光の巨神

 天を衝く巨人に対し、ラゴウたちが策を展開する。

浮遊魔法で浮かぶ魔法局員たちがドレドの指令を上から伝える!


「前列のソーサラー! 氷結呪文を海に向かって一斉詠唱して氷盤を作れ!」

「「ははっ!」」


横並びのソーサラー達が一斉に印を結び詠唱に入る姿は荘厳の一言に尽きた。

たちまちのうちに浜辺が氷結し海に氷盤を形成して行く。

呪文が終了すると後列と入れ替わりながら氷盤を大きく、厚くして海を凍らせて行く。

作った氷盤にソーサラーの一団が乗り、巨人に向かって氷を作りながら進む。


 氷盤が一つの島並みの広さに育つと同時に光の巨人が動き出す。

脚を上げてゆっくりと氷盤のソーサラー達へ歩き始めた。


「ソーサラー隊、前三列まで氷盤を厚く強化して下がれ! 残りは巨人の両足が着いた瞬間に発動しろ!」


脚ごと氷結させる事で歩行能力を奪い、一斉に攻撃を仕掛ける策であった。

無数の氷結魔力が氷盤の上に立つ巨人の脚に纏わりつく。

呪詛が効力を発揮し。脚が一気に凍結する!


「「いけいけいけいけいけいけぇ!」」


 先発組のノインとワーズが凍結して行く様子に期待を込める。

巨人の身長は十八キロ程度と推測される。

その移動速度はゆっくりでも歩幅がある為、時速約六七キロ程度である。

光の巨人が出す放射線を無効化出来るのは非生物系と不死系だ。

しかし共通する欠点がある、足が遅いのだ。

時速六七キロで移動する巨体を捕捉するのは難しい。

被害云々の前に足を殺すのはそう言う意味もあった。


 魔法が具現化し、巨人の足が氷のブーツを履かされたように固まる。

好機と見たでノインが号令をかけた!


「全軍突撃! 奴の足を掬ってやれ!」


ノロノロと動き始める先発組が巨人に迫る。

ソーサラー達は魔力が尽きた者は後方へ下がり、残った者は引き続き氷結魔法で攻撃をする。

既に氷のブーツはロングブーツの様に膝下まで来ていた。

あともう少しで先発組が足もとに到着する寸前、ブーツに無数の亀裂が入り割れ始めた。


「急げ! 足に取り付け!」


先発組を急かしたノインは飛翔の呪文を唱え、最前線に向かう。

適当なところで距離を取ると自身が契約する最大級の氷結呪文を唱え始めた。


「我は夜半に泣きゆきき、我はそれ正しくするほどを見つくるために試しゆきき。

長く寒き冬になる。愛のなき長き寒き冬! キィィィンファァァァァ!」


 ノインの身体前面に魔法陣が浮かび、真ん中が割れて猛烈な寒気が巨人の膝に纏わりつく。

亀裂を冷気が埋めていき、より硬化していく。

ブーツ状だった氷の足かせは膝まで完全に覆われた。

流石にここまで徹底すれば動きは止まる。

魔王陣営は皆、そう思っていた。


 メキメキメキメキと何かがへしゃげる音と共に、足かせの前の部分にヒビが入る。

それは亀裂となり、前方へ爆散した。

爆散直後に巨大な氷の礫となって周囲へ無数に降り注ぐ。


「ソーサラーは防御態勢で撤退! 先発隊は突っ込め!」


 慌てたノインは後方へ上昇しながら指示を与える。

巨人は足かせを力任せに粉砕し、歩き始めた。

その足元にはようやく先発組がにじり寄る。

スケルトンやゾンビが剣や爪を巨人の足に突き立てた瞬間、その先から光の粒子になっていく。

まるで砂と化していくように、光の粒になり巨人に取り込まれる。

しかし、奇妙な点があった。


 本来、上級アンデットの吸血鬼やリッチーならばいざ知らず、下級のアンデットには意思も感情もない。

しかし、光にされる直前のアンデッド達の表情には安堵と歓喜があった。

触れれば即座に光に分解され、巨人に吸収されていく。

本陣の櫓でそれを見たラゴウは傍らのドレドに尋ねた。


「ドレドよ。俺が読んだ大概の文献では生命をスライムの様に邪神は取り込み、捕食するという内容であった。俺の記憶違いか?」

「いえ、陛下、私もそう記憶しております。したがって近接攻撃は危険です。中軸で待機中のヴァンダル様に退避をお願いし、魔法局員達部下に遠距離での撹乱攻撃を指示しました」

「うむ、やれ」


 困惑の表情でラゴウとドレドは魔法での遠距離攻撃に切り替えた。

同時に念話でノインにも伝えて連携を図る。

氷結呪文の縛りがなくなったノインは得意の雷撃呪文をぶちかます。


「輝くべき大気の精霊王に聞こゆ。大地の竜脈へ血の盟約をもとにかの力与へたまへ! 爆豪雷」


雲の遥か上に見える巨人の頭上に引けを取らないほど巨大な積乱雲が立ち昇り、巨人の頭頂部に轟雷をぶち落とす!


落雷の瞬間、ノインは巨人の顔を見た。

顔立ちは無表情だが僅かに口角が上がり微笑んでいるように見える。

しかし、そこからくみ取れる感情は慈愛ではなく、無関心と本能が訴えていた。

それを意識した瞬間、ノインの怒りに火が付いた。


「こいつ、マジむかつく……。どてっぱらに焼きくれてやる!」


抹消面で距離を取ったノインは印を結び、高らかに詠唱を始める。


「燃え上がる怒りをさながら解き放て、潜在やうなる殺人人形。我が行く手を阻む者をさながら倒したまへ、火より生まれし卑猥なるすべてを楽しみたまへ、バードイング!」


詠唱が終わるとノインは手のひらを頭上に掲げる。

掌に小さな火球が生まれ、炎を球状に巻き上げながら巨大化した。


「くらいなぁ!」


ノインは手首のスナップを利かせながら巨人の腹部に投げつけた。

高速に回転する火球を避ける事もなく巨人に直撃する。

当たった所に光が密集すると火球を受け止めて消滅させた。


「チッ! なんて化け物だい!」


通常なら着弾半径数キロを焼き尽くす魔法をいとも簡単に受け切られたノインが悔しさに表情が歪む。

しかし、それなりの注意は引けたらしい。

両手のひらを下に向けた巨人はそこから何かを生み出した。


いくつもの涙滴状の光が氷盤に落ちる。

すると光の粒が奇妙な大型生物に変わる。

ある生物は甲殻を持つ緑色の蛸のような生物が蠢く。

蛙のような両生物であるのに鋭い爪と無数の舌が手近にいたスケルトンを捕食する。

見たことのない悪夢のような生物が生み出され魔王軍に向かっていく!


「眷族が出たぞ! 攻撃を避けて懐に入れ!」


 撤退するソーサラーを援護するべくワーズが無数の舌を放ってくる蛙の眷属へ疾走する。


「唸れ、フレイム・ブレィド!」


抜刀したバスターソードが赤く燃え上がり始め、尋常でない速度の舌を乱切りにしながら懐に入る。

横凪でくる蛙の前足を飛び越え喉元に炎の剣を突き上げる。


「ゲ、ふぇ」


鳴き声を上げる前に頭部から喉まで焼き尽くされ、蛙は息絶えた。


「眷族なら俺達でも倒せる! 気合を入れろ!」


後方からくる魔王の陸戦部隊が鬨の声を上げて呼応する。

ノイン率いる魔法部隊とワーズの陸戦隊の死闘が始まった。

すると巨人はノイン達を無視してワーズを追いかけ始めた。


「なんだと! 此のでくの坊が!」

「望むところだっ! 俺が邪神を倒してやる!」


ノインの痛罵を背中に巨人は向きを変えた。

それに立ち向かう様にワーズは剣を構える。


 その様子を腕を組んで見守るラゴウ達の反対側や側面、上空からジッと観察している一団があった。

攻撃対象にならぬようにジャクルトゥの偵察隊が戦場から距離を保ちつつ、本部へせっせとデータを送り続けていた。

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