第71話「ガダンラシュ侵攻」 ベルリク

 ガダンラシュ高原の標高高い土地は、当たり前に結構寒い。季節も冬に近い。

 毛皮を外套の裏地に貼る。これだとやや暑い、微妙な季節だ。ただ、これからまだ高地に入っていくから丁度良いのか?

 アクファルは長い白黒毛交じりの帽子を被っている。

「もこもこだな」

 帽子越しにアクファルの頭を撫でる。

 取り立てて相手はいないのだが、嫁にやりたくねぇとしか頭に浮かばない。男が出来たら躊躇無く殺せる気がしてならない。

 でもそのまま行き遅れになるのは忍びない。今になって後悔する。やり方に工夫はあったはずだ。

 あの”死の風”が吹いたあの日、イスハシルを拉致すれば良かったのだ! 花婿強奪の方が凄いし、後のためにもなった。今この傍にイスハシルがいたらと思うと切なくなってくる。

 知り合いに良い男はいないか? ウラグマ、イシュタム、ガジート、ナレザギー、ラシー……ジ? 人間がいないな。ファスラは違う、住む世界も違う。

 少年騎兵達は同じレスリャジン氏族だ。いくら有能でも同氏族婚は慣例的に良くない。どうにもこうにも出す所が無くなった時しかない。

 トクバザルが言ったように自分? それは緊急避難策。緊急避難が終わったら離婚する程度の方便もの。

 戦線は違うが、ジャーヴァル帝国本土側に良いアッジャールの男がいるかもしれない。

 嫁にはやらない。アクファルは身内としてだけじゃなく、部下としても絶対に手放したくない。戦局次第であるが、婿狩りを考えねばならないな。良い男はいねぇか?


■■■


 少しずつ標高の高い所へ、ややゆっくり進む。兵士達を寒くて空気の薄い高地に慣れさせるためだ。冬の訪れを待つ形にはなるが、本格進出は春になってからだ。冬季戦訓練もしないといけない。補給路確保の為に順次街道は整備している。

 低地の方で大量の薪を現地人に生産させているので燃料には事欠かない。

 焚き火を囲んで座って、ラシージを股に挟んで食事。

 川がある所で宿営しているので贅沢に水は使える。

 寒いところでこそ香辛料たっぷりの鍋は美味い。肉はルドゥが獲って来た鷲だ。鷲肉なんて初めて食べる。

 しかしラシージと飯を食うのは何やかんやで久しぶりだ。最近になってようやく本業が落ち着いたお陰だ。

「ラシージ、美味いか?」

「丁度よろしいかと」

「おう、そうか」

 やっぱりラシージは良いなぁ。


■■■


 雪がチラチラと降り始めた。大分高原側へ進出したが、この辺りはまだメルカプール藩王国の領域である。しかしアギンダ軍の兵士がウロウロしている場所でもある。

 カイウルクが馬を三頭と、手を縄で縛ったアギンダ兵を引っ張ってきた。そのアギンダ兵は引き摺られないように頑張って走ってきたらしく、心臓が爆発しそうなくらいに息を荒げ、毛が濡れるくらい汗をかいてヨロヨロになっている。寒さでその毛も凍りつき始めている。

「親父様、一人だけだけど殺さないで持ってきたよ!」

「よくやった。欲張ると死ぬからな、良い判断だぞ」

 カイウルクの少年そのものの顔をグニグニ撫でる。


■■■


 寒さに枯れて雪を被って眠っている高山植物を踏みつけながら、領域の境にある砦に到着する。

 メルカプール藩王国の臣下でありながら、アギンダ軍に貢納をしていたこの地の領主が、狐頭のアギンダ兵の首が満載された荷車を並べて出迎えてくる。首は既に凍りつき、首の断面の血の色も目立たなくなってきている。

 領主も戦ったのだろうか、不慣れに杖を突き、右腕が無く、治療して間もないように見える。

「殿下、お待ちしておりました」

 ナレザギー王子は身軽に下馬して領主へ近寄る。領主が不器用に膝を折ろうとするが、ナレザギー王子は肩を抑えて止める。

「長い間ご苦労をおかけしました。王に代わりお礼申し上げます。損失分は必ず補填しましょう」

「お願いします。我々は既にどちらかが滅びるまで戦う宿命となりました」

 ナレザギー王子とナシュカに習っている、ジャーヴァル北部貴族間で良く使われるナシャタン語は大体聞き取れるようになってきた。喋るのはまだ辛い。ナシュカに「犬の屁の方がマシだ」と言われた。

 しかし領域の境にいる領主とは辛いものだ。両天秤にかけねば自分の命が無い、

 ここは今後、第十五王子義勇軍の補給拠点となる。余分に連れて来た兵を守備隊として配置する。


■■■


 我々は陸路補給線のみならず、ジャーヴァル帝国勢力圏全体を脅かすアギンダ軍を無力化するのが目的だ。

 アギンダ軍はガダンラシュ高原に根を張る部族連合体。アギンダとは初代統領の祖父の名である。このまま順調にアギンダ軍が伸張すれば、アギンダ部族のアギンダ王朝とでもなろう。

 ガダンラシュ高原はジャーヴァルを東西南北に分断する位置にあり、交通の要衝であって同時に要塞である。

 アギンダ軍は山賊に毛が生えて絹を着せたような輩である。そしてジャーヴァルを、地理的優位を生かして縦横無尽に略奪して回る大悪党。

 こいつらがいるせいでジャーヴァル帝国は警備兵力を割かねばならず、ザシンダルやアッジャール残党へ全力を傾けられない。勝利以前に、戦争継続のためにはアギンダ軍の無力化は必須である。であるならば実行する。

 編成を完了した第十五王子義勇軍でもって行動する。総兵力は二万まで膨れた。武装も補給部隊も十分。アッジャールの侵攻からは比較的被害を受けていないメルカプール藩王国と、アギンダ軍には痛い目を見ているジャーヴァル帝国本土からの物資輸送の目処は立っており、ゆっくり進んだのはその補給路の整備の時間が取れていないこともあった。

 冬季の攻勢作戦は無謀なのは常識だが、その冬が過ぎた後の春季から初冬までの期間は長い。焦らず確実に行くならば、冬は準備期間だ。その間に西部方面が敗れたら、まあしょうがない。

 栄誉薄い賊軍の虐殺は僕等のナレザギー王子が行い、ザシンダルの大軍がいる西部方面での栄誉は彼等の長兄王子に移る。これは予定通りの事だ。

 こちら第十五王子義勇軍がガダンラシュ高原に去って、メルカプール藩王軍以外に主導権を握る軍がいなくなった。ナガド藩王は病床で指揮は執れず、適格であろうガジートは所詮は軍事顧問なので出しゃばれない。ビサイリ藩王は前線に出る人物ではない。まだ八か九歳だったか? アウル藩王はあらゆる意味で別格。

 栄誉を十分に得られる土壌は整っているが、それが悪かった。気負い過ぎたか、ケジャータラ南の会戦でその長兄王子が初戦で敗北した。致命打には至っていないようだが、痛手は痛手。補充要員の乏しいジャーヴァル帝国軍としては看過出来ない痛手だ。

 恥部は報告したがらないもので、メルカプール藩王軍からは事務的な敗戦と被害の報告におまけがついた程度。チェカミザル王からの手紙ではナガド軍、ビサイリ軍は陽動に釣られて動けず、メルカプールの長兄王子はアウル軍を予備部隊として放置したまま、撤退時の殿部隊に使っただけらしい。あんな強烈な突撃要員を後方に下げていたとは、目が曇っている。信用ならないのは理解出来るが、撤退を助けて貰うだけとは何とも言えない。

 そもそもなんであの程度の戦力で打って出やがったのか。魔神代理領で仕官した経験がある将校がいると聞いていたが、あれは嘘だったのか? 戦力の集中も出来ないか。

 ナガド軍の扱いがなってない。あれは右に左にぶん回して使うものだ。ガジートもそんな扱われ方が得意な猫ちゃんだ。ヤベぇ兵力足りねぇって思ったらとっとと来いと呼ぶのだ。それで用事が済んだらあっち行って来いとやるのだ。

 ナガド軍が敵のニスパルシャー攻撃の陽動にはめられたそうだが、はめられた奴が悪い。最高指揮官がそれを看破して命令しないのが悪い。分からない、予測できなかったは言い訳にはならない。ビサイリ軍もその陽動に付き合ったそうだ。縄張り的には付き合うのが道理だが、もう少し何とかなるはずだ。

 それでもガジートめ、何か進言しろよ。若いからって一歩引きおってからに。奴め、軍人ではなく武人のつもりでいるのか? 陽動と分かって陽動にかかったのか、分からなかったのか。

 ニスパルシャーの方は海軍優勢を持って良しとするはずだった。ガジートは分かっているはずだ。分かっていなかったら問題だ。あの都市如き何万発砲弾をブチ込まれて街を焼き払われようと、港が使えれば何の問題も無い。あれは捨ててもいい。焼いて棺桶にして占領させれば良い。そうすればまとめて殺せる。

 何にせよ、小言の一つでも言わないと収まりがつかん。手紙を書く。

 しかし、下手にニスパルシャーを保持したのが仇になったのか? 守る拠点が増えればそこに兵力が囚われ、攻撃作戦に移り辛くなってしまう。勿体無い癖のついている馬鹿が良く陥る。

 いっそニスパルシャーは破壊して、ケジャータラ以南も全て焦土にしてしまえばいいのだ。ザシンダルの大軍は容易に進む事が出来なくなる。ナレザギー王子がやっていた消極戦術を拡大すればいい。一応最終手段として焦土戦術計画書は作成して渡してあるが、それが出来ないのがジャーヴァル政治。

 あの戦域の指揮官は今メルカプール藩王、実質ナレザギー王子の長兄殿だ。ジャーヴァル的名誉を失う訳にいかぬ長兄殿にそんな焦土戦術など出来ようもない。正に最終手段となっている。

 ガダンラシュ高原への出兵の代わりと言ってはなんだが、ギリギリまでラシージと工兵達にケジャータラの要塞、脆弱にされていた南部を強化させておいたのが不幸中の幸いだ。どれほど活かしてくれるかは不明だが。

 ルサレヤ総督に、竜跨兵を要請するついでに先の大戦時に、セレード王国アルノ・ククラナ伯領とセウダ・ククラナ伯領での不正規戦での成功と反省点を聞いた。

”慈悲は味方を殺す。銃の時代では防御戦力として女子供は計算可能だ。住居も食糧も失い、避難先すら失った民兵は弱い。逆に、持つのならば強い。策源地は徹底的に破壊しろ。敵の数は、数を減らすことによって減る。民間人が武器を持てば民兵になるということを忘れる者が多い。捕虜は弾除けに使って兵を温存しろ。重ねて、慈悲は味方を殺すぞ”

 要請した竜跨兵隊が加わった。空を飛べる若い竜が十名、跨兵も十名。何れも防寒装備である。羽毛のたてがみ程度しか竜は毛が生えていないが、今の彼等は毛皮だらけで新種の生物のようである。指先、尾先は凍傷に罹りやすいので手袋、指袋、靴、尾袋? をつけているのだが、何だか可愛らしさすらある。

 上空からの偵察が出来るのは便利だ。専用の鞍をつければ武装した兵士を五、六人程は乗せられるので、少数部隊程度ならば高速展開が容易。集団で往復搬送をすればそこそこの部隊を難所に配置可能という素晴らしさ。

 竜跨兵の面白いところというか、ちょっと馴染みの無い特徴は、乗られる側の竜が主体であって、騎手、騎兵もしくは跨兵がおまけ、付け替え可能な付属品に過ぎないというところだ。”跨兵”という表現はそこから来る。騎手、騎兵でも別に間違いではないそうだが、曖昧なのは正式兵科ではないせいだろう。

「竜跨兵四番隊、只今到着しました。隊長、タルマーヒラの息子クセルヤータです。よろしくお願いします」

「遠路遥々ご苦労様です。この作戦では相当に頑張って頂きますよ」

「ガダンラシュ高原の地図を作る心算で来ました。覚悟しております」

 歳は知らないが、いかにも精悍そうな若い竜クセルヤータはその巨体で敬礼する。

 竜を知らない者は忘れそうになるが、竜は人間と同等かそれ以上の知性があって――喉も舌も器用――言葉での会話が可能である。だから手綱を引くような騎手は無用で、竜達はいずれもそのような装具はつけていない。竜は自己判断で飛ぶのである。乗った人間を騎手と表現するのはやはり間違いであろう。

「クセルヤータ殿……」

 何て切り出そうか?

「グルツァラザツク将軍。我々は正規兵ではありませんが、将軍閣下よりは間違いなく格下であります。ご遠慮なさらぬよう願います」

「そうか。ではクセルヤータ、親御さんの仇が私であることは聞いているか?」

「聞き及んでおります」

「言いたいことがあれば今遠慮無く言ってくれ。これらから忙しくなる」

「それでは失礼して申し上げます。我が父タルマーヒラはあの当時既に心はほぼ死した状態にありました。敵が殺さぬのならばこちらでトドメを刺すのも魔なる法において是とされる状態です。ならば強敵と戦い、名誉の戦死を遂げられたことを幸運に思います。グルツァラザツク将軍、アソリウス島嶼伯、名立たる英雄お二方と終戦間際に相対したのは運命的とすら言えます。全く思うところが無いわけではありませんが、あれはあれで良かったと確信しております」

「掘り返すようなことを言ってすまなかった」

「お気になさらないで下さい。今は戦友です」

「ありがとう」

 予想以上の好青年? で、こっちが面食らってしまった。


■■■


 ガダンラシュ高原の地元住民は旅の神――旅行等の旅とはまた概念が違うとナレザギー王子は云う――フマヴァジを信仰し、丸ごと山賊をしている。賊なりに特権階級気取りで、畑を耕したり家畜を世話したり物を作るのは基本的に攫った奴隷とのこと。

 山々が一色銀世界になる冬の頃、山の変わりやすい天気の合間を縫って竜跨兵隊が周辺地図を作成。侵攻計画を練って、ラシージと工兵に作業部隊の街道建設進捗状況を聞き、食糧と燃料備蓄を確認してから第一の村を攻撃する。

 まず敵にも周知、浸透させたい様式美としての、攻撃前の降伏勧告をナシュカに行わせる。

「我等はメルカプール藩王国第十五王子義勇軍! 指揮官は王子ナレザギーである! 無条件にて降伏されたし! さもなくば村の者、女子供老人病人怪我人に至るまで全てに恐ろしき不幸が降りかかるであろう!」

 無視される。一応、ジャーヴァル全土に通用する言い回しなので勘違いはされないはずであるが。

 規模の大きくない村ではあるが、物見矢倉と石垣を盛った程度の防備はある。念のために大砲でそこそこに耕す。そうしてから歩兵部隊を投入する。

 抵抗微弱で、当たりもしない銃撃を何発かしてから逃げる程度。逃げ残りは捕らえる。

 交代で上空警戒させていた竜跨兵には逃げた住民の避難先を見付けさせ、誘導させ、歩兵に騎兵を投入して住民を捕らえさせる。待ち伏せを目論む住民も一部いて、それは竜跨兵に散兵を運ばせて掃討させる。大部分は抵抗したので殺すことになった。

 まるで蒼天の目を一部でも手に入れた気分だ。竜跨兵からも、滑空のための高台が多くて仕事がし易いとガダンラシュの地は好評だ。

 捕らえた住民の扱いだが、まず奴隷達は解放する。村の資産は全てくれてやり、故郷へ戻るなら止めない。

 それ以外は女子供を人質にして、男達に武装させて先陣を切らせることにした。尖兵となって他の村を攻撃して貰うのである。少しでも反抗的な態度を取った者は尖兵に使えないと判断して、目玉を抉って腕を潰し、先導役の健常な案内人をつけて解放する。遊牧帝国黎明期の大拡大の時に似たような手法が取られ、成功したと歴史にある。

 その調子で第二の村とその隣の砦を攻撃する。

 様式美としてその前に降伏勧告を行う。今度は権威あるナレザギー王子が直に行う。ナシュカは、低い方とはいえ声は女。必然、侮られる。

「我はメルカプール藩王国第十五王子義勇軍指揮官、王子ナレザギーである! 無条件にて降伏されたし! さもなくば村と砦の者、女子供老人病人怪我人に至るまで全てに恐ろしき不幸が降りかかるであろう!」

 宣言の後、砦から来た使者が「我が主は考える時間をくれと申している」という返事なので即座に攻撃を開始する。時間稼ぎの猶予も与えぬという評判を作る。

 村も砦の一部で、そこそこの高さがある石壁に囲まれている。ただあれは矢弾を防ぐ程度の壁だ。大砲で簡単にその壁を崩す。

 砲撃の合間に静かな時間を少し作る。

「再度通告する! 無条件にて降伏されたし! 次はアギンダの民をそちらへ突撃させる! 直ぐにこの地の責任者は武装解除してこちらへ参られよ!」

 誤解を生むような表現は無いはずである。そしてその責任者、太守? 村長? は姿を見せない。

 砲撃を再開させる。尖兵突撃用の進路を砲撃で作る。

 進路を作るにもそこそこ時間がかかるものだが、責任者は現れない。

 尖兵、人質を取って無理矢理兵士に仕立てた男達を村へ突入させる。武装は槍や刀剣のみだ。アギンダでは男一人につき小銃が一丁、刀や槍が一本あるぐらい重武装なのでこちらの在庫から宛がう必要は無い。

 尖兵達が突入する前に村からの銃撃や投石があり、士気などありようも無い彼らは逃げてしまう。だから督戦部隊が銃撃で追い返す。脅すだけでいいのに、上手に当てたせいで余計に死んだ。指導を入れる。

 尖兵を射撃するために敵が動き、発砲煙を上げたので敵兵の位置が露呈。その位置目掛けて砲撃させる。

 村の壁も軒並み崩れ、村で守備に当たっていた者も村に残った住民も砦へ逃げ込み始めた。

 駱駝搭載の旋回砲とその砲手を竜跨兵に高台へ運ばせる。

 砦は崖沿いに建てられ、避難先になっているような高層部には普通の大砲の発射角度では届かない。砦の基底部を崩しても高層部は崩れる感じがしない。

 その旋回砲で砦へ砲撃させる。十分に壁が崩れる。これは実戦で実験的に運用する目的で、効果は二の次。航空砲兵? の誕生だ。

 尖兵の生き残りを使って村から逃げ遅れた連中を集めさせ、女子供を人質にとり、槍に刀剣を持たせて砦に突撃させる。意気が無くて動かない連中、抵抗する者は彼等の目の前で目玉を抉って腕を潰す。

 そうして尖兵を砦へ突撃させるが、中に入ったきり戦うような音が聞こえない。

 そうしている内に砲兵準備完了。地面を弄って大砲が大きめに角度を取れるようにして、砦を砲撃で高層部から破壊する。尖兵に――見分けがつかないが――守備兵やら避難民が混じって砦から逃げ出てくる。

 後は選別して、奴隷は解放、人質を取って、尖兵を増員する。気の強い奴は目玉を抉って腕を潰して先導役の健常な案内人をつけて解放。今回の案内人は砦に駐屯していた守備隊長と、気弱そうな者数名。手間賃を渡して、被害を抑えるために抵抗すれば酷い目に遭うと噂を流すように言い含める。

 後は事前に周囲に散開していた偵察隊が可能な限り殺して減らした逃亡者の生き残りを捜索。大部分は竜跨兵が上空から把握しているので、追尾して捕縛させる。それから例に倣って選別。

 次に無断で逃げた尖兵、そしてその人質を見せしめに目玉を抉って腕を潰して案内人をつける、という流れ。人質は、人口希薄なガダンラシュ高原の土地柄もあるが――こちら側の視点では――問題無く連行出来ている。

 死人は肥料になる以外に何も生まないが、生きている者は不具でも色々と消費する。消費は敵にさせる。見捨てるというのならそれで構わない、殺すよりちょっと手間がかかっているだけだからこちらに負担はほぼ無い。

 こういった粘り強くて反抗的な山岳部の連中を倒すには、その意気すら挫くか、単純に頭数を減らすような残虐非道で当たらないと勝てない。旅の神フマヴァジを信仰する彼等とジャーヴァル藩王達の歴史をナレザギー王子に教えて貰えば、これが最適解。慈悲をかければ迷路のような山に逃げ隠れてしまい、背中を撃たれ続ける。

 ここからは街道に山道、獣道が左右上下、川に洞窟に涸れ川が入り混じって迷路状態。竜跨兵の航空偵察があっても、全ての集落の掃討は至難を極めるだろう。隠れ家まで含めたら、恐らくアギンダ軍でも把握していないだろう。

 目的は無力化にある。皆殺しが出来なくても、外に出られるだけの力を削げればいい。最低でもアギンダ軍の兵力がこちらだけに向かうように手酷く誘導して、返り討ちにして成年男子人口を減らす。女子供老人まで高原の外に出しての略奪は出来るものではない。

 ガダンラシュ高原の征服は至難であろうが、征服は目的ではない。あくまでも力を削ぎ落とし、ザシンダルの反乱を収めるまで時間稼ぎをするのだ。

 山の厳しい冬の時期、アギンダの者達を屋根の下から可能な限り追い出し、出来るだけ不具者を量産して他の集落へ送り込み、食糧不足に追い込み、仲違いをさせる。そして攻撃前の降伏勧告に応じた集落には尖兵達の督戦をさせ、褒美を十分にやり、食事も十分に取らせて、働かせるが厚遇して差をつける予定。憎悪を内外に広め、アギンダ軍を削りに削り取る。征服はしない、ただ削ぎ落とす。


*竜跨兵

竜騎兵でも言葉に間違いは無いが、竜騎兵[Dragoon]が実在兵科にあってややこしい。

戦車跨乗隊の主役は戦車であろう。

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