第108話「決戦」 シラン
遂に前線に到着した。長かった。
長らく書面上でしか知らなかった高級将校達と顔合わせをすれば、それは大層くたびれて、不満も見えている。
我が西勇軍による第一次総攻撃は”失敗”した。それを見計らって攻撃準備を済ませていた敵軍が包囲陣に向けて前進を開始している。
攻撃失敗で士気が落ち、部隊を編制し直している最中で、酷使したばかりの銃砲の整備は完全ではなく、火薬も減って分配もしなくてはならず、勿論兵士達は疲労困憊している。勿論、包囲の為に軍全体は大きく散らばってしまっている。万全では決してなく、組し易い。勝手に歩いてこけて無防備な背中を見せているのだ、そこを叩けば勝利は固い。
必要以上と思える程に堅固な包囲陣を作り上げたが、それは野戦向けでは当然に無い。外から攻撃されたならば対応するために部隊を包囲から多数引き抜かなければならず、ヤンルーに篭城している軍が呼応して挟み撃ちにされぬ為にもある程度の部隊は残さなければならない。残した部隊は役に立たぬ遊兵となり、直接手を下さなくても何割かの部隊を無傷で撃破したに等しい状況に持ち込める。
敵は血の臭いを嗅ぎ付け、手負いで弱り、柔らかい腹を晒している獲物相手に堪え性を失ったのだ。これで包囲戦と野戦を強要した心算でご満悦であろうが、思い通りだ。
敵、ビジャン藩鎮軍のサウ・バンス鎮守将軍は兵力の大規模運用には定評がある。補給物資を切らさぬよう、道路を渋滞させぬように部隊を分散進撃させ、目的地で集合させるという気配りの効いた作戦が出来る能力がある。細かい事が出来て、そして気が早い。先の事を考えて動く老将である。そうでなければ大軍を一気には動かせない。
歳と共に頭の動きは変わるが、ビジャン藩鎮軍の指揮を執り始め、ハイロウ統一、ジャーヴァル戦役、ユンハル部にベイラン討伐、そして冬越えをしてからあっと言う間に南下してきた行動記録を読んで考えれば機動力に自信がある。そう、機動力に自信があればこちらが弱っている隙というものを見逃さないとやっきになるし、これが成功したらとても格好が良い。
若い頃のサウ・バンスの素行を読めば格好を付けるのが好きな奴だ。服飾代金は平均以上、馬も大きいものばかりでわざわざ魔神代理領から輸入していた。自宅も階級相応以上で見る目も無く統一感の無い美術品で飾っている。娘に持たせた持参金も平均以上で、初陣である騎馬蛮族との戦いの時には率先して先頭に立った。そんな奴だ。
ビジャン藩鎮軍はオウレン盆地にある都市、北部へ穀物を輸送する為に一時集積する機能を持つユウシャンより迫ってきている。腹一杯肥えて、準備万端でやって来るだろう。天子が今もおわすヤンルーを陽動に使うなんて事をサウ・ツェンリーは考えないだろうが、サウ・バンスは違うだろう。むしろ窮地に駆けつけたと演出すらしている。功績を粉飾しなければ苦労を重ねても報われないのが天政軍人であり、蛮族の群れとどうしても侮られるビジャン藩鎮軍の名声を高めるには演出は必要不可欠だ。
擬装した第一次総攻撃までに攻撃して来なかったのが運の尽きだ。十分休んで元気一杯なのだから動け動けと中央からせっつかれているだろう。そしてサウ・バンスの自信と格好付けたがりが合わされば完璧だ。全力で向かって来てくれるだろう。隊形変更には手間取る早足で。
予定はともかく、こちらの軍の事情も万全ではない。傷つき損耗しているのは事実だ。血も流さず飢えた獣を誘き寄せる等考えていない。
これは決戦だ。刺し違える覚悟が無ければこの策は成功しない。
「若様、当主様よりご帰宅命令が出ております。いかがされますか」
呆けが始まっているような老人姿のヒンユが言う。
「いかがもせん。ここで引けるか」
「お子様のお顔も見ないで出られたというではありませんか。お家のご意向に逆らうのですか?」
知らぬ隠密が言う。殴ったら頭蓋骨が砕けて――ああ、これは死んだな――倒れた。
「ヤンルーの準備はどうだ?」
「問題ありません」
「ビジャン藩鎮軍の準備は?」
「直前行動をする者達以外は節度使の大犬に勘付かれて大分殺されましたので予定行動を変更させました」
「随分と鼻の良い敵に恵まれるな」
「申し訳ございません」
「いや、嫌味の心算ではなかった。変更点は?」
「はい。無臭の毒物でも所持していると嗅ぎ付けられますので、会戦前日での毒物混入は中止です。戦闘開始直前での火薬への火点け、高級将校の殺害か、最低でも負傷させる要員に向けます」
身の危険を省みない任務であり。皆が実行したら死ぬと分かってやれる隠密達だ。そのように生まれ、教育され、今に至る。
「疫病も大犬に嗅ぎ付けられるか?」
「その通りです」
「大犬の始末は無理そうだな」
「完全武装で猟師出身者を多くした上で邪魔がされない状況下で数百人規模で狩り出すのが非現実的ながら現実的かと」
「そうか。やはりと思うが、顔削ぎ衆も嗅ぎ付けられるのか?」
「真っ先に」
自分の身を削ぎ、そして他人の削いだ身を纏うのだ。臭いは特異だろう。
「常人で潜伏している者はどの程度だ」
「そちらは問題ありません。普段は兵士として真っ当しておりますので。戦死病死もしており、馴染んでおります」
「うむ。長々聞いてしまった、信用していない訳ではない。許せ」
「いえ。では」
「ご苦労」
この戦いには負けられぬ、手こずるのも忌避される出来事がある。沿岸部の被害が酷く、歳入が酷い。予算、資源に余裕が無くなってきている……温存している軍閥共にはあるが。
かつて古代に栄えた蛮族にして蛮族にあらずと言わしめたシャカル朝の京である古名マナハライこと、リュンフェン都が焼き討ちにされ、東防艦隊も壊滅し、百五十万の難民が発生していて、周辺の都市だけでは難民の受け入れに限界がある状況が生まれた。魔神代理領海軍が一夜にしてやってのけたというのだから、手腕を褒めるべきか海軍をなじるべきか都の守備隊に呆れるべきか判断に迷う。
それに比べれば小規模、しかし一つ事件として注目すれば大規模なケイホン市と周辺の焼き討ちに堤防の崩壊も恐ろしい出来事だ。周辺から孤立している位置にあるので救済措置も遅れに遅れ、人肉食らいの盗賊集団になっているとも聞くし、あの南廃王子が彼等を取り込んだ等という噂もある。ほぼほぼ事実だろう、良い機会であったろうから。
丁寧な事に両件とも備蓄食糧から家畜まで完全に焼却廃棄するという徹底振りである。平時ならば食糧援助は可能だが、現在の状況に鑑みれば手がつけられないとも言える。餓死を待って沈静化を待つというのが現実的な程だ。それ程の値上がり、出し渋りだ。温存する程穀物価格は上がっていくのだから法で禁止してもやる奴はやる。重罰を振りかざしてもやるのが人間の性だ。皆一様ではないからこそ、やる奴やらない奴が双方常にいる。
秋税の低下と徴収妨害も顕著だ。戦前は各地へ送られていたオウレン盆地の穀物の大半が焦土作戦で失われている。回収はある程度されたはずだが、戦に備えて盆地内各所に貯蔵されているので流通には回っていないだろう。闇米闇麦は知らぬが、この話は大きく広がっており、食糧価格の凄まじい値上がりが続く兆候が見られる。貧乏人には買えない値になる。不徳な値上げであると罰するには規模が大き過ぎる。
そして各軍閥は自分達の分を確保するために、軍資金とする為に米と麦を隠している。敵に焼かれた、盗賊に奪われたという虚偽申告の数はおそらく見当もつかない。戦災損失の場合には免税処置、規模によっては補償も法で定められているので悪用されているはずだ。経済が既に天政下全体で巡らせるものではなく、各地方で独自に循環させるような体制になりつつある。これは天政が千々に切り裂かれる前兆である。
いっそ当主の野望に乗ってルオ朝の勃興でも目指し、まずは地方軍閥として地位を固めた方が良いのではないかと思えてしまう。
これで勝たねば南朝は終わる。北朝に寝返るのも気楽な話かもしれない。サウ・ツェンリーとの仕事は楽しそうだ。ババアや餓鬼に男もどきの醜い面より彼女の美しい顔を見てる方が良い。しかしそれは一官吏が望むものではない。
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ヒンユより、早足にてユウシャンよりビジャン藩鎮軍がヤンルーに向けて進撃を開始したと報告を受ける。動き始めたら補給計画的にも外聞的にも止められぬのが彼等だ。天子おわすヤンルーの危機に駆けつけぬとは何事か、と褒賞を戦争続きで払い渋りしたがる官僚達の言い訳に使われる。サウ・ツェンリーなら褒賞等いらないと言うだろうが、下手をすれば中原での行動中に受け取った補給物資の支払いでビジャン藩鎮から金を吸い上げる事すらやりかねない上に、仮に勝利したとしても”苦戦責任”すら負わされる可能性がある。それはそれで北朝が分断出来るかもしれない。
こちらも動く。計画通りに総攻撃に見せ掛けだけ参加させた無傷の部隊を集結させて野戦軍に編制する。出血を見せる分、包囲軍には相当無理をさせている。ヤンルーの篭城軍を向かえ討つにも危うい微妙な線を跨いでいる。
勝たねばならぬ。自分の私兵もほぼ使い切る心算で温存せずにいく。オウレン盆地より撤退となれば、恐らく二度と北進は敵わず、天政は軍閥に切り取られる。
野戦軍は行進隊形を取って進み、ビジャン藩鎮軍を迎撃する。
ヒンユが伝える位置情報にはほとんど時差は無い。それを目指して進む。下手な小細工無しでもこれだけで十分に勝算を見せてくれる。
敵の数は十万超で正確な数値は不明だが、こちらの七万はどう工夫しても七万で少ない。ヤンルーの篭城軍に包囲陣を突破されないように残すべき兵は残さなければならない。
オウレン盆地内は平坦で道路が良く整備されていて軍を機動させるのは容易な地形だ。流れる川も水利工事で原型を止めぬほど整備され、灌漑水路に回されて要害にもならない。頑丈な橋が無数に掛けられている。真っ向勝負しか無い。一つ有利を取ったならば挽回する手段が他に無いという事でもある。
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数日掛けて互いの先発部隊が視認し合う距離に至る。接敵だ。
お互いに行進隊形から戦闘隊形に移行するが、こちらの方が早い。行進隊形から即座に攻撃縦隊隊形へ移れるようにしてあるからだ。隊形変更だけで一日を潰すことすらあるが、そんなに時間をこちらは掛けない。そのように編制した。今日この日の為に。
相手は良い将校に兵隊かもしれないが新しくはない従来通りの形式。慌てて隊形を整えているのだろうがこちらより遅い、偵察させて確認しても遅い。そして遅い事に加え、潜入している隠密による火薬への点火爆破、高級将校狙った襲撃が始まった。この状況で戦闘隊形への移行を完璧にやれるものならやってみせろサウ・バンス鎮守将軍。そしてサウ・ツェンリー、お前には何が出来る? こちらはやれるだけやってるぞ。
隊形も整っていないビジャン藩鎮軍へ我が西勇軍が前進し、近づいて攻撃を開始。矢弾を浴びながら隊列を整えて一度得てしまった不利はどう挽回する?
こちらは既に大砲が使える。火薬の有無だけではなく、馬で素早く引ける大砲であるかどうかだ。急ぎで進んでもそれに追随して、相手の整列なんてのんびり待たずに展開して発射出来る大砲だ。ビジャン藩鎮の連中の頭が悪い等とは言わないが、今まで天政では正式配備はされていなかった軽砲を運用しているか? 相手は隊形を整えておらず、大砲は使えない状態だ。こっちは撃てる。撃ち始めた。
敵の整列等待ってやらずに小銃、手火箭、弩を歩兵達が撃ちまくる。
敵も撃ち返す。手持ちの弾薬はあるから火薬庫を吹っ飛ばしても緒戦は問題無いだろうが、長引けば変わってくるだろう。
崩れた隊形へ射撃兵が攻撃を加え、更にビジャン藩鎮軍の隊形を整えさせずに乱す。自分の軍が烏合の衆の被膜に覆われてしまってはただただ射撃の的になってしまう。味方が邪魔で射撃も突撃も整列すら困難。そのように乱れた箇所があれば狙って槍兵部隊が突っ込んで二度と整列などさせない。混乱して恐慌して敵より厄介な仲間に作り上げる。
緒戦は計画通りに優勢。数的劣勢は感じさせない程度だ。
そして総攻撃では傷一つ負っていない我が西勇軍騎兵隊がビジャン藩鎮軍の側面へ現れる。位置情報を掴んでいればこその別行動からの、会敵日時を一致させた側面取りが可能だ。オウレン盆地には予期しない悪路等存在しないのでそれが可能だ。大雨が降ったってこの盆地の水利施設は完璧で、氾濫等起こりようもない。そもそも雨が多い土地柄でもない。
騎兵隊が突っ込めば勝ちは確定だが、しかしここでビジャン藩鎮軍ご自慢の遊牧蛮族騎兵軍が差し向けられる。器用に振り回せる”腕”は不測の事態に備えて温存してあるようだ。
西部騎兵は精強だ。だが北部騎兵には高地戦でなければ勝てず、遊牧蛮族相手では数に勝らなければまず勝てない。奴等は高地の砂漠の様に荒れている草原紛いのところで厳しく育って生き残った。強くなければ生き残っていない連中だから弱いはずがない。そして少し前までは戦争続きであったし、アッジャール朝の下でも馬賊ではなく軍隊として鍛えられていた。これで弱かったら世界の常識が引っ繰り返る。
ゲチクという遊牧蛮族が率いていると情報にあり、歴戦の勇将であるともいう。間違い無いだろう。そんな奴が率いる精強な騎兵相手に騎馬戦で勝てるはずもない。だからそうしない。
西勇軍騎兵隊は下馬して戦うのだ。馬を寝かせ、暴れるなら殺し、それを盾にして小銃や弓を撃つのだ。
これは遊牧蛮族も使う手だが、この戦いになれば騎馬戦術の上手い下手も無くなってくる。これでも勝つのは困難だが、戦いを長引かせる事は出来る。時間を稼いでいる内に弱った歩兵部隊はこちらが潰す。
そろそろ決定打を入れる。予備兵力である自分と私兵がやる。
まず弱っている箇所ではなく、最も苦戦している敵の”最強”を破壊する。一番に損耗した部隊と位置交替。
まず集団方術で一撃を入れる。肉薄するまで敵に射撃武器を使わせないようにする。
地面の下にあるわずかな空気を大きく動の方へずらし、土埃を、目を開けて我慢出来ない量を巻き上げて突風を起こす。一緒に飛んだ小石に、部下が無造作に放り投げた弾丸が人体に突き刺さるような突風だ。砂だけでも血が出る、目が潰れる。物が無くても吹っ飛んで倒れて起き上がれないぐらいの衝撃を受ける。
目の前には薙ぎ倒された敵兵が何百と並ぶ。前へ進む。
戦列を維持せんとその後ろにいる敵兵がまた何百と前進してきて、健気に立ち向かってくる。
槍を突き出す敵兵、軽く避けてそいつの腹を掴み持ち上げて――呻き声の気持ち悪い奴だ――方術で前方へ指向するよう爆砕して敵共に肉片骨片を撃ち出して……十人くらいは倒したか。
方術使いに適した武器がある。棒の先に鎖付き分銅が付いている物だ。
この分銅に方術で帯電させ振るう。どこでも掠るだけでも電撃で焼けて、五体が硬直して気を失うか死ぬ。当たるのは分銅ではなくても鎖でも良い。棒は木製で電気はほぼ通らず、南洋樹脂製手袋があれば相殺の方術も不要だ。これは部下の方術使い達が使う。
だが取り合えず、槍兵相手に白兵戦を挑む前には拳銃を一発撃ち込むようにしてある。方術使いだって使って良い、便利だ。火薬は装填せず、弾丸だけ入れて方術で弾き飛ばしている。ただ手に持って弾き出すより、手が傷つかないように気配りしなくて良いのだ。一列目の兵が分銅を振るい、二列目三列目が拳銃を撃ち、それより後列が拳銃への弾込めを行って前へ渡す。火薬と違って白煙に包まれる事も無いので常に良く狙って撃てる。
自分は常に誰より先行し、圧倒して打ち倒して敵の気を引く。意識をこちらに集中させて隙が出来て弱くなった敵を後続する部下達が始末する。
敵に触れて方術で前方へ指向するよう爆砕して肉と骨の欠片を浴びせて更に多く殺す、倒す、怯えさせる。仲間の肉片を雨のように浴びて正気を保つ者は少ない。
敵の突き出す槍に刀は遅くてたまらない。時々飛んで来る銃弾は金属逸らしの方術で無意味。これは他人まで守る程の範囲は無い。これがあるから金属武器は手から飛んでいくから持たない。木製武器は趣味じゃない。
我々が大きく敵の戦列を穿って隊形崩壊の先陣を切って進む。切り裂かれて分断され、弱って弱り切ったビジャン藩鎮軍は崩壊して散り散りになっていく。自分を見て、怯えて逃げ出す指揮官が何人いたことか。馬に乗って指揮しているから普通の徒歩の歩兵より逃げると決断すれば後は早い。指揮官が逃げれば部下も逃げて良いと思って逃げ出す。
勿論こちらは勝っているが、一度高く跳躍してざっと戦況を確かめたが損耗は酷い。西勇軍から引き出した野戦軍は、十万を越えるビジャン藩鎮軍に及ばぬ七万だ。薄く広げた隊形はかなり素早く磨り減っているはずだ。騎兵隊は良く持ち応え、逃がさぬよう被害を省みずに攻勢も交えているが皆殺しも遠い未来ではない。
七万が七千になっても戦いは続行だ。そこまで行けば勝手に兵が逃げるだろうが。
まだ進む。進む度に敵は弱くなる。かなり後ろに配置されていたはずなのに? という顔をしている。しかし見れば見る程敵兵の顔は西域揃いだ。良くもまあここまでこれだけ連れて来たものだ。その間抜け面を殺して倒して進んでいけば、遂には必死の形相の部隊へとたどり着く。そしてその向こう側には撤退を始めた部隊が良く見える。
どこかでサウ・ツェンリーと直接対決等と期待していたが、それは節度使の仕事ではないな。例えここでビジャン藩鎮軍が一人残らず死に果てても、彼女には治めるべき人民が何百万といるのだ。ここで死んだら馬鹿だ。あの大犬は……身辺警護か。
「殿諸君! 死ぬか逃げるか早く選べ。選ぶ暇無く死ぬぞ」
敵の顔面を掴み方術で一点集中に指向して爆砕して殿部隊の一人を射殺。うむ、胸を撃ち抜かれたその一人の死に様は射殺だな。
殿部隊は乱戦の続きにならず、隊列を綺麗に並べ、距離を離して射撃準備をしている。乱戦明けで集団方術をしている暇は無い。
単独で突っ込む。方術で加速して、一挙に飛び込み飛び蹴りで殿部隊指揮官を、足を起点に方術はやや感覚が掴み辛いが爆砕。左右の手で一人ずつ頭を掴んで爆砕、肉片骨片を撃ち出して効果拡大。
指揮官こそ失ったが、大部分の殿部隊が迫る我が部下へ小銃を発砲。粗絹式の防弾衣は着せてあるが被害は多い。距離が近かったが、その分切り込むまでに第二射は許さない。
電撃分胴で槍でもない小銃装備の敵は倒れる。その後ろから出てくる槍兵には拳銃で射撃して隙を作ってから打ち込みに掛かる。
触れる相手全てを方術で爆砕して殺して回り、殿部隊の後列を単独突破するまで行った。部下達は自分に追い縋るように前進攻撃して迫る。
中々に粘ったが、遂に殿部隊が逃走を始める。逃走する先には今までなかった奇妙な土手が無数に地面から突き出していて一挙に攻め上げるのは困難になっている。あちらの方術使いは追撃防止に使われたか。
そして唯一優勢に動いている遊牧蛮族軍に向けて集団方術の用意を始めるが、始めたところで奴等、逃げた。遊牧民め、殿部隊よりも居残りをして義理を見せてからに。腰が軽くて頭が重く、志は横に長いか?
「我が方の勝利だ! 勝鬨を挙げろ!」
『応!』
「万歳!」
『万歳!』
「万歳!」
『万歳!』
「万々歳!」
『万々歳!』
ヤンルーの包囲は今後も続行される保証を得た。その事実を聞かせたい、これは勝てると。しかしその言葉は耳に届くのだろうか? 心にはどうだ?
皇太后の圧力も限界が見えている。軍閥共に言い訳などさせずに北進させるにはヤンルーを落とさないとやはり無理か? いや無理だな。北朝の軍閥を排除して自分達の取り分とする確証が得られない限りは遊戯的な戦争に徹して動かないだろう。
軍閥共め、腰ばかり重たい奴等め。その上頭も重たげなのだから始末に終えない、ただの馬鹿なら操りようもあるというのに。しかしその分志が低くなっているのが皮肉が利いていて良い。理屈が通っているので納得出来るというものだ。
死ねば良い。何時か殺してやる。親子共に家名も業績も全て灰にしてやる。
切り取るのは領地ではなくお前等の首だ。
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