休息
涙をぬぐったテュケとアガトを両肩にのせ、器用に片足で飛び跳ねつつトレバーは前に進む。
ウォッチを腕につけ、外へ向かう。
そこにアムシャスの意識体が声を掛けた。
「トレバー君、俺も少しいいか?」
「ああ、手短に頼むぜ」
ヘリらしきローター音が遠くに聞こえる。
了承はするが時間はない。
「まず、君らへの連絡用に何かここに置いておいてくれないか?」
「ああ、用意させよう。直に届くように献上品と書いとくから」
「気遣いありがとね。なんでもいいから頼むよ。まぁ、うちの眷属が信用できなくなったからな」
笑いながら話すアムシャスの表情には悲しみの影があった。
気になったトレバーだったが、敢えて触れずに居た。
「それとチビちゃん達だが……少し触るぞ」
断りを入れたアムシャスはトレバーの腕をつかむ。
「ん? 俺、そっちの気はないぞ」
『俺もない。内密な話だ。直接、脳へ話している。このおチビちゃん達、ジンガ殿は巨獣の一部と称したが……俺は別の存在と考えている』
『は? それで?』
回りくどいやり方言い方にイラっとするが、彼なりの気遣いなのだろうと納得した。
『全員のサンプルデータを解析し、構成元素を一つに合成させるとすべて未知の元素、解析不可能な物になる。世界を
『はぁ? ンなバカな』
余りにも突飛、余りにも不条理なのでトレバーも呆れかえる。
だが、アムシャスは大真面目に言い返してきた。
『ああ、外れたら馬鹿にしてもらっても構わない。その可能性は頭に置いておいてくれ。兎に角、ジンガ殿と共に検証を始めるからな』
『ああ、勝手にしてくれ。もう行くぞ』
ローター音と共にブラウン達の呼ぶ声が聞こえる。
もう時間がない。
「最後だ。魔王軍に停戦を申し入れてくれ。仲裁してくれる存在を見つけて教えてほしい。俺とジンガ殿達の連名付きで後ろ盾になる」
「マジでやるのか?」
「ああ、申し出を断られても邪神が出てこれば魔王軍も戦い始めるからな。じゃあ世話になった大佐、貴殿の武運を祈るよ」
「ああ、またなアムシャス」
最後の提案を聞いたトレバーは小刻みに飛び跳ねつつピラミッドから飛び出ていく。
目の前には大型ヘリ部隊が到着しており、クリムゾン機の回収に来ていた。
大型ヘリの後部ハッチから担架のクリムゾンやブラウン達が乗り込もうとしていた。
「おい! 誰か手を貸せ!」
最大跳躍しながらトレバーは作業中の隊員に命じた。
「はっ」
作業員の一人が作業をやめ、着地位置を予想して待機する。
数メートル手前に着地してバランスを崩したトレバーの身体を辛うじて作業員が捕まえた。
「状況は?」
「私は整備担当なので……大佐の副官殿がお迎えに来てますよ」
「分かった。ありがとよ」
肩を借りながらトレバーはヘリに搭乗した。
機内では救護班が全裸のクリムゾンを治療槽に入れ、その前ではブラウン達が悲鳴を上げていた。
「傷に沁みるてーっ! やめろてー!」
「あのな、痛いから優しく……やさしくっつーてっだろがぁ!」
治療に使う薬剤が沁みて痛いらしく、ブチ切れ始めるジョナサンを宥める。
「傷が早く治るから我慢しろって……よいしょっと!」
シートにドカッと座り、前のシートに壊れた足を載せる。
幾分落ち着いてきたアガト達は気分転換に窓の風景を見始めた。
その横に副官が立って報告に入った。
「お疲れ様です。大佐の出発後、本部に大規模攻勢がありました」
「おう、クリムゾンから大まかに聞いている。それからは? 現在の本部の損害は?」
「敵幹部の負傷撤退の後、敵は同時に撤退した模様です。本部は対空防護システム全損、第一と第二格納庫損壊、搬入口付近は損傷があるも支障がありません」
ヘリに振動があり、その直後に浮遊感を覚えて離陸した事に気が付いた。
「爺様や技研が動いてんだろ? なら俺らは警護するだけでいいな。足の修復ついでにしばらく休むぜ」
(大佐、ジンガから伝言です。良い仲介役居ないか? との事です)
副官に休む旨を伝えたと同時にメリッサから伝言を貰う。
溜息つきながらトレバーはメリッサに伝えた。
(アムシャスも言っていたな、そんなもん、新参よそ者の俺らが知るわけねぇだろ。バティル城に問い合わせると伝えてくれ)
トレバーはメリッサに伝言を頼むと本部に通信をし始めた。
受話器を取るとすぐにオペレーターが出た。
「俺だ。爺様いる?」
「私だ。何だね?」
「例の停戦の件だ、仲介役居ねぇか?」
「知らん」
「だよなぁ、そーだ。タイソンかバティル城の連中に問い合わせてくれ」
忙しそうな堕天を捕まえると一方的に注文し、通信を切る。
後はしばらく休むに限る。
トレバーは目を閉じると寝息を立て始めた。
すると副官がタイソンからの通信をつないできた。
「チッ、何だ?」
「トレバーさん? 今、伊橋さんたちと訓練中でして、一緒にいたゲンナジーさんがエヴリン様につないでくれるそうですよ」
二人交代のスパーリング休憩中のタイソンがゲンナジーに通信を変わる。
「ほーん、ゲンの字、頼めるか?」
「ああぁ、婆さも憂いてるからね。それに万が一、戦場に出張って来られちゃかなわん」
「よろしく頼む、伝説の英雄によろしくな」
家庭の問題に介入するのも気が引けたトレバーは丸投げしてサラッと逃げる。
通信を切り、シートで一眠りとはいかなかった。
今度はジンガから連絡が来た。
中継役のメリッサを被るといきなり話しかけてくる。
「お疲れの所に済まない。仲介役誰か居たか?」
「やってくれそうな候補が居る。やってくれるかはまだ分からんがな」
「ほう! 誰かな? 面倒くさい魔王の首根っこ抑えつけられる人材はそんなに居ない………」
期待に満ちたジンガが問いかける。
エヴリンの名前を聞いたジンガは膝を打った。
「素晴らしい! 納得の人選だ。いくら魔王でも彼女と我々の提案を黙殺することはできまい」
「でもマーマン族って気難しいのだろ?」
「私が出向いて交渉する」
「えっ? 地上に出なかったのでは?」
ジンガが出向くと聞いたトレバーは驚いて尋ねた。
「今回は特別だ。アムシャスへの誤解は消えた。ただ、人類への干渉は少なめにする事はお互い同意した。ま、二人で行く分には問題ないだろう」
「ふーん、お供はアンドレアかい?」
「いや、ミミだ。奴は
相変わらずの変な緩さにトレバーは苦笑する。
連戦の疲労から睡魔が襲ってきたので打ち合わせの詰めに入った。
「それでは伝えておこう。どこで合流する?」
「そちらの指定の場所でいい。目印は何がいい?」
「いつもの格好でいい。あんな服装は地上では着ないからな」
「分かった。よろしく頼む」
そこで念話を終えるとタイソンに通信を繋ぎ、ゲンナジーに魔人が同行する旨を伝えた。
「ほぉ? マジかぁ、溺れないのかぁ?」
「さぁ? 魔人だから大丈夫なんじゃねぇのか? まぁ白い
「あー、分かったぁ」
通信を切るとトレバーはすぐに寝息を立て始めた。
本部に到着するまでの束の間の休息であった。
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