三文劇場 〜白雪姫
大艦巨砲主義!
三文劇場 〜白雪姫
とある王国がありました。
王国の特産品はりんご。肥沃な土地柄を生かした王国さんのりんごは、近隣の諸国の富豪も気にいるほどの高品質で知られるりんごです。
そんなりんごが名産のとある王国の王都には、国政をほっぽり出して毎日をりんごの品種改良に燃える学者肌の王様と、次期女王として国政を実践で学ぶ………というか王に代わって大臣たちとともに王国の経営を行っているとても綺麗で、とても苦労人の王女さまがいました。
この日も王はりんごの品種改良に精を出し、王女様は大臣とともに書類の山をさばいており、王宮は慌ただしくも平和な日でした。
「来る日も来る日も書類の山山山………って、私まだ18なのになんで国政を取り仕切っているわけ!?」
りんごのように顔を真っ赤にして叫ぶこちらの大変美しく、そして大変疲れの溜まっている方が、次期女王としてりんごの品種改良に生きている現王からの指名を受けている王女様、白雪姫です。
名前の由来は美しい銀髪と、雪のような白い肌と、りんごが大好きなところと、国政を放り出して趣味に生きている親父にすぐ逆ギレして赤くなるところです。
白雪姫は大変美しく、他国から婚姻のお誘いが毎日のように届く方なのですが、ご覧の通り日々書類の山をさばき王としての業務に奔走する日々を過ごしているため、自分の婚約者を選ぶ暇もありません。
しかし、若干18歳ながらにして、りんごの品種改良と栽培の腕と知識ばかり上がって他に何もしようとしないダメ親父の国王に代わり、立派に王国を統治している天才です。
白雪姫は若さと女性という目線から、古い封建制の根強く残る農業大国の王国において様々な改革を実施しました。
それまで放置されがちであった工業面の強化と、女性の社会進出の機会を作り、果物の加工品をはじめとした様々な工業化による発展の産業革命を王国にもたらしたのです。
これにより王国は自国の肥沃な資源を活かした経済大国として発展し、白雪姫が国政を振るい出してからわずか8年という年月で急成長を遂げてきました。
………白雪姫は、王政に青春を奪われた悲劇の少女でした。
今日も白雪姫は大臣たちとともに国王の業務を王宮にて朝から行っていました。
白雪姫が進めた改革で王国は目覚ましい発展を遂げており、その分多くの課題が毎日山のように出てきます。
大臣と白雪姫は来る日も来る日も書類の山と格闘していました。
太陽が南の空に昇りきった頃、今年の秋には齢75を迎える財務大臣が一度筆を置いて白雪姫に提案してきました。
「姫様、いつまでも王宮の屋根の下で書類を捌くだけではお体に毒でしょう。この老いぼれたちに任せ、一度外を回られてはいかがでしょうか?」
大臣たちが白雪姫を気遣い、休憩を提案してきたのです。
白雪姫はいい加減父王に文句を言いたかったことと、朝から書類と闘い続けていたことで身体が凝り固まっていたことから、大臣たちの気遣いをありがたく受け取ることにしました。
「お言葉に甘えさせてもらうわ、財務大臣。ちょっと出かけてくるわ」
淑女教育の時間も捨てて国政に携わってきたので、白雪姫は他の令嬢に比べると仕草がやや荒っぽいです。
椅子から立ち上がった白雪姫は、60を超える老人がほとんどとはいえ男性である大臣たちの前で腕を伸ばし、体を伸ばし、無防備に脇や背中をさらしながら身体をほぐしていきます。
しかし、大臣たちはそれぞれの机に置かれている仕事を捌くことに忙しいことと、白雪姫が美しくとも彼女が10歳の頃から父王以上にともに仕事をしていた時間が長かったことから、彼らにとって白雪姫は同じ職場で働く同士であるとともに親戚の孫娘のような存在であり、邪な目で見るものはいません。
大臣の中で白雪姫と歳が近いのは、同い年の国防大臣ですが、彼は国交大臣と陸軍大臣も兼任しているために他の大臣に比べ仕事の量が多く、白雪姫の様子に目を向けている余裕がなさそうです。
国防大臣は、先任の陸軍大臣であった父が事故により急死したため、白雪姫と同時期のまだ子供だった時から国政に携わってきました。
似て非なる境遇だったことと年が近かったことから、白雪姫と国防大臣は親友です。
白雪姫は彼を誘おうとしましたが、白雪姫のことを気にかけている余裕もない姿にそれは止めることにしました。
「しばらくよろしくね」
そう言い残し、白雪姫は執務室から出ました。
白雪姫が最初に向かったのは、もちろん国政をほっぽり出してりんごの研究に夢中になっている国王がいる果樹園です。
日々の激務をそつなくこなしそれに耐えるために、白雪姫は基本的にドレスを着ません。
ズボン姿の白雪姫は、その程度ではいささかも衰えない白く美しいその顔を真っ赤にしてズンズンと足早に果樹園に向かいます。
白雪姫の迫力に気圧され、巡回の騎士たちや執務に走る文官たちはすれ違うたびにすぐさま道を空けてしまいます。
果樹園の入り口を守る騎士たちは、国王から起こっている白雪姫は通さないようにと命令されています。
「通して」
「申し訳ありません姫様、陛下より果樹園には何人たりとも–––––––」
「通して」
「承服しかね–––––––」
「通して」
「申し訳あ–––––––」
「通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して通して」
「…………………陛下、お許しを」
しかし百戦錬磨の騎士ですら、白雪姫のお怒りモードを前にしては果樹園の入り口を譲ってしまいます。
こうして国王が頼みの綱とした最終防衛ラインもたやすく突破した白雪姫は、鼻歌を歌いながら白衣に身を包み怪しげな実験をしている中年男のもとにたどり着きました。
「ふふふふふふ………これぞ世紀の大発明だ。新たな品種の誕生である!」
どうやら、新品種の誕生の瞬間だった様です。
国王にとっては幸せの絶頂期と言える場面だったことでしょう。
しかし、白雪姫にとっては関係ありません。
その絶頂期が、どん底に落ちる瞬間でした。
国王の真後ろに到着した白雪姫は、日々たまる鬱憤を元凶となった中年男にぶつけるべく、その首根っこを掴み上げました。
「な、何をするか! この、無礼も………の………(汗)」
国王はいきなり首根っこを掴み上げられたことに激昂しましたが、その相手を見て途端に歯切れが悪くなり、研究の努力の汗に代わり冷や汗をかき始めました。
その青ざめていく父親に対し、白雪姫が怒りを露わにした笑顔を向けます。
「よう、クソ親父。無礼な娘で悪かったな?」
「し、白雪、姫様………」
ガタガタと震えだす国王ですが、中年オヤジが縮こまっても可愛げなど欠片もありません。
白雪姫はもう片方の手に怒りマークを浮かべた拳を作り、ふり上げました。
「とりあえず、1発殴らせろ!」
「待って、愛娘よ! ご慈悲を–––––––ブフォッ!?」
国王に鉄拳制裁が突き刺さりました。
国王は、頼みの綱としていた騎士を恨みましたが、白雪姫の光の宿らない無表情で何を言っても「通して」を連呼してきたという話を聞いた瞬間に彼を許しました。
今日も平和な1日でした。
王国の最高権力者は、王国の一番の苦労人です。
白雪姫が国政を握っているという話は、王国の豊かな資源を狙っている隣国に伝わっていました。
隣国は王国の現王の妃の実家でもあります。
早逝した王妃の姉で白雪姫の伯母に当たる強欲な女王は、目覚ましい発展を遂げる王国が白雪姫による功績だと知ると、王国を侵略することを決断しました。
スパイの報告を聞いた女王様は、上機嫌です。
「娘が実権握ってんのあの王国www」
笑いが堪えきれない女王に、隣国の宰相を務めている怪僧がいさめます。
「笑い事ではありませぬぞ、女王陛下。齢18にして王国をあれほど発展させた才覚、侮れませぬ。紛れもなく姫の下で王国はさらなる発展を遂げるでしょう」
「怪僧wwwお前さん、白雪姫をずいぶん高く買っているのねwww」
「絶世の美女なれば」
「この面食いが!」
有能でずる賢いながらも思ったことを隠すこともなく言う毒舌面食い野郎の怪僧に、女王は怒りを露わにします。
とはいえ、怪僧としてもアラフォーのくせに草生やして笑っている女王の上機嫌な姿を見て怒らせてでも見苦しいのを止めようと思ったからの物言いです。
そして、怪僧は毒舌です。
「面食いで結構ですとも。アラフォーの分際でキモい笑いしている女王陛下よりは可愛らしい方でしょう。絶対」
「…………………」
部屋の気温が3度は下がりました。
女王は、自分の年齢を話題にされると冷たく怒ります。
隣国の宰相である怪僧は捕らえられ、ひと月の間牢獄に繋がれることになりました。
宰相が牢に繋がれるという事態により、隣国の王国侵略計画はひとまず頓挫することになりました。
こうして、王国は平和な日々が続く事になったのです。
〜〜〜白雪姫 完
三文劇場 〜白雪姫 大艦巨砲主義! @austorufiyere
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