第46話 エピローグ 八
※ ※ ※ ※
田所和男は、恋人の染谷美玲を病院まで送った後、自分の家に帰り深い喪失感を味わっていた。
『次に逢う美玲は、僕との記憶を全て失っている…。』
その事実は動かしがたいもののように、和男には思えた。
そして、月日は経ち、10月。
それは和男たちの大学の、新学期が始まる季節だ。
暑かった夏も一段落し、次はどんな寒さが待っているのだろうと気になる季節…。
そんな中、和男の「闇属性」は完全に消え、驚いたことに、和男は大学の多くの人から声をかけられた。
「君、田所君だよね?」
「良かったら、うちのサークル入らない?」
それは、「闇属性」そのものだけでなく、そんな属性を持っていた過去そのものも、消えてしまったようで…。
『いやいやそれはあり得ない。
実際に、僕にはいじめられた過去があるんだから。』
ただ、「闇属性」を持っていた時にあった「負のオーラ」はなくなっているのではないか、和男はそう思った。
そして、
「いいね!そのサークル、面白そうじゃん!」
和男は、快活にそんな学生たちと接した。
そして、和男のいる講義室に、1人の女子大生が、入って来た。
それは、和男がよく知った顔で、でも、向こう側は和男の方を見ても、何の反応も示さない。
染谷美玲。
『やっぱり、記憶はなくなってるのか…。
まあ、分かってたことだけど。』
それでも少しは反応があるかと期待したが、相手は和男と目が合っても何事もなかったかのように目を逸らし、そのまま前の方の席に座る。
そして、意を決した和男は、その女子大生、染谷美玲の方へ歩いて行く。
「あの…ちょっといいですか?」
『美玲は僕に、こんな風に勇気を出して声をかけてくれたんだな…。』
そんなことをふと思うが、和男は顔には出さないように努める。
「…何か?」
以前の美玲に比べて、ちょっと冷たい?和男はそんな印象も少し持つが…。
それは美玲への「愛」の大きさからすれば、大したことではない。
「あの…、僕、あなたと友達になりたいんです!」
本当は今すぐ目の前の女性を抱き締めたくなったが、そこは自制する。
そして、和男なりに、相手に嫌悪感を抱かれないように工夫した…つもりだったが。
「あの…、私たち、どこかでお会いしたことありますか?」
『ちょっと引かれてるな…。』
これは誰の目にも明らかであろう、和男はそう思った。
『これは、前途多難、だな…。
美玲、こうなるなら、先に、記憶がなくなる前にそう言ってよ…。
ってか、『美玲を口説くの、大変だから覚悟した方がいい。』って確かに美玲、言ってたな…。』
和男はふとそう考えたが、そんなことを言ってもしょうがない。
そして、その日から…、
和男の大好きな人、美玲との、新たな恋の物語が始まった。(終)
闇の僕と光の女の子 水谷一志 @baker_km
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