恐い、話 「カップラーメン」
赤キトーカ
彼はそれを食えないと思ったか
これは実際にあった話だ。
いや、俺も直接見たわけではないので、はっきりと断言することはできないのだけど・・・・・・。
君も、聞いたことくらいはあるだろう。ほら、老人とか、いや、老人に限らないんだけれど。部屋で一人で死ぬって、よくあるだろ。孤独死。その、孤独死があった部屋を清掃する、そう、いわゆる「特殊清掃」をやっている、知り合いから聞いた話なんだ。
君はこういう話は耐性があるだろうから、きっとグロテスクな表現も大丈夫だと思うけれど。ああいう孤独死の「現場」ってのは、本当に壮絶らしいね。
もう、息絶えてから何日も、1週間、それこそ1か月経って発覚することもある。そうなると。基本的に、身体が……なんていうのかな。腐って溶けてしまうのだというね。
人間の身体はほとんどが水分だ。水と脂の、袋だ。畳の上で亡くなろうものなら、溶けて液体化した身体が畳はおろか、床まで貫通することなんてざららしいね。ひどい時は、下の階まで「死体が」垂れて、天井までシミになって発覚することもあるらしい。下の階の住人にとっては、ぞっとしない話だろうね。
一番凄まじいのが、入浴中の突然死。これは完全に、骨以外が溶けきってしまう……。想像したくもないけれど、ある意味、清掃人としては逆に手間が少しははぶけるのかもしれないね。棺桶のようなものだし……、
すまない。少し話が逸れた。いや、短い話なんだ。
端的に言うと、その「突然死」の話なんだ。
その、俺の知人が、ある老人…初老といっても50か、60か。それほど老人、というわけでもない。といっても、若い男性というほどでもない。初老っていうのかな。
突然死だったらしい。それで、その親族から、遺品整理の依頼を受けて部屋に入った。
部屋はまあ、そこそこ汚かったらしいけれど、悲惨な状況で見つかったわけでもないし、ちょっとしたゴミを片付けたりする程度で、まったく楽な仕事だった。いつもの特殊清掃に比べれば、の話でね。
部屋の中心にはこたつがあったらしい。そこで寝たり、食事をしたりしていたんだろう。こたつの上に、カップヌードルがあったそうだ。それは作りかけで、お湯を入れた形跡があった。中には、ふやけっきって黴の生えた麺が残されていた。口を付けた形跡はなかったそうだ。
それを見て、その清掃人は、心から戦慄したそうだよ。
……え? 話は、終わりだよ。
わからない、って?
彼は、突然死だった。他殺でも自殺でもない。心臓麻痺だ。
その兆候は、なかった。
それがひとつ。
そして、お湯が入れてあって、口を付けた形跡のない、カップヌードル。
俺は……、こんな恐い話は、 そうそうないと、思うがね……。
恐い、話 「カップラーメン」 赤キトーカ @akaitohma
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