第2話
4 声と語り
一人称では基本的に視点人物と作中の人物とが同じ世界にいます。それゆえに、視点人物と他人との関係で、語れること、語れないこと、語りたくないこと、といったものがあります。「うつろなふたり」や「サザンドラの夜」ではここに注目しています。つまり、「語れないこと」や「語りたくないこと」などを一人称で表現できるかどうかということです。
もう少し、詳しい例を出します。一般的に人の内面は人には分かりません。ある論理の中で生きてきた人には、別の論理がわからない又は理解できないことが往々にしてあります。その「理解できない」というのは、視点人物の中でどのように処理されるのか。例えば「私が馬鹿だから理解できない」「なぜか私を理解してくれない」「ただの異常者の論理」など、あらゆる処理があります。ここの差は、視点人物が理解できない人物とどのように接しているかで決まってきます。
ホラーとして投稿する以上、少しでも怖いなと思ってもらうにこしたことはありません。そこで、「合理化する狂気」というのを描こうとしました。パワハラの論理というか、自分に都合のいいように現実を理解する狂気というべきでしょうか。私がこれを描こうとした「サザンドラの夜」と「うつろなふたり」を例にします。
「サザンドラの夜」では、「私を理解してくれない」という方向で、無理にでも「理解」してもらおうという風にしました。「うつろなふたり」では、「夫婦で同じものを見ている」という主人公の「理解」を描きました。両者とも、相手の意思や相手がどう思っているのかについて確認していません。しかし、なんとなくながら、理解できたと思っている。
これは、相手の内面が語れない一人称だから描けるズレだと思います。語った人物の現実が文章で展開できます。人物のエゴイズムなどが描けていれば、ひとまず私の目論見は果たしたといえます。
次に三人称。これは、「山田くん一大事」や軽めのホラーを描くときに採用していますが、目的が違います。
「山田くん一大事」では、毎回、「山田肇は~」という書き出しで統一しています。これは、本作をコメディとして描こうとした私の目論見からです。山田肇をはじめ登場人物の様子に全く影響を受けない明らかな三人称である「強固な声」は、誰かに肩入れしませんし誰かを非難することもありません。しかし、三人称単視点、山田肇を中心に語られることで、山田肇が混乱したりすることを滑稽に描くことを目指しました。その正否は、判断していただきたいです。
ホラーでは、どのような声でも拾いやすくなる(演出の自由度がすごく高くなる)という理由で採用しています。
試してみたい取り組みとして、スカースという、『ライ麦畑でつかまえて』などのような、その人物の社会に置かれた状況や自負などを一人称で表現することができたらいいなと思っています。
5 構造
さて、私は、整った作品というものが好きではあるものの、謎の解決ということにあまり興味がありません。しかし、謎めいた状況を呈示することは、言い方が悪いですが「食い付き」が違うのも事実です。私の拙い投稿作では「うつろなふたり」やミステリーというジャンルに入れた「字句の海に沈む」がそうでした。おそらく、明確な構造をもった作品は、広まりやすいのかなと思いました。
ジャンルによる構造以外もあります。個人的に注力した作品では「餌とり物語」でしょうか。これは、童話の語りかたのようなもとを取り入れています。
三人称の、ですます調で童話のように語ることで、残虐さを薄める言葉づかいにして、かつ、童話という主人公が最上の結末を向かえがちなものに対して難民の宇宙人が辿る惨憺たる日常は終わらないというものにして、ブラックジョークになればいいかと思いました。
6 まとめ
自分ではなんとでも言えるため、作品が成功か失敗か、妥当な判断はしかねます。主観では、失敗の連続です。
この文章を残しておくことは、今まで自分が作品を書いているとき、何を考えていたのか、そして何を考えていけばいいのか、ということが少しでも言葉にできればいいかなと思いました。
ここまで書いたことは、誰にも強要できるものではありません。無価値で話にならないという人もいると思います。そして、私自身、これを守るかどうか、微妙です。より面白いと思えることが見つかれば、そちらが優先されます。
足元の確認 古新野 ま~ち @obakabanashi
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