第47話「狼のイディル」 イスハシル
白煙がそびえる壁になるほど立ち昇る。その根元に燃える、焦げる、灰になった木、灌木、倒木、落ち葉に草花。命の気配が元から薄い砂の沙漠とは違う、奪われた風景。精巧な石像より死体の方が不気味であるような。
ここに北風が吹けばあっという間に風が火を運んでマトラの森を焼き尽くすのだろうが、悪いことに南風だ。延焼が鈍い。鈍いが焦ってはいけない。今のところは勤勉な焼き討ち部隊のケツを叩く気は無い。
マトラの森は天然の要害。そこに人の手が加わったなら要塞としての能力はあのスラーギィの要塞の比ではない。そこに準備もせずに飛び込んだら大軍でも食われることは確実。だから確実にマトラの森を焼き払って確実にイスタメルに突入する道を拓くのだ。
灰になった森を進む。白煙と熱風が吹き付ける、汗ばむ肌に灰がへばり付く。
斥候や散兵、焼き討ち部隊は前面に散るように出しているが、隊列の先頭は自分しかいない。人は魔性の目と声と、最前に立つ背中でまだ引っ張れる。引っ張れると思いたい。
馬は……臆病でも従順だ。灰の地面をおっかなびっくり歩いているのが伝わってくる。ここからはもう草原の馬が足を踏み入れる場所ではないということか? まじないのような理由づけだが、自然の原則は単純であるが故に間違いがない……か?
イリヤスが馬を寄せてくる。
「イスハシル、前へ出るな。狙撃される」
「後ろに下がったらどれだけ逃げ出す?」
「お前が死ぬよりは逃げない。憲兵隊はかなり増やした。督戦隊も分かりやすく配置した。隊列変更と再配置に紛れて先頭から引け」
「では死なせるな。何の近衛だ?」
「散兵を増やす。護衛も増やす」
「護衛は増やすな見っともない。お前それでも近衛か?」
「予備を削って別働隊を増やす。狙いを散らす。だが足は鈍るぞ、損害も増える。奴等の術中だ」
「それでいい」
フルンが胸を張って馬を並べてくる。
「お供します」
とにかくイスタメルを目指して前進。指導者だけでも悩んでいる雰囲気は見せてはならない。
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橋は全て落ちているので焼け残った木で作り直させる。つまらない時間稼ぎだ。そのつまらない時間が積み重なるごとに時間を消費する。消費する分、食糧と水が尽きていく。
建物は先に、森を焼く前に全て焼かれた後。食糧類は何も残っていない。焼けた森からは動物が逃げ出し、獲物はほとんど残っていない。井戸には糞尿土砂が放り込まれて潰されている。川はこちらの動きに合わせて枯れる始末。泥水に川魚、海老に蟹は多少残るが、二十五万の兵力を飲み食いさせるには足りない。略奪するものが一切無い。
森に潜む敵、何万かの正規兵、何十万もの民兵、に備える二十五万の兵力が食糧を食い潰していく。灰でも食って動いてくれないか?
行軍速度は遅い。イリヤスが出動させた別働隊の編成、出発しながらの隊列変換も原因の一つだが、道が岩で塞がれているからだ。
岩は退かせばいい。発破解体で速やかに処分できる。だがその処分のために一時停止する度に長大な軍の隊列はゴチャゴチャに停止し始めて、ちょっとした混乱になる。新規に集めた兵士より、スラーギィで連戦し、心身ともに疲労して士気が低い兵士達が逃亡騒ぎを起こし、座り込んでの命令拒否を行うからだ。それでまた一歩前進するまでに時間が掛かる。わずらわしい。憲兵隊が増強されてなければどうなっていたことか。
行軍速度が遅い理由はまだある。道が曲がりくねり、開戦前に調査して作成した森の地図がまるで役に立っていない。曲がっていない”旧道”が無いか調査はしているが、無用とも思えるほど手間隙かけて掘って、土を盛られて潰されているという報告しか無い。
時折、整地された道らしき溝が現れる。これが溝ではなく、道だと思っていた時期の行軍はおそろしく遅いものだった。これは鉄砲水の罠で、溝の上にいる人、馬、荷車が一撃で押し流される。流される先は崖だったり、坂道だったりして救援活動も一手間。そして助けたと思ったら、土石に木交じりの水流にズタズタにされており、生還率はわずかだ。ついでに鉄砲水が流れている間は足が止まるし、突然のことだから足が止まった者達と、足を止めない状況を把握していない者達の衝突が起きてまた混乱が発生する。置き土産には整地しないと通交には耐えない破壊された道が残される。
落石、落木の罠というものもある。単純に坂道を転がって来る、崖の上から落ちてくるものだ。岩は地面にめり込んでいたり、草が這っているような隠蔽がされているものばかりで、丸太の束には草で飾られた布が被せてあって発見が難しい。どう見ても罠ではないような岩でも、爆破して落下させてくることもあるので気が抜けない。
相変わらずの地雷攻撃は健在だ。スラーギィの要塞戦との違いは、妖精の老人が逃げ場の無い地下に潜んで地雷を起爆していることだ。絶好の機会に間違いなく起爆するものだから被害が大きい。
一番厄介な罠は地滑りだろうか。大きな爆音の後に、地鳴り、そして濡れた土砂に木が流れて混じって滑ってくる。罠用に引かれた水路から水を放出して斜面を脆弱にし、大量の火薬を広範囲に一斉爆破させることにより発生させている、と調査報告が上がってきている。これを受けた日には行軍は道路の復旧まで長らく停止。救難活動も難しく、そして成果は当然芳しくない。そうなると士気の低い兵士が脱走、命令拒否、同士討ちすら始める。同士討ちの理由は大抵、食糧不足。道が大きく潰れるせいで配給が混乱するのだ。
昼夜問わず、命中させることすら二の次に発砲音が鳴り響く。
寝不足になり、神経過敏に兵達がなっていく。発狂して逃亡する者、疑心暗鬼になって他民族の兵士と殺傷沙汰になることも多発。
いい加減な発砲に隠れ、明らかに高級将校狙いの発砲もあって油断は全く不可能。部隊長を狙撃され、緊張が限界に達した部隊が集団脱走する事件も起きる。
銃以外にも、弓による射撃もある。ただの鉄の鏃から、耳障りに甲高い音を鳴らす鏑矢、物資を焼くための火矢も混じる。
また投石から手榴弾の投擲もあり、糞に目玉に内臓まで投げつけてくる例もある。
銃声ではなくても歌で嫌がらせをしてくることもある。ワザと調子外れにして耳障りに、そして下らないながらも悪口の連続。
悪口と言えば道行く先々には悪口が書かれた看板が並び、時には的外れな共和革命派の宣伝文句らしい文言が書かれる。
恒例とはなったが、無残に切り刻まれた死体が行く先々に飾られる。腸が抉り出されて木の幹を一周しているもの、両目が抉られて男性器が突っ込まれているもの、腕と足が入れ替えに縫合されているものはまだ”マシな作品”に分類される。
”傑作”なのは、頭部代わりに三つの脳みそが絡まり、目玉が何十個も増えた死体が夜中に宿営地のド真ん中で発見された時など、脱走者に発狂者の数がとんでもないことになったものだ。
両目を抉られて手を潰され”助けて”と背中に焼印を入れられた不具者がフラっと現れるのは毎日のことになっている。それらの不具者は道に迷ったり、脱走したり、誘拐された兵士達だ。焼印の文言も”次はお前だ””王は見捨てる””勝利は無い””故郷に帰ろう”など種類豊富。
夜襲、朝駆けは数千、時に数万規模で実行される。夜や早朝だけではなく、西日を背負ったり、飯時を狙っての襲撃もある。とにかく、こちらの軍が嫌がる時間帯を選ぶ。
常にそういった攻撃は一撃離脱で行われており、驚くほどの大軍の攻撃であっても、こちらの兵を百人も殺さない内に素早く撤退してしまう。
地の利は敵にあり、追撃は困難。大抵は援軍を差し向けるかどうかの判断をする前に逃げてしまっているのが常である。
そしてこういった襲撃があった後は、飾られた死体や不具者が増加する。混乱に乗じての誘拐が多発するのだ。
夜襲では特に、人間の死体を切り刻んだもので着飾った敵の妖精が多く目撃されている。暗闇に、剥いだ人間の顔の皮を継ぎ接ぎした外套を着た妖精が至近距離にまで迫ってきたことが一度あるが、アレが気分の良いものなわけがない。フルンが奇声を上げて抱きついてきて身動きがとれず、危うく射撃の的になるところだったこともある。
これらの凶行に、感覚が麻痺する前に精神が参ってしまう兵士が続出する。戦闘で刀に銃に殺されるより、遥かにその凶行で精神を病んでどうやっても仕事をさせる状況ではなくなってしまう者が多くなってしまった。
補充兵がいるから目下の定数二十五万は容易に維持は出来ているが、いつまで持つ?
■■■
灰に染まったマトラの森に足を踏み入れ一月あまり。大軍と悪路の組み合わせは相性最悪で、妨害が無くても時間が浪費されていく。
基地と、スラーギィから延びる補給線は最低限程度整備し終え、粗方周囲の森は焼き払い、容易に奇襲されないような態勢は整えた。もうイスタメルへは真っ直ぐ進むだけと言いたいが、しかしまだマトラを突破出来てはいない。
イスタメルへの道を拓くため、士気の高いアッジャール兵や少数民族兵で構成した、先行部隊を派遣した。焼き切れていない森の南口には要塞があり、先行部隊による突破の試みは失敗した。
原因は火力不足、砲門の数の差であり、それを覆すほどの兵力を投入できなかったことにある。
確実に突破が可能な兵力をその要塞にぶつけられるようにするには、補給線を更に拡張しないと被害は大きい。森を焼き払ってもマトラの地形は起伏が多くて複雑で、道路を拡大して警備の部隊に拠点を増強しないと兵力と物資の集積に時間が掛かり過ぎるのだ。
戦力の逐次投入で、時間をかけて南口の要塞を押し潰せることは確実だが、簡単にそうはさせてくれないのがマトラ山だ。あれは強大な要塞で西側面に常に位置しており、こちらの行動をとにかく邪魔できる。その要塞からは正規兵でも六万前後、民兵を合わせれば数十万規模の兵力が出動できる状態にあると考えられる。晴れの日ならばいつでも西日を背負って有利な行動も取れるというイヤらしさも加わる。それを無視して南口の要塞を攻撃するのは、現状では二十五万の兵力を持とうとも安心はできない。
スラーギィの草原のような開けた土地ならばやりようはあるが、マトラの複雑な地形や、貧弱な道路の開発状況のせいで部隊配置が縦長で統制が取り辛く、部隊を一箇所に大量に集中することが困難である。数の理が活かせず、各個撃破され易い。
今でこそマトラ山からの攻撃に備えることに専念しているから戦線の崩壊はしていないが、南口の要塞に兵力を傾け、更に部隊配置が縦長になった時に、軍の統制が如何ほど悪くなるものか想像に難くない。その機会を見逃すあのベルリクでもなかろう。大損害を被るのは必須。
それではそのマトラ山を攻撃して制圧すればいいのだが、それはスラーギィで敵が築いた要塞よりも遥かに巨大であることは言うまでもない。制圧するために消費する時間と兵力の数は相当なものとなるだろう。何年がかりで、何十万の兵を失うことになるか想像も出来ない。
ならばマトラ山への攻撃はせず、包囲する形で軍を配置するのはどうか? 不可能である。まず地理も不案内で、人工物とは比較にもならないほど広大なマトラ山を包囲するように軍を配置など、百万の軍勢でも難しい。無理に部隊を分散して包囲しても各個撃破される。現状程度の兵力で効率的に包囲するのならば、これも何年がかりとなるだろう。
マトラ山の攻略が非現実的である以上は無視して、このままマトラの地を損害を無視して強行突破し、イスタメルで略奪してその場凌ぎ、ヒルヴァフカへの側面支援を行って父の中央軍から補給物資を都合して貰うというのが理想である。地の利で圧倒的に不利なマトラを抜けられるのならば兵力半減程度の損害は甘受できるし、中央軍との連携さえできれば親衛軍撃破という大目標の達成に向かうことが出来る。マトラの攻略は戦略目標ではないので無視していい。
しかしイスタメル内でどれだけ物資が略奪出来るものだろう。マトラ程の焦土作戦に遭うことは無いだろうが、兵を食わせることはできるか? 強行突破をした時にどれほどの軍勢を維持できているだろうか? 半減程度? 軍が崩壊してイスタメルで行動するどころの話ではなくなるのではないか? 加えて、マトラ山を聖域にしたベルリクの軍勢に後背を晒して一体どれだけイスタメルで行動が出来るのか? それこそ各個撃破となるだろう。
側面支援に駆けつけることが出来たとして、それで中央軍が親衛軍に勝てる見込みは? 魔神代理領の軍は質も量もさることながら、反則地味た魔族という恐ろしい戦力を大量に保有している。スラーギィで力を揮った魔族三名、ウラグマ、セリン、シルヴの何れも局地的な戦局程度なら引っ繰り返せる能力がある。こちらはたったの三名で済んでいるが、ヒルヴァフカの方には一体何名の魔族が投入されているのか? あれが何百、何千といたならば幾百万の軍を投入したところで勝てないのではないか?
父は”攻撃は一度じゃない。時に攻めるのが困難になる日もある。そこから一旦引いた時のために敵に何も残すな。何度も噛み付き、食い千切り、骨にする”と言ってはいたが、中央軍がヒルヴァフカで親衛軍との決戦を行っている現状では一旦引くなんてことは、普通は考えられない選択だ。
それを考えられるようにしてくれたのはシビリだが、その機会は今じゃない。
なるべく多数の、親衛軍をまともに相手に出来るような精鋭部隊を真っ先に、出来るだけ多くイスタメルへ送り出せる作戦が可能か、を検討させるために将軍級を招集する。
全員が招集され、頭の中で整理した草案を開陳。現実路線に将軍等が修正し、多くが納得できる作戦が出来上がった。
ヒルヴァフカに”使える”兵力を送り出し、父の中央軍を支援するのが目的である。その”使える”兵力とは、士気が高くて統率が取れており精強な我等がアッジャールの兵に他ならない。その他の兵どもは今まで通りに切り捨てて良い。だからその兵どもをマトラの通行料とする。全滅も許容する勢いで、とにかくマトラ山に攻撃を行って敵軍の動きを止める。補充兵も次々と送り込んで時間を稼ぐ。そうしている内に少数民族兵を中心にした部隊で南口の要塞を突破。道すがら略奪しながら我等がアッジャール兵を駆けさせ、ヒルヴァフカへの側面攻撃を行う。
少数民族出身の、オルフ出身の将軍等の苦い顔は今更である。あれこれと蹴躓くような障害はあるものの、基本的な行動方針は変わらないもので、その通りに実行するのが最大限の力を発揮できるものだ。得意分野というのは現場で変えられるものではない。
■■■
フルンが持ってきた――淹れ方は指導中――お茶を飲む。淹れ方以前に茶葉が悪くなっているようなので小言は控える。周囲の光景も、焼けた森の跡なので情緒的にも高級品を楽しむどころではない。冬が近いせいか、緑の復活の兆しもほとんど見られない。
南口の要塞への突撃軍、マトラ山の牽制軍、ヒルヴァフカ行きの主力軍の三軍の編成が数日がかりで完了した。数日程度で終わった秘訣は、まともに行ったら膨大な時間を要する牽制軍の編成をいい加減にやったことにある。元々が有象無象、いくら死んでも良い連中、デタラメに突っ込んで敵軍を掻き回せれば良いのだ。貴重な時間には替え難い。
後は牽制軍は除き、突撃軍と主力軍が持ち運ぶ物資の集積具合の確認報告が済み次第、行動が開始される。
お茶を飲みながら、若干泥に汚れた、敵の竜が空からバラ撒いて行った新聞に目をやる。
見出しは”魔神こそ全てである。魔神代理は唯一である。唯一なる方よお喜びあれ。魔神の御力を恐れぬ愚かなるアッジャールの人食い犬イディル王、ヒルヴァフカ州ツァルベン郊外の戦闘にて戦死! その首討ち取ったるはシャクリッド州総督ベリュデインの獣人奴隷ガジードなり。その刀捌きは真、雷光の如きである。かの者、かの主人に今後も魔の御力がありますように”
有り得ない偽情報だ……。
急ぎ足でイリヤスがやってきた。何も言わずに差し出してくる皮袋を見て、首を傾げて、お茶を一気飲みする。藁の詰まったその中に手を入れ、冷たく固いものを取り上げる。それは石膏で作られた死仮面、驚くほど精巧な父の顔だった。見れば見るほど、眉の目の鼻の唇の顎の形に皺まで、事実確認の必要性を確信させるに足る精巧さだ。間違いなく本人だと確信する程……。
全軍に待機令を出す。これはベルリクの詐術で済ませる話ではない。
■■■
父の戦死を告げる新聞がばら撒かれ、緘口令などする前に全軍に噂は広まった。全軍待機令という事実も伴ってか、兵士達の厭戦気分は酷いものになっている。またベルリクの軍からの嫌がらせは引き続き行われており、何らかの行動を起こさなければ大規模な反乱すら予想される雰囲気である。
中央軍からの手紙と、ポグリアの手紙も持参し、救世神教徒を慰問しにきたユノナ=レーベの手からその二通を受け取る。久しぶりに妻の――彼女にとっては長旅で――やつれた顔を見たのだから何かしようと思ったが、何の感情も気遣いも浮かばなかった。こんな焼け野原の、死体が散乱する戦場に呼んでおいてだ。
中央軍からの手紙を開く。イディル王の戦死、全軍の引き上げ、後継者選出などなど案件が数え切れないほど。とにかく黒鉄の狼が砕け、ただの狼だったことが証明されたのだ。もし我々がもっと早くにマトラを突破していたら……。
ポグリアからの手紙を開く。”準備万端”の一言。
ユノナ=レーベには「信徒達の動揺を抑えて回るように」と指示する。続けて、部下の様に使ってすまない、と嘘でも喋ろうと思ったが口が動かなかった。
「イスハシル王殿下」
何か遠回しに文句でも言われるかと、ユノナ=レーベに目を合わせられずにその胸に目線を落とす。
「教えは違いますが、義父君の死が安らかであるよう祈らせて下さい。何か縁の物があれば……」
何か言おうとやってきたイリヤスを横目に、ユノナ=レーベには成人祝いに父から貰った指輪を手渡す。
イリヤスが、はい分かった、と両手を上げてこちらに背を向ける。
ユノナ=レーベは指輪を持った手を組み、死者への祈りの言葉をささやく。そうして小さく礼をして、返してきた指輪を受け取る。
「無理はするなよ」
「そのお言葉だけで十分でございます」
社交辞令じゃないと説明してやろうか? と思っていると、イリヤスが小走りにやってきた。
「撤退作戦の調整は終わったぞ。どうする?」
「黒鉄の狼イディルは砕けた。オルフに帰還する」
「砕け……了解だ」
動き出し、スラーギィに脱出するだけでどれだけまた時間が掛かるだろう? 妨害は必ず有る。追撃なんて甘い香りに酔わない軍人は少ない。あのベルリクは、戦略上必要が無くても遊びでそれをする男に感じられる。
和平交渉の使者を出すべきか? しかし単独和平がなったとしても、右翼軍のその”現場判断”に中央軍と左翼軍の兄弟達がどれほどの反応を示すか恐ろしいものがある。
とにかく、今は引くよりない。
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