第106話「沿岸都市を壊す」 ベルリク

 足元が揺れる。快速自慢のアスリルリシェリ号は補修後も前と変わらず良く走る。

 アマナでの休暇と準備も終り、ギーリスの兄弟姉妹艦隊、スライフィール艦隊、ナレザギーの艦隊、ナサルカヒラ艦隊が連合して北大陸東端、レン朝南部の賊軍地域を目指している。

 セリン、ファスラ、ファイード艦隊は大分隻数が減ってしまっているので、あの追撃戦に参加しなかった輸送船やレン朝海軍の拿捕船が合流している。船員の錬度は少々酷いらしい。

 つい何ヶ月か前のレン朝海軍の”冴え”はどこかに行ってしまったらしく、海路はそれなりの悪天候に出くわした以外に問題無く、行きがけの駄賃に拿捕した商船から収益が上がった程度だ。手頃な訓練航海にもなったのである。

 最近のアクファルは良く空を眺める。偵察の為に空を飛び回る竜の中にクセルヤータが混じっているのだ。

 クセルヤータに言われたのか、先の龍人による切り込み攻撃の話を自分なりの考えたのかは知らないが、とりあえず何時でも弓矢が使える状態で自分の隣にいる。お兄ちゃんとしては嬉しいが、何となく心苦しいのは事実。あれが人間の男だったら送り返している。

 我等が連合艦隊は現在、時間調整のために蛇行、減帆しつつ目的地に進んでいる。第一撃は夜襲から始める事になっている都合、七種類の艦隊が連合しているので工夫した海戦でなければ同士討ちの危険性は大である。そこは我々、色々な兵隊が揃っているので解決出来るのだ。

 太陽が水平線に沈み、空が七色になり、三日月と一等星が先に輝く。連合艦隊の蛇行航行が終り、針路、速力が定まる。

 それから日没まで少し、そして太陽が沈み切った真っ暗闇の中、灯火管制中なので星と月の明りのみが船を照らす。

 艦隊決戦は夜明けの手前ぐらいの時間帯を狙うので、にわかに船内は合戦準備で忙しくなるが、隠密活動という事で黙々と静かに行われている。音も光も時に思ったより遠くに届く事があるものだ。

 空にあるわずかな明かりである星を黒い影が覆い、甲板に通信筒が落とされる。竜は夜間でも航空偵察を行っている。竜は夜目が利き、熱も感覚で察知出来るので問題無いそうだ。

 通信筒の中身を、やっぱり魔族だからセリンが暗い空の下でも問題無く読む。

「じゃあ旦那、行って来るね」

 通信筒の中身は目的地付近の沿岸防衛に当たる敵艦隊の最新位置情報である。星の位置が読めなければ分からない形式だ。

「別にそのまま上陸攻撃成功させてもいいんだぞ」

「魔族はそんなに長期戦向けじゃないのよ」

 そう言ってこちらの肩を撫でてから、甲板から真っ黒な海へセリンは飛び込んだ。夜間当直の船員達は飛び込んだ方角へ――暗いから大体の位置――帽子を振る。万歳はやらない。

 このようにして、セリンやシャチ乗りファスラ、ナサルカヒラ海軍の水棲種族兵士が先行し、深夜に敵の沿岸防衛艦隊を襲撃する。そして時間差でもって敵艦隊が混乱している状況で早朝に艦隊決戦へ持ち込む。

 この間は当直以外は寝てもいいが、流石に寝付けない船員がいる中で夜明けを待つ。


■■■


 夜明けになって戦闘用意を告げる鐘がガンガン鳴らされ、このアスリルリシェリ号の舷側の窓が開けられ、大砲が突き出される。

 既に遠目には炎上している船が見えている。朝焼けに混じって面白い光景になっている。

 襲撃から戻ってきたファスラは、先陣を切って突入していく水竜ヒュルムの八つ当たり号へ乗船し、把握している敵艦隊の状況をファイードに伝えて海戦の水先案内人を務める。効率良く敵艦隊を無力化するためには、おそらく何より重要だ。

 帆を一杯に広げた連合艦隊が縦列になっている敵艦隊に突っ込む。

 制圧した船の艦旗は降ろされているので撃つ目標は判別可能。

 水竜ヒュルムの八つ当たり号が巨体と竜角の衝角を活かし、敵船の腹を食い破って、木材が折れて上げるとは思えぬほどの爆発するような破裂音を鳴らし、勢いそのままに踏み潰して乗り越えて前進する。小型船舶相手だと怪獣のようだ。

 連合艦隊の縦列はその開放された突破口から進み、目につく艦旗が降ろされていない船目掛けて砲撃を開始する。セリンやナサルカヒラ兵は水中へ、この時は潜んでいる手筈。多少の誤射はあるかもしれないぐらいに連合艦隊は猛射する。

 砲撃する中には船体に要塞を載せたような奇妙な櫂船が見られる。沿岸防衛用としては侮れず、この型の船が一番反撃の砲撃をしてきていた。

 隻数でも総排水量でも砲数も兵数も兵種も戦術でも全てにおいて勝っている我々に敵艦隊は降伏の白旗を揚げた。水上でも衝撃力というものは侮れない。

 そして降伏の徹底を済ませたセリンが戻ってくる。

 ここから連合艦隊は艦隊を四分する。

 先ほどの降伏した敵艦隊の拿捕を行うのはナサルカヒラ艦隊が受け持つ。強面の水棲種族達が役に立つ。やはり先の海戦での艦船損失分を取り戻すのは必須である。

 周辺海域を警戒しつつ、レン朝籍の船を襲撃しまくるのは、ファイード、ルーキーヤ、ファスラ艦隊が受け持つ。ついでに小規模な漁村単位でも襲撃して周辺の生活基盤を破壊し、海沿いには暮らしてはいけないという恐怖を与える。風評被害目的だ。

 次に目的地であるケイホン市の港から市内へ直接艦砲射撃を行いつつ、そこから直接上陸するのはベリュデイン総督の私兵も乗船するスライフィール艦隊である。港への直接上陸は困難を極める事が予測されるので、魔術による多彩な火力支援が行える面子が揃っている。グラスト魔術戦団もだが、ルサレヤ閣下もである。

 上陸前の準備砲撃にと、既にスライフィール艦隊はケイホン市へ向けて砲撃を開始している。市の海上防御施設を真っ先に叩く事になっているが、沿岸砲台に備え付けてある大砲は相当に旧式なようで、まともに稼動しているようには遠目からは見えない。望遠鏡で見てみれば、いっそ美しく歴史が感じられるぐらいに緑に錆付いた青銅砲のようである。暴発と射程距離不足に悩まされそうだな。

 そして最後、ケイホン市郊外に上陸して陸からの敵増援の到着を――そんな高速の部隊がいればだが――防ぎつつ、市外から攻撃して直接上陸部隊への支援を兼ねつつ、北側から攻め入るのはセリン艦隊とナレザギー艦隊である。

 ナレザギー艦隊には我等がマトラ人民義勇軍と聖戦士団がいる。上陸作業を海側から守るのがセリン艦隊だ。

 上陸する妖精達の姿は、軽量鉄兜、中帽、防刃襟巻き、絹製防弾着、鉄板入り長靴、飾り気は排除した濃淡ある灰色の斑模様の軍服で、画一された整然さはあるが異様である。

 ケイホン市の北側の浜辺に上陸する。マザキ沖の島を使っての上陸訓練の成果が出たか、作業は早かった。先遣隊一千が小船で上陸し、上陸地点を確保する。これにはラシージが先に行く。

 次に簡単な基礎工事をすれば使えるようになる組み立て式の桟橋資材を積んだ部隊が上陸して建設を開始。基礎工事にはラシージが参加したのでほぼ作戦的には瞬時に完了。土弄り魔術の恐ろしさはここにある。

 土台に丸太や土嚢が積まれて下部が補強された桟橋へ付けた起重機搭載の運搬船からは続々と大砲が揚陸される。桟橋には車輪幅に合わせた線路があるので素早く動く。その間にも続々と船から兵士が上陸し、桟橋の本数が増えて港が作り上げられていく。スラーギィでの要塞建築の応用が利いているが、これはかなり凄い。ラシージは凄い。

 ケイホン市への港湾側からの艦砲射撃は継続中。射撃中止になるほどまだ時間が経っていないのが嘘みたいだ。

 妖精達の動きは全く無駄が無いように見える。大砲の揚陸は全八十門の内、今回揚陸するのは五十門なのであるが、歩兵の方はもう五千、六千を越えて上陸が完了している。輸送船から送り出される小船が回転するように戻ってまた歩兵を乗せて送り出される。浜とナレザギー艦隊の間の水上は時折ぶつかりながらもスイスイと進む小船で埋め尽くされている。最終的には予備を――全員揚陸する土地も無い――除いて一万が上陸を完了する。

 上陸部隊の一部は付近の堤防や水門のような水利系施設の破壊、農村への襲撃、森林の焼き討ちに移っている。そして竜跨隊からの偵察情報を随時彼等は受け取る体制に既にあり、先導役として偵察隊員を随伴させている。この周辺の生活基盤を破壊するために行動させているのは都市攻略よりある意味重要だからだ。

 揚陸した順から砲撃体制に移っていた砲兵隊がケイホン市の北門へ向けて砲撃を開始。最初に狙うのは城門、城壁の上にある構造物、防御施設やその陰に隠れる守備隊だ。敵守備隊も砲撃を返してくるが射程距離外で、稼動したのが奇跡のような旧式砲なのだろう。たぶん、二百年前の年代物とかだ。ルーキーヤから話は聞いたが、レン朝は統治範囲が馬鹿デカ過ぎて手が行き届かず、結構そういう事があるそうだ。

 スライフィール艦隊の砲撃が大人しくなる。砲撃目標を失うぐらいに撃ったとは流石に思えない時間だが、良いだけ破壊した後であろう。そして凄いものが見えた。

 赤くキラキラと光る風? がケイホン市の港を覆っている。眺めていると、段々と風? の通過した後が火災を起こしている。あれか、アリファマが言っていた”焼けた砂嵐”か。魔術に名前をつけるとは不思議な感覚だが、彼等には合理的なのだろう。これも一つグラスト文化であるかな?

 ”焼けた砂嵐”は港とその区画を焼いたぐらいで終わったが、しかし魔術の効率というか規模というか、今まで見てきたものとは桁が違う。

 出港前、アリファマに色々聞いた話によればこうだ。

”奇跡は直感的に発動できる特異現象そのまま。知識も技術も発動者独自そのもの”

”魔術はその特異現象を複数合成し、物理的な干渉も場合によっては組み合わせて応用に幅を出す技術”

”方術は個々無数にある存在や概念に境界があるとして、その境界を操作するという思考過程において特異現象を発動させるに値する状況に達すれば発動する”

”集団魔術は役割分担をして複数合成しているだけで根本は変わらない。集団方術も同様らしいが、詳しくは使用術者の調査が出来ていないので不明”

”我々の新魔術は、知識を元に存在や概念を実用的な単語へ圧縮して準備、特異現象として発動する時に用いる。準備単語は専門母語教育で獲得したものでなければ非実用的。通常の魔術はそういう単語での意味づけを嫌う。雑情報となって頭で思い描くような特異現象が発動させられない”

”後は秘密”

 グラスト魔術戦団が上陸攻撃の為の露払いをしたという事は、間も無く攻撃開始だ。自分とアクファルも小船に乗って上陸する。

 北門と周辺の城壁の上部の構造物、塔や砲台等の防御施設は砲撃により崩壊した。続いて門そのものを直接砲撃し、周辺の城壁も同じく砲撃崩して石の瓦礫の階段にした。若干生き残る城門城壁の守備隊を歩兵の銃撃で牽制しつつ、工兵による爆破によって邪魔な瓦礫の撤去を行なえば市内への道が開かれた。城壁は内と外が石壁一枚、内部に通路がある程度の旧式構造なので砲弾薬消費量も大したことはない。

 そしてここで登場するのが、こちらの露払い役である聖戦士団三千だ。小銃が使えないのは見て分かり、刀に槍に棍棒で揃えている。

 マザキでボケーとしていたのが嘘のように今の彼等は活気に満ち溢れている。落ち着かないように動き回っていて気持ち悪い。こいつらが今すぐこちらに襲い掛かってきても不思議に思えない風でもあるが、そこはメルカプールに伝わる秘伝がどうにかしてくれる。はず。

「さてベルリク、突入していいかな?」

「どうぞ」

 ナレザギー配下の狐頭達が笛でいかにも怪しげな楽曲を奏でる。音だけで気分がおかしくなりそうで、元からおかしくなっている聖戦士達は何と急に落ち着きを取り戻した。そしてナレザギーが手に持った柄付きの鐘を大きくガランガランと鳴らすと一変。

「ビャー!」「シャー!」「グャー!」

 等と奇声を上げて崩壊した北門から市内に異様にバタバタと素早い走り方で突入し、待ち構えていた守備隊の銃や弩に投石に大砲の一斉射撃で先頭組が完全にバラバラの死体になっても気にせず突っ込んでいった。

「何あれ気持ち悪い」

「でしょ」

 恐慌した守備隊の悲鳴が聞え、狂った聖戦士達の奇声が重なる。

「あれに武術の達人も混ざってるみたいな事言ってたよな」

「うん。いるだろうね」

「活かされてないよな。もうそういう時代じゃないけどよ」

「まあ今回の作戦はアマナ人は使い捨てにしか出来ないし、妥当だよ」

「殿下くんは随分と怖い事を言うようになったね」

「君に言われたくないね。ガダンラシュのあれはまだ夢に出てくるよ」

「こっちは狐だとあんまりどうとも思わないし、そっちは猿だとどうとも思わないってところか」

「そこまで言わないけど、良いところじゃないか」

「あ、そうそう、同士討ち大丈夫なの?」

「大丈夫だよ」

「大丈夫なの?」

「そこが我が王家の秘伝なんだよ。狂戦士ではない聖戦士たる由縁だ」

「まあいいや。それお前等突入」

 刀を抜いて、崩壊した北門の方へ振る。何だか気が抜ける。ケイホン市自体田舎都市なのはあるけども。

「突入開始!」

 ラシージが号令を掛ける。

 マトラ人民義勇軍が突入し、散開して市街制圧にあたる。自分が先頭に立って格好つける機会は無さそうだ。

 先行突入した部隊はある程度、地上は聖戦士に任せるようにしてまずは高所を取りに行く。木箱や梯子が無ければ身体を組んで足場になり、そこから妖精達が屋根や内城壁の上へ上っていく。昇るのに苦労する場所では鉤縄が使われたりしている。そうしてあっと言う間に敵が疎かにしていた高所を取って、立体的に散らばって狙撃。地の利が既に守備隊からこちらに移ったと言っても良いくらいだ。

 後続の我々は、一軒一軒建物を虱潰しにして進む。

 妖精達は大隊毎に進行方向を分け、小隊毎に動き回り、班毎に一つの建物を制圧。大型の建物の場合は小隊一つで当たるのがおおよその基本である。

 既にこの段階においてこのような市街地に残っているのは逃げ遅れの敗残兵か、死ぬくらいなら噛み付いてやろうという民間人、それから逃げ遅れ程度である。聖戦士にビビったのもあるだろうが、艦砲射撃の段階で怖気づいてしまったはずだ。ここは守備隊が千人もいれば良い方の田舎都市だ。

 銃声は少なく、それよりも妖精達の「突入!」「制圧完了!」「民間人発見、誘導開始!」のような隊内連携のための声出しの方が良く聞こえる。

 とりあえず港から直接上陸した部隊と合流でもしようか。現地での方針の擦り合わせぐらいはしたい。

 市街地を順調に進む。そこら中に敵兵と聖戦士の死体が転がっているが、住民のものはわずか。住民は抵抗しない限り殺さないように指導してあるのだ。

 いくらか進むと広場があって、広場に住民が座って固められている。分かり易いくらいに怯えている。

 驚く事に聖戦士があの狂った顔をしつつも住民を追い立てて、殺さずにこのような広場や敷地の広い建物に集めているのだ。王家の秘伝恐るべしだ。

 妖精達の即興歌であろうか。

「女の腹をたったっけー!」

「子供の脛をくっだっけー!」

「井戸には老人!」

「貴族は肥溜め!」

「門には赤子を吊り下げろー!」

 このように妖精達は楽しそうだが、ちゃんと抵抗するかしないか選んで殺している。

 通過中の街路で老人が身を庇うように手をかざす。すると妖精は?

「あっ抵抗確認、排除!」

「わー死ねー!」

 その老人は腹を銃剣で刺され、蹴飛ばされて倒れる……あまり基準を厳しくするとこちらが隙を突かれて殺されるのだ。しょうがないね、たぶん。

 妖精の突撃兵が民家の扉を手で叩く。もう一人の突撃兵は周辺警戒をしながら声を出す。

「もーしもーし! もーしもーし!」

 扉は鍵が掛かって開かないのではない。そんな上等な扉ではないので中につっかえ棒でもしてあるのだろう。突撃は棘付き棍棒で扉を何度も叩いて破壊し始める。

「ご在宅ですかー!? こんにちわー!」

 そして拳銃を両手に、声を出していた方が壊れた扉を蹴倒す。

「突入!」

 続いて相棒の扉を壊した方が家の中に入る。

「民間人発見、誘導開始!」

 怯えて隠れていた母と子供の二人が追い出される。

「これ忘れてますよー!」

 そして突入した突撃兵が産着を着ている赤子の首根っこを捕まえて出てきた。掴み方のせいで首が絞まって赤子は泣くに泣けず、逃げた二人は気付かず、道端に投げ捨てられた。泣き喚いているので死んではいない。

 アクファルが暇そうだ。一応刀を抜いて臨戦態勢だが挑んでくる敵は一人もいない。

 守備隊は粗方蹴散らされ、市の中央にある城に逃げ込んでいる様子だ。住民の多くもそちらにいるのだろう。

 ここで注意したいのは虐殺ではいけないということ。目的が違うのだ。

 港へ歩く事少し、竜の戦装束のルサレヤ閣下が翼の拳で敵兵を殴り倒すのが見えた。結構器用な翼で腕だとは思ってきたが、普通に殴り倒すとは存外意表を突かれた。

 こちらの方面の敵守備隊は、港から来た直接上陸部隊を防ぎ切れずに後退と敗走を繰り返していて、抵抗と降伏と逃走の基準が滅茶苦茶で少し乱戦状態だ。アクファルが暇つぶし感覚でフラっと歩いて行き、刀を血で塗らして戻ってくる程度。顔は暇そうだ。

「抵抗薄いですね」

「お前の兵隊はどうなってるんだ」

 聖戦士の一人が、両腕が折れた状態で敵兵に噛み付いている。敵兵は悲鳴を上げながら手に持った石で頭を殴りまくっているが効いていない様子。

「あれは弾除けです」

「そうなのか?」

 自信はちょっと無い。

 情報収集に当たっていた偵察隊に市の制圧状況を聞き、ルサレヤ閣下側の情報と突き合せる。

 北部は我々マトラ人民義勇軍がほぼ制圧済み。

 聖戦士団は死を恐れないで突っ込むので、敵勢力が良く温存されている西部地区に早くも浸透突入している。まるでお馬鹿な騎兵並の突っ込み具合だ。

 ルサレヤ閣下とスライフィール艦隊の海兵隊五百は東南部の港湾周辺の制圧を行って残党狩りの最中で順調。

 ガジートを先頭にベリュデイン総督の私兵一千は市の中央部へ守備隊を追い立てている状況らしい。

 敵守備隊に対して港からの直接上陸組は上陸行動という大きな不利を抱えていたが、そこは圧倒的な魔術使い保有量で圧倒したそうだ。

 そういえば降伏勧告をして受け入れさせないとあの猫ちゃんが虐殺を始めそうだな。

「ルサレヤ閣下、城に行って降伏勧告して来てくれませんか? ガジートが先走る前にお願いしたいんですけど」

「うむ、頃合だろうな」

 ルサレヤ閣下は翼を広げ、魔術で上昇した後に城の方へ羽ばたく。変な飛び方。

 こちらも城へ向かう。道中は特に目新しい事も無く、家に隠れている住民が外に出されて集められるか、空しい抵抗をして棍棒で頭を砕かれて殺されるかだけ。

 およそ制圧したとは言えここは複雑な市街地である。戦闘は制圧したと宣言するような場所でも起こる。

 カラカラと音を立てて瓦葺屋根伝いに妖精達が敵を求めて走り回り、時折立ち止まって小銃を構えて撃つ。そして敵集団の位置を掴んでは手を振って周辺部隊に報せ、射撃を集中させている。

「追い込め追い込め!」

「ここ高くて下りれないよー!」

「梯子持ってきてー! 隣の屋根に渡るよー!」

「はーい!」

 敵兵も真っ直ぐ後退するだけではなく建物に逃げ込んだりもするので真っ直ぐ通りを進んだだけでは制圧にならない。

「そこの建物に逃げたー!」

「鉤縄用意! 二階から突入するよー!」

「手榴弾手榴弾! 突撃隊、上下階挟み撃ち! 配置についてー!」

「はーい! どこー? ここー?」

「うんそこー!」

 屋根上と地上で連携し、鉤縄を使って屋根から少し下りて二階の窓へ手榴弾を投擲して、爆破してから突入。それに連携して地上から扉を棍棒で叩き壊して突入して挟み撃ちにする等、連携は高度である。

 制圧は順調である。

 城の前の広場に到着した頃には、城の旗が全て燃やされていた。ルサレヤ閣下の魔術による分かり易い脅迫だ。硫黄が香る。

 武装解除した兵士に住民、官僚そして市長が出て来て、通訳が言うには、降伏するから命は助けて欲しい、とのこと。成功だ。

「皆殺しですか?」

 とガジートが首狩りがしたくて興奮し始める。内臓臭さすらある抜き身の刀を片手に鼻息が荒い。

 何でも殺せば良いと思っているガジートくんには少し修正が必要だな。

「生温いですよ、ガジート殿。殺してあげるなんてのは慈悲なんです。敵戦力撃破後は人は可能な限り殺さず、生活基盤を破壊し、難民化させるんです。そうすれば勝手に身内で殺し合いを始めます。状況によりますが、今日は首より胃袋を切るのが正解です」

「これは盲点、勉強になりました!」


■■■


 ケイホン市の降伏を受け入れた後は全住民は城壁の外へ追い出す作業に入った。これが結構、相当に時間が掛かる。他の作業は同時進行で行われた。

 建物を全て焼く、雨風を凌げなくする。石造部分が中々崩れないのなら爆薬で吹っ飛ばす。この時に貯蓄されている燃料類も使い切ってしまう。他の燃やす作業には市の燃料を活用。

 一番重要なのは備蓄食糧は残らないように徹底的に焼き、焼けない分は海に捨て、少しだけ我等が連合艦隊の補給分にする事だ。しかし保存食糧というのは乾燥していて良く焼ける。

 家畜は殺す程度では駄目なので殺した後に海へ捨てる。間違っても回収させないようにするため、船に乗せて沖へ捨てる。市内に飼われている家畜はそこそこな量で、この作業はかなり大変だ。

 井戸や貯水施設には全て糞尿をぶち込む。足りなければその辺にいくらでもある死体を投げ込む。泥水を啜らせる。

 狩猟道具に漁具も焼くが、貧弱ながら多少の武器だけは残す。盗賊になって貰うためだ。

 そして持ち運べる程度の金目の物は奪う。回収出来ないなら焼く、砕く。彼等に何かを金銭金品で買わせる余裕は与えない。住民から手持ちの金目の物や、絹製衣類等は大体は剥がしている。

 焼けない所にはマトラ人民義勇軍への対価でもあるマトラ自治共和国国旗を立てるのは忘れない。

 付近で堤防や水門等の水利系施設を破壊して農村、森林を焼いている部隊に撤退命令を伝える伝令を出す。本格的に行うのなら何日も留まって行いたいのが本音だが、内陸奥地で戦う事になる危険性を考慮すれば当日撤退で良い。

 港に残っている有用な船は全て頂き、不要な物は小船まで焼いて沈める。勿論港も焼く。

 こうして難民を作り、人口圧をかけて約束通りに賊軍を弱らせて官軍を支援するという作戦だ。

 そして上陸部隊の組み立て式桟橋はちゃんと分解して回収し、日を跨がず襲撃を開始した夜の内に海上へ撤収できた。

 一気に襲って一気に逃げる。海軍の醍醐味、草原の遊牧騎兵に通じる。遊牧民は草原を海のような感覚で捉えているという学者もいる。こっちからしたら逆の認識だが共通点はあるだろう。


■■■


「おっと来たき……」

 夜空を飛び去る竜が落す通信筒をセリンが空中で掴み取る。

「……たっと。どれ?」

 星の位置から観測して割り出した座標が描かれた図である。今日は新月なので全く暗くて人間の目には詳細も見えない。何となく人影や物の形が分かるくらい。

「お、旦那、今回は大物だね。東海艦隊群の東防艦隊がやってる警備活動に当たったよ。目的地に入港する航路だね」

「何隻だ?」

「足の長い帆船で四十隻。東防艦隊は櫂船が主力だから、まあ大体外洋に行ける戦闘艦は全部だね。他の船はどうだろ、沿岸沿いに走ってるのかな? 規模的にはこっち意識してるよね」

 当方連合艦隊は輸送艦艇も合わせれば百隻越えである。そして艦船以外にも海上戦闘力を有している。

「前より楽勝だな」

「この規模ならルサレヤ閣下が加わって下さる事になってるから、負けたら恥ずかしいぐらいだね」

「ババアが疲労で墜落したら拾えよ」

「こら」

 セリンに肩を殴られる。

「そいじゃーじゃーじゃー行って来ますか」

「別に水上に残しておかなくてもいいんだぞ」

「魔術の疲労ってそうほいほい回復しないのよ」

「え、まだかよ。もう何月経った?」

「表面的な精神疲労の回復とは別に魂の疲労って云われるのがまたあるの。それに気付かないと自分でも元気な心算なのに、血圧高い元気なジジイみたいにある日ぽっくりくたばるのよ」

「魔族でも?」

「魔族でも」

 そう言ってこちらの肩をポンと叩いてから、甲板から真っ黒な海へセリンは飛び込んだ。夜間当直の船員達は飛び込んだ方角へ――暗いから大体の位置――帽子を振る。

 セリンやシャチ乗りファスラ、ナサルカヒラ兵が先行し、深夜に敵の東衛艦隊を襲撃する。そして時間差でもって敵艦隊が混乱している状況でまたもや艦隊決戦に持ち込む。今回はルサレヤ閣下が攻撃に参加するらしいので、前回より圧倒的かもしれない。

 この間、当直以外は寝てもいいが、流石に寝付けない船員がいる中で夜明けを待つ。アクファルは戦支度万端で酒飲んで寝てたが、これくらいじゃないといけない。


■■■


 夜明けになって戦闘用意を告げる鐘がガンガン鳴らされ、このアスリルリシェリ号の舷側の窓が開けられ、大砲が突き出される。

 今回も前回と同じかな? と期待を込めて甲板上に出て敵さんのやられっぷりを拝見。

 既に遠目には炎上している船が見えているのは前と同じだが、爆発した上での炎上らしく上部構造物どころか、船の半分が吹っ飛んでいる。転覆したり、舳先だけを海上から空に向かって突き出している半ば沈没した船も見られる。

 襲撃から戻ってきたファスラは前回と同じく、先陣を切って突入していく水竜ヒュルムの八つ当たり号へ乗船。それに続いて帆を一杯に広げた連合艦隊が縦列になっている敵東路艦隊に突っ込む。前より手強い相手ではあるが、今回の夜襲は前より凄い。どの程度敵が残っているやら。

 縦列突入を開始。制圧した敵船の艦旗は降ろされている。上がっていても真っ黒焦げの船が目立ち、硫黄の臭いがかなりする。

 水竜ヒュルムの八つ当たり号が得意の衝角攻撃を行うことなく減速を初め、信号旗を揚げる。どうやら敵艦隊はこちらの行動を見て降伏を選んだようだ。

 その後、敵船十四隻の拿捕作業が行われた。焼けて拿捕するまでも無い船が十二隻、残り十四隻は逃亡したそうだ。

 そして拿捕した十四隻だが、移籍希望の船員以外は四隻の老朽船に押し込まれ、捕虜として扱うという嘘の後に沈めた。三千名以上の捕虜等この海上でどうしろという判断である。

 そして残る十隻は、目的地への攻撃用に応急で改造がされる事になった。


■■■


 そしてその日の晩、目的地であるリュンフェン都沖に移動する。付近を航海中の艦船はおらず、深夜の襲撃の話が広まっていると思われる。警戒はされているが、逆にこちらを偵察して回る船がいない事が幸いだ。そして今回は夜襲を敢行する。夜明けは待たない。

 リュンフェン都は賊軍が保有する沿岸都市の中でも五本の指に入る大都市だ。ケイホン市のようなお遊びでは済まない。都の降伏は二の次と考慮し、焼けるだけ焼くのが目標だ。今回の襲撃の成果が非常に芳しくない場合はこれにてレン朝官軍支援を打ち切る心算である。そのくらい気合が入っている。

 改造された拿捕船十隻が先行する。操船するのは何れもナサルカヒラ兵である。

 夜襲時の問題についてであるが、対策はグラスト魔術戦団のおかげでかなり軽減されている。

 本格始動する前に各艦隊がそれぞれの配置につく。

 リュンフェン都港湾部のある東部へはナサルカヒラ艦隊、スライフィール艦隊が担当。魔神代理領の正規海軍でもあり、連携して作戦を実施した経験もある。彼等が港湾部から直接攻撃を仕掛ける。

 都の北側郊外にはテバン城があり、そこには汽水の同名テバン湖があってリュンフェン都と水路で繋がっている。そこをファイード艦隊、ルーキーヤ艦隊、ファスラ艦隊、セリン艦隊が襲撃する。更に北にはロンカン市があり、そこからの援軍を牽制する役目も負う。一日内に撤退予定だが、そうならない場合に備える。

 そして南側に上陸して城門城壁をぶち破って突入するのが我々、とナレザギー艦隊である。自分とアクファルは船を移動済みである。

 グラスト術士達による、あまり光輝かない割りには視界確保に困らない赤い灯りの魔術に照らされながら上陸を開始する。上陸地点は砂浜沿いのそこそこの港町で、警備兵はいない程度の絶好の場所である。

 漁民の驚く声など知らずに輸送船から小船に乗ったマトラ人民義勇軍の先遣隊が上陸して港町の制圧に当たる。面倒なので適当に殺して追っ払えという風になっている。

 そして続々と後続が上陸し、町の桟橋に船をつけて舷梯を下ろして一気に兵員を送り込む。

 起重機搭載の運搬船からの大砲の陸揚げ作業には桟橋の補強が必要だったので少々遅れている。海沿いなのでラシージの魔術で土台補強をしてもやや遅れたものだが、作戦に支障があるものではない。

 まだ敵はこちらの作戦には気付いていない。少なくとも初動対応にすら達していない。

 改造した拿捕船がいよいよリュンフェン都の港湾に侵入し、それぞれに散らばった目標を目掛けて進む。そして火が点けられてナサルカヒラ兵が退艦、海に飛び込む。

 友軍の船なので対応が遅れたのだろう。爆薬を満載し、燃える爆弾となった拿捕船十隻が港に散って、停泊中の東路艦隊の船へ次々と体当たり。遠くからでもその凄まじい衝撃音が響き、夜になって眠っていたリュンフェン都が一気に叩き起こされたように騒ぎ出す。

 こちらも上陸後の整列を終え、周辺警戒と上陸地点確保に部隊二千名を割き、ナレザギーが聖戦士団の最終調整? を実施して、砲兵隊の準備の完了を待って前進する。偵察隊には先行偵察、可能であれば砲撃前に城門の開放が可能か出発させた後。

 そして回った火がようやく役目を果たした。十隻の拿捕船がそれぞれに満載した火薬を爆発させた。

 大型船に満載した火薬の量はとてつもなく、そしてそれが十隻分である。爆発というのは量が増す程に相乗効果で威力が増す。

 夜のこの世界が一瞬、空が黒いおかしな昼になったかのように明るくなって、先の膨れる黒煙混じりの巨大な炎が上がって、遠距離からでも耳をつんざく爆音が轟きながら草木に海を揺るがす突風が吹いた。

 もうなんだかこれで撤退しても良いんじゃないかと思えてしまう程の爆発だったが、そこで容赦してはいけない。

 ナサルカヒラ艦隊、スライフィール艦隊が港湾内への突入と砲撃を開始。そこよりまた遠くからの砲声が聞こえるからテバン城への攻撃も始まったはずだ。

 こちらの整列も完了である。

 刀を前、刃の腹を上向きにし、上斜めに突き出す。

「全たーい……前へ! ……進めぃ!」

 マトラ人民義勇軍二万が前進を開始。軍楽隊の行進曲演奏が始まり、太鼓が歩調を合わせる。

 こちらの行進に合わせる訓練はしていないが、聖戦士団五千もついてくる。この五千で今日は使い潰すつもりだとか。

 こちらに派遣されたグラスト術士が赤い灯りで足元を照らす。その中にはアリファマもいて、隣だ。

 敵と野戦するわけではないが、久し振りにやってみたかったというのが理由。待ち伏せという可能性は捨てきれないし、無駄ではない。

「こんな風に先頭に立った事はありますか?」

「無い、です、うん」

「どうです?」

「分からないです」

 アクファルよりは喋るかな? 種類が違うか。

 リュンフェン都南側城門の手前、通常の滑腔砲の射程距離外に到着する。

「全たーい……止れ! ラシージ」

「はい」

「砲撃用意」

「了解、砲撃用意」

 ラシージが復唱し、命令を出して砲兵隊が砲列を整えていく。これはマトラ製の施条砲である。敵がマトラ、ランマルカ水準の大砲でも保有していない限りは届かない距離だ。

 ここまで来たら隠密の意味は無いので松明を各自が灯し始め、篝火も焚かれる。

 こちらを見た南門の敵守備隊が慌しく動いている。暗闇だが、松明が右往左往しているのは良く見える。

 こちらの砲兵隊の動きが機敏なのもあるが、南門の防御施設はまだ稼動していない模様。矢に銃弾が届く距離ではないのでそれは飛んで来ていないし、砲弾もまだ見られない。

 海側と北側からの砲声が一層激しく聞えてくる。竜が港湾火災の明かりに照らされて夜空に浮かび、油入りの爆弾を市街地に投下している様が見える。効果は限定的だろうが、街中至るところで火災が起きればそれで良しだ。見慣れぬ化物、竜を見て怯えて住民、守備隊が混乱すれば尚結構。

 偵察隊による先行偵察の結果をルドゥが伝えに来た。

「どうだ」

「水濠はかなり深い。海と直結で水抜きは不可能だ。壁も探ったが正門以外に抜け道は無い。便所穴もゴミ捨て穴も無い。門前の橋は爆薬を仕掛けたり頑丈な橋脚を切らないといけない規模だから即座には落せない。それから敵は橋を落す発想には至っていないようだ、爆薬も人員も配置されていない。橋そのものは外見にも凝ってる大きな物だから、責任問題からして爆破の判断も現場では容易ではないと推測出来る」

 それは良い話だ。勿体無いの精神を発揮して良い時と悪い時がある。

「橋はそのまま使える可能性が高いな。可能な限り突入するまで維持しろ」

「監視を続行する」

 ルドゥが去る。

 八十門の大砲が整列するのは流石に少し時間が掛かる。弾薬の準備もあるので尚更だ。

 散兵になって周辺警戒を行う部隊からの定時連絡は変わらず異常無しか、民間人排除、のどちらか。上陸地点からは安全確保にも問題は無し、とのこと。異常無し。

「ちょっと行って来ます」

「うん? うん」

 アリファマが小走りに南門の方へ行き、そろそろ敵の大砲の射程範囲内じゃないか? という所まで行き、そして右手を掲げる。右手の上に火の塊が生まれ、回転して変形しながら大きくなって、投げつける動作をしたと思ったら、見事な”火の鳥”になって飛翔し、南門の上部の防御施設に直撃して爆発する。半壊する程にレンガをふっ飛ばし、そして油でも塗ったように炎がこびり付いて燃え続けている。守備隊の悲鳴や怒号も聞えてくる。

 アリファマがまた小走りで戻ってきた頃、砲兵隊の配置は完了した。

 火災の影響か、門の上部が火薬に誘爆したらしく爆発、大きく四散して一部を失う。門自体はまだ健在だが。

「凄ぇ、あれ一人で出せる威力? お見事ですよアリファマ殿」

「あー、セリン提督とかに比べればその、全然です」

「魔族と比較ですか?」

「あー、はい、すみません」

「いやいや、褒めてるんですよ。ベリュデイン総督から奪いたくなるぐらい」

「それはダメです」

「ですね」

 一斉砲撃指示を出す旗手がマトラ自治共和国国旗を掲げ、砲列の前へ、儀仗行進のように足を上げた動作で中央まで行き、方向転換、歩幅を確実にするような歩きで城壁側へ行き、全体を見渡せる位置で回れ右、正対。

 マトラ自治共和国旗、旗竿を脇に抱え、砲撃準備が整って手旗を揚げる部隊を端から順に指差し確認。確認が終わって、旗竿を正面に突き出すように持ち替える。

「照準調整終了次第、信号榴弾による目標の嚮導後、一斉効力射開始」

 ラシージが言って、

「照準調整終了次第、信号榴弾による目標の嚮導後、一斉効力射開始」

 砲兵隊指揮官が敬礼しながら復唱。次に、

「第一斑より照準調整開始、用意次第順に三発撃て!」

 と号令。八十門の大砲が、それぞれに一発撃って調整して、を三度繰り返して今日の大砲の具合を見る。見る次いでに城壁に砲弾を撃ち込む。気温湿度や航海の揺れ、前回の射撃による磨耗で目に見えない歪みが大砲には生じる。これは必須だ。

「第八十班まで照準調整終了」

 それぞれ三発放った後、伝令がやって来て報告。

「了解。嚮導砲兵班、目標への砲撃を行え!」

 と指揮官から号令が出され、選別された施条砲と最も技術に秀でた砲兵による目標への砲撃が行われる。弾種は信号榴弾という特別仕様で、爆発する時に炎色反応を利用した花火が出る。

 それに従って各砲兵が大砲の角度を調整する。そして遂に、

「砲撃開始!」

 と号令。指揮官の隣にいた旗手が赤旗を振り、それを確認した砲列前の旗手が旗竿、マトラ自治共和国国旗を大きく突き上げ、その瞬間に各砲七九門が一斉に火と煙を吐いた。

 重なってとてつもなく巨大になった砲声は骨にも腹にも響き、ほぼ同時着弾した七九発の砲弾を受けた南門の上部構造物、特に頑丈に攻撃的に作られた防御施設――ケイホン市のチャチな造りとはまったく違う重厚感溢れる物――は重なりあった着弾衝撃に耐え切れず崩落。突入準備の砲撃は問題無く成功の兆しを見せた。

 レン朝の主要都市の城門城壁ならば古くても石壁の間に、壁石に比べて小さい石や土を挟んで土手を作っているので恐ろしく分厚く、そう簡単に崩落などしないがやり用はある。

 次々と嚮導一斉砲撃をして残る城壁上部の防御施設を鋳鉄砲弾で叩いて崩し、榴弾も混ぜて爆発で瓦礫を散らして掘り進む。

 頑丈ではあるが無敵ではない、依然として迎撃能力を有する城壁上部の塔等の施設を確実に破壊するための信号榴弾に続く一斉砲撃が放たれ、斉射毎に確実に破壊している。見事である。

「嚮導砲撃? もあれだが、声の号令じゃなくて旗の指示で合わせるのか。面白いな」

「いくら声を張っても環境音、作業音、話し声に果ては鼻を啜る音まであっては確実な伝達は保証されません。ましてや近隣で銃大砲が放たれていては尚更です。また伝言式に号令していっては時差が発生して精密な一斉砲撃には程遠いのです。ならば耳ではなく単純に目での統一を図りました。砲声の巨大化による威嚇効果の向上と、大規模で堅牢な目標への瞬間的な破壊力の向上にも繋がっています。攻城重砲の特徴は変わらず尊重されるべきですが、これで小型砲でもある程度の代用が出来ると考えております」

「十の重さの砲弾を放つ重砲の代わりに、五の重さの砲弾を放つ軽砲の同時着弾でもって同等にするか。お前等以外に真似出来そうにないってところが欠点だな」

「ありがとうございます」

 城門城壁の上部構造物、防御施設や砲台はほぼ、目につく箇所は破壊された。

 続いて砲兵隊の目標は城壁そのもの。とてもじゃないが地下坑道を掘って大量の爆薬を仕掛けて爆破でもしない限りは崩壊しないような城壁ではあるが、表面を崩して登れるようには出来る。

 そして砲身の過熱を水で冷やしてからの一斉砲撃を開始。表面の石壁部位が崩落し、中の土砂がこぼれ出し、壊れた防御施設が耐え切れずに落ちる。これで垂直の壁ではなくなった。

 続いて城門の鉄扉への砲撃を開始。中央正門と左右の通用門三つを狙って砲撃。所詮は動かす事を目的にした物であり、鉄扉にそれを閉じる横木に落とし格子も粉砕された。その向こう側には、闇夜ながら都内が伺える。港湾の火災の影響か橙色の明かりでやや照らされている。

 そろそろ前進する頃合だ。攻城梯子、架橋機材の準備は問題ないか確認させて、そして報告を受ける。勿論異常無し。架橋機材の方はたぶん必要になる事は無いが念の為だ。

 ほぼ無害化した南門へ軍を前進させる。まずは聖戦士団を崩落した門より突入させる配置に付ける。相変わらず落ち着き無く、何というか機敏に? フラついている。気持ち悪い。

 そして城壁の上からの守備隊による攻撃を牽制するために部隊を配置する。未だに生き残る壁の上の守備隊への銃撃が始まり、矢や銃弾――距離があるので届かなかったが、燃える液体燃料が放射されたのが少々恐ろしい――が撃ち返されてくるが偵察隊が射撃に加わり、危なげなく牽制出来ている。

「一掃しますのでお任せを」

「頼みます」

 露払いにアリファマ、グラスト術士達が集団魔術を披露してくれた。

 水濠から霧が立ち上がる。勿論ただの霧ではなく、真っ直ぐ周囲に広がらず、壁のような形になって上がった。そしてその霧の壁が城壁に覆い被さり、城壁の上で生き残る守備隊が悲鳴を上げるのが聞える。

「これはどういった魔術で?」

「”熱い霧”と呼んでいます。熱湯の熱さの霧です。ちゃんと死ねますよ」

「強烈ですね。城壁の裏まで到達していますか?」

「勿論です。言ってくれれば霧を消します」

 これで突入の準備は完了だ。

「消して下さい」

「はい」

 ”熱い霧”が消え去る。やや湿った熱風が吹くが、身体には影響ない程度。

 ラシージは魔術で崩れた城壁内部の砂利に土手部分を崩して更に掘り進め、工兵が攻城梯子をかけて固定して簡易な階段にし、城門城壁の制圧が完了したか確認する歩兵部隊を送り込む。

「一番乗りー!」

「ズルいぞー!」

「僕もー!」

「私もー!」

 ほどなく、城門城壁の制圧が完了したと城壁の上から「残敵無ーし! 制圧完了!」と報告は受ける。これで良し。

「ナレザギー、突入」

「分かった」

 ナレザギー配下の狐頭達が笛でまた怪しげな楽曲を奏でる。聖戦士達は落ち着きを取り戻し、そしてナレザギーが手に持った柄付きの鐘を大きくガランガランと鳴らすと一変。

「ニャー!」「キャー!」「バー!」

 気が狂ったような叫び声を上げて異様にバタバタと素早い走り方で瓦礫だらけの城門へ突入する。あの走り方は何だろう?

 聖戦士団が突入口近辺の守備隊の攻撃を引き受け、そしてある程度領域を広げるのを待つ。

 待っている間に先発して城壁外周を制圧する為に突入する部隊千と、ラシージを中心に門の瓦礫を撤去して後続部隊を突入させる準備をする工兵を配置につかせる。聖戦士の奇声がやや遠くからも聞えるようになったので良い頃合だろう。

「偵察隊先導しろ。先発隊、城壁へ突入!」

 続いて偵察隊を先頭にして崩れた城壁に掛けられた梯子を上っていく。

「前進! 前進! 戦果拡大!」

「人民軍は世界最強!」

 瓦礫塗れではあるが、彼等の動きは素早い。しかし足場が悪くて怒涛のように突っ込むとはいかない。

 突入後、速やかに瓦礫の撤去作業に入る。撤去方法はまず単純に手で運んで脇の方へ退かしたり、水濠に捨てること。

 時間が掛かる作業のようで、これが中々妖精達がやると異様に素早い。城門から放射状に整列し、手渡しで瞬く間に瓦礫を撤去する。大きな瓦礫には穴を開け、少量の爆薬を入れて破砕する等工夫している事は無数にある。

 優先して瓦礫を撤去した正門へ、第二次突入部隊三千を突入させる。

「第二次突入隊、正門より攻撃開始!」

「突入! 突入! 全速前進!」

「人民軍よ永遠なれ!」

 左右の通用門の瓦礫撤去作業も大詰めである。正門の方は大砲が進入出来るように整備するにはまだ少し手が掛かる。

 その内に第三次突入部隊四千を配置につける。

「完了です」

 ラシージが報告に来る。よし。

「第三次突入隊、攻撃開始!」

 今度は平らで進み易くなった道を妖精達が進んでいく。

「攻撃! 攻撃! 敵軍撃滅!」

「人民軍が征服する!」

 全兵力の市街地投入は流石に相手が大都市であろうと過剰なので、安全性を考慮して歩兵五千と大砲五十門は突入させず、脱出路が塞がれないように配置させる。これで補給隊も合わせて一万を外に置く。

 そして二千の歩兵と三十門の大砲と共に、第四次突入隊としてリュンフェン市に入城する。

「第四次突入隊、攻撃開始。我に続け!」

 今更敵の戦列に突っ込む事は無さそうなので、とりあえず刀を肩に担いで進む。

 都内に入れば、大通りは広く、建物が道沿いに所狭しと並んでいる。どこまで家屋を制圧したかの目印としてマトラの国旗が突き立てられているのが分かり易い。

 港湾部が見える通りに入れば、海側は昼より明るい程に大火事である。未だに火薬へ引火をしているようで、時折砲撃とは関係ないような爆発が起きている。ナサルカヒラ兵にスライフィール海兵隊、そしてルサレヤ閣下、グラスト魔術戦団本隊にガジートに獣人奴隷や手勢が混乱している港湾部から上陸して攻め上げているのが見えて、そしてガジートの雄叫びと、炎の赤とは違う電撃の白い閃光に爆音が響いている。

 道を進めば聖戦士の死体がそこら中にあって、守備隊の死体も住民の死体も大量に転がっている。守備隊を圧迫こそしているが被害は尋常ではない模様。こういう被害担当部隊が使えるのは気が楽で良い。

 マトラ人民義勇軍は高所低所に散らばって、霧のように広がって市街地を制圧。ケイホン市に比べて家の数も多く、団地も大規模で、高級住宅地もあの田舎とは桁が違って制圧が容易ではない。以前は住民の追い出しという仕事があったが、今回はそれが省略されている分は早さに繋がっている。

 省略となっているので住民の排除は行われている。

「女の腹をたったっけー!」

 逃げる女の横腹を銃床で殴って倒し、銃剣で刺し殺す。

「子供の脛をくっだっけー!」

 腰が抜けて泣いている子供の脛を棍棒で砕いてから頭を砕く。

「井戸には老人! あれ、井戸どこー?」

 怯えて縮こまっている老人には銃剣が刺された後、襟首を掴んで引き摺られて水路に落とされる。

「貴族は肥溜め! 肥溜め? まいっか」

 身形の良い太った男は腹を蹴られ、頭を蹴られて銃床で殴られて動かなくなる。そしてその殴った妖精が小便をかける。

「門には赤子を吊り下げろー! 門無いねー」

 頭を銃撃で吹き飛ばされた母から取り上げられた赤子が、自らが着ていた産着で首を絞められて家の軒先に吊るされる。

 こちらが市街地に投入した兵力が一万を既に突破しているという理由も大であるが、敵方の守備隊の体制が戦時には程遠かったのも快勝の原因だろう。包囲されて何日も経ったというわけでもなく、ほぼ無警告の状態で夜襲を受けてしまっているのである。市街戦の準備どころか、民兵の召集も、正規の守備隊の召集すら出来ていないはずだ。その正規の守備隊だって満足に武器を手にしていたか、銃火器の整備をしていたかも分からない。彼等に与えられていた警告は、数日前に襲撃されたケイホン市の惨状と、昨日の東防艦隊への襲撃である。大城壁の後ろで安寧としていた者達がどれ程危機感を持っていたかは知らない。

 砲兵隊は大通りに出て射程距離内を制圧する。守備隊がまとまった兵隊を揃えて、いざ迎撃と張り切っているところへ榴弾が直撃してそいつらの体も隊列もバラバラにしてしまう様は笑える。

 ここまでの大都市になると市内でも門や壁があったりするので大砲が活躍する。それから都政府施設等の大きくて造りがしっかりした建物相手にでもだ。大体が大砲の使用は想定されていないので問題無く壊れる。

 暇に耐え切れなくなったアクファルも妖精達のように屋根に上り、そして矢を放つ。猛烈に連射する程に敵が見当たらないので放つ回数は少し。

「アクファル、無理しない程度に行っていいぞ」

「ありがとうございます」

 妖精達と一緒にアクファルは夜の市街地へ消えていく。

 都内の内城壁はラシージが魔術で地面を掘り、爆薬を仕掛けて崩壊させる。大砲をわざわざ持ってこなくても手早く攻略出来るのならそうするに越した事はない。大砲は通りの制圧に効果的なので別の仕事に回すのは避けたいところ。

 我々に随伴しているアリファマとグラスト術士達に内城壁に守られた城への攻撃を行わせる。彼等は歩く大砲、いや魔術使いか。とにかく手の内に欲しいぐらい。

 歩兵を集めて火力を集中させて集団魔術発動の援護をさせる。敵も魔術使いがマズいと分かる頭はあり、兵士を集めてくるので射撃で対処する。聖戦士と妖精が市街地に大きく浸透して攻撃をしているおかげ敵の守備隊は出払っているようで、慌てて集結させている様子は伺えるが如何せん少数だ。

 ”火の鳥”が飛んだ。もはや砲撃と言った方が良い威力でリュンフェンの城を破壊して燃やす。アリファマ単独ではなく集団魔術となっているせいか、何羽も”火の鳥”が飛ぶのは圧巻だ。内城壁と城までにある建物は全て吹っ飛んで燃え上がり、都合良く火は道へはみ出ず、そう操作されているようで、突入経路が開けた。

 クセルヤータと合流したアクファルが航空射撃で城の上に配置されている守備兵へ弓矢で射撃を食らわせて殺していくのが見えた。

 難民発生が狙いなので虐殺は避けるべきだが、都市の規模が大きいので仕方がない。住民の自主的な避難が頼りなのだが、してくれるか怪しいところではある。

 北側から水路伝ってギーリス四兄弟姉妹の陸戦部隊が突入したと伝令が報告に来た。テバン城の兵力を下したということか。目下の敵の増援は防いだと見て良いか。

 降伏する相手がいなくなっては鎮圧が面倒なので突撃を敢行する。

「城へ突入だ! 大将を生け捕りにしろ、殺すな!」

『はーい!』

 刀を担いだまま城へ突っ走る。妖精達、拳銃と棘付き棍棒で武装した突撃兵、小銃と銃剣を持つ歩兵がついてくる。アリファマに、グラスト術士達。白兵戦も出来るのか?

 拳銃で敵兵を撃ち殺し、ヤケクソなのか剣を持った官僚を剣ごと刀で切って両断。

 突撃兵の白兵戦は素晴らしいものがある。それぞれに拳銃を四丁持っているので、廊下で敵の集団と遭遇した時など複数で乱射してしまえばあっという間に皆殺しだ。それに棍棒が良い。扉に鍵が掛けられていたり、内側から横木が掛けられていても殴って破壊したり、頑丈であっても扉に穴を開けて手を入れて外す事が出来る。

 突撃兵でも手に負えないものはある。鉄扉等は流石に殴って突破は出来ない。そこで工兵の出番。爆薬で吹っ飛ばして開けるのだ。鉄扉ではなくても敵の気配がある扉は爆薬で吹っ飛ばして開けるのがよろしい。中の人間は爆風で吹っ飛んでいたり、そうではなくても爆音で混乱していて簡単に殺せる。

 狭い城内だと少し歩兵達の活躍は控えめ。それでも施条式小銃の威力、貫通力は素晴らしく、一発で二人を殺す事も狭い城内ならでは。狭いながらも廊下で戦列を組んで、一斉射撃の後に銃剣突撃を食らわせれば大体敵は負ける。

 屋内でこそ手榴弾は活躍している。部屋に突入するまえに点火して放り込めば非常に優位に立てる。時々投げ返されるが、そこはしょうがない。無傷で勝利等ありえない。

 アリファマとグラスト術士達だが、屋内戦闘も問題ない。一緒に焼けたら馬鹿を見るので炎は使わなかったが、酷い炸裂音のする衝撃波の魔術を使っていた。敵が篭る部屋にそれを放てば、中にいる全員が目や耳から血を流して倒れている。

 アリファマが魔術を使っている暇も無く白兵戦をする時は、何やら斧のようにゴツい短剣で叩き潰すように敵を切り裂いていた。しかもそれは鎖付きで、振り回して扱えば一挙に屠る。中庭のような広い場所じゃないと使えないが、使えば凄かった。加えて魔術を付与か何かしているのか、短剣の軌道が手で操る範囲を越えていた。

 そんな感じで城の中で壊して殺しまくっていたら、偉そうな爺さんが土下座して降伏して来た。天政官語が通じる通訳が先頭集団である我々に追いつくまでの時間は短いようで長かった。これは重大な事態だ。

 通訳を通じてリュンフェン都公だという爺さんから降伏を受け入れた。まずその布告をするように言う。守備隊の降伏を確認するまで警戒は必要だ。

 お互いに血眼になって殺し合っている現場を収めるのは大事である。互いに通訳を通じ、伝令を走り回らせて都内全域に決着がついた事を触れ回らせる。

 

■■■


 降伏をお互いに末端まで行き渡らせるのには時間が掛かった。それこそ不眠不休で昼まで掛かってしまった。当日内に撤退をしたいので少々、余裕は確かにあるけれど、予定と違う。

 まずは都市住民を全て城壁の外に追い出すのだが人数が人数であり、人口が百五十万だと言うのだから相当無理が働いた。だから他の作業は同時進行であり、邪魔をする者は容赦なく殺した。住民蜂起に近い形での騒乱は各所で起こったが、通りを制圧するように配置した大砲と、高所から狙撃する妖精、魔術使い達の魔術、竜跨兵による上空からの偵察と威嚇が良く効いて鎮圧出来た。

 建物を全て焼くのは規模からして難しいので、とりあえず目につく所全てに火を点けさせる。

 爆薬は都内の橋の破壊に使う。リュンフェンは水上都市のような性格もあるので橋は崩した方が良い。ただ軍の移動があるので計画的に、である。

 備蓄食糧は残らないように徹底的に焼く事は勿論行う。何分量が多いので水路に捨てるだけでも一苦労だ。それに水を吸った米が膨れて水路を詰まらせた事もあった。一応、それも喰えないように糞尿や泥を被させた。

 家畜は勿論皆殺しだが、焼くのも海へ捨てに行くだけでも大変なので水路への投棄が多くなる。

 貯水施設には全て糞尿、死体をぶち込む。井戸は土地がら真水が出ないので無いのだが、水道橋があるので壊せるだけ壊す。

 狩猟道具に漁具も焼く。ケイホン市と違って近隣にまだ都市があるので武器は全て廃棄で良いだろう。

 そして金目の物は奪うのだが、それがまた凄い量だ。流石は大都市である。ルーキーヤが「黒字黒字」と笑っていた。

 焼けない所にはマトラ人民義勇軍への対価でもあるマトラ自治共和国国旗を立てるのは忘れない。これは絶対だ。

 焼き討ち船の自爆攻撃で半壊したリュンフェン港であるが、ちゃんとトドメを刺すように船や桟橋を焼いて爆破した。

 それ等大戦果を持って我々連合艦隊は撤退した。

 流石に連合艦隊全体が初動からの作戦期間を通算しての黒字になるほどの財宝は無かったが、相当な額ではあった。賞金分配額の凄さに、寝返ったばかりの旧レン朝海軍船員が大はしゃぎする程度に。

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