黒エルフ、サキュバス、とスライム②
アイシャが言うには、
「少佐殿曰く『重婚は流石に無理だが、少しの間ならまぁ、若いうちの火遊びってことでだな』ってことらしいんだよね」
と晴れやかな表情。
しかしてエリザベートは
「姉さんアイシャのこと見もしなかったからなぁ」
とやや曇り気味。
そこでジョニーは、
「というか、改めて聞くのもなんだけど、レイザーはいいのか?」
と、すでに決着しているはずのことを言う。
これにレイザーことエリザベートは剃刀のように鋭い目つきをあたふたと泳がせ、あさってのほうに視線を向ける。
「いやまぁここまで純粋に好意をさらけ出されると、さぁ……悪い気するほうが難しいって」
などとごにょごにょ口ごもった。
(あれ……? 俺の彼女、チョロすぎ……?)
(今更だけどねぇ)
と視線を交わすスライムとサキュバス。
ジョニーは困ったような顔、アイシャは猫が笑ったような顔をしている。
実際のところアイシャは、エリザベートのこういうところが男の子っぽいと感じてもいた。複数の異性(または同性)に言い寄られて悪い気はしないのは、思春期を除けば男のほうが圧倒的に多い。
「まぁいいや。勢い任せでヤッてもなんだし」
「危うく通報されるとこだったしな」
「悪かったよぅ。それはいいから、ホレちょっと二人とも、ちょっとこっち来なさい」
「なんだ急にママきた」
「ママ……」
「オギャるなオギャるな」
「「アイアイマム」」
「お前たちは私たちの海兵隊をどうするつもりだ、託児所にしたいのか?」
「「ノーマム」」
「話を進めてもよろしゅうございますか?」
「「イエスマム」」
「っとにもー。これからしたいのはちょっとした心理学的セッションなんだけどさ。少佐殿にもやっとけって言われてたし」
ちんちくりんだが胸と尻だけはやたらと大きいアイシャは、確かに母性的魅力も兼ね備えていた。
上背があり均整の取れた肢体を持つエリザベートにはない魅力、というのが適切かもしれない。
そしてしょうもないじゃれ合いこそは、彼女たちの信頼と結束を表すものだ。
ただしそれは戦友として、親友同士としてのそれだ。
本音を言えばジョニーとエリザベートは、そこから先へは進みたくなかった。
進んでしまえば三人の関係は変化し、信頼と結束に傷が入るのではないかと恐れているのだ。
「ということを考えているのはまるっとお見通しなんだよ、二人とも」
小柄なアイシャはジョニーとエリザベートの頭を両脇に抱え込むと、大きなクッションに仰向けに倒れ込みながらそう言った。
「あたしだって怖いよ。二人とも大好きだけど、あたしが二人と築きたい関係は、多分ちょっとおかしいと思う。少なくとも現代西洋的観点ではね」
合衆国憲法と連邦法では重婚は魔族の基本的人権として保証されている。
実際にスファギンやハルピュイアのように一妻二夫でないと妊娠もままならない人種が存在するためではあるし、ゴブリンなどは群婚であるからだ。
だが、ブリテンとの国交正常化と移民の受け入れ開始以後は一夫一妻制を常識とするものが大いに増え、魔族たちも次第にその様になっていった。
つまり、二〇〇〇年代の多くの魔王の統治せる魔族合衆国連邦市民たちにとっては、他の多くの国と同じように、一夫一妻制こそが社会規範の一つとなっていたわけだ。
ジョニーとエリザベートの前頭葉にももちろんそれはある。
あるが何故なし崩しに今や非常識で古風で、現代の社会規範からは認めがたい関係を築こうとしているのかと言えば──若さゆえのなんとやら、というよりある仕方ない。まさに少佐殿閣下の言葉通りである。
「これからする”セッション”は、そうだなぁ、精神科医のカウンセリングみたいなもの。三人で一緒に同じ夢を見るの。そこではだれも嘘をつけないし、本当の気持ちが全部筒抜けになるんだよ」
ぼよんぼよんとしたジョニーの感触を楽しみながら、緊張するエリザベートの拍動を愛でながら、アイシャは言った。
「今さら必要なのか、それ」
「必要だよ。多分セックスより大事だと思う」
「じゃあそれ先にやりゃよかったじゃん」
「アタシはこっちのほうが恥ずかしいんだよ。全部筒抜けになるって言ったじゃん」
アイシャは照れ隠しに、ぶぅ垂れる二人の頭を自分の胸に押し付けた。
「俺もレイザーも相当なもんだけど、やっぱりお前が一番だな」
「そりゃAVみたいには行かないよ。……さて、それじゃ一緒に深呼吸して」
一度。
二度。
三度。
四度目の深呼吸の前に、三人の意識はマットレスを突き抜け深く沈み込み、同じ深さでピタリと止まり、同じ仮想的意識空間で目を覚ました。
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