第15話「聖女シルヴ」 ベルリク

 シルヴが火薬に狙いを絞って破壊工作を働いた結果、勿論火薬不足になった。各隊手持ちの分はあるが、補充分がわずか。イスタメルからの輸送を待てばいい話ではあるが、ただ待てばその分防御体制が整う。だから速やかに攻撃。

 士気の高い相手の陣形を崩すほどの射撃、砲撃は難しいだろう。陣地となれば尚更だ。それでも速やかに攻撃するのは代わりがあるからだ。砲弾を人間に代え、火薬は食糧と水と言葉に代える。

 当初の予定では代替とはイスタメル兵だったが、そんな考え全くどうかしていた。そんな糞ぬるい手段を取るような奴だったか? 自分は……違う。そんなんじゃシルヴに馬鹿にされる。「バカタレは死体で積み木してるだけで楽しいの?」って。ならば全軍を同時投入する。お前マトモに勝つ気あるのかって言われそうだからやる。

 イルバシウスの門、崖や丘が重なり、岩が転がり、道が細くなっているその場所の、そのまた先の開けた場所に布陣している。

 獣人奴隷騎兵の強行偵察では、ラシージ指導の防御陣地には及ばないが、塹壕を掘り、丸太で固め、土嚢を重ね、剣などの刃物が逆茂木と合わせてその周りに埋められている構造だそうだ。急造の割にはまあまあだ。

 この突っ込むには少々度胸がいる陣地に対し、横長に広く陣形を敷くことが出来ず、縦長な陣形でなければ通常進めず――流石はイルバシウスの門伝説の候補地だ――それで無理に進めば先頭から順に集中砲火が加えられ、単純作業で潰される形になっていて大軍があまり意味を成さないようになっている。

 そこで解決方法。横長に広く陣形を取り、崖や丘をそのまま上って降りる。言葉だけなら簡単だが、そう簡単ではないのは言うまでもない。隊列なんて組んで上り降りしたら転んで潰し合って怪我人死人の山だ。間抜けな死に方で士気も下がる。

 そこで工兵隊の出番。縄梯子や杭で崖に道を作る。丘の斜面には枕木を置いて階段にする。そして工事困難な場所はラシージが手を加える。砲兵隊の移動は安全も考慮して最後だ。事故で大砲転がしても得られるものは食い物にもならない。それに、兵士百人より大砲一門が大事。敵がどの辺に砲撃をしたがるのか見てからじゃないと前に出せない。

 全隊には荷物を下ろさせて軽装にして待機中。

 地形が乱れているだけに敵の大砲からは隠れられるので工事は順調だ。シルヴならば丘越しに榴散弾を撃ち込んで来るぐらいは出来るはずだが、それをしてこないということは力の温存だろうか? イシュタムからの報告では、二日前の戦闘後の追撃で攻撃を繰り返し、シルヴの魔術を使う能力を相当消耗させたそうだ。矢弾も通用しなかった状態から、背に矢が突き立つぐらいにまで。

 全力のシルヴと戦えないのは残念だが、こちらの行動によって消耗したのであればそれもまた戦いの一つだ……でもなんだろうな、面白くない。

 しかし頑張ったイシュタムに文句つけるわけにもいかないしなぁ。まあ、あちらが何か楽しいことをしてくるのを期待するしかない。こっちはこの地形で全軍横隊突撃なんてやろうとしているんだ。ちゃんとお返しがほしいものだ。

 さて、そろそろラハーリが突き上げ食らい過ぎて可哀想になってきた。本当に可哀想? 手ぇ叩いて笑って「あー可哀想」だな。

 あのハゲがいるテントから結構離れた位置にいてもギャーギャー今更覚悟も決められずに騒いでる玉無しどもの声が聞こえる。こんな地形から待ち構えている敵に突撃でもする気なのか? と泣きべそかいているのだろう。火薬が大砲がと大騒ぎしている。うるさいのは面倒なので妖精達には人を通さないようにさせていた。そのおかげでやっこさんに面倒が回っている。

 愉快だ、もっとハゲろ。しかしあまりにも放っておくと毛髪どころか頭皮がハゲることになる。

 なので上級将校を全員司令部に集める。作戦というよりは精神の持ちようを指導するのだ。

「包囲陣を敷き、火薬の補給を待ち、時間をかけて砲弾で小突いて食糧の枯渇を待って倒す。これは戦術的に正しいが、政治的には正しくない」

 イスタメル人将校の顔が面白いくらい怒りに染まる。笑っちゃいけない。

「君達は敵の砲火にさらされて皆殺し同然の憂き目に遭いつつ勝利をもぎ取ることによって政治的に勝利できる。魔神代理領の勝利ではなく、イスタメルの民の勝利だ。君達は今、口減らしのためにいくらでも死んで構わない旧公国の残り香を放つ、投降した惨めで卑屈で戦闘に投入されても微塵も悲しまれない、哀れな敗残兵だ」

 次に怒りから泣きそうな顔に変わった。感受性豊かだな。

「これではいけない。私はルサレヤ総督に言質をとってある。あの人は公正で誇り高いから信用していい。我々の犠牲と勇気には代償を支払って欲しいと言ったら、了承された。この戦いは、魔族の種と呼ばれる、魔神代理領の存在意義に関わってくる重大物を巡る戦争だ。悪漢に誘拐された可愛い一人娘を救う程度に深刻重大だ。私に子供はいないが、まあ大体そんな例えで彼等の心情は察してくれ。包囲して時間を取るなんてのは、魔族からしたらもどかしくてじれったいだろう。いくら死んでもいいから大軍を突っ込んで早期奪還したいと考えている。だから政治的に正しい戦術で勝利するべきだ」

 顔色が良くなってきた。こんなので乗ってくれるか。

「あまり難しいことではない。全歩兵を全正面、今工事中だな、そこに配置して一斉突撃を敢行する。相手は、セレードの肉挽き器シルヴ・ベラスコイ少佐と、その人に訓練された連中だ。相当に高い精度での砲撃が予測される。密集したり、戦力を小出しにしていたのでは、あっと言う間に砲撃で撃退され、皆殺しにはされても勝利はもぎ取れない。だから全正面を同時に突撃し、的をしぼらせない。いくら教官が優秀でも、アソリウス島騎士団が揃えられる大砲の数は決して多くないだろう。だから一斉に砲撃されても全部は死なない。それと指揮官の頭に直撃させてくるようなシルヴの弾着修正魔術付きの精確な砲撃もある。あれは砲弾の飛距離も伸ばしてくるから砲兵隊が配置につく時期も考える必要がある。だから突撃と同時に砲兵隊を射撃位置につけ、それから援護射撃をさせる。突撃前ではなく、後だ。間違いなく突撃の後だ。歩兵が砲兵の盾、囮になり、砲兵が準備を整える前にその精確な対砲兵射撃を幾分かでも誤魔化す。砲の援護も無しに防御を整えた陣地に突っ込むのは厳しい。一発でも多く撃ち込むための策だ。それから予備兵力には騎兵隊を配置。突破口が開いたら投入する。そうして防御陣地に食い込み、補給部隊、指揮官とその周りなど後方支援系を破壊しに行き、完璧に戦闘不能にする」

 という理想を描いている。何割方上手くいくやら。

「とにかく死も恐怖も疲れも忘れてとにかく突撃だ。白兵戦に持ち込めば数的優位によって勝てる。我々が死に尽くしても大陸にはまだまだ跡を継いでくれる連中がいるから遠慮無く死んでくれ。君達の血肉は海を離れた故郷の肥やしとなって子に孫を栄えさせるのだから気にせず死んでくれ。無駄に生き残った死に損ないはここで死んで役に立て。この役目をその子や孫に押し付けたくないのなら逃げずに死んで役に立て。英雄の子という名前か、敗残兵の子という名前か、遺すならどちらか分かるだろう。命知らずのイスタメル兵、砲火を物ともせず、あの魔神代理領の精鋭すら退けたセレードの肉挽き器に勝利した。ルサレヤ総督が他の任地に移ったとしても輝きは失せそうにないだろう。さ、覚悟を決めろ。我々バシィール城連隊も行くぞ、州直轄軍も出す。手ではなく、千切れた腸の握手でなければイスタメルの妖精と人は和解できない。だから後世の隣人付き合いのためにも死のう。馬鹿でも出来る簡単な仕事だ」

 イスタメル人将校が顕著にやる気を見せ、全上級将校達が深刻な面をして理解を示した。笑っちゃいけない。

 というかこいつら本気か? こっちは無茶な提案して、反発くらって、妥協に見せかけてやっぱりそのままな提案を通そうと思ってたのに。やっぱり火薬の補給を待とうとか、そういうマトモな反論はしてくれないのか? 無駄な犠牲を出さないために突撃する前に何かしようとか言えよ。夜襲の提案すらしないで馬鹿じゃねぇのか? 別に本当に煽ったほど急ぐ必要は無いんだぞ? 突撃して玉砕したって、本当に将来の為になるかも不明。ルサレヤ総督に言質は確かにとったが、二人の雑談の流れでチラっと言っただけ、公式の場でもない。正直こっちは総督の味方なのでいつでもイスタメル人なんて見捨てられる。イスタメルの妖精はともかく、人間にはとくに義理もないのでどうなってもいい。

 しかしまあ、馬鹿を二万人も率いて一斉突撃だなんて夢にすら見ないお楽しみが実現するのは嬉しい限りだ。一番にそれを自慢したいシルヴが敵側にいるというのも最高。驚いてくれると思う。「あいつめアホかッ!?」と叫んでくれるか?

 子供の頃、まだ母がセレードを去る前。ベラスコイ本家当主の誕生日、親戚一同の集まりに皆でやった戦争ごっこ。シルヴがいた隊に負けた。その時のあいつ、地面に穴掘って隠れてて、気づいた時には棍棒で殴られてた。意外と痛くなくて、殴られたところを触ったら血がべったりで、笑えてきて、シルヴも笑って、気づいたら三日経ってた。心配そうにする周囲の大人に子供達。殴った本人は「ほらあれじゃ死なないでしょ」って笑って一言で済ませやがった。

 士官学校の時、兵棋演習ではまともにやって勝ったことはない。

 勝った方法その一、あいつの飲む水を特別に蒸留を繰り返した酒にすり替えた時。酔っ払ったそぶりは見せなかったが、駒を置く場所を間違えて、そしてそれをとにかく馬鹿にしまくって判断を鈍らせた時。

 勝った方法その二、戦場の不確実性を再現する場合に使うサイコロに仕掛けをした時。互いに地獄の消耗戦の体をなし、先手だったシルヴが先に戦線を崩壊させたが、あまりに長丁場だったのでそこで判定勝利。

 勝った方法その三、複数で組んでやる時に、相手側の一人を買収した時。そいつの好きな子の連絡先を教え、手紙の配達人を行った。あと、美人で有名だった近所の修道女の下着をダメ押しに贈った。勿論洗濯前だ。

 先の大戦では最初から最後まで共闘。生き残ったのだから両方の勝利、と言いたいところだが、最後に階級で差をつけられた。勝負と見るなら負けだ……今度は負けない。


■■■


 工兵隊からの準備工事終了の報告を受け、伝令を各隊へ飛ばして横隊突撃配置につける。そして順調な返事が来る中、アホでクソッタレな答えが来た……テントから外に出ようとしない連隊長がいる――子供か!?――それはイスタメル人の連隊で、管轄はラハーリにあるので口を出すのは憚られるが、しかし足を引っ張られるのは気に入らない。

 その連隊のテントへ向かうと、そこの士官達が外で不安そうに雑談している。こちらに気づいても司令部での言葉のせいか、敬礼も不揃いでぎこちない。

 連隊長のテントの前で、止めようか敬礼しようか変な動きをする衛兵を、ゆっくり手を横に振って脇に退かせ、中に入れば良い歳こいたおっさんが立派な城主の軍服着て、子供みたいにうずくまって泣いてる。

「どうした?」

 優しく声をかけ、背中を撫でる。倍は歳のいったおっさんに何をやってるやら? そうやってしばらくあやしてやると立ち上がるが、まだグズってる。

「どうした?」

 返事は無い。自分相手じゃ話したいことも話せないか。

 騒ぎを聞きつけてやっとやってきたラハーリに番手を代わる。

「ほら、行くぞ」

 ラハーリがその連隊長に帽子を被せてやって、ズボンの埃を手で払ってやると、何度も頷き始める。これで死ぬ覚悟を決めたようだ。

 ラハーリは領民や自分の軍を無為に死なせないためと降伏し、率先して旧イスタメル公国の平定に尽力してきた。降伏を拒み、隠れ潜む輩を引きずり出し、父や母に兄弟とその家族さえも皆殺しにしたと聞いている。そんなお前が世話焼きに出遅れてどうする?

 テントを出て、とっとと街道沿いに配置についたバシィール城連隊のところへ戻る。そして各隊の隊長に挨拶しながら回る。手を上げてやると妖精達の返事はこうだ。

「皆死んでも皆殺しだー!」

 その隊の妖精達は腕を振り上げ、

『おー! 殺せー!』

 その次は、

「突撃、そして突撃だっ!」

『おー! 突っ込めー!』

 またその次は、

「うーんと、おー!」

『おー!』

 思考が単純なのは分かっているが、本当に突撃して殺すことしか考えてないのか?

 そして連隊の先頭に立つ。ラシージがいつになく深刻な顔で側に寄ってくる。

「あなたは死んではいけない」

 城主に閣下でもなく、あなた、か。

「急にどうした?」

「二年です」

「二年?」

「あなたがいなくなったとして、妖精達が共和革命の旗を振り上げて独立闘争を始めるまで」

「俺がそんな重要人物だって?」

「自覚してください」

 ラシージが手を強く握ってくる。

「お前がいるだろ? 大丈夫だ」

 喋っている途中で、どこかしくじった気がした。

「私がやるんです」

「聞かなかったからな」

 横隊突撃準備のための整列号令が響く。そしてそんな整列をのんびり敵は待ってくれず、砲撃を受けながらの整列となった。それから予想通りに敵の大砲の数は少ない。良く当たってはいるが、この広い陣形を混乱させるに至ってない。

 綺麗に横一列、とはいかないが、広く並ぶことはできた。また崖にはところどころ縄をぶら下げ、低い崖なら飛び降りてもいいように干草を撒いた程度のところもある……ちょっと酷いな。一応アレでイスタメル兵はやる気になったから何とか進むだろうけど。その無茶気味なところからイスタメル兵が前進し、道を拓いてから州直轄軍が進む予定だ。

 中央、細いが街道沿いの道にバシィール城連隊が並ぶ。こちらは横隊というよりは縦隊である。進んでいる途中で縦隊から横隊に移行させる。妖精達なら砲撃食らいながらだって出来る。

 シルヴが行っていると思われる砲弾がまだ飛んでいない。あれは飛んでる音が違うからすぐ分かるんだが。

 訓練で妖精達は行進曲を聞くと無用にはしゃぎ出す。ここで使えば皆殺しにされるまで足は止まらないだろう。

 広い横隊に点在する軍楽隊へ、甲高い音の号笛で一声に行進曲を演奏するよう合図を出す。始めは少し各隊で音がズレるが、少しずつ合わさっていく。

「軍楽隊、気合入れろ、魂込めて演奏だ! どうせ今日はお前等最期の演奏になるんだー、どうせ死ぬんだから感情込めて盛り上がる音を出せよー! 兵隊共もだ! どうせ今日死ぬんだから思いっきり行け、思いっきりだ! どうせ明日まで生きてたって怪我やら病気やらでくたばるんだ、死ぬなら今日スパっと死ね! いいぞ、今日は良い天気だ。太陽も雲も風も、鳥さんに虫さんもお前等の死を願ってくれている! さあくたばるぞ!」

 刀を抜いて掲げる。それを見て各隊の長も刀を抜いて掲げる。下士官等も槍を持ち直し、穂先が上を向くように肩に担ぐ。旗手も旗を構えなおす。

「全たぁーい……」

 刀を胸の前で止るよう振り下ろす。

「前進!」

 刀の切っ先を敵防御陣地に向けて歩く。歩調合せの太鼓に合わせた、地鳴りになった各隊の足音が続く。

 自分は今2万人の先頭に立っている。妖精達はノリノリ、あの共和革命のものでもない歌なのかなんのかよく分からない言葉を発している。人間達は覚悟を決めたように、砲撃を受けながら歩いて進む。砲弾に倒された兵士が空けた隙間を後ろの兵士が早歩きで前に出て詰める。妖精にいたっては砲弾に潰された仲間を笑ってやがる。はいお手つき一回休みー、みたいな調子で笑う。これはこれでどうかと思う。

 砲撃は広い横隊各隊へ向けられており、良い具合に分散されている。それでいい加減こっちに向けて挨拶の一発ぐらい来ていいんだが、シルヴは何をやっている? 矢傷が元で死んだとかアホは言わないでくれよ。

 バシィール城連隊は横隊に移行。結構良い的になって途中砲弾に十何人かやられたが、勿論混乱はなし。

 歩兵達がある程度進み、砲撃を引き受けた。そして砲兵隊が手筈通りに射撃位置に付き始める。丘や崖があるせいで綺麗な横隊は出来なかったが、歩兵隊を前に出した後でも高低差を活かし、仲間の背中を粉砕すること――あまり――なく砲撃が出来るといいなぁ。

 砲兵隊が全て射撃位置についた。早めに位置についた大砲はもう防御陣地へ撃ち下ろすように砲撃を加えている。この調子じゃ叩き潰した防御陣地にすんなりと突入できてしまう。

「シルヴは何をやっているんだ!」

 思わず楽勝な雰囲気に怒鳴ると、他とは比較にならないほど恐怖を煽るような甲高く鋭い砲弾の飛翔音……そして見せ付けるように、端から順番に射撃位置についた大砲が潰されていく。無駄弾なんかない。大砲に逃げる暇を与えず破壊するために今まで我慢してきたのか? シルヴ以外にこんなこと誰が出来る? やっぱやってくれた! これで防御陣地への突撃は血みどろ確定だ!

 もう少しで突撃を呼びかける頃合の相対位置に到達。砲兵隊からの突撃準備射撃なんぞ効果は無かった。百門以上あった大砲があっという間にゴミだ、笑えてくる。なんだシルヴ、お前こんなに化物なのかよ?

 そして大砲が全て潰された頃、今度は馬の悲鳴が止らなくなった。シルヴの砲撃で後方に待機している騎兵隊が蹴散らされているようだ。砲弾が爆発しているようだから榴弾か? 馬が可哀想だ。

 まるで外堀埋めるようなシルヴの砲撃。次は? 目前に土の壁が盛り上がり、その壁越しに衝撃爆音。俺だ、忘れないでくれてた。

「よしラシージ、良い反応だ」

 突撃ラッパを吹かせる距離になった。その手前で狙ってくるんだから、これは相思相愛のなせる業だろう。確信したい。

 甲高い音の号笛で突撃開始を報せる。軍楽隊の行進曲と違い、各隊が好きに突撃ラッパを吹かせて突っ込むのだ。

 バシィール城連隊のラッパ手が景気良く突撃ラッパを吹く。妖精達が楽しそうに喚声を上げて走り出す。各隊でも次々と突撃ラッパが吹かれ、野太い喚声を上げて兵士達が疾走を始める。自分も走り出す。一番槍は俺のものだからだ!

 シルヴが他部隊の指揮官を大砲で狙撃――浮気しやがった――指揮官殺しの砲撃で士気が乱れている部隊の頭上で砲弾が起爆し、散弾の雨を放ってバタバタ兵士が倒れたり苦しんで暴れたりする。榴散弾だ。そんな突撃阻止の砲撃をシルヴが行い、次々と各隊の折角の勢いが削がれて足並みが乱れ始めた。バシィール城連隊は例外なので、一番槍は遠慮なく頂こう。

 そうしてそばを何発か砲弾が通り過ぎ、妖精の手足千切って腹に頭を潰し、そろそろ銃撃がお持ちかねかという間合いに入った時、見間違いかと思ったが、シルヴが直々に率いる歩兵隊が打って出て来た。砲撃なんぞ物ともしない一番勢いのあるバシィール城連隊を止めるには人の壁しかないと判断したか?

 その歩兵隊は綺麗に相当素早く奥行き三列の横隊を組んだ。全員、兜と胸甲をつけ帯剣し、銃剣付の小銃を持っている。中々の重装備だ。

 こんなお誘いに負けてしまって、立ち止まって後ろに手の平を向け、止れと扇いで指示を出す。ラシージが「バシィール城連隊停止!」と怒鳴ると、今までの勢いが嘘のように消えて足を止める。「横隊整列、射撃用意!」で突撃で崩れ気味だった隊列を整え、一列目がしゃがみ、二列目がたったまま小銃を構える。

 帽子を掲げて、シルヴへ歩いて近づく。ラシージが止めようとして出した手を握ってから押し返す。シルヴもそれに応え、ボロボロの帽子を掲げて近づく。軍服は綺麗なのに帽子はボロボロ。肌が別人かと思うほど白く、それは人として綺麗とは言い難い。

 これで中央部分だけ静かな時が始まった。他では突撃して大砲で撃たれ、小銃の一斉射撃を受けて倒れ、それでも防御陣地に食らいつこうとしている。

 向かい合い、互いに帽子を被る。

「シルヴ、お前、化粧したのか?」

 シルヴを指差し、さり気なくそのまま顔をつっつこうとしたら指を掴まれて曲げられた。痛い。

「魔族化。気味が悪いでしょこれ」

「舐めっていいか?」

 そのまま捻られ、折れないようにすると片足立ちで体を倒さないといけなくなる。

「口に拳骨突っ込んであげようか?」

「いいのか?」

 大口開けてみる、あー。

「よくない」

 指が解放されたので体勢を戻す。

「そうだ、聖女担ぎ上げて上手いこと島民乗せたな。そいつは誰だ?」

 シルヴが舌打ちをする。あれ?

「まさか、まさかまさか? あれれ?」

 思わず苦笑い。人差し指で額をコツンと叩かれる。

「うるさい、私が名乗ったんじゃない。島の馬鹿どもが聖マルリカの再来だとか言ってるだけ」

「うおー、凄いな! その面で聖女だって? その胸とケツで女だって? まあ、ぶっ殺した人数じゃ今代第十六聖女とも張り合えそうだしな。なあ聖女様?」

 また人差し指で額をコツンと叩かれる。

「うるさい、私は認めん、恥ずかしい」

 そうして作るシルヴの恥じらい渋面をしばし眺める。あー、良いなぁ。

「……なあ、昔の戦争ごっこ思い出さないか?」

 両腕を広げ、この硝煙と血が香る戦場を示す。

「俺は子供の時から玩具でもごっこでもなく、本物でこうしたかったんだ!」

 シルヴは顎に手を当て、ニヤっと笑う。

「確かにそうね。半端とはいえ組織作りから前線指揮までやれてるし、良いことだらけよね」

 こちらもバシィール城連隊の組織作りから前線指揮までやっているので同意の頷きをする。

「さて、長話してる場合じゃなくなってくるから」

「おう、始めるか」

 互いに背を向け歩き、戦闘位置へついて改めて対峙する。シルヴに率いられた重装備の歩兵達の戦列はまあまあ威圧感があり、シルヴという華が添えられると怪物軍団に見えてくる。左右の後ろには今か今かと待っているバシィール城連隊の妖精と、セリンの海兵隊。凄くドキドキする、何だろうこれ?

「おいシルヴお前から撃てよ!」

「分かった、一発で死なないでね! 構え、撃て!」

 シルヴの歩兵隊が一斉射撃。妖精達の前列十数人が倒れ、すぐさま後列がその隙間を埋める。

「よーし、撃て!」

 妖精達が一糸乱れぬ一斉射撃を行い、それに合わせてシルヴ側から突風が吹いて、狙いがズレて一人も倒せていない。動きに統制がありすぎたせいで完全に防がれた。

「だぁっははは! なんだそりゃ!?」

「卑怯じゃないでしょ!? 構え、撃て!」

 今度は目の前、横隊を完全に覆うように土壁が、妖精達の胸の高さまで盛り上がる。一人だけ頭を撃ち抜かれた。

「それじゃこれだ! 壁に隠れつつ、各自任意射撃!」

 妖精達は壁に隠れつつ一発撃っては後ろの者と後退したり、射撃する者、小銃に弾を装填する者に分かれたりと好き勝手に乱射し始める。自分も拳銃でちゃんとシルヴを狙って撃つ。こんな距離で当たるわけはないな!

 これで一方的な射撃になり、シルヴの歩兵隊は、胸甲で時折銃弾を防ぎつつも数を減らし始める。

 シルヴの横へ、大砲が押し出されてくる。

「お返し!」

 通常の大砲とは違う、異様に甲高い音の砲撃。土壁は勿論、その後ろ妖精を三十人以上砲弾は貫通もとい両断していった。普通は十人までいかない。これには笑いが止らなくなった。

 笑いながら拳銃を撃ってると、元からぶっ飛んでる妖精達も楽しそうにキャッキャ騒ぎながら敵を殺す。

「シルヴー! 好きだー! 殺せるもんなら殺してみろー! ぶっ殺してやるー!」

 これには豪気な海賊、じゃなかった海兵隊も笑い出す。敵にも笑いが感染し始めた。あのシルヴさえ、笑顔だ。またあの砲撃で何十人も砲弾で死ぬ。

 最高に幸せだ。死んだら幸せが終わることに気づかず無に帰る。生き残れればこの幸せを胸に抱いたまま生きられる。

 最高だ! 死ぬほど良い、死にたい、殺してくれ。それから死ね! ぶっ殺されろ、くたばりやがれ。

 鼻血が出てくる。もう心も身体も前進あるのみ、口が勝手に動く。

「壁撤去! 全隊突撃!」

 土壁が一瞬で埃のように崩れる。全員が走り出し、シルヴの大砲の砲兵が装填されるはずだった砲弾を投げ捨て、代わりに散弾を装填、また異様に甲高い音の砲撃。七、八人は貫通する散弾が広範囲に撃ち出される。自分の目の前だけに横に狭くて異様に分厚い土壁が現れ、一瞬で消える。

「気ぃ利かせすぎだ!」

 シルヴと歩兵隊に迫る。一斉射撃を食らい、また妖精がバタバタ倒れる。弾丸が空気を切る音が耳元で聞こえた。本当にいい加減な武器だ。

「小銃投擲!」

 そこでなんと、シルヴの歩兵隊が銃剣付き小銃を投槍のように投擲する。これが結構刺さって死人を出すんだから面白い。

「抜刀、突撃!」

 シルヴは甲冑着ている相手を殴り殺すための戦棍、シルヴの歩兵隊は鞘から剣を抜き払い、振り上げたり突き刺すようだったり様々な構えで迎え撃ってくる。明らかに剣術の心得があり、白兵戦訓練を受けた騎士であると分かる。

 足の異様に早いシルヴ、真っ先に自分を殴り殺しに来る。顔面を拳銃で撃って、わずかな隙を作って戦棍を避ける。妖精達の小銃先の銃剣が、シルヴの歩兵達の胸甲に弾かれたり、柔らかい部分に刺さり、それから剣で頭を割られて肩を切られて胸を刺される。骨がボギンと折れて金属同士がガキガキぶつかって絶叫が上がって賑やかになっていく。ここで今まで目立ってなかった海兵隊の連中が、湾刀や手斧と拳銃を交えた近接戦闘でよく相手を殺し始める。シルヴの一撃必殺の戦棍はもう引き寄せられたくなるぐらいに凄まじく、ラシージが足場を崩したり砂で目潰ししたりしなかったらあっという間に粉砕される。

 そんな楽しいひと時の間に、味方の部隊が防御陣地に取り付き始める。死体を足場に内側に乗り込んでいるような状況だ。

 そして急に冷めたみたいな感じでシルヴが一人で下がる。この歩兵隊は善戦はしていると思うが、やっぱり数が違ってもう皆殺しになってしまう頃だ。これがそっちの引き際か?

 味方が防御陣地内に突入し始めた。もう敵の抵抗は微弱で陥落間際の様相。そこで信号弾を打ち上げさせ、騎兵隊に攻撃を開始させる。砲撃で頭数が減っているのが少々心配だ。

 防御陣地内にある、逃げることを想定していない棺桶みたいな抵抗拠点をイスタメル兵が一つずつ潰していく。騎兵隊がほとんど抵抗無くその脇をすり抜けて行く。

 自分達の役目を心得、逃亡したイスタメル兵を捕らえたりしていた州直轄軍には待機を命じる。イスタメル人部隊が全崩壊してもこっちが残ってれば何とでもなる。

 妖精達の部隊もいくつか出して抵抗拠点を潰しに行かせる。斥候を出してみたが、シルヴの姿はどこにもないらしい。

 まだ楽しみを用意してくれているのか? セリンから貰った最高級ジャーヴァル産の葉巻、最後の一本に火を点ける――突如視界が土一色になり、くぐもったようなとんでもない爆音が頭上を走る――慌ててはいない。葉巻を一吸いして……ゾロゾロと臭い内臓が穴に入ってきて流石に気分が悪くなり、ラシージが作った穴から這い出ると、そこら中が掘り返された土と砕けた木材、あとは火と人間、妖精、馬の死体と死にかけがたぶん千人単位、バラバラに散らばって凄い風景になっている。地面からもぞもぞとラシージが這い出てくる。首に回った内臓を払ってもう一回葉巻を吸う。

「陣地ごと自爆しやがったか」

 流石の混乱で時間はかかったが伝令を集めて各所へ伝達させる。バシィール城連隊は吹っ飛んだ防御陣地を制圧する。ラハーリのイスタメル人部隊には再編成を急がせる。州直轄軍は逃亡兵の監視と、何時でも援軍を寄越せるように待機。イシュタムの獣人奴隷騎兵……一体何処に行ったやら。

 防御陣地の自爆は徹底していたらしく、バシィール城連隊総出で回っても無傷な箇所というところは何も無い。一体これだけの火薬、どこで用意した? エデルト海軍から相当搾り取ったのか?

 シルヴの逆襲があるかもしれないので斥候を隙無く放つと、直ぐに返事が来た。報告を受けてシルヴらしいと思った。熱気冷め止まぬ今、この混乱を見逃さずに予備兵力を投入してきたのだ。それは地味な格好の銃兵と砲兵が並ぶ戦列で、自爆で吹っ飛ばされた騎兵隊が撃破するはずだった部隊だ。

 騎兵隊へのシルヴの砲撃が無ければ防御陣地の自爆でも生き残りがいただろうし、撃破せずとも弱体になったイスタメル人部隊への奇襲攻撃も防げたはずだ。

 再編成途中のイスタメル人部隊がシルヴの予備隊の攻撃を受けている。砲兵が砲撃して前進。その隙を補うように銃兵が銃撃して前進。シルヴがそれでも出来る隙を風の魔術で補佐、という隙の少ない戦法だ。それで死にまくったとはいえ頭数ではまだ十倍差以上だと言うのに撃破されかかっている。まだまだ楽しい。

 伝令を使う。州直轄軍はイスタメル人部隊に対する強い督戦を命令、付け加えて指揮官判断で双方とも戦闘しても良い、とも。バシィール城連隊には、少数の部隊を防御陣地内の生き残った敵の捜索に当て、イスタメル人部隊の方角へ向かいながら、合流と整列をする。かなり高度な行進だが、妖精達は少し訓練しただけでやってしまう。

 心配ごとは、イスタメル兵が狂乱して州直轄軍と交戦を始めることだ。場合によっては、敵ごと撃破しなくてはいけない。

 吸い終わった葉巻を吐き捨て、妖精達の合流を確認しながら進んでいると、角笛が鳴る。どこからかと見回せば、敵側の崖や丘の上に獣人奴隷騎兵達が勢揃いしている。イルバシウスの門近辺は確かに地形が乱れているとはいえ、シルヴにも――おそらく――気づかれずにそんな包囲をやらかしていたとは驚きだ。

 高所からの弓による精確な射撃が始める。流石に驚いたシルヴの予備隊はこれにほとんど抵抗できず、矢に倒れていった。それとシルヴは、角笛が鳴った時点で素早く走り去った。

 全くあの女はまだやる気なのか!?

 獣人奴隷騎兵達が、仕事は終わった、という風に姿を消す。それから一騎だけ伝令が来て「イシュタム様より、セルタポリまでの道路の掃除は完了。ゆっくり来てもいい。以上です」と、文句をつけたいような、つけたくないような。


■■■


 それから戦場掃除を一通り済ませつつ、各部隊の再編成――特にイスタメル人部隊――を行う。イシュタムがゆっくり来ていいと言うので、もう人間はお疲れなのでこの防御陣地の近くで野営地を張る。妖精達は相変わらず元気なので、周辺警戒は全部こちらで持った。

 気の立っているイスタメル人の監視は州直轄軍に何時も以上に厳戒態勢でやらせた。それから大砲の修復を指示。ここまで内陸にくると、陸揚げして輸送となると結構時間がかかる。火薬については、大砲がダメでも火薬が無事なので逆に余裕が出てきた。補給も到着しつつある。

 細かいところはイシュタムやラシージに任せ、お湯で濡らした手拭で臭い内臓の血を拭ってからテントの寝床で寝っ転がる。防御陣地に奇跡的に生き残っていた窯で作った焼きたて熱々のパンを齧っているとラハーリのおっさんが、血染みの包帯を巻いた状態でやってきた。血圧の高そうな面で、傷口から色々噴き出てきそうだ。

 立ち上がってラハーリの敬礼を待つ。平時は同位者だが、現在は臨時とはいえ参謀長、州内序列第四位である。

 苦々しい顔でラハーリが力んだ敬礼、さらっと敬礼を返す。

「さあやったぞ、これでいいのか!?」

 怒鳴られて耳に響くので耳の穴に指を突っ込む。

「ラハーリ殿、良い死にっぷりだった。前のアソリウスの時もそうだったが、イスタメル人の性質かな? あとは総督が報いてくれることを期待しよう」

 胸倉を掴まれる。ラハーリの包帯の血染みが広がる――あらやっぱり血が出てきた――何か言おうとしているが言葉が出ないようで、歯をギリギリ鳴らしているだけ。

「兵隊が怒っていいのは三つだけだ。補給の途絶、悪質な裏切り、給料の未払い。くたばる事はその内に入っていない。武器弾薬装備は敵を殺す分に文句無しだったな。裏切りなんてとんでもない、お前らなんかよりよっぽど危険を冒して働いてる。給料は渋られるほど貰ってないだろ」

 胸倉掴んでた手を解く。

「次代の子供達のためという企みが本当に成功するかどうかは今後のなりふりで決まってくるし、同意して実行したのはあんた等もだ。被害者面はよしてくれ」

 同意して実行、あたりでラハーリの顔色が悪くなってきた。

「本当にこれでいいのか?」

「今後のなりふりだ。まだ種を植えた段階で、芽吹かせて育てるのはこれから。ただ少なくとも一つ結果は出ている。貧しいイスタメルを救済する手っ取り早い手段の一つが口減らし。それも戦うことを知ってはいるが、平和な時には役に立たない反抗的な老兵どもだ。あいつら動員前はマトモに仕事してたか? 昼間っから飲んだくれてたんじゃないか? そんなちゃんと死んでもいいような連中をあんた等は連れてきていたんだから理解してくれてるんだろ?」

 反論というよりは図星を突かれたようにラハーリがまた顔を赤くし、殴るように腕を振り上げる、と同時に短刀を抜いてその振り上げた腕の脇に刃を当てる。

「この程度のことに反省して落ち込んで大人しく殴られると思ったか? 気分は上々だ」

 ラシージが足早にテントに入ってくる。ラハーリなぞどうでもいいように目の前に来る。少し待機。ちょっと邪魔だったようでラハーリを両手で押して退ける。敬礼に敬礼で返す。

「どうした?」

「ルサレヤ総督閣下、ご到着です」

「は?」

 ルサレヤ総督に伝令を出してまだ二週間も経っていない。伝令が順風海路で出港、それから死ぬ気で馬をバンバン潰し、体力尽きる前に途中の州で誰かに引き継ぎ頼んでどうこうしたとしても中央までは一ヶ月以上はかかるだろう。仮に魔術か何かで一瞬で中央に連絡できたとして、ルサレヤ総督の体をこっちに持ってくるのだって、魔族の体力を考えてもやはり一ヶ月近くはかかると思うのだが。

 ちょっと何を言われるか分からないので短刀をしまう。それから身形を簡単に確認して、立ち上がって、パンは……急いで食べる。

 食べている最中に背嚢が外から投げ込まれ、丁度良い角度できたので受け止める。倒れる。そして入ってきた。ラシージ、ラハーリが敬礼で出迎える。倒れたままパンを咥えたままで遅れて敬礼。

「あー……」

 ルサレヤ総督が唸りながら、お偉いさんの雰囲気全くなしにテントに入ってきて水瓶を掴んで馬みたいに飲み始めた。そして、食っている最中のパンを奪って丸呑み。頭腐ったみたいに辺りを見回し始めたので、テント内にある食べ物を手渡すと物凄い勢いで食ってしまう。

「直ぐにお持ちします」

 ラシージがそう言ってテントを出て行く。ラハーリも少しして出て行く。

 ルサレヤ総督の服装は何時も通りだが埃っぽい感じで、美しい羽毛の髪も艶が無いように見える。顔は不健康に凹凸がはっきりして陰がかって、完全にお疲れババア状態。

「総督お帰りなさい」

 そう言うとよろよろと肩を掴まれて、翼で包まれるように後背を遮断される。骨ぐらいなら噛み切れそうな歯が見えた。このまま食われそうだ。

「長距離無着陸飛行だなんて百年振りだ……全く、ババアに無理をさせるとは可愛い奴らめ」

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