一方的な通告

 アンドレア達、下働きアシスタント達のお陰で明るく綺麗になった大広間でジンガ達は作戦を練っていた。

ジンガとミミが帰還すると大量のフルーツと新鮮な魚、そしてカモンの消息を仲間に伝えた。

袂を分かったかつての仲間の消息に各々おのおの思いを馳せる。

そうして魔人衆達は手持ちの装備や物資を用意する様に動き始めた。

皆一同に宿敵と思っていたアムシャスと力を合わせる日が来るとは思っていなかったが……。

装備室から帰って来たミミが軽口を叩いて椅子に座る。


「装備、点検終わったぜ。皆、減量しないといかんぜぇ?」

「ミミもなぁ!」


仲間の一人が苦笑しながらやり返すと後ろからアンドレアが弾んだ声で夕餉のメニューを告げた。


「皆さま、今日の夕餉は新鮮な魚介を使ったズッパディペッシェ漁師風ごった煮、デザートは新鮮なフルーツでございます」

「おいおい、減量しろと言われたばかりだぞ、明日からにしようか」


ツッコミを入れた魔人達が豪快に笑いだす。

皆、久しぶりの外の世界で因縁の邪神との対決に腕をぶす。

その脳裏に雷撃が走るまでは……。


衝撃波全ての生命に等しく降りそそいだ。

虫けらからアムシャスまで分け隔てなく脳裏にメッセージを刻み込む。


(全ての生命は邪神討つべし! 転移してきた汚らわしい破壊装置は刺し違えて殺せ! 終わった後、全て処分してくれる!)


憤怒を纏った伝言メッセージに皆震え上がった。

恫喝よりも最後の一文に全員恐怖する。

邪神に喰われるか、討伐が叶っても謎の存在に処分される。

当然、二つの勢力は過敏に反応した。


 居城で玉座に座る魔王はゆっくりと立ち上がる。

その姿に控えていた侍従長とワーズは同時に立ち昇る今までに見たことがない怒気に恐怖した。

勿論、相手は自分たちやジャクルトゥ陣営ではない。

頭ごなしに命令してくる存在に対し怒りが爆発する。


「ワーズ、魔人衆に連絡を取れ。この文言は誰の差し金で、どうすればそ奴に遭えるのかを問いただせ」

「ははっ!」


怒れるラゴウの指示で早速、ワーズは動き始めた。


 同時にジャクルトゥでも大首領が怒り狂っていた。

目の前に控える堕天に感情を爆発させる。


「何者の分際で我々を汚らわしいとほざくのか……。 堕天! 早速調べ上げて最優先で叩き潰せ!」

「は、しかしながら大首領、私どもにもこのような愚かなメッセージを送る相手ならば魔王陣営やアムシャス級ではありません。ここは魔人衆に探りを入れて情報を引き出しましょう」

「うむ、任せる。見つけ次第抹殺せよ。私はアムシャスに尋ねよう」


冷静な判断で堕天は進言すると速やかに動き出す。


 両陣営はジンガへ苦情に近い連絡を送ってきたが、ジンガのリアクションは遅かった。

衝撃より一時間後、ようやく連絡繋がった。


「遅れて申し訳ない。例のメッセージの件だろう? こちらも情報がある。前回の小島に次官級でいいので二時間後に集合してくれ。それと関係各位には相手陣営ではない事だけを伝えておいてくれ。それと一時間は連絡をするな、」


しかめっ面のジンガは早口で伝えるとアンドレアが運んできたごった煮に向かい、バゲットを付けて堪能し始めた。


 二時間後、小島にはワーズと堕天、エヴリンとジンガが集まって来た。

潮が引いた岩に腰かけたエヴリンが不機嫌そうに尋ね始める。


「魔人のぉ? ありゃ一体何だい? 上から目線でいけ好かないねェ」

「魔王様もお怒りである。どういう存在か御存知ならば教えてほしい」


追随するようにワーズも情報を求めた。

ジンガは薄くなった頭部を掻きながら言葉を紡ぎ出す。


「アレは神だ。正確に言えばこの世界の主の父親創造神だ」

「はぁ? そんなエラそな奴が何でシャシャッてきたんだい?」


不機嫌さが色濃くなるエヴリンに対し、ジンガは手持ちの情報を出してきた。


「実はあれから地母神マザーから初めて連絡があった。信義の証としてそれを君らに教えよう」


衝撃の直後、動揺し始めた魔人衆達の脳裏に暖かな光が湧き上がる。


(私の使徒よ。私の声が聞こえますか? よくぞ生き延びてくれました。ありがとう。では状況を聞いてください)


懐かしい優しい声は魔人達の眼から涙を溢れさせる。

偉大なる慈母、地母神マザーの呼びかけであった。


「呼びかけに耳を傾けた我々は事態がとんでも無く危険な事を知ったのだよ。それこそ世界の危機という意味でな」


地母神も一方的な情報だったが状況の把握という点では大変に有益な情報をあたえてくれた。


 この世界の主、愛の女神は邪神に襲われて瀕死の重症を負わされたのだ。

地母神は治療を施したものの邪神のオーロラ世界彼女を侵食し始めた。

それが蓄積して凝固すれば邪神悪意の分身が現れるのだ。

現状を父親である創造神が知ると烈火の如く怒り出す。

原因の邪神を蹴散らしたものの、愛の女神は倒れ、数柱の半人前の神々が行方不明になっていた。

そこに来て女神の宝珠には何故か自分が別の神に送り込んでいた古いタイプ破壊装置、ジャクルトゥが暴れ回っていた。

娘の世界がこんなに混沌として居た事にブチ切れた挙句に絶滅宣言となったのだ。

世界を壊せば愛の女神は力を失う。

そこで地母神は自分の使徒である魔人衆達に接触し、世界の修復する事を依頼したのだ。


しかし、そこで話は終わらなかった。


「事情を知った魔人衆我らは指示を仰いだ。兎に角、世界の修復に尽力せよ。絶滅の際は我々のみ助けてくれるらしい……。」

「ちょい待ってぇ、身内であるあんたらは助けるってか?」


渋い顔で話すジンガにエヴリンが絡みだす。

ワーズも堕天も口を開けば文句が飛び出す雰囲気だった。


「所詮は来訪者と罵って貰っても構わんよ。それでも我々の内、半数は残ると決めた。何故なら手塩にかけた世界を救いたい。仲間が眠る世界で共に眠ると決めている」

「けど半数は去るわけだ……。沈みゆく船から逃げる様に」

「逃げる輩などどうでもいい。何とかして絶滅を回避しなければならん」


ジンガの表明に堕天が嫌味を言う代わりにワーズは前向きな事を呟く。

その意見に同調したエヴリンがジンガに提案する。


「だよなぁ、ジンガ、あんたのに止めてもらうのは?」

「勿論、継続して上申はするつもりだ。ただ、具申を汲んでくれるか? 動いても意思を変えれる事が出来るのかは別だ」


提案について同意するが、先行きは不透明なままであった。

そこに念話でアムシャスが介入してきた。


「やぁ、アムシャスブンタだ。微力ながら俺らも参戦するが……うちの親を翻意させるのは中々厳しいと思う。兎に角、邪神を倒して上と話をしようか?」


アムシャスに会った事のないワーズやエヴリンの瞳が驚きで開かれる。

その声もさることながら気さくさに拍子抜けする。


「アムシャス、私たちも上申するのでよろしく頼む」

「おう、任されてー!」


友人と話すが如く、気楽なアムシャスが去ると堕天が呟く。


「それで現状のままでいいのかね?」

「ああ、お互いその方がいい」

「リチャード王ならいざ知らず。今更、手に手を取り合ってなんてやれる性格じゃないだろう?」


苦笑したジンガにエヴリンが同意する。

頷きながらワーズが返事をした。


「あい分かった。では、ジンガ殿、後でもいいので神々に遭える方法があるなら教えていただきたい」

「ワーズ殿、それが分かれば苦労はしないぞ? 貴殿の陛下が殴り込みに行く前に我々が行かせて貰いたいぐらいだ」


まじめなワーズの質問に呆れたようにジンガが本音をぶちまける。

その時ならジャクルトゥも魔王陣営も団結して襲いに行くだろうとエヴリンは思った。

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