キョンハルワンライ「たまには甘えたい。」
毎日どころか毎分毎秒毎ナノ秒、その整った顔とは裏腹に何かしら突拍子もないことを思いついては即座に行動に移し始めるハルヒだがここ数日はSOS団結成半年記念だとかで祝いの用意を画策しているらしい。俺にとっては気苦労の積み重ね記念だ。二分の一成人式とかいう催しにでも感化されたかしらんが一年を待たずして記念も何もある物か。などと不平不満は口から出かかってくるものの、六ヶ月近くも振り回されている事実に気が付いてしまいそしてそれに慣れてしまっている自分にも気が付いてしまいなんとも言えない気分になった。光陰矢の如し、ハルヒの巻き起こす騒動は良くも悪くも退屈とは縁遠い。楽しい時間は過ぎるのが早いというがそれを認めると平団員としてこき使われる己を当然の役割として固定してしまいそうになり癪なので深く考えないことにした。
最後の授業が終わり席を立つと、足が向かう先は古びた部室棟。もはやルーティンとなった入室前のノックをすると中から麗らかな声が聞こえ中に入る。出迎えてくれたのは存在だけでこの部屋を唯一憩いの場としてくれるSOS団専属メイド兼未来人だ。
「こんにちはキョン君。今お茶を淹れますね」
まだ秋口が過ぎたばかりとは言え、今日みたいに曇っていると少しばかり肌寒い。能天気な谷口は体まで能天気なのか薄着の耐寒自慢をしてきたが、なるべく熱を発しないように静かに過ごしたい俺は一枚程重ね着しないとならないのだ。そんな時に朝比奈さんの淹れる緑茶は実に身に染みる。
「ありがとうございます」
「おかわりもあるから言ってね」
このお方の優しさで心まで温かくなる。なんて和やかに過ぎ行く時間に浸っているとその空間を一瞬でサウナにしてしまう様な影が忍び寄ってきた。言葉選びを間違えたが厳密に言えば弾丸のように突入してきた。忍者としては三流以下だが勢いで任務を遂行できるだろうその人こそ涼宮ハルヒだ。傍にいるだけで熱を感じる人間カイロは溢れんばかりの笑顔でやってきた。その大輪のひまわりのような顔は季節外れもいいところだ。
分類としては谷口と同種に違いない。小学生の時分には真冬に半袖で雪遊びをしていた口だろう。その後ろからは古泉が遅れて入ってきた。
「何をブツブツ言ってんのよ。そんな湿っぽい状態で今度の結成記念パーティは成功しないわよ!祝う気持ちには心からの思いが必要なんだから」
俺の冷ややかな目線もまさに焼け石に水だ。
「ここに必要な物の一覧があるからそうね、キョンあんた用意して」
なぜ真っ先に俺を指名する。
「どうせあんた暇でしょ。それに皆は皆で色々やってくれてるんだからあんたも仕事しなさい」
暇かどうかはお前が決める事ではないのだが、悔しいことに俺の予定表は一か月後まで真っ白だ。キャンバスにはもってこいだな。
そんな押し問答を続けていると
「じゃあ私が買ってきます」
と朝比奈さんが名乗り出た。
「みくるちゃんは他の大事な役目があるからゆっくりしてていいわよ。こういうのはキョンがやるべきことなの」
「でも」
「でももヘチマも春闘もないの」
こういう時に限って古泉は手を上げない。よいしょはするが雑用はしないところが抜け目ないやつだ。俺が見ていることに気が付いたのか古泉は
「申し訳ありません。手伝いたいのは山々なのですがここのところバイトが立て込んでいまして、不定休なんですよ」
といかにもらしく弁明した。
「いいですよ朝比奈さん俺が行きますから」
「ごめんなさいキョン君、じゃあお願いします」
「あんたみくるちゃんには甘いわよね。扱いの差は何なのかしら」
そんなハルヒの文句を聞きながし、今日はもう坂を下りてからまた学校に上るのは得策ではないので帰り科にでも買って明日持ってくるかと考えていると
「ついでだから私もついて行ってあげる。別に買いたいものもあるし」
とハルヒが言い出した。
「私の作った団だもの、こういう記念事には団長自らが率先して動くべきだからね」
だったら俺は不要なはずだが。
「団長が働くなら団員も手伝うべきにきまってるでしょ」
体のいい荷物持ちというわけだ。
中略
買い物を済ませ電車に揺られているとハルヒは眠そうにし始めた。どうやらここ数日は記念用の準備に大忙しだったようで珍しくお疲れの様だ。大人しくしていれば相変わらず美人に違いはないんだがな。なぜそこまで一所懸命になるのだろうか。
「団長なんだから団員の為になることをするのは当たり前なのよ。そして頑張ってることをこれ見よがしに見せたり伝えたりするのも厳禁。好きでやってることなのにこれだけ苦労してるんですなんて言うのは押しつけも良い所でしょ」
見上げた根性だ。その殊勝な心掛けを俺をいたわる気持ちに少しでも変換してくれたなら言うことなしなのだが。
「団長が団員の為に働くのと同じように団員は団長を気遣う必要があるのよ。でも今日は助かったわ。ちょっと買う物の量が多かったから」
そういうと一つ大きなあくびをした。
「団員に弱いところは見せられないの、ううん見せちゃいけないの。でもあんたなら別にいいわ。ちょっとだけ寝るから肩貸しなさい」
中略
明日には嵐か竜巻でも起こるんじゃないかとさえ思ったね。それでもすぐ横から聞こえる寝息と肩に感じる体温はそんな物とは程遠く静かで温かい物だった。
キョンハルワンライ集 ツイッター投稿 シゲ @Shige-Nagato
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