その涙さえ命の色



命は繰り返したいだけ行き過ぎる

透明さえも色ならば

願いさえ命の色だ

切愛さえ命の色だ

涙さえ命の色だ


塗り潰すこともできない不完全な色で

昨日と今日を行き来する

昔日の小さな恥を忘れないでいる

夢は転げ回るばかりで落ち着くことを知らない

無様な生きざまさえ色に違いないよ

こぼせない涙さえ命の色だ


食われることばかり足る

ビタミン剤を消費して生きる

暮らしぶりは上向かなくても

塗りたくられる透明で

息が隠れる

秘められた悔悟さえ命の色だ


 昼とも夜ともつかない薄暮の世界で、冬が息を濁すのに任せながら、行方知れずの蛾になって、小銭を持ち、自販機のボタンを押すだけの生き物に、寸時、なってみる。情緒はいずこからだってどんなにか湧くけれど、それに身を任しきれずに、手は安物のフリースのポケットに置いて、行方知れずの蛾にも目的地はあるから、自販機から落ちてくるコーラは赤い色でも、落ちた音は透明で、その色に染まるだけの蛾であれば、やはり情緒ではない。ああ、嫌だな。そんな自分は嫌だな。どんなふうに嘆いてみても生に喰らわれて、落涙に満たなくても、やはりそれは涙だし、命の色だよ。


命は繰り返せる限り過ぎる

精神にさえ色があるとすれば

落涙に満たないそれさえ

涙の色であって

命の色だよ

赤くしてやりたいな

血の色には足りないな

青くしてやりたいな

海にも空にもかなわないな

無色に染まるだけだよ

行方知れずの蛾の悔悟と悲嘆に

どんな色もない

ただ命の色であるだけ




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その涙さえ命の色 ~同題異話SR詩集~ 香鳴裕人 @ayam4

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