形は同じだ。物だけでも間に合うよう教会に掛け合ってみよう。
「諸君、帽子が不揃いだな。正式な帽子を発注して揃えるのは難しいだろう。教会の方へ掛け合って形は同じ坊主の祭帽を集めてみる。待っていろ」
擲弾兵達が嬉しそうな顔をして『ウラー!』と銃床で地面を叩く。
エデルト義勇兵が八百名。装備はエデルト式でちゃんと揃っているが、軍服の着用が赦されていない。民間人の被るような仕様統一がされていない三角帽、それからエデルトの青を示す腕章をつけている。義勇兵というよりは懲罰隊に近いのだろうか? 外国人に使われて死ぬなんてどんな懲罰だ? 本当にただの義勇兵?
エデルト式の銃剣がオルフ式に比べて刃は遥かに長くて厚く、血抜きの溝は深い。こいつは剣だ。小銃の銃身は銃剣格闘をしても曲がり難いように銃身を短く肉厚にしてある。
士官は斧を片手に拳銃二丁に長い短剣も二本、下士官は斧槍に拳銃一丁、長い短剣を一本持っている。
そしてこいつら、軍服の名誉も剥がされたクセに目付きがギラギラしてやがる。潰れた片目、銃弾で耳が吹っ飛ばされた跡、激しい白兵戦を経験した証拠の首にある大きな古傷を持った者が混じって凶悪面で揃っていやがる。エデルトは人間の国なのか?
「隊長は?」
「俺だ」
長い巻き毛の金の髪と髭、左の顔が焼け爛れて同じ左目が白濁して潰れ、無い左腕の袖を脇腹に縫いつけ、異様に太い右手には馬も斬れそうな――不気味な女戦士が彫金された――両手剣が一本。人間かこいつ?
「どういう曰く付きだ?」
「死に来た! 聖なる秩序に見放された人狼はヴァルキリカ女神に縋る!」
エデルト兵共が『ギャギャギャ!』と汚く爆笑。
「タザイール」
「はい。神聖教会で言う人狼というのは社会秩序に適応出来ずに追放された者達のことで、古エデルトでは気の狂ったような、死を厭わぬ勇敢な戦士。極光修羅ヴァルキリカ女神はその戦士達の守護神ですね。神聖教会が北部に到達する以前の古い戦士のための信仰です」
「あー……」
人の股から出てきた人外か。
「死ぬまで戦わせてやるぞ人狼共」
エデルト義勇兵の隊長が舌と隙間だらけの歯を見せて気違いな笑い顔を見せてから「アルォロォオン!」と遠吠え、義勇兵達も『オォーン!』と続いてこの場に集まる馬が怖がって騒ぎ出す。
人外のエデルト義勇兵付属の歩兵砲隊が二百もいる。ちゃんと技術が入る部隊が混じっている。ちゃんと技術があると信じたいが、武器だけ立派に見せているわけではないよな? 大砲担いで突撃しないよな?
先の兵士達と同じくやる気のある顔なので何か言ってやることもあるまい。一緒に遠吠えしてたし。
旧第八五連隊一千名。互いに信頼関係がある程度出来上がっている主力だ。人数を充足するため、別口で降伏して捕虜に下った旧人民共和国兵を入れた。他の兵隊より遥かに自分の命令を聞く、自分の兵隊だ。
「ウラーゲチク!」
『ウラー!』
一緒に寝返った旧第八五連隊の連隊長が喚声で安心させてくれる。
選抜した軽歩兵中隊が百名。少数配られた施条銃を、射撃が得意な兵士に持たせた。散兵働きをさせるのだから、更に信頼出来る者に限定。
全て師団内からの志願者。そしてその志願者から射撃の腕を見て選抜した連中。必然、猟師出身が多い。獲物を狩ってやるという意気が見える。
砲兵大隊四百には大砲は十五門程度しかない。口径もバラバラで、アッジャール式の攻城重砲が二門混じるぐらい。デカブツは無理せず、途中で放棄しなくてはならなくなったら遠慮無く放棄する。球形砲弾が合わなくても、金属屑や石を詰めて散弾には使えるのであまり邪険にしなくてもいいか。
砲弾の供給の偏りが懸念される。散弾用と考えるか。中には散弾をしこたま撃ったせいか砲身内がズタズタな物もある。突撃砲兵とかに名前を変えることも検討。
師団専属の補給隊が五百。使いどころに困る乗馬歩兵はこっちの護衛、手伝いに回すか。
軍単位で大規模管理する補給組織があるので、不満を漏らす程ではない。ロバや牛で荷車を引くので能力はある。今や家畜で荷車を引く部隊は大層貴重らしい。長距離浸透時にこれらを食糧ともするそうだ。
それが出来ると期待されてこそのゲチク名称”独立”集成師団五千名。編制をした指揮官の名を冠する隊名をつけるのが今のアッジャール朝オルフ王国の習慣らしい。因みに指揮官が戦死した場合、該当指揮官が優秀で名誉的だった場合は名前を残して継承するそうだ。引退して名前を残すような感じになれば良いが、どうかな?
更に各隊には従軍司祭を充てる。宗教が違ったとしても効果があることは実証済み。
「これより歩行訓練を行う。行軍縦隊整列」
まずこいつらが一つにまとまって歩くところから始めないといけない。
各隊士官が兵士達を整列させる。時間がかかる。
「前進」
左右の歩調まで合わせなくて良いが、てんで速度を合わせずにそれぞれが好き勝手進みだす。前後で衝突をするぐらい。それぞれで訓練方式が違ってきたのだからそうなってしまう。
左折、右折は屈折部で大渋滞を起こして再整列をしなくてはいけない。号令に合わせての停止は、衝突からの踏み潰しで死傷者が出ると判断したので成り行き任せに停止させた。
これで隊形の変化、隊列分けは絶望に見える。全部散兵に出来るような士気があればこの訓練はほぼ省けるか? 無茶だな。
隊毎に行進距離を離して対応しよう。出発時の儀礼的な縦列行進ぐらいはさせないといけないが、その時は離した間隔に騎兵を入れて柔軟にしよう。
そのように工夫し、何とか前へ歩けるようにした。
「無残な行進ですな」
オダル宰相の息子マフダール大将軍が我々の様子を見に来ていた。
マフダールはアッジャール軍の各将軍のお目付け役で教育係のような存在。我々の軍は、指揮系統としてはこのマフダール大将軍の直下である。変な横槍が入らない分、圧し折れるぐらいの一番槍をやらされると思われる。
昔と変わったものだが、今のアッジャール朝における”独立”何とか師団や旅団などは、今のアッジャール軍が定めるところの長期間単独任務を遂行できる能力が期待されている部隊だ。
理想と現実は違うこともあるだろう。現実を理想に近づけることは常に厳しい。理想とは常にいと高きところにあって、手が届かないから理想なのである。名の意味を知って直ぐに苦労をする腹を決めた。
「突っ込んで団子になれば変わりませんよ。最効率的な行進を仕込む時間も無い。早速どこかに長距離浸透でもさせるおつもりでしょう。陽動か、後方攻撃かは存じ上げませんが」
「指揮官の覚悟があるのならば安心です。しかしこれはちょっと、近寄るまでが行進です。逃げ出せない隊形を維持できなければ兵は逃げますよ。そしてのんびり歩いたら死にます」
「そこは私がいます」
「凡将とは説得力が違いますな」
各隊を横隊に整え、左右に騎兵隊を配置、突撃の駆け足をさせた。最低でもこれが大体揃えられれば何とかなる。
『ウラー! ウォー!』
『ヤー! ゥラッ!』
『ヴァッキッカァ!』
好き好きに喚声を上げて走る。出来るだけ隊列を維持して走るように指導してあるが、各隊それぞれ出して欲しくない個性を発揮してくれる。
アッジャール式騎兵と軽騎兵、早いが乱れ気味。
乗馬歩兵、遅くて乱れている。
槍騎兵、他と速さを適宜合わせながら隊列を綺麗に保つ。
オルフ式懲罰兵、速度は充分、隊列もそれなり。
擲弾兵、速度充分、隊列は良好。
エデルト義勇兵、馬みたいに速くて隊列など無い。歩兵砲は軽い造りとはえ、砲兵達が綱で一斉に引っ張って駆け足みたいに早い。
旧第八五連隊、足はちょっと遅い、隊列は保とうと努力しているが崩れ気味。
軽歩兵中隊、足は早く、隊列はそこそこ。
砲兵大隊。大砲に弾薬運搬車を引っ張っているので鈍く、隊列の維持も容易。
補給隊にもやらせた。概ね砲兵大隊と同じ。
従軍司祭達だが、オルフでは荒野で修行するのが良しとされているせいか並の兵士より体力があって、声援を掛ける余裕もある。
一部で衝突して転んで、
「てめぇ間抜けのびっこ野郎!」
「何だぁ腐れ淫売ガキ!」
殴り合いの喧嘩。
仲裁用に待機させていた騎兵隊で鎮圧する。
ノグルベイが真っ先に「あえぇい!」突っ込んで「おどらぁ!」片っ端から殴り「んだっしゃらぁ!」投げ倒し「ぐがぁあ!」獣の勢いで暴れて喧嘩どころではなくなる。今度はノグルベイを抑えるのに騎兵隊が投げ縄を使って捕縛しなくてはならなくなった。
「……時間のある限りは訓練をします」
「そのように」
師団の面子は揃ったが、内部でどのような編制にするか、部隊を解隊して組み直す方針で考えよう。こいつらはマフダール大将軍がこれで師団を作れと寄越してきた材料のようなもので、まだ未調理だ。
■■■
師団駐屯地をタザイールと散歩する。
新しい兵共に挨拶だ。一人一人やってはいられないからこういう形を取る。
顔も知らない奴に尊敬も嫌悪も何も無い。
声も知らない奴の命令を聞きたいか?
「シトゲネ太后はオルフ内の少数民族筆頭のタラン族で神聖教徒であることは隠されてもいない事実だ。支配者層はアッジャール系で蒼天教徒、現地人はオルフ人で救世教徒。領内の均衡を取るには調整が常に必要だろう」
「太后陛下、それも若い生娘との婚姻という餌は、派閥調整に迫られているからとはいえ、黄金が底に見えている上の見え透いた罠です」
「シトゲネ太后との婚姻は成果を挙げてからだ。流石に手ぶらで結婚できる相手ではないし、容易にぶら下げて良い餌とは思えない」
「捨て駒に拍車を掛けているだけです」
「駒を温存するような余裕がアッジャール朝に残っているとは思えない。それこそシトゲネ太后を出さざるを得ないくらいにな」
旧第八五連隊長ウランザミルが人民共和国出身の兵士達を集めて「……宗教は禁止されておらず、むしろ推奨され、否定することを禁じられていると解釈……」本を片手に講釈。
「アッジャール閥、オルフ閥、そしてそれ以外の少数民族連合閥の調整は必須ですが……言っては悪いですが、将軍如きに大事な太后を出すことが引っ掛かります」
「流石にこれ以上寝返るのはキツい。レスリャジンの大王でも侵略してくれば……いや、あちらは死ぬより酷いかもしれん。エデルトはまず無理だな。もう蒼天の果てまで来てしまったんだ」
槍騎兵隊長ミンゲスが料理係に説教しながら鍋料理を作っている。耳を済ませると「俺の愛馬に食わせる超級特別鍋に文句あんのか」とか言っている。漂ってきた臭いは人の食い物ではなかった。
「退路が無いならば、どう生存します?」
「アッジャールとオルフは、機会さえあれば殺し合うかもしれないような関係。その両派閥の間を調整するのが少数民族連合だ。俺達は何だ? 俺にノグルベイはユドルム出身のキュサ族、タザイールお前は小賢し……ケリュン族の中でも更に玄天教徒。部下共はオルフやら何やらだが救世教徒でないのが多く、犯罪者やクソッタレ共でオルフ人と言い切るにも少し捻りがいるような連中だ。しがらみが無い。そして何より、マフダール大将軍直下ということは宰相オダルの手駒、中央直属軍。アッジャールには憎悪の向かない第三族による粛清は内戦で良く使える。力量をちゃんと見せればシトゲネ太后を嫁に出すというのもそこまでおかしな話ではない。太后の息子も同然なゼオルギ=イスハシル王も一つの勢力と数えられる。少数民族連合閥は王の派閥だ」
「話ではそう繋がりますけども」
エデルト義勇兵連隊長キャレルが両手剣を地面に突き立て、女神の彫金に正対して素手で潰して解体した兎の肉片を擦りつけては「捧げます!」と怒鳴って、水洗いして鍋に入れる。
「我々は非公認の親衛隊だ。ゼオルギ=イスハシルの四頭の馬と狗の内、狗の一頭にでも数えられるようにするのが今のところの出世方法だ。媚びぬ犬をお前は可愛がるか?」
「……失礼しました。私の視野が狭過ぎたようです」
「いい。お前は人を見ておけ。俺は全体を見る」
「はい」
救世神教以外の聖職者――祈祷師を含め、同じようなもの――本職ではなくてもその教育がある連中を従軍司祭にしている。
まずそれぞれの教えで戦場における儀式をまとめさせ、全員を揃えてから互いの領分よりも兵の激励に最適なやり方を模索させる。正しき信仰より、立ち向かう勇気を与えるようなものを編み出すように指導してある。
彼等の天幕群へ行くと、焚き火を円に囲んでお湯を飲みながら宗教談義をしている。内容は、まあいい。
「今あいつら」
他所の、兵隊共の天幕群を見やる。汚い、不細工で帰るところも無さそうなのに凶悪面で憐れみも誘わない虱の親戚共がアホ面で飯を食っている。
「に必要なのは正しい教えではなく、一歩踏み出せる激励だ。もうここに集まった段階でお前らはあいつらの保護者だ、親父で兄貴だ。あいつらは容易な撤退が許されない特攻部隊に今いる。中途半端に逃げれば敵からも味方からも袋叩きで生きる場所も無くなる。死よりも生きる地獄の苦しみは、こんな時代だ、分かるだろう。だから責任を持って背中を押してやれ」
焚き火の円に入って、タザイールがさり気なく置いた高めの箱に座る。やや見下ろす丁度の高さ。
「一つ約束しよう。俺は先頭、逃げる時は最後。意味は分かるな?」
こう突然に言って本当に分かるかは怪しいところだが、とりあえず分かった気にならないといけないと思わせたらそれで充分だ。しばらくすれば言葉にならなくても理解する。
「お前らの神は信じないが、お前らのことは信じる。分かるか?」
これで分からんと言う奴は男じゃない。
「お前らが救え。薄汚れた臭いあいつらに手を差し伸べられるのは俺じゃない、お前らだ。他のどこかの街の偉い坊主じゃない。一緒にこの糞混じりの泥に足を突っ込んでいるお前らだ。聖なる義務が何か、宗教は別でも分かるはずだ」
聖職者達が皆頷く。事実なのだから、正論に逆らえぬ人徳者は頷くしかない。
格好つけるように立ち去る。
道の途中、小さい泥溜りを踏んだと思ったら猛烈に臭い立つ。
そこら中に糞垂れるとは犬みたいな連中だな。あの石斧野郎が物陰からこっちを見て、目が合うとニヤっと笑いやがる。あいつか?
「将軍?」
「ほーらタザイール!」
糞の付いた靴の裏をタザイールに向ける、避ける。
「うっわくっせ!」
■■■
訓練と部隊再編を行い、遂にマフダール将軍から出陣の日取りを聞かされた。秋口での穀物収獲量予測が出てからのことである。戦争計画の根幹を支えるのは食糧備蓄量。自分達の畑ではなく、敵の畑に食わせて貰う量を計算に入れてからの出陣だ。
出陣前に先立って、洗礼したいと申し出た者達へ洗礼や祝福、それに準じる儀式を従軍司祭達にさせる。
水に溺れさせるように漬け、苦しみを持って先人の苦難を覚えさる。
聖典を持って神の教えを説く。
香を焚いた天幕の中で意識が飛ぶまで祝詞を唱える。
祖先の霊を呼び出して――麻薬を使い――会話をさせる。
女神像に家畜、埋葬前の死体の血と内臓をぶちまけて捧げる。
それぞれが、それぞれが望むような救いの手を差し伸べて、その悲惨な人生にせめて一つ何か。
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