4.死と瓦礫と清浄な世界の中で――
つまるところ、神は考証というものを理解していなかった。
その結果が自分の死であがなうものであったとしても、それは仕方のないことであったろう。
そももそも、悪役令嬢たるワシの異世界における現在の日常とは、世界の破壊に他ならなかった。
神は死に、ある意味完全な平等が実現される全ての死を求め、決められたルーチンをこなしていく。
そこに感動はないかもしれないが―― 果たして……
ワシは快晴に近い、なんとも人を不愉快にさせる空を見上げ、諧謔のこもった笑みを浮かべた。
「おほほほほほ、ちょっと佐藤大輔ぽくやってみたかっただけですわ」
ワシは特に意味もなく、哄笑した。
この考証の欠片も無い、異世界の中でワシの声だけが響く。
「全てのいきとしいけるものへ、祈りを。それが偽善であったとしても。おほほほ!」
御大のノリが止まらなくなったワシは、王城に向け、機動を置こうなう。
10式戦車は快調に無限軌道を轟々と唸らせ、異世界だったもの、それを構成するものであったもの――
いわゆる残骸を踏み潰し突き進む。
「小細工を弄するひつようなどないですわ。おほほほ」
ワシは泥と
キューポラから下を見ると、子どもが泥の中に首をつっこみ、まるでアリスの国へと行くかのような姿を見せていた。
しかし、首から上はない。そんな世界もない。
ただ、首のない死体が泥濘の中に突っ込んでいただけだ。
「おほほほ! 最高ですわ」
ワシは気分が盛り上がってきたのであった。
すると、前方からなにやらわからんものがやってきた。
徒歩で武装した集団だった。
そのまま突撃してくるのである。この最新鋭10式戦車に対してだ。
そこには、なんらの戦術思想もなく、そもそも騎乗兵もおらず、弓による遠隔攻撃もない。
諸刃の剣を持ち、二本の脚による突撃だった。
120ミリ砲に、榴弾をセットし発射した。
集団の真ん中に着弾し、人間打ち上げ花火ができる。
数発打ち込んだところで、エンジンが唸りを上げ最高70キロの速度に達する。
逃げ切れるわけがないですわ。おほほほ。
ワシは兵隊? たちを蹂躙して、肉とカルシウムと血の塊を増産する仕事を行った。
時々、機銃弾を撃ち込む。
「あがぁぁぁぁ!! この魔物め!!」
あまりにベタで定番すぎる、断末魔の叫びにワシはすこし嫌になる。
殺すことが嫌になったのではなく、死に直面してさえ虚構世界の役割にしがみつくモブ兵士の存在に唾棄すべき思いを抱いたのだ。
「やめるんだ! イザベラ」
この大量殺戮の中、やっと王子が出てきた。
なぜか、ヒロインもいっしょだった。
ふたりとも己が身のハッピーエンドを信じて疑わぬ、虚無と空虚の入り混じった莫迦としかいえぬ存在だ。
「おほほほ」
ワシは嗤った。そして、この笑いは白戸三平の漫画にでてくる
「イザベラ、オマエとの婚約はかいしょ――」
王子は最後まで言葉を言えなかった。
「う」の形に口を開いたまま、脳天に穴が空いていた。
ワシが小銃で撃ちぬいた。
ロイヤルな悲鳴を上げることなく、王子は後頭部の弾丸が抜けた穴から、脳みそを噴出して死んだ。
「ざまぁですわ。おほほほ」
とりあえず、バッドエンドを回避したワシは、ヒロインを殺す。
しかし、残酷な殺し方をすると(ピ――
世界そのものが最上神によって消えてしまう可能性があるので、スプーンで眼球を穿り出すとかできないのですわ。おほほほ。
だからワシは、ヒロインを銃で撃つに留めた。
で、お腹がすいていたのに気づいたので、王子の肉と合わせて鍋にして食べた。
鍋は90式鉄帽をチートの力で呼び出した。
鉄兜も兵器ですわ。おほほ。
ワシは無事バッドエンドを回避して、異世界を破壊。
その徹底した蹂躙と虐殺により、理不尽で筋の通らぬ不可解な世界を正常で清浄なるなにもない空間にしてあげたのだった。
気分は爽快だった。
―完―
悪役令嬢になったので、現代兵器で異世界を破壊してバッドエンドを回避することにした 中七七三/垢のついた夜食 @naka774
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