その涙さえ命の色 ~同題異話SR詩集~

香鳴裕人

字句の海に沈む



まるで違う呼吸の水底みなそこ

ことばは積もる

異に異を重ね、を連ねた渦に惑う

迷子の深海魚は灯りでことばを照らすのみで

さあ、どうやって受けようか

降りそそぐことばは絶え間ない


異なる砂粒ことばは拾えない

何かを掴める海じゃない

灯りの深海魚が泳ぐべき海底は違うんだ

砂粒ことばを掻き乱してみたところで

砂粒ことば砂粒ことばをまともにつなげやしない

腹も立つじゃないか

苛立ちの手遊てすさびだよ


覆載天地のわずか一点

あるいはそこからもはみ出す海中で

きっとことばざざめかす飾りたてる

手遊びだからとの甘えで才がる才人ぶる


天淵天地のわずか一点

あるいはそこからもはみ出す深海で

無辺際に果てもなく広がる砂粒ことばを見る

汝達お前たち六骸身体を与えてやれないよ


いったいどこから、いつから、どのようにして

深海魚は迷子の中にいて

字句ことばの海には沈めども

異なることばは受けられない

たがえる砂粒ことばは拾えない

何かが掴める海じゃない


迷子だよ

迷子だな


書いてやれないよ

つなげてやれないな


異に異を重ね、を連ねた渦に

いっそ呑まれてしまおうか

程々のデカダンス退廃的

まるでちょうどいいじゃないか

自らの六骸身体

ことばが積もるのに任せるようにして

自らの六骸身体

砂粒ことばに埋まるのに任せるようにして

程々のデカダンス退廃的

まるでちょうどいい

帰り道なんてわからない


雪・砂粒ことば潺潺と(水が)さらさらと流るる滄溟青い海原は遠くて

根本にまで遡ること遡源は難事の難事であって

ドライアイだな

海中なのに

心から感謝して忘れない感佩することは本当にあるのに

何も返してやれないや

釐毫ごくわずかほども満足できやしない


程々のデカダンス退廃的では

火山に飛び込むものではなく

ことばが積もるのに任せて

砂粒ことばに埋まるのに任せて

異に異を重ね、を連ねた海底で

ここではないと駄々をこねながら

苛立ち混じりのやけっぱちだよ


心から感謝して忘れない感佩することは本当にあるのに

その本当のことを

書いてやれないよ

違う海だと言い訳をして

どう泳ごうか

積もるに甘え、埋まるに負けて

灯りがあるばっかりにごまかせずに


字句ことばの海には沈めども

本当をつなげてやれないな

書いてやれないけど

溺れることもできない

苛立ち混じりに

ことばを積もらせ

砂粒ことばに埋まって

もう一度、

二度、三度、




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