最終話 命の在り処

「せいっ!」

夜の公園で日本刀を構え魂を掻っ捌く男が一人。

髪はボサボサ、タバコをやめた痩せ型の男。

睦月祥吾36歳。

「これで終いか?」

「終わったムッキー。」

ピンクのパーカーを羽織り死んだ目で棒付き飴を頬張る女、一ノ瀬ミルカ。

「てめぇサボってんじゃねぇよ、つーかなんでまだ街に魂がウロついてんだよ!」

「仕方ないと思うよ、処理しないままオジさん斬っちゃったからそりゃ元に戻るでしょ」

「うるせぇな、って何でお前普通にいんだよ部屋にまで居候しやがって!」

夜部屋で寝ている間に、黒いフードの男が部屋に泊まっていた。

「仕方ないよ、冥土から追い出されて行く場所無いんだからさ」

開き直って平然と言ってのける。ちなみにホテルは火事で全焼した。

「だからってお前、俺達の部屋に..」

「ねぇアレ何なの先輩、私怖いわ!」

「い、行こうぜ..。」

夜中に吠える中年を不審がり、若いカップルがこちら白い目を向ける。


「うるせぇ純情乙女!」

「ひ、ひぃっ〜!!」

悲鳴を上げながら、男女はそそくさと逃げていった。

「もういい、帰るぞ!」

「勝手に仕切んな中年!」

「僕は別にいいけど」

マスターがいなくなってから随分と平和になると思ってたが、何も変わらねぇ。それどころかなかった事にされてるみてぇに存在が無くなっちまった。

死体は当然残らねぇ、俺が斬っちまったからな。

残党共はどうなったかって?

三人の内の男二人は今、別の魂を入れられて、捜査一課で腕を振るっていやがるよ。


「急げ、事件は待ってくれないぞ!

わかっているのか樋之口!」

「わかっていますよ。

直ぐに準備をしますから」

「本当にわかっているのか!

準備など昨夜にでもしっかり整えおけ!」

「今日の事件の為にですか?」

「立ち話をしている場合では無い、行くぞ!」

一頻り吠えると刑事は颯爽と駆けていく。

「ホント用意周到だな、多所さん。」

姿全く違ぇのに違和感ねぇのか?

女の方はわからねぇ、何してんだろうな。

アジトに使われてた廃ビルは取り壊されてた。本当はもうちょい前にぶっ壊す予定だったらしいがどうしても譲って欲しいと大金出して頼み込んで来た奴がいるとかで延期になったらしい。

あのオッさん、そこまでしてたのか。


「ただいま..って誰もいねぇのか。」

「いい加減慣れろよ」

「うるせぇクソガキ!」

俺たちは相変わらずだ、部屋でコーヒ飲んで、魂処理してる。

ただミルカの野郎が可笑しな商売を始めやがった。バーカウンターがスッカスカになっちまって勿体無ぇとか言ってよ、客呼んでコーヒー飲ませてんだ。作るのは勿論俺だ。お陰さんで金はよく振り込まれるが、人が多いと落ち着かねぇ、迷惑なもんだぜ。

関係あるかは知らねぇが、最近街のコンビニやらスーパーで、モノを盗まれる事が減ったらしいぜ。

いけすかねぇ黒コートは、知らねぇ内にいなくなってやがった。全くせいせいしたぜ、こればっかりはな。


とある街の高台、ビルを椅子代わりにして男が街を見下ろす。

「相変わらず片付かないよねこの街はさ、面倒くさいなぁ」

「わーいわーい!

高いねー!良い天気だねー!」

「まさかまた戻って来るとはね、ていうか地獄に帰れるとはね」

数日前

「よっと..久し振り、神の皆さん」

「何が久し振りじゃ、呼ばれても来んくせに。」

円状の卓に座る白髪の老人達がリブライを囲んで一斉に睨みを効かせている

「毎度毎度知らん振りですっぽかしおって、どういうつもりなのじゃ!?」


「えー、だってアンタら話長いしその上つまらないし今だに昔の考え全然抜けないし周りに全く敬われてないのに踏ん反りかえってるし死に損ないの癖に下手にイキってて..」


「もうエエ!」

「聞いたのそっちなのになぁ」

「滝のように延々と悪口を言いおって、寿命が無いのがそんなに偉いか」

「そうなるともう話変わって来てるけど」

時代によって寿命や命などの概念が失われ、死という存在が無くなった世代へのあからさまな嫉妬。みっともない老人のエゴがしっかりと伺える。

「まったく最近の若いもんは!

ワシの頃はもっと..」

「うるさいよ!

クソにもならない話しないでくれる?

あと死なない事って、アンタらが思うほど良いもんじゃないよ」

死があるからこそ楽になる。無ければ一生地獄で痛みを受け続ける事になる。老人達は、その有り難みを知らないようだ。

「結局話聞かないで来ちゃったけど、どうせつまんない事だろうしな」

「話聞かなくていーのー?」

「いいよ別に、バカと話したくないでしょ、疲れちゃうからさ」

声のでかい奴、質問の多い奴、根掘り葉掘り聞く奴。バカの三大要素、話す価値なし、生きる価値なし死ぬ価値も無し。


「そろそろ僕らも行きますか、どうする、プルト?」

「レッツごー!走れリブライー!」

魂を裁く者、魂を管理する者、住む場所が異なる生物も人々も、皆共通する事がある。

〝生きている〟という事だ。

皆平等、唯一通う同じ在り方。

人間も動物も虫も植物も、命が有ろうと無かろうと、見えようと見えなかろうと違いは無い。

良いと悪いと、区別する程の違いは無い。偉いと驕り、弱者と見定めた者を蔑もうが、同じ段階の生き物だ。


そう、どんな命であろうと関係は無いのだ。

「ふぅ..はぁ..あぁ...!」

ボロボロの衣服に割れたスマホ、ガードレールを掴みつつ覚束ない歩幅で道路を彷徨う。

「傷がっ..消えないっ!」

身体の損傷は酷く強めの火傷を負っている。

「自撮りが映えない、顔は汚いし、画面は割れてる...全っ然可愛くない!」

無残な姿に落胆し、へたり込む。

夜の道路で人気は少なくとも女が一人でそうしていればかなり目立つ。案の定通りかかった通行車に見つかり、声を掛けられる。

「おうどうした姉ちゃん、迷子か?」

「......」返事が無い。

「どうしたってんだ...っておい!

アンタボロボロじゃねぇか!」

運転席から窓を開け、大きな声で驚嘆している。

「..ワタシを見ている。

倒れるワタシを心配して、声を掛けてる。...ワタシに注目している。」

女の崩れかけの承認欲求が、じわじわと満たされていく。

「乗れよ姉ちゃん、病院行こうぜ?」

「ワタシを心配してくれるの!?」

うな垂れた顔を上げたとき、女に衝撃が走った。

「ピン..ク...。」

「ん、おぉこのトラックか。

色がハゲてたから最近塗り替えてよ、

どうだ、可愛いだろ?」

「..さない。

絶対に許さないぞピンクゥッ!!」

「え、ちょっ..」

男と車を爆破して、女は再び夜の道路を一人彷徨う。





「ハックションッ!」

「くしゃみすんな馬鹿!」

勿論中年も、命の形は変わらず同じ。

「ハクション!」

「お前もしてんじゃねぇか!」

ただ人は、何かと優劣を付けたがる生き物だ。

「ムッキーの方が音でかかったろ」

「何言ってんだ嘘言うんじゃねぇ!」

睦月祥吾36歳、少女とガチで大口論



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