未知との遭遇
マーマン族の通報を受けた両陣営は先発隊を出してきた。
魔王陣営はガマッセル沿岸部に展開し、徐々に増員していく。
その一方でジャクルトゥサイドはデータ採取用の哨戒機と衛星による観測をしていた。
部隊の展開云々より、適切な攻撃方法を模索するためだ。
嵐のような乱気流の中、哨戒機は空域を巡回する。
コックピット内に設置されたガイガーカウンターが高レベルの放射線を感じ、悲鳴を上げた。
「副長、目標を周回して帰投してくれ」
「ヘイ、わかりやした」
堕天の指示を受けたクリムゾン隊副長は
副長の背後の機器を操作する堕天の配下である技師が無言でデータ採取に勤しむ。
光の柱が見えて来ると副長が柱の歪みがある形に似ている事に気がついた。
「おい、アレ、なんかに似てね?」
「えー………人?」
副長が指差す先を見て副操縦士の部下が頷く。
後ろの技師が徐に前を見た。
「ふうむ、前回や資料の話では概知の生物が無数に混ざり合った混沌の存在と聞いてますが………映像も送りますかね」
話を言い終わるまでには椅子に座り、機器を操作し始める。
その途端に一斉に計器系から警告音が鳴り響き始めた。
「全員、ベルトしてくんなぁ! こいつぁやばいぜ」
小刻みにスロットルレバーと操縦桿を動かし、機体の安定を図る。
クリムゾンに鍛え上げられた技量を発揮し、哨戒機は危機を脱した。
柱を横目にしながら副長が技師に声を掛けた。
「ふぅ! データはとれたかい?」
「ああ、十分だ。これ以上は危険だろう?」
「まぁな、これ以上の接近は特殊な機体でもない限りきっついぜ?」
気を使った技師が答えると副長は苦笑した。
少なくとも空気が薄くなり、強烈な磁力と重力が方向を変えながら機体に掛かってくれば墜落も有りうる。
宇宙戦も想定された機体で臨まねばならないと思い、機体を本部に向けた。
「副長! 後ろを! モニターを!」
副操縦士の部下がモニターを指さし、技師は窓に張り付いて後方を見た。
オーロラが完全に折りたたまれ、天に突く様な柱が徐々に巨大な人の形に歪んでくる。
それを見た副長は危険を察知し、スロットルを最大にして逃走に入った。
「本部! 柱に変化あり! 人型に変化している! 磁力や重力も発生して近づけない! データと映像を送る!」
機体の振動が激しくなる中、副長は必死に操縦しながら本部に通信を送った。
目に見えない外力に翻弄されながらも哨戒機は影響範囲から遠ざかっていく。
「副長! データだけでも遅れッ!」
「博士! 半端ない磁力も検出されていますッ! 送っても磁力で損壊しますよ!」
後部座席の技師が堕天の命令に反対する。
堕天のやり方を知っていれば自殺行為であった。
そこで副長が割って入る。
「とにかく此処から抜け出しまさぁ! 全員捕まってろぃ!」
操縦桿を前に倒し、本来の重力を使い降下しながら距離を稼ぐ!
哨戒機は海に向かい速度を上げて突っ込んで行く。
適当な距離を離した途端、機体が軽くなる!
「オラァ! 操縦桿をひけぇ!」
部下に指示すると共に一気に操縦桿を引き、上昇に入る。
同時にスロットルを全開にして影響力から速やかに逃げる。
「ふぃぃぃぃ、本部、帰ったら冷えたビールを頼むぜ」
「その前に私に報告と説明をして貰おうか?」
副長の額から垂れた冷や汗が堕天の指示を聞いて滝のように流れ出す。
代わりに技師が返答を返した。
「私がデータと共に出頭します」
「当然だ」
間髪いれずにイラつく堕天は命ずるが、その気分を逆撫でする様に大首領の通信が入る。
「副長、よく頑張ってくれた。技師の諸君も貴重なデータを良く守ってくれた。なるべく早く帰って解説を頼む」
堕天の怒りを踏み躙る様な大首領の褒め言葉に副長は複雑な表情で復唱した。
「りょ、了解です。大首領! 至急帰還しデータを提出いたします!」
神妙な顔でスロットルを開けて一路、本部に向かってスピードを上げていく。
ガマッセル沿岸の平野にラゴウたちは陣を構えた。
そこで攻撃部隊にする別世界の大物魔物召喚用魔法陣の製作を行う。
魔法局を指揮するドレドは配下である
「キチンと正確に書けぇ! そこ、スペルが違うッ!」
魔法局の職員達が浮遊術を使い、上空より魔法陣のチェックや指導をしていく。
足で踏んづけて線を消したり、印を間違えれば意図しない制御不能の魔物が召喚されて危険なのだ。
その操り手である上級者の
強力な異世界の悪魔や魔物を召喚し邪神にぶつけるのも有効な手段だ。
中央の天幕ではドレドが地図を広げ、攻撃準備完了の報告を受けていた。
「局長、予定人数以上の術者が氷結系の契約を済ませ、召喚用の生贄、
「うむ、失敗の無いように、例の柱は?」
地図にペンで丸を付けたドレドは報告に来た局員に尋ねた。
「巨大な人の形に凝縮しております。メソッド師が言っておられたジャクルトゥの航空機が接近し、なぜか慌てて帰っていきました」
「ふむ、何かあったな、メソッドに調べさせろ。それとマーマン族を下がらせろ! バトルフィールドの巻き添えを食らっても責任はとらん!」
局員に指示を出した瞬間に天幕の外が静かになる。
ドレドは誰が来たか察して水玉のローブを整えた。
「ドレド、状況は?」
軽鎧姿のラゴウはワーズやヴァンダル達を引き連れ、入ってくるなりドレドに尋ねた。
「ご下知があればいつでも行けまする。おや? ノイン様は?」
「自分が率いる突撃部隊を見ている。気を付けないと出し抜く気満々だぞ」
ヴァンダルが椅子に座り苦笑して告げた。
だが、ドレドも苦笑して返してきた。
「ええ、我々がバトルフィールドを形成するまでは動けないのですがね。まぁ、出し抜いても本隊は我々ですので問題はありませんよ」
既に織り込み済みらしく対策を考えてあった。
ラゴウも頷きながらドレドの準備に感心する。
バトルフィールド作戦とは海洋に出現、若しくは移動する邪神を氷結呪文で凍らせた分厚く広範囲の海氷に誘導し、全兵力で全方位にて叩く作戦である。
海氷上では捕食が出来ないのでエネルギー供給源を断ち、海氷上で叩くため被害の拡散が少ない。
汚染された海氷もマーマン族の支配下区域外で処理できる。
競争相手のジャクルトゥ陣営のエリアに入る前に自分たちで決着が可能な点も評価されたのだ。
中盤を支える巨大魔物の大量召喚がうまく行けば被害も少ない状態で事が済むだろう。
心残りは自分たちの出番に相手がいなくなる事だけだ。
腕を撫す魔王軍幹部に魔法局職員が慌てて報告に来た。
「邪神実体化するようです!」
報告に急いで天幕を飛び出し、ラゴウたちは柱を見た。
紫だったり黄色に変わっていたはずが徐々に白光一色となり、人型の柱が巨大な光の巨人に変わっていく!
神々しいまでの輝きは神という名にふさわしく、そこに邪さなど一切存在しなかった。
巨獣並みの大きさに愕然としたヴァンダルはぼそりとつぶやく。
「おい、
「
事も無げにドレドは言い返した。
何がどう来ても同じ方法で攻める。
それしか手はないのだ。
「者ども決戦である! 皆励めよ! 掛かれェ!」
光の巨人を相手にして眼光に闘志を溢れさせたラゴウが大声で号令をかけた!
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