降臨する悪意
創造神の衝撃から三日、再びあの奇妙なオーロラが天を覆った。
ガマッセルからマンダゴアの一部を覆うように以前より色濃く蠢く。
知らせを受けたラゴウの城には兵達が集結し、臨戦態勢に入った。
玉座から立ち上がったラゴウは控える近衛隊とワーズに命じた。
「ワーズ、ヴァンダルに連絡を! 物見、偵察の数を増やし、索敵を厳とせよ! 近衛兵、武具を持ってこい!」
「畏まりました」
刀身や柄に禍々しい装飾を彫り込まれた薙刀のような鉾を近衛兵に持たせたラゴウが指示を与える。
その背後に唐突に転移した来た者がいた。
「遅れてごめんラゴウ、それで状況は?」
「おう、ノイン、座って話そう。誰ぞ椅子をもてぃ!」
虚空から半身包帯姿の痛々しいノインが現れる。
顔半分は包帯に覆われ、病み上がりでやつれたその目は闘志がみなぎる。
それを見たラゴウは頷くと近衛兵に椅子を持ってこさせた。
先日の衝撃にて目を覚ましていたが、副官の
流石に
それに邪神の攻撃のメインは彼女自慢の魔法軍団と
陣頭指揮を執るのは必然であった。
「で、あいつらは?」
「報告によれば例の怪ロボットやら軍備の整備・増強に注力しているそうだ。絶滅の憂き目はあいつらも変わらんからな」
半ば呆れたようにラゴウは話す。
女神を救うために邪神と戦え、その後は絶滅させる。
いくら神でもこのような理不尽を突き付けられては戦う意思も消えうせる。
ジンガ達やアムシャスが働きかけても今までの扱いを見たら望みは薄い。
それでも戦うのは一縷の望みに賭けたわけではない。
負けるのが死ぬほど嫌だからだ。
これまでいくつもの強豪豪族や国家、何人もの勇者に救世主一行に窮地に追い込まれても倒して来たのはこの意思があるからだ。
精進を怠らず、武芸や研究を推し進める。
部下の増長や腐敗を粛清と恐怖をもって防いできた。
全てはそのような程度の隙で負けることが嫌なのだ。
鍛え抜かれ、磨きぬいた武力を駆使して全力でぶつかり勝つためだ。
それはトレバーのメンタリティと根底は同じであった。
「遅くなった……。ノイン来たのか?」
二人が椅子に座ると入口から速足でヴァンダルがやって来た。
そのセリフにムッとしたノインが絡み始めた。
「何? 来ちゃ悪いの?」
「いや、先手は任したぞ」
下手に答えると始末が悪くなるのを見越したヴァンダルは短く答える。
そのやり取りを鼻で笑いながらラゴウが立ち上がった。
「ヴァンダルに椅子を! ドレドも呼べ! 軍議を始めるぞ」
侍従長やワーズに指示を出したラゴウの表情は闘志に満ちた笑顔が浮かんでいた。
その頃、ジャクルトゥ陣営では指令室にて会議中であった。
トレバーの席に陣取るキルケ―と自分のシートに座るクリムゾンがチリチリした殺気を醸し出す。
その雰囲気の中で大首領が堕天博士にトレバーの再改造について問いただしていた。
「堕天、再改造の進展はどうか?」
「はっ、バティル城や反乱軍から提供された金属元素の取り込みや定着は計画通りに進んでおります。内臓系も対応強化されたものに置き換わっております……」
そこまで言った後、間が空いた事で難問が起きたことを察した大首領が追及を始めた。
「で、他に問題は? ここまで遅れるのはそれ相応の理由があるはずだ」
「はい、この世界特有の金属元素に対する研究が想定より遥かに難易度が高いので時間が必要でした。細胞に取り込み、組織定着させて器官として活動して保全させる事に成功しておりますが、運動機能については修正や改良を加えながらやっております」
堕天は端末を見せて解説を加え、大首領に説明する。
正直、バティル城から提供された試料が奥深い代物であった。
魔力に対する適合が高いミストリル銀やオリハルコス、超硬度で剛性もあるアダマンティン、ヒヒイロノカネの特性は研究するのに十二分な期間と機材が必要な素材であった。
それをサラッと調べて使うのはリスクが高過ぎたのだ。
だが、トレバーの再改造が終われば能力の上昇、更なる成長の余地が増えるのだ。
解説が終わった直後、クリムゾンとのバトルに飽きたキルケーが質問をした。
「博士、それでポンコツはいつ帰って来るの? 戦力として当てにしていいの?」
「いや、多少遅れる可能性がある。ギリギリなら計算に組み込むのは危険だ」
「マジ? 今週中に来るって話だろ? ダーが間に合うか間に合わないでエライ違いだよ」
堕天の返事にクリムゾンが戦力低下を懸念する。
エースが居なければ大幅ダウンは必至だ。
そこに大首領が補強策を提案してきた。
「アムシャス配下をこちらに回してくれるそうだ。例の魔人衆も参戦すれば大佐の穴も埋まる。堕天、早急に大佐の改造を終わらせろ。キルケーとクリムゾンは訓練を、私が軍需物資の配備をしよう」
「よろしいのですか?」
申し訳なさ気に堕天が尋ねる。
その返答に大首領が決意で返した。
「ああ、体組成もほぼ終わったからな、今回は私も出る」
「「なんと!?」」
「勝たねばならん戦いだ。それにあの魔王が約定を守るような輩ではない。まぁ、我々もそうだがな」
驚く幹部達は参戦理由を聞いた瞬間、納得した。
我々は悪の組織であるのだ。
約束は破る為にある。
決戦の後は決闘が待っているのだ。
両陣営が戦闘準備に勤しんでいる頃、ガマッセルの沖合を哨戒中だったマーマン族の数名が天で蠢くオーロラが集まり始めたのを発見した。
哨戒隊の数名が海面から顔を出して天を仰ぐ。
それはカーテンを畳むように折り重なり、色合いを濃くしていく。
「おいぃ、大至急チーフ達に連絡しろぃ! 何かの予兆かもしれないぃ!」
空を仰ぎ見たマーマン族の年長者が隣の若いマーマンに指示する。
だが、彼らも気が付かなかった。
折り重なるカーテンが蠢きながら何かの形を取り始めた事に……。
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