第79話「継承」 ファルケフェン
先の惨敗にかかわらず、パシャンダ皇帝はまだまだ戦う気でいる。追加の戦争税徴発のみならず、更なる徴兵令が大々的に出されている。徴兵拒否から、あからさまな代わり身、徴募官への襲撃、徴兵反対暴動、父母による”息子達の奪還”まで起こっている。
レン朝は”お行儀の良い”軍で、蛮行の話など噂が立つか立たないか程度であるが、問題はガダンラシュ高原で行われたアギンダ軍に対するジャーヴァル帝国軍の蛮行である。目を刳り抜かれて腕を潰され、ダルマフートラが完全に破壊されて住民が根こそぎ殺されたという噂でもない事実が話としてパシャンダ全体に広まり、厭戦感情として広まっている。
ロシエ人の感覚ならば、そのような虐殺が行われたのならばむしろ敵対感情が煽られ、絶対に侵略者を許すな! と盛り上がる所だが、ここでは違う。虐殺されたのは言葉も種族も土地も価値観も神も違う他人なのだ。あの連中のようにはなりたくないから戦いたくない、という厭戦感情に結びついた。パシャンダ帝国という生まれたての若過ぎる共同体がまだ、全く共同体意識を人々に芽生えさせていない結果であろう。
レン朝軍を相手取るのは明らかにパシャンダ帝国にとっては過大な負担。本来の敵であるジャーヴァル帝国だけを相手にして戦うのが良策だと思うのだが、パシャンダとジャーヴァル共通の、戦争中でも外敵を共同で撃退する伝統が邪魔したと言って良い。
レン朝を撃退したと仮定しても、独立を認めぬ、徐々に軍が復活してきているジャーヴァル帝国がまだいるのだ。更に勝利して独立が叶ったと仮定しても荒れた国が待っているのは明白。そうなったら今度は領内での反乱が待っていて、折角帝国にまとめたのにまた分裂、となる未来が想像出来る。
その未来を回避するための、レン朝との和平条約の交渉がタスーブ皇太子主導で進行した。パシャンダ皇帝に話を通したかも個人的に怪しいと睨んでいる。そのタスーブ皇太子はというとあのナックデク藩王国の野原で行われた和平交渉以来、陰気な表情のままだ。
何をお考えか? その考えまでは不明だが、ネフティ女史は手紙の――内容は軍の再編に関するものと、そのお考えと推測――配達人として忙しく活躍中で、警護役である自分とその会社軍も行動を供にした。
ネフティ女史の乗馬の腕も上達して、長距離行動も荒い道を越える事も段々と苦ではなくなっていった。日に日に行動範囲が伸びて行くのは――不敬ながら――自分が育てたような感覚になってしまう。乗馬の手解きをしたのは正解だった。
そんな中でちょっと……かなり嫌な仕事が舞い込んだ。アギンダ軍支援の為にネフティ女史が代表として支援物資を送ることになったのだ。手紙を送る次いで、のような気楽さではない。今アギンダ軍は、ジャーヴァル帝国が作ったガダンラシュ藩王国と抗争中だ。両軍に盗賊――全く区別が無いだろうが――が抗争している最中へ、脂ぎって旨そうに見える補給物資を抱えて向かうのである。両軍、地元住民含めて、自分の知識ではその全てが躾のされていない獣のごときである。戦場へ出立するような危険行為であり、それなりに備えがいる。
グナサルーンにてネフティ女史と会社軍、補給部隊車列と護衛部隊を揃える。
タスーブ皇太子が手を回してその護衛部隊が随伴する事になったのが不幸中の幸い。どうやらこの危険な仕事は、ネフティ女史を良く思わぬ皇族の遠回しな嫌がらせ、むしろ暗殺であるらしい。下手をしたら会社軍だけで守る事になっていたかもしれないのだ。恐ろしい奴等だ。
■■■
出発した車列は長く、タスーブ皇太子の助力でそれに見合うだけの護衛も多い。これがレン朝対策ではなく、盗賊対策である事に対して頭が痛くなりそうだ。
道中に、時折民間人が賊討伐の依頼を持ち込んでくる事があった。混乱して疲弊したガダンラシュ高原からは今まで以上に、土地を捨てるように盗賊が輩出されているらしく、言葉を柔らかくすれば、移住者が出ている。村ごと乗っ取って居座るという話もあった。
ネフティ女史と補給部隊を送り届けるという仕事に影響が出ない方法で何とか助けられないかと考え、会社軍の一部でその村を取り囲み、己単騎でもって助力を懇願して来た者を案内役に突撃して族を追い払った。時には会社軍の”実戦演習”と銘打って行動にも出た。本来の我々ではないかもしれない。
パシャンダ帝国には都市と軍事拠点、その周縁部以外には警察組織がほぼ無いに等しい。小競り合いを続けるように我々はガダンラシュ高原へ向かった北上した。
半月後、ガダンラシュ高原南、旧ザシンダル藩王領域、パシャンダ皇帝直轄領北縁の要である城塞に到着。
かつてはガダンラシュの盗賊を防ぐ目的だった城塞が、今ではその盗賊を支援する基地となっている。
追加の護衛部隊を伴う事が出来た対価の一部でもある、城塞用の補給物資を引渡す。内部事情が絡んだ駆け引きであろう。タスーブ皇太子の手腕というか、苦労に同情する。
城塞の将兵には勿論歓迎され、ちょっとした宴席が設けられた。道は長い、休息が必要だ。
その城塞を出発して数日、ガダンラシュ高原の領域である目印となる砦に到着。この砦からはパシャンダ帝国外である。アギンダ軍は名目上服属こそしているが、パシャンダ帝国には合邦されていない。
砦に到着したは良いものの、砦の守備隊長から暗に賄賂を要求されて足止めをくらって、砦の外で野営地を築く事になった。
賄賂というのは、補給物資を今受け取るのと、中央が受け取ってから再度送られてくるのでは二度手間、というのが守備隊長の言い訳である。ネフティ女史が交渉にあたったが、その受け取るべき補給物資の内容が相当に”吹っ掛けている”としか思えない程で、言葉通りに渡す訳にはとてもいかない。
野営中に砦の兵士と酒を飲んだりして聞き取りした限りでは、この砦は争いの少ない南部にあるので重要性が薄く、アギンダ軍の中央からは物資があまり供給されていないらしい。それこそ、周辺から略奪窃盗でもしないと飢え死にするぐらいに扱いが不当であるそうだ。ガダンラシュ高原の貧しさが伺える。
だが我々はアギンダ軍臨時首都ヤザハに送るのが使命であり、そんなことは知らないのだ。ここで砦と睨めっこをしていても、我々を支える食糧が欠乏してしまうだけだ。持久戦をする訳にはとてもいかない。
困ったときの暴力。通さないのならば力で開く。
近くで木を一本伐採し、枝葉を切って加工。力自慢を集めて、砦の門へ向かって突撃をして閉ざされた門をぶち破って道を開いた。
交渉は飴と鞭であるという。門の弁償代として、ネフティ女史が身につけた宝飾品を守備隊長に渡す事によって問題は全て解決され、案内先導役までつけてくれた。宝飾品は身を飾るだけではないのだ。
砦を通過し、ガダンラシュ高原、アギンダ軍領内を進む道中、幾度か盗賊に襲撃されて死傷者が続出した。時には村ぐるみ町ぐるみ、女子供老人まで襲ってきた。これでもアギンダ軍に支援をするというのか? 馬鹿ではないのか? と思わず言いたくなる。馬鹿らしいからその辺に補給物資を放り出して帰ろう、と声高に叫ぶ者は日に日に珍しくなくなる。
アギンダ軍直属の部隊がそんな盗賊から我々を守るために派遣されてきて、それをネフティ女史が偽物であると看破して捕らえた事も一度ならず二度あって、今度こそ本物が現れたという事もあった。偽物と本物の見分け方はというと、機嫌が良くて身形が比較的良くて若々しさがあるのが偽物だという。アギンダ軍は補給を疎かに考えていて、基本的に無い物は奪え、という思考である。重量物を運ぶのに一線級の兵士を寄越す事は無いというのだ。であるならば、奪いに来た者達が上等な兵士達というのは納得出来る。ロシエでは考えられない。
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我々はやっとの思いで、血の臭いを嗅ぎながらアギンダ軍臨時首都ヤザハに到着した。山城と城下町が細々とある軍事的な拠点である。守りは堅固であろう。
物資を運び入れ、盗賊を引き渡す。盗賊と兵士、民間人の見分けがつかないのが何とも言えない。引き渡した賊達が、当然のようにその場でヤザハの兵士達に身包みを剥がれ、奴隷として価値があるか検分され始めたのには驚きを通り越して呆れた。
自分はネフティ女史の直衛につき、ヤザハの城へ入る。城の兵士に案内され、謁見場に通されてアギンダ軍統領ハバガルに面会した。
言葉少なく「遠路遥々ご苦労である。城に泊まって旅の疲れを癒されよ」と言って、それからネフティ女史がタスーブ皇太子からの手紙を渡して謁見は終了した。水を入れた鍋を火にかけて湯気が立つ程度の時間もかかっていなかっただろう。
ハバガルの姿だが――獣人の顔は分かり辛いが――相当に弱っているように見受けられた。体には力強さも覇気も無く、呼吸が辛そうで、毛艶? が悪かった。片方が無い狐頭の耳も先が垂れていて、手紙を受け取る指の足りない手は僅かに震えていた。
城に宿泊中にネフティ女史から統領の”寸評”を聞いたが、息子の死を知る前からは考えられないくらいに老けているらしい。唯一残った血筋による正統後継者が死んだのだから、部外者としてはアレで? と思ってしまうが、辛かったであろう。
ここまでの道中が嘘であったかのように静かにヤザハで疲れを癒しつつ過ごして三日。グナサルーンへ戻る。補給物資と一緒にロバや牛に車毎引き渡したので、人と旅糧を運ぶための家畜と車以外は無いので非常に身軽になった。
ヤザハで過ごして感じたが、臨時首都のような場所ですら空気が陰惨であった。あの悪魔将軍が、アギンダの都ダルマフートラの住民十万人を一人残らず虐殺したという話は、住民からは恐怖を持って語られた。それに付随する虐殺、拷問、略奪、焼き討ちも凄惨を極めたと言う。実際に、目が無くて腕が潰された者が手を引かれて城下を散歩している姿も、崖下へ投身自殺、突き落とされる姿も見てしまった。
出発する日まで、盗賊行為に対する統領ハバガルからの正式な謝罪も無かった。もはや上も下も機能していない。酷い所だ。
帰り道は、襲ってきた盗賊を撃退したせいか一度も襲われなかった。危険を冒してまで奪う物資を持っていなかったのも理由であろう。そのような情報がそこかしこから漏れているという証明でもある。
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行きより遥かに早くグナサルーンに帰還した。死傷者の後始末が辛い。戦いに出たならばまだしも、これでは全く名誉も何も無い。自分が始末をつけたいが、ネフティ女史を送らねばならないので会社軍の仲間達に任せた。
門衛である近衛宦官兵に武器を預けて、ネフティ女史と後宮に戻る。
出入りするようになって見分けがつくようになったが、後宮は複数に分かれていて、建物が一緒になっているように見えてもそれぞれに”縄張り”がある。それを知らずに領域を跨いだ時、警邏している近衛宦官兵に素早く止められたものだ。
タスーブ皇太子と、そこにネフティ女史が間借りさせて貰っているという体裁の領域に入る。ここの近衛宦官兵と女官に、飼育動物達とも既に顔見知りになった。挨拶も自然。古株の女官が、自分の為に作ったという寝巻きまで見せてくれるのだから、何だか我が家のようにすら思ってしまった。
デカい猫、虎のタタルが、吹き抜けの二階から音も無く飛び降り、恐ろしげに喉を鳴らしながらこちら二人に体を擦りつけに来た。
道中、社交用の作り笑顔しか見せていなかったネフティ女史がやっと自然に笑ってタタルの首や胸を撫でる。
「タタル、ただいま」
ふとどうでもいいことを思いつく。
「タタラルとタタルって名前似てますよね」
「実はタタラル藩王からの贈り物なんですよ。私が名前をつけました。当時は小さかったので、安易でしたけど」
ネフティ女史の幼い頃を何となく想像してしまって、とりあえずタタルの頭を撫でる。撫でると、タタルがこちらの両肩に腕を乗せて圧し掛かってきたので、抱き上げて、頭を脇の下に通し、左肩に担いで歩く。
「行きましょう」
「わっ、凄いですね」
ハハハ、フフフと笑う。タタルがウゴォっと軽く唸る。
合わせた体重はどれくらいか分からないが、床を踏む足音が聞いてはっきり分かるくらい鈍くて重い。擦れ違う近衛宦官兵が女官が、驚いて笑う。
タスーブ皇太子の部屋がある廊下の曲がり角手前で中庭に出てタタルを下ろし、服についた毛を払う。
「大丈夫です」
「はい」
じゃれついて欲しいのか追ってくるタタルの頭を手で押さえ、近衛宦官兵に代わって貰う。
タスーブ皇太子の部屋の前で「ネフティです。皇太子殿下、よろしいでしょうか?」とネフティ女史が問い「入れ」とタスーブ皇太子が、声音から既に不機嫌であると言っている。
ネフティ女史の斜め後ろについて部屋に入る。そしてタスーブ皇太子は開口一番。
「陛下が、レン朝が仲介するというパシャンダとジャーヴァルの和平交渉を拒否すると言った」
前にタスーブ皇太子の護衛として、野原でレン朝軍の交渉役――可愛らしい若い女性だったので流石に代表では無いだろう――との会話では、単独和平という話だったはずだが……仲介役がいた方が良くまとまるような気がするのは素人判断か?
「お話だけでもされるよう……説得しても陛下は聞きません……聞かないですか」
ネフティ女史が自然と俯いて喋る。
かなり高度な政治的な談義になりそうだ。帰還報告程度に思っていたのだが、席を外すべきか? しかし口どころか足を動かすのも憚られるので動けない。
「既に人の話を聞くような顔ではなくなった。敗戦以後、急に叫び出す、物を壊す、殴る、抜刀、まだ斬り殺してはいないが。ああそうだ、ルジャミー夫人が病死扱いされているが、夜のお相手中に絞め殺されたそうだ」
「まだ十五歳になったばかりなのに……」
レン朝軍に対する敗戦が余程、英雄思考の皇帝に衝撃を与えたかが分かる。もう暴君と化してきているのではないか?
タスーブ皇太子が、こちらの思考を読んだかのように視線を合わせてきた。
「古来から世界中にはある伝統がある」
「伝統ですか?」
「ああ」
ネフティ女史に……? いや、自分に喋ってきている。不穏だ。
「少し昔を思い出せ。西部三藩が初めて侵略された時のこと。タタラルは一体どうした?」
「王子が王を売り、国体が維持されました」
受け答えはネフティ女史だが、話は明らかに自分へ向けている。ネフティ女史が、半分だけこちらに顔を向けて、大きく目を開いてから、タスーブ皇太子へ顔を向き直す。
「宦官兵共は皇帝に忠誠を、盲目的に誓う。彼等は武術に長ける。武器を持ち込めない後宮の事情に則して、徒手格闘に優れる」
門衛を除き、後宮にいる近衛宦官兵達は武器を、棍棒すら持たない。女官も包丁や針すら持っていない。刃物が必要な料理は全て後宮の外で行われる。
「軍もやはり皇帝に忠誠を誓う。風向きには感応するが、強い風でなければなびかない」
指揮権の問題である。軍は上層部に従うように出来ていて、これは世界共通。指揮系統外から指揮されて動くようでは軍とは言えない。基本はそうである。
「女官どもに大義は理解できない。流されるまま、賢く生き残るべく生き残る」
使用人達に政治的な事へ対して犠牲を要求するのは酷である。
「”傘の下”の権勢程度では”タタラル”は不可能。後宮は許された者しか入れず、その権勢では不可能。後宮外には軍がいて、外から招く事も不可能」
嫌な予感しかしない。脂汗が出ている。
「だからガンドラコ卿、君がネフティの護衛になるよう仕向けた」
「お兄様」
タスーブ皇太子がネフティ女史の肩を掴んで、彼女越しに相対する。
「君の噂を聞いた時、閃いたものだ。事実確認をした時、するしかないと思った。君ならば、近衛宦官兵を皆殺しにさえ可能だろう」
「言っては……!」
いけません、と続ける前にタスーブ皇太子はネフティ女史の肩を掴む手に力を入れる。
「お前は、タタルの側にでもいれば騒ぎは凌げるだろう。アレはお前の”猫”だからな」
虎をネフティ女史に懐かせたのすら陰謀に思えてくる。ただの飼い猫でも、家の子供を守る為に行動を起こすことがある。兄の娘、姪を守るために屋敷で飼っている猫が、迷い込んできた野犬を追い払った事がある。虎ならば武装した敵兵士を殺すことも出来るだろう。
「ザシンダルが”砂漠”になる前に戦争を終えるにはこれしかない。あの、夢見がちな父に講和の仕事は出来ない。最後まで征服しに行くか、城に篭って討ち死にするか、そんな夢を見てにやけている馬鹿者だ。父の首を頭金に”ザシンダル藩王国”はジャーヴァル帝国に降伏する」
言い切った。皇帝暗殺の陰謀を、言い切った! もう味方につくか敵になるかどちらかしか選ばせない気だ。今、皇帝にこの事を告げ口すれば、恐らくタスーブ皇太子は、正常な判断力を失っているであろう皇帝に処刑される。恐ろしい話だ、親子が殺し合い、そして自分は誰かを陰謀で殺すしか道が全く無い。兄よ、私はとんでもない異郷に来たぞ。
「報酬というわけではないが、好き合っているのならその通りにしたまえ。横から出る口は私が塞げる。付け加えれば、父は口を塞いでくれるお方ではない」
タスーブ皇太子が、ネフティ女史の両肩を掴んで、こちらへ向けて回す。困惑しているネフティ女史の黒い瞳が何時もより大きく見える。
そして陰謀を明かすからにはもう、裏切られない準備はついているというわけだ!
「時が来るまで待っていろ」
タスーブ皇太子が外へ出ろと手を振り、退室する。
その後、ネフティ女史の仕事の予定表は白紙となり、ヤザハへの旅で大変に疲れているという体裁が取られて実質の休暇となった。それでしばらくグナサルーンに滞在する事になった。会社軍の皆にも一旦、交代でナギダハラに帰して休暇を取らせた。彼等を陰謀に巻き込む事は避けたいとは思うが、しかしそんな段階には無い。かと言って相談は不可能である。陰謀を明かせないのならば、せめて家族の顔を見せにいかせて、会社とタスーブ皇太子に特別報酬や勲章の授与、昇給の要請を出すだけである。彼等と自分とネフティ”殿下”の絆を思えば、陰謀を明かしても良いのではないかとすら思えてくるが、陰謀は知る者が少ない程成功率が高い。
■■■
休暇となって暇になったある日、グナサルーンの神聖教会へネフティ女史に誘われて出向くことになった。
以前に伺った時にいたロシエ人の老神父はお亡くなりになり、改宗した現地人が新しい神父になっていた。
聖なる種が刻まれた壁の前で跪いてお祈りをするのだが、何を祈って良いのか分からない。まさか聖なる神に皇帝暗殺の祈願等出来ない。
ネフティ女史も、跪いてはいるが目も閉じず、合掌もせずにいる。
二人で、訪れる者の少ない教会でしばらく黙っている。神父は、出かけるのでしばらく留守にすると言って出て行ったきり。
人を寄せ付けない古代遺跡にあり、信者の少ない神聖教会のせいか、風が窓を鳴らす音に鳥のさえずりが混じる程度にしか聞こえない。
「平和が訪れたら二人の関係を考えていきましょう。今は難題が多すぎます」
ネフティ女史が静かに言う。
祖国、家名、名誉、否。
「私のこの燃える魂に懸けて」
躊躇したが、そっとネフティの手に手を重ねる。その手の上に、更にネフティが手を重ねた。
「大きな手ですね」
今はこれが限界だ。灰になってしまう!
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