第159話「馬鹿笑い」 ベルリク
「可愛く思えるようになるぐらい数を減らしてあげよーねー。多いからきっとうるさいんだよね」
「んなん」
朝飯と朝うんこを済ませてから妖精達の群れに五回飛び込んでグルグル回ってから、寝室に戻って我が娘ザラ=ソルトミシュの変な肉団子みたいな面を見に来た。そうしたら寂しい女みたいに猫相手にジルマリアが喋っていた。それはどうでもいい。
娘を揺り籠から抱き上げる。
飯とうんこの最中に考えていたことがある。戦争で未亡人と孤児が大量発生していることだ。これからも発生する。
「なあお母さん」
「……私のことですか?」
お前しかいないだろうが。
「未亡人と孤児対策に再婚、重婚をさせるんだが奨励金を作れ。自然の成り行き任せにしてたら時間がかかる。式費用と移住費くらいは出さんと繋がる縁も繋がらん」
「はい」
ジルマリア母さんは、集って来る猫を順番に手で転がして腹を上に向けさせている。腹を下に向けたらまた引っ繰り返す、を繰り返している。数が多くて相手にして貰えなかったデブ猫がこっちの足元で背中を擦りつけながらゴロンと転がる。
「財産相続がこじれる可能性があるから兄弟、親戚間で済ませるように名簿を見て調整しろ。それと強制まではしなくていいが、意志がハッキリしないようなら命令気味に、圧力を少しかけて背中を押せ」
「出来ます」
兄弟、親子間での再婚なら家族の情込みなのでそこまで困難ではないが、そうではない場合の出戻り年増の女が結婚するのは難しく、女一人で生きるのももっと難しい。
「戦争で身寄りが無くなった年寄り、自活出来ない子供や戦病者は養護院を作って囲め」
「年寄りもですか」
「戦死者の家族にはそれくらいしてやる。それで後先考えないで突っ込める。別に何かあれば使う」
「なるほど」
「孤児だが、名簿で出来るだけ近い血統に養子縁組。知らない親戚ぐらいいてもおかしくない。教えてやれ」
「可能です」
ジルマリアはこちらも、娘も見もしないで猫を弄っている。
「でだ、お前に良いものをやろう」
「何ですか」
「孤児から才覚ある奴を選別してお前を母にした親衛隊を作れ。俺の親衛隊と別だ。絶対に裏切らない手駒を持て。俺の干渉も出来ないような連中だ。こうでもしないと余所のお前に首ったけの兵隊は作れないからな」
本日始めてジルマリアがこちらに目を合わせた。こういう時だけ嬉しそうな、女っぽい表情になりやがる。
「アタナクト聖法教会出なんだから、そういう知識はあるだろ? 想像で言ったわけだけど」
抱っこしている娘に、猫の鼻先引き寄せるみたいに指を突き出したら掴まれてしゃぶられる。
「こちらに聖なる教えを浸透させて良いなら」
「宗教付きか」
「教育方法がそうなので」
あるんだ。あると思ってたけど。
「孤立し過ぎるぞ。そこそこに信者ならともかく、洗脳するぐらいに敬虔だとこっちじゃ困るだろ。まず話が通じないとか、あるだろう」
「哲学的に思考を拘束するので、そうですね。しかし教えを排除すれば似たものは出来ても劣化した紛い物の可能性が大きいのです。人と世より高いところに精神を置いて普通ではなくします。千年単位の蓄積で成った手法ですから、その秘儀の壁からレンガを一つ抜けばどこか致命的に崩れる可能性があります」
「試行錯誤してくれ。こっちでの常識が抜けてたらお前が困るだろ。ただの処刑部隊で満足か?」
「いいえ……はい。まずはやります」
「それでいい。ん、お?」
むわっと、湿ったような暖かいような重さすら感じる何かが手と胸、鼻に。
「お前糞垂れやがったな! よしよし、このうんこちゃんめ、お父さんがケツ洗ってやるぞ」
■■■
バシィール城の演習場で新武器の試し撃ちを行う。
まずは量産型後装式施条銃。取っ手を回して銃身の尾栓を捻って開け、弾薬を装填、取っ手を逆回しにして尾栓を閉じる。撃鉄を起こして火皿に点火薬を入れ、構え、狙って引金を引いて撃つ。的にちゃんと当たる。
以前に職人手製で一品物の試作型後装式施条銃を使っていたが、今度の量産型の使用感としては部品強度が増したおかげか無駄に肉厚にする必要が無くなって物が軽い。薬室強度の向上で装薬も多めに出来るし、気密性も上がって従来の装薬程度でも射程距離が違う。
「前より良い。前装式に比べたらやっぱり距離が落ちるが」
弾薬の装填と射撃を三度繰り返す。前装式銃に比べて、手馴れれば相手が一発撃つ内に三発以上はいける。少々尾栓の開け閉めの手応えが固いが、気密性が上がって火薬爆発力を良く閉じ込めるための固さだ。手が疲れるとまで言う程度ではない。
「試作型遊底式施条銃の開発もあって将来的に不良在庫になりますが」
「明日の飯より今食える飯だ」
「はい」
ラシージと小銃を撃ちながらお話をしている。互いに別の仕事をしているとその呼吸を聞く暇すらない。適当に名目を作らないと話も難しい。
他に妖精の兵士達が、それぞれ持ち回りの各銃器を使って型番毎に整理して射撃、着弾観測、部品の故障頻度等を記録している。
「シゲがそっちの士官教育に顔出してたっていうが、どうだ?」
シゲは体力が落ちたことを認めて、妖精達から座学のお勉強を療養中に始めたらしい。今は少し離れたところで、地面に直接胡坐を掻いて小銃射撃中。体力が必要な弓より鉄砲を使うことにしたようだ
「教科書の暗記のようなことはある程度出来ています。応用出来る才能は、座学では見出せません。首狩隊の発想と実現は良かったので頭一つで充分な少数精鋭部隊の指揮官としての才能は間違いなくあります。現状では今まで通りの役目が適切としか言いようがありませんが、体力の低下は覆せません」
シゲが撃っているのは試作量産型後装雷管式施条銃。なんだか名前がやたら長いが、点火方式が火打石式の量産型後装式施条銃とで違って雷管式というだけ。点火薬ではなく、金属製のボタンみたいな雷管を装着し、撃鉄が落ちるとその雷管を叩き、雷管内の薬品が衝撃で爆発して発射薬に点火して銃弾を発射する機構。火縄、火打石式と違って湿気が強くても不発に非常になり難いのが特長で素晴らしい。
アクファルはシゲの後ろから、その肩で銃身を安定させた上で試作前装雷管式施条銃を撃っている。仲は良いんだが、正直もう男女のあれこれは無理に見える。
「雷管方式も転換に時間が掛かるか?」
「雷管とそれに対応した機関部ですが、時間が掛かります。とくに雷管用の化学薬品の量産と輸入生産体制が、設備を含めて確立されておりませんので実用化はまだまだです。また現行で使用する火器の製造と、量産確立後の転換とその費用の兼ね合いもありますので今年、来年に配備とはいきません」
「だよな」
試作型遊底式施条銃を手に取ろうとして、ルドゥに奪われ、そこから他の偵察隊員に手渡される。
遊底式は、弾頭に火薬に雷管が紙薬莢で一体になっている実包を使う。かなりの連射速度が期待されるが、まだまだ部品の一つ一つが職人による一品物であるのが現状。
「部品強度が怪しい物を使うな。吹っ飛ぶぞ」
ルドゥに怒られた。
そうして偵察隊員が、性能が怪しい銃に使う発射台に試作型後装薬莢式施条銃を固定して、引金に紐をつけて遠隔射撃を行う。火薬の爆発に伴って高温に揺れて見える空気、そして白煙が機関部から以上に大きく漏れ出ているのが見て分かる。
「これ、完成したら凄いけど量産出来るのは何年後になる?」
「他火器の体制に鑑みて、十年内が妥当かと」
「イリサヤル取ってもダメ?」
「むしろあちらの開発に資源を使っているので一時放棄した方が早まります」
「それだと他がダメだろ」
「そうなります」
「少数生産は?」
「これは大量射撃のための武器であり、銃と弾薬の数がまとまって揃って初めて性能を発揮します。現段階では玩具の域を出ません。補給、修理体制が整って初めて兵器と呼びます。そのためには部品点数の多い銃本体と銃弾を高精度で大量生産する設備が同じく大量に必要で、その設備の開発自体が完了しておりません。またイリサヤルのような大規模工廠の整備が着手段階です」
「そりゃどうにもならん」
偵察隊員が小銃の機関部、遊底に横向きに付いた取っ手を上に起こし、引いて開いた薬室に薬莢式の実包を装填。次に遊底を押し込んで取っ手を横にして薬室を閉じる。そうして撃つと、発射は普通にされたが金属音が混じった。
「何の音だ?」
「撃針が折れましたね。雷管を叩く針状の部品です」
「玩具だな」
新しい玩具を触りたいので次は、新式ドングリ型銃弾とそれに最適化された前装式施条銃。
装填速度と威力射程の向上が見込めて、今までの長射程型のアッジャール式騎兵施条銃より二倍の射程が見込めるという、球形銃弾を過去の物にした逸品、だと思う。
発射薬とドングリ型銃弾を銃口に入れて、槊杖で突いて押し込めるのだが手応えが軽い。従来の、施条に噛むよう半ば無理矢理大きめの銃弾を変形させたり薄い革で包んで隙間を埋めるように突っ込ませる筋力を必要としない。女兵士の中では槊杖を金槌で叩くのが流行っていたらしい。近距離では革も規定の銃弾も使わず、口径がわずかに小さい銃弾を装填していたとも聞く。
撃鉄を起こして、雷管を装着して構えて、一番遠くの的を、大砲じゃないと届かないような的を狙って撃つ。
「大将、命中。距離は千歩越えだ。追い風でもない」
ルドゥが着弾を観測してくれた。
「これは凄いな」
「現状では偵察隊等の一部に、長距離狙撃用として少数を配布する予定に留まります」
「今までの施条銃にこの銃弾はダメか?」
「施条の削り方が違います。口径が合えば撃てない事はありませんが、無理をする程の精度に至りません」
「量産は?」
「現状、手作りです。設備の開発はまだです」
「あのドングリ型の榴弾があって今更この形状か? と思ったんだが」
「お恥ずかしながら、部分的に輸入するランマルカの技術を模倣し、欠けたところを埋めるのが現状では精一杯です。発想が実物になるまで時間が掛かります。我々の火器、いずれもです。開発能力ではまるで勝てません。現物に現地適合させるような改造がやっとです」
「いや、すまん」
ランマルカに対する、あるか分からぬ劣等感を煽ったかもしれない。反省。
気を取り直して射撃遊びに戻る。
前装式銃は比較的気楽に発射出来る。後装式はちょっと使ったけど、やはり機関部の信頼性が低い。暴発がちょっと恐い感じだ。
ドングリ型銃弾の良さにウキウキして撃ちまくっていると、アクファルがそれを寄越せと近寄ってきたので渡す。
玩具がこれで無くなったわけではない。試作ではなく、ランマルカからの贈答品である回転式拳銃という物を試す。念のため偵察隊が暗殺用の何かしらではないかと調査した後なので初使用ではない。
撃鉄を起こすと同時に輪胴方の弾倉が回転して順番に次の銃弾を発射できるようになるのが特長。装填数は六発で雷管式。弾薬の装填は銃口からではなく弾倉に直接行う。
片手で持って、近い的を狙って撃つ。段々と遠い的へ移行していくと欠点が分かる。命中率が悪く、距離が離れると顕著。前装式の信頼性を今一度認識した。
「こいつは槍じゃなくて短剣だな」
我が拳銃の四丁目に加えよう。
■■■
久し振りに帰って以来バシィール城周辺からは出ないで遊んだり働いたりしている。
試作小銃を撃ちまくったり、娘の垂れた糞の始末をしたり、ジルマリアに母乳飲ませて貰ったりは遊びの範囲。
魔都での承認後の帝国連邦発足宣言に向けた準備、そして本業の準備とそれを妨害するような連邦の構成自治体内に燻る反乱分子の粛清、住民登録から逃れて郊外に隠れ住む不法侵入者の取り込みと排除にダルハイ軍管区の継続東征紛争の支援である。大体が自分がいなくても頭から末端まで順調に動いている事柄である。
しかし暇ではないのだ。
アクファルが娘の相手をしているので見に行く。相手といっても、大人しくしている猫の間を縫って這い回り、その額を赤ちゃん殴打でポンポンしている娘の隣で絵を描いているだけであるが。
「何描いてるんだ?」
「アレ」
アレこと、甲冑姿のシゲが草に串刺しにされた時の絵だ。下絵は横に、本描きには色はつけていないが細部まで描き込んでいる。上手い。
「得意か?」
「役に立つと思って練習してました」
「いつからだ? 一年程度で描けるものじゃないと思うが」
「シクルが居た時から、情報部の妖精と暇を見つけて」
「随分前だな」
いちいちアクファルの動向は探っていないのでおかしくはないけど。
「伝令が来た。シルヴが来るぞ、門で迎える」
娘を抱き上げる。
「お姉様ですね、はい」
それから追い縋る猫を足で払ってからバシィール城の城門で、三角帽子の妖精の門衛の顔を娘にベチベチ触らせながら待っていると、従卒らしき兵士を従えたシルヴが騎乗して到着。エデルト高級将官の軍服姿が目新しい。
「俺の娘だ!」
娘を下馬したシルヴに突き出すと、見たこともないくらい柔らかく笑って娘を抱き上げた
「あらあら、ベルリク=カラバザルも人間だったのね。良かったね、化物じゃないみたいよあなた」
娘の手にシルヴは小指を握らせ、そしてしゃぶられる。
「ベルくんって呼んでね」
「ベル坊」
「あー! 惜しい」
「この子は何ちゃんって呼べばいいの?」
「ザラ=ソルトミシュ」
「ザラはカラドスの娘ね。ソルトミシュは?」
「アクファルの親父の、母親の名前だ。アクファルがつけたぞ」
娘を受け取って、シルヴと従卒を手で促して城内へ。寝室は猫まみれで落ち着かないし、会議室はラシージ等が連日使っているし、執務室はほぼジルマリアが独占。ナシュカの野菜香草畑になっている中庭の茶会席に移動する。
席につけば、アクファルがシルヴへ椅子を寄せてぴったりくっつく。
「お姉様」
「どうしたの?」
どうもしなかったようで黙ったまま。
「まずは昇進おめでとう、エデルト=セレード連合王国近衛総軍第二軍司令官のシルヴ・ベラスコイ元帥」
「あらどうも。そちらは何に昇進したの?」
帝国連邦元首の呼称は結構迷ったものだ。
頭領。既にその枠内になく不適当。
大頭領。最近では海賊ギーリスが独立軍事集団として俗に大頭領呼称であった。大内海連合州の大総督呼称と同じで正式ではない。
大統領ないし統領。共和国ならばこの通りだが、昨今は共和革命派の意味合いが強い。加えて領土を統べる行政の長という意味合いが強く、軍事指導者という意味合いが薄い。また帝国連邦という国号に対して格下の感がある。
大元帥。この称号は軍人としての名誉称号で、元首としては不適当。採用するなら元首号及び大元帥とするのが良い。それに国家名誉大元帥号は既に得ている。
皇帝。わざわざ帝国に連邦とつけた意味合いが薄れる。また世襲制を放棄しているのだからあまり良くない。妥協するのならこの呼称であるが、ジャーヴァル、ハザーサイールと並ぶには名声が足りないと言う他ない。伝統力と言ってもよい。子供が大老を名乗るような不自然さが否めない。魔神代理領共同体外であるならば皇帝でも良い。
大王。蛮族の趣きがあり、大王号は複数部族の上位に君臨する巨大な部族王に対して用いられてきた。国号に対し相応しくなく、目指すところに相応しくない。
大帝、帝王。皇帝と同様。また粋がっている風であり良くない。大帝はかつて他皇帝と差別化するために天政の君主に用いられたことがあるので、魔神代理領に比肩するような大勢力限定といえる。
最高指導者。具体的かつクドい。最高指導者である元首号及び大元帥という修飾に使うべきであろう。
「総統だ」
軍事行政双方に対し、尚且つ司法からも横槍の入れようがない強力かつ独裁的な権限を持つのならこれである。総てを統べるという称号は、大元帥号を省略してもその意が含まれると見ても良い。
「あら総統閣下万歳ね」
「総統閣下万ざーい!」
通りかかった妖精の衛兵が諸手を上げて喚声を上げた。従卒は何事か? と振り向いたりしている。
「セレード軍司令官じゃなかったか」
「信用ならない有能は傍に置くってことでしょう。第一軍司令官を兼ねるヴィルキレク近衛大元帥の命令系統下にあるからそこまで独立してないのよ。あとセレード軍は国防総軍旗下になったわ、一応司令官は元帥号だけどね」
「元帥号濫発って言われたろ」
「言われた。攻撃的な近衛総軍と防御的な国防総軍に再編して、近衛大元帥と国防大元帥に、その下部の軍毎に元帥司令官殿配置だもの。濫発せざるを得ないでしょ」
「そんなに軍拡したか?」
「予備役登録数と武器在庫は激増」
「それで大元帥ってのは俺に対抗して作ったのか? ドラグレク王が大元帥で、総軍司令が元帥ならまだ分かるけどよ」
「セレード人に示しが付かなくなるでしょ」
「国家名誉大元帥だぜ、俺」
「そんな恥ずかしい称号は無理。あなたの勝ち、凄いわね総統閣下」
給仕の古参が「総統閣下万ざーい!」と二人分のお茶と饅頭の乗ったお盆を諸手で上げてから持ってきたのでお茶に口をつける。まずは口を湿らせるものだ。
「何だこの饅頭?」
遊牧民伝統の蒸し饅頭の系統であるが、妙にふっくら半球系でちょっと違和感がある。部族の女達は良く作るが、妖精の手製で出されたのは初めての気がする。
「マトラまんです! おいしーよ!」
何となくその饅頭を口に入れようとしたシルヴの手が止って、お盆に戻される。
「おいシルヴ、出されたもん突っ返してんじゃねぇよ。食えよ」
わけの分からん物はまず化物が毒見するべきだろう。
「給仕さん、饅頭の中身は何ですか?」
流石に色々と事態を想定し始めたシルヴが給仕の古参に尋ねる。
「はい! マトラやワゾレで取れた新鮮な食材を使用しています!」
「具体的には?」
「はい! マトラやワゾレで取れた新鮮な食材をふんだんに使用しています!」
とってもいっぱいだよ! と給仕の古参が腕を大きく一度振る。
「えー、じゃあどんな味ですか?」
「はい! 噛み締める度に人民の汗血が染み渡ります!」
「甘い? しょっぱい?」
「はい! 噛み締める度に人民の汗血が臓腑に染み渡ります!」
握った両手を口に当てて腹までなぞり、物が喉を通って胃腸に至る課程を給仕の古参が再現。
「いつも皆食べているんですか?」
「はい! 労農兵士の革命的爆進力を発生させる活力源です!」
「いつ頃このマトラまんの作り方を定めましたか?」
「はい! 労農兵士の革命的爆進力を発生させる活力源が必要とされた日です!」
給仕の古参が太陽を指差す。
シルヴが黙り、アクファルを見た。アクファルはマトラまんを手に取り、半分に割った。中身は刻まれ、蒸されて火が通った肉や野菜類と別段変わった様子はない。
「あーん」
その半分はシルヴの鼻先に突きつけられた。そして皮だけ一口食いやがった。
「はいベルくんもどうぞ」
もう半分をシルヴが持って、口に押し込んできた。早くて対応出来なかった。全部口に入った。味は普通に美味かったし、肉は汁気があって塩味は良好であった。ナシュカが作ったのだろうから味に間違いはまずない。
シルヴの従卒が何かしましょうか? という感じで目線を動かし、シルヴが首を小さく横に振った。
「……ヤヌシュフどうだ?」
シルヴが本国軍に帰参したことで、アソリウス島嶼伯位は義理の息子であるヤヌシュフに譲られたのだ。
「官僚組織は整ったし、後は好きにするでしょ。あの子は馬鹿は馬鹿だけど、余計な事はしない馬鹿だからそんなに心配する必要無いのよ」
「名君の素質ありだな」
「かもね。それで仕事の話だけど、オルフ反乱軍を南と東から攻撃して頂戴。それから住民の殺戮は厳禁、虐待も目玉抉りも禁止。略奪も最低限、攻略時の破壊はしょうがないけど、占領後の都市や要塞の焼き討ち禁止ね」
「手足縛って歩けってことになるな」
略奪出来ず、虐殺も出来ずに占領費用の増大や後方でのかく乱攻撃の脅威増大となると後方連絡線の鈍重化は免れない。得意の迅速な進撃が封じられたも同然だ。
「攻撃よりも陽動、勿論無視の出来ない恐ろしい陽動をお願いってこと。他人に自分の庭を荒らされてたくないってアッジャールの母熊のお達しよ」
「略奪を縛る分は報酬で貰わないとこっちとしては傭兵として動けないな。依頼を受けずに火事場泥棒したって構わないんだぞ」
アクファルが給仕の古参の鼻先にマトラまんをチラつかせて左右上下に動かすと、それを見る給仕の古参の目と鼻先が一緒に動く。
「エデルトからも、聖女猊下の懐からも、あと勝利した後はアッジャール朝からも手持ちと評価に応じて報酬が出るようにしてる。手持ちってところが重要で強調したいらしいわよ」
「捕虜やら住民に食わせる飯代は? 出ないならマジで糞食わせるとか、ありうるぞ」
「とりあえず領収書はとっておくこと。必要経費の請求は後で確認する。報酬に含めてってことだと思うけど」
「ハッキリしないな」
「議会から予算もぎ取ってる最中なのよ」
「そりゃしょうがないな」
アクファルが人差し指を口元に立て、内緒だよ? という感じに給仕の古参に食わせる。この世にこれ以上美味い物は無いとばかりにニッコニコに食べた。
「でしょ」
「ロシエ情勢は? 新聞は読んでるがそっちの情報部が手直しした程度のが聞きたいけど、喋れる範囲で教えてくれ」
「ユバール王国議会がユバール人の新王擁立を決定。でも擁立することを決定しただけで、断頭台に一番近いその玉座に座りたがる奇特な貴族がいないみたいね。それからエルズライント辺境伯が静かに破産。東部軍が解散状態になってアレオン軍や植民地兵が一部盗賊化しているって話。勿論、鎮圧部隊は給料未払いで動きは鈍い。それからランマルカに近い沿岸部はほぼ共和革命派に乗っ取られたって急報で一時期騒がれたけど、正しくはランマルカが後援する共和革命派が王の権限を極限まで象徴的にした立憲君主制の導入に合わせて、彼等が作った大地主を八つ裂きにする農地改革法案を議会で通すのならば分裂状態の解消をすると表明してる」
「どうにもならないってわけだ」
「そうそう」
エデルトがオルフ問題の処理を終えて後背を安定させたい理由が良く分かる。共和革命派がいるロシエは不気味だ。オルフでもこれだけ長引いたのに、ロシエ人民共和国が勃興したならどれだけ酷いことになるか想像も出来ない。
それにエデルトの歳の近い王女とイスハシルの息子、ゼオルギ=イスハシルと婚姻して直接戦闘には参加していないが同盟を組んでいる状態。この奇跡が続いている状態が終わらない内に問題を解決したい。体力の弱い子供はいつ死ぬか分からないのだ。そこが怖い。暗殺から逃れる体力、判断力もやはり弱い。
「なあ、前に聞いた時は王子を産んだと聞いた気がするんだが」
残った半分の、シルヴ齧りかけのマトラまんを持ってアクファルがうろうろする。城内でも周辺警戒を怠らぬルドゥに食べさせようとして、首を振って拒否されるとその懐に無理矢理突っ込んで戻ってきた。
「ん、何? どっち?」
「エデルトの絶倫夫婦」
「ああ。あなたがリシェル王子殺してからもう四人産んでるわよ。二人夭逝したけどね」
「あの夫婦歳幾つだっけ? ヴァルキリカ猊下がもう四十に近いはずだから、六十手前? 凄ぇや」
「その血を引く王女様、一体どれだけオルフの王子王女を産むのかしらね」
「合邦する予定とか聞いてるか? エデルト=セレード=オルフの三重連合王国。出来そうで出来なさそうか」
「オルフ人と残留アッジャール人はとことん死に果てた。畑は荒れて、耕作の知識も無い子供が生き残った。どのような結末であれ、今後何十年も人的資源と経済能力で劣るかの地は否が応でもエデルトの属国になる。意地があってもそうなるぐらいに弱った。そういう話が新聞の論説に載ってたけど」
「根性を圧し折る作業がまだ残ってるんだな」
アクファルがこちらにマトラまんの皮の一部を差し出して来た。思うに形状から見てもシルヴの齧った跡だ。摘まもうとしたらシルヴがさっと奪い取って食べて茶で飲み流した。
「そうねぇ……そうそう、今エデルトでアッジャール朝と協力してランマルカから奪った兵器を研究してるんだけど、そっちの直輸入のはどうなのよ」
「うん、良い感じだ。アクファル、手配してくれ」
「はい」
アクファルはシルヴにぐぅーと体重をかけてから立ち去る。
「エデルトがそんな武器を持ってたとは初耳だな。何年も戦争してるし、おかしくないが」」
「聖王の領域攻めには間に合わなかったし、秘密にしておきたかったんでしょ。演習をやったし、アッジャール朝に出向いてる義勇兵の報告でも火力が飛躍的に増大しているって感想よ」
「ありゃ直ぐに真似できるもんじゃないんだけどなぁ」
「アッジャール朝の連中で実戦に耐える試験をして、ランマルカを真似ても技術力が及ばないところを妥協するように実戦向けに改良をしてるのよ」
「へぇ」
早くもアクファルが戻って来た。ラシージも抱っこして連れて、偵察隊が新型、試作の小銃を持ってきた。
「どちらで?」
「裏庭でいい。的を用意しろ」
運動場になっている城の裏庭に、藁人形の的を用意させてシルヴにウチの新しい小銃を試し撃ちさせる。この回転式拳銃も撃たせた。
まずは銃の速射性能を堪能してもらい、射程距離の長さは城壁に上がって飛ぶ鳥を見つけて的にした。それから魔術を使っての弾速強化を交えての射撃でこっちが驚いて一通り終了。
シルヴの銃への質問にはラシージが答えた。
「へへーん、どうだ?」
「あなたの可愛い子ちゃん達、凄いじゃない。この精度で真似出来てないわよ。でも一個、斉射砲ってのがあるけどね」
「ん? 何だそれ。ラシージ」
「束にした大口径銃身から一斉発射する中途半端な火器です。あれを作るぐらいなら大砲の数を増やします」
「だとよ」
「割りと役に立ってるって聞いたけど」
「代わりに軽砲を持ち込んで何か戦果に代わりがあるとお考えでしょうか。散弾、榴散弾で代用できます」
「そうですね……防盾つけて突撃するのに良いと聞きます。後装式だから隠れながら装填出来ますし」
「軽砲なら銃撃距離外から撃てます。斉射砲は砲弾の発射を代われません」
「近距離戦を余儀なくされる地形だったら良いのでは?」
「大砲を一つ運用する余力を使って、高価な大砲もどきを別種の兵器を一つ多く運用して生産、整備する手間を加える程の物ですか?」
「ラシージ殿、あなた斉射砲に親でも殺されました?」
シルヴの冗談は珍しいような。
「私の母はイスタメル人に連れ去られて以後行方不明、父はオルフ人の強盗に頭を斧で潰されました」
「降参」
腕に抱いた娘だが、バンバン銃を撃ちまくっているのにスヤスヤ寝てやがる。自分に似たな。
帝国連邦憲法草稿
第一編
一章 帝国連邦
一条
帝国連邦は魔神代理領共同体の一員である。共同体同胞とは公益を共にする。
二条
魔神代理は共同体統合の象徴であり、みだりに非難してはならない。
三条
魔神代理領共同体との諸関係については総統が責任を負う。
四条
共同体の一員である上で連邦の独立及び構成自治体の自由、諸種族諸民族の生存自活を保障する。
第二編
二章 連邦の権利義務
五条
連邦内全資源を公共のためにのみ使用する権利を有する。
六条
連邦は公共と個人の需要の充足させる義務を負う。
七条
連邦は国家国民のために降伏またはそれに準じる行為を行わない義務を負う。
三章 国民の権利義務
八条
出自、種族、人種、部族、言語、宗教何れかによっても差別されない。
二項 妖精種族には例外規定を法律で設ける。
九条
奴隷には就労、移転以外の自由と身体を害されない権利を持つ。
二項 奴隷からの解放に必要な金額と、所有者が奴隷に支払う最低賃金を法律に定める。
十条
法律に定めるところの資格を満たせば誰でも公職に就く事ができる。
十一条
法律に定めるところの要件を満たせば誰でも連邦内を自由に移転し、また就労できる。
十二条
法律に定めるところの違法行為を働かない限りは罰せられることはない。
十三条
裁判官による裁判を受ける権利は保障される。
十四条
私有財産を不当に奪われることはない。
二項 有事発生時の例外規定を法律に定める。
十五条
兵役を義務とする。
二項 兵役免除の例外規定を法律に定める。
十六条
納税を義務とする。
二項 納税免除の例外規定を法律に定める。
十七条
侵略行為に対する徹底抗戦の義務。本項に関しては一切の例外を認めず、侵略者に対して屈してはならない。
四章 構成自治体の権利義務
十八条
各構成自治体は大小に関わらず内乱、利敵行為が認められない限りはその体制を保障される。
十九条
各構成自治体は軍務省軍政局の認める範囲で独自に軍事組織を所有する権利を持つ。
二項 有事にはその対象となる軍事組織は帝国連邦軍指揮下に編入される。
二十条
各構成自治体は独自に予算を編成することが出来、尚且つ徴税権を有する。
二項 徴集出来る税の種類、額に関しては内務省財務局が指定する。
二十一条
各構成自治体は公共の利益を優先する義務を負う。
第三編
五章 連邦議会
二十二条
連邦首相は連邦議員資格のある者の中から総統が任命する。
二十三条
議会は各構成自治体により定めるところに応じて選出された議員で組織する。
二十四条
軍務省および内務省から派遣され、その意見を代弁する官僚が一名ずつ連邦議会に議席を持つ。
二十五条
法律は連邦議会の賛成がないと決めることは出来ない。
二十六条
連邦議会は提案された法律案に賛成するか話し合える。
二項 否決された法律は、否決の一年後まで再提案出来ない
三項 総統の命令があれば制限無く再提案可能。再度否決されれば一年後まで再提案出来ない。
二十七条
議員は法律やその他案件について意見や希望を述べることが出来る。
二十八条
連邦議会は毎年開く。会期は最低一ヶ月とし、必要があれば総統命令で延長できる。
二十九条
緊急性が認められる場合は臨時会に開くことが出来る。
二項 臨時会では議員が出席出来ない時、事前登録された議員代理が出席出来る。
三十条
議会の開催は議員の出席が三分の一以上の時のみ行える。
三十一条
議員の出席は何者も妨げてはならない。
三十二条
連邦議会機能が停止状態にある場合は内務省がその代役を果たす。
二項 連邦議会機能が復旧した場合は、停止中に内務省が決定した案件を再審議する。
三十三条
連邦議会の議事は過半数で可決、同数の時は議長である内務長官が決める。
三十四条
連邦議会は公に公開される。
二項 総統命令によって非公開にできる。
三十五条
連邦議会は国民の請願書を受け取ることが出来る。
三十六条
連邦議会は定められていない議会の運営に必要な規則を決められる。
三十七条
連邦議会開催中の議場内において、議員は発言と評決に対して責任を問われない。
三十八条
各連邦行政機関及びその構成機関の長は議会に出席して発言できる。
第四編
六章 帝国連邦総統
三十九条
総統は軍出身者でなくてはならず、その時点での最高作戦能力を有する者とする。
四十条
総統は諸行政機関の長であり帝国連邦軍最高指導者である。常に前線にて指揮を執る。
四十一条
総統は外国への宣戦布告、講和、条約を結ぶ。
四十二条
総統は軍務省及び内務省長官を任命、罷免できる。
四十三条
総統は非常時に戒厳を宣言出来る。戒厳の要件、効力は法律で定める。
四十四条
総統は勲章、栄典、その他名誉を与える。
四十五条
総統は受刑者に対して恩赦、減刑、復権の命令を出せる
四十六条
総統の職務遂行が困難な場合は帝国連邦軍序列に従って臨時総統が決められる。
四十七条
総統の有する権限は個別に、指定した人物へ委任出来る。
七章 軍務省
四十八条
軍務省長官は、帝国連邦軍の軍令局の作戦と軍政局の編制等を承認する。また省内人事権を持つ。
四十九条
軍務省長官は諸軍管区の管理責任者である。
五十条
憲兵局は帝国連邦軍兵士の裁判、処罰を内務省司法局より優越して行える。
八章 内務省
五十一条
内務省長官の業務は円滑な軍務遂行の助力を主な目的とする。また省内人事権を持つ。
五十二条
財務局は帝国連邦全体の諸業務を達成するための予算を定める。
二項 予算超過の際には総統の許可を得る必要がある。
五十三条
新しい税制度、税制度の改変を行う場合は財務局が発案し、連邦議会の認証を要する。
二項 非常時には総統の許可を得て臨時税を徴収して良い。
五十四条
法務局は法律の維持及び整備、連邦の利害に関係のある法的紛争の解決に当たる。
五十五条
司法局は裁判など司法に関することを法律に従って行う。
五十六条
裁判官は定めるところの資格を満たした者が、内務長官によって任命される。
五十七条
裁判と判決は公開される。
二項 内務長官の命令で秘密裁判に出来る。
五十八条
通常裁判所とは別に妖精特別裁判所を設置する。
二項 妖精種族を裁く法律を定める。
三項 意志が強いと認定された妖精は通常裁判所にて裁かれる。
五十九条
連邦行政機関に違法に権利を侵害された場合は行政裁判所に訴え出ることが出来る。
六十条
刑罰結果に別段の変わりが無ければ裁量を認める。
六十一条
地方自治管理局は、各構成自治体が健全かつ公共の秩序に反しないように監督する。
第九章 構成自治体
六十二条
直轄市は帝国連邦総統が直接運営する。
六十三条
特別行政区は帝国連邦総統が指名する人物が直接運営する。
六十四条
共和国は民主的な議会議員選挙によって議員を定め、議会を構成して大統領を任命し、自治法を定める。
二項 連邦議会議員枠は十とする。
六十五条
王国は伝統によって君主を定め、伝統により任命された首相と議員による議会を構成し、自治法を定める。
二項 連邦議会議員枠は十とする。
六十六条
自治管区は構成諸族等によりそれぞれ自治を行う。自治法は地方自治管理局が個別に定める。
二項 連邦議会議員枠は構成諸族一つにつき一とする。
三項 構成諸族の認定は内務省地方自治管理局が行う。
六十七条
保安局は公共の秩序を守るために予防活動を行う。
六十八条
内務省軍は国境、領海の警戒、国内の治安維持任務に当たる。
二項 内務省軍は内務省独自の軍事組織である、軍務省の干渉を受けない。
第五編
九章 憲法改正要件
六十九条
憲法を改正するに当たっては、連邦議会議員の半数以上の賛成と、軍務省及び内務省から派遣された議員どちらかの賛成、そして総統の承認を必要とする。
十章 魔なる法
七十条
当該憲法は全て魔なる法による適用を受ける。
本採用に出来るほどまとまってはいないが、草案としては良いのではないかと内心自慢の憲法草案を、一番手厳しく批判してくれそうなジルマリアに執務室で見せた。にゃんにゃんにゃんぽこまみれの寝室で見せるものではないだろう。真面目に作った。
「どうだ?」
「各省局内のことまで詳しく書くと実働してから齟齬が出ます。内部での手続きを変更する度に連邦議会で手続きとは愚かなことです」
「だって、軍務省と内務省は連邦の両輪だぞ」
「車輪を縄で縛って走るのですか?」
「うぐ」
「諸長官の任命、罷免権の明記で充分です。それから議員の議席数も明言しないで法律で決めた方がよろしいです。今は良くても将来に増減させる時に困ります」
「うー、そうか」
「法律の運用でやれるところは全て削ってよろしい。構成自治体の詳細も法律でよろしいでしょう。これだと規定し過ぎです。状況に合わせて細部を変更する度に大袈裟に動き回る仕組みになっています。委任するよう文言は極小化するべきです。無闇にこの国土の広いあなたの軍隊牧場は法的縛りを増やすごとに軋轢が乗算で増えます。もっと裁量を効かせるべきです」
「そうか」
「そもそも、この帝国連邦にこういった憲法条文は現在のところ不要です。今は動かし易いように動かして事例や反省点を拾っていって新しい伝統を積み上げて参考に値する前例を見出す段階です。今までとこれからは決定的に違うのだから、その今までの前例は良い前例ではないから使うに使えません。先も見えないのに左右方向転換に制限を設けるが如きは愚の骨頂です。それとこの草案も将来的に憲法が必要になった時に呪縛のように影響をもたらします。一切公表せずに頭に入れるだけにしておいて下さい。推奨しませんけど」
「頑張って作ったのに、酷いんじゃないか?」
ジルマリアが草案を書いた紙を破ってゴミ箱に捨てる。おい嘘だろ?
「これみよがしにしてくれるじゃねぇか?」
ハゲ頭に抜いた拳銃の銃口擦り付けると、とても嬉しそうに色っぽくジルマリアが微笑み、それから半笑い、嘲笑いを混ぜながら喋り始めた。
「ふふふ、これはねぇあなた、一言でゴミ。温めておいても発酵せず、腐って虫が湧いて将来に禍根を残す肥料にもならない糞以下の毒。これがあると知れたらね、うふ、これを皆基本にして作らないといけないような雰囲気になるのよ。ねえ、あなた、未来を確実に予見出来るわけでもないなら分かるでしょ? んふふ、時代に合わないカビクズ憲法条文で皆が意味も無く、何ら成し遂げることなく犠牲になるの。あら、私ったら何故破いてしまったのかしら? 呆れ過ぎたせいかも。クゥ……キッキキキケケケ、馬鹿じゃないの?」
「なあザラ、お母さんが俺を虐めるんだよ」
「お?」
と娘が言葉というか、唸る。
アクファルが背中をさらっと触ってきた。
「ん?」
「お兄様憲法」
「おいやめろアクファル!」
「キィーヤッハッハァ! ハァーヒャーハー! おにー様キェンぽー!? ヒィー!」
ハゲの馬鹿笑いが一層響いた。机をアホ程叩き、怖くてザラが泣き出しても止めなかった。
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