正体

 ブラウン達が去ったのを確認した意識体アムシャスが苦笑しながらトレバーに訊ねる。


「トレバー君、君の上司って中間管理職? 直属?」

「首領直属だが? んだよ。責任者だせーっってか?」

「そうか、苦情を言うわけで無いんだ。挨拶と今後の協議だ」


変な顔で尋ねるトレバーに意識体は笑顔で依頼する。

命を取られる事はないと判断したトレバーは大首領を呼び出す。

腕のウォッチを外し、アムシャス達の前に置くとウォッチで呼び出す。


「大首領、起きてる?」

「あぁ、大佐、聞いていたよ。私がジャクルトウ大首領だが?」

「あー、どもー、初めまして! 俺がアムシャスブンタです」


 組織の長としての威厳を醸し出す大首領、それに挑むエース営業マンのアムシャスブンタの様な構図だとトレバーは思った。

だが、妙な波長……人見知りしないフランクな点が共通していた。


「それで、私に何か用かね?」

「いやぁ、実はですねぇ。トレバー君の存在を知り、お会いしたかったんですよ。……先輩? っていうのかなぁ? 兄弟の方が近いかな」

「はぁ? 私に兄弟は居ないが?」


いきなりの告白に大首領が困惑の声を上げた。

そこでジンガが助け舟を出す。


「お初にお目にかかる。大首領殿、魔人衆代表のジンガ・レッティと申します。困惑されて見えるとお察ししましたので説明をさせて頂きます」

「ああ、よろしくお願いする」


報告を受けていた大首領はジンガからの説明を依頼した。

しかし、困惑はさらに深くなる……。


「我々が神々から天地創造の為に遣わされた事はトレバー君より報告を受けているとは思います。そして彼、アムシャスは破壊装置の役割を持たされてここに来ました」

「それが私とどう関係があるのかね? まさか私が神に作り出されたとでも?」


 自分の知らない自分が存在する。

それも神に生み出された存在だった。

薄気味悪さと不愉快さに大首領の機嫌が悪くなる。

それでも気にせずにジンガが質問を続けた。


「それではお聞きします。世界に誕生した際の記憶はありますか? そしてつい最近まで眠っておられたのでは?」

「……あまりない。だが、私は宇宙から来たのだよ。確かに地球についてしばらくは眠っていたが……しかし、世界創造などやっていない!」


 大首領の困惑がとうとう怒りに変化するが何時もの様な激怒ではない。

いまいち勢いが無いのだ。

そこにアムシャスが追い打ちをかけて来た。


「俺の前の世代、初期モデル・中期モデルは破壊装置の役割しか与えらていません。地母神や他の兄弟神にバレない様、完全休眠させて送り込んでいましたから……それでもバレかけて今の形態、創造の使徒として送り込む手法にしたのです」

「では、なぜそう断言できる? 私達がここの世界に来たのは自分の意思ではない!」


 あくまで否定的な大首領に説明を諦めたアムシャスは目前で実証する事にした。


「トレバー君、負傷している所に悪いのだけどあの水晶を全力で砕いてくれないか?」

「おう! って、この状態でか?」


片足は破壊されたままのトレバーはアムシャスに無茶ぶりに二度見した。

そのリアクションにアムシャスは微笑みながら大首領に話を振った。


「それでも君なら破壊できるだろう? 大首領もそう思いますよね?」

「……大佐……やれ」

「はっ」


いい加減この問答に不快感を覚えた大首領は有無を言わさずトレバーに命じた。

そのトレバーにアムシャスは注文を付けた。


「本体までぶっ飛ばせるのなら変身しても構わないよ。もちろん手加減無しでね」

「言ったなぁ? 上等だよ」


挑発と取ったトレバーはすぐに鬼神大佐に変身すると跳躍し、全力のパンチを水晶に放つ。


「ドッカーン……って、あれまっ?!」


前にクロードと対戦した時より激しく弾き飛ばされ、跳躍位置に戻って来た。

その途端に大首領の叱責が来た。


「大佐、まじめにやれ」

「了解だが……爺様、データは?」

「大首領、大佐は真剣に全力で攻撃しましたが共鳴的な反発力と申しましょうか……兎も角、攻撃は不可能でした」


 以前の事があり、鬼神は堕天がモニターしていると確信していた。

下手な言い訳より客観的な意見を出して貰えば納得できる。

案の定、大首領に現時点での考察を提示した。


「大首領、我々同じ世界から来た者、もしくはそれらに生み出された物は仲違いを防ぐために安全装置のようなものが組み込まれています。でなければ破壊装置の俺らが自分の武器で滅びかねないからです」

「それがこれか?!」


結果にアムシャスの説明が加わり大首領の声のトーンが驚愕に変わった。

推論を確かめるためアムシャスは堕天に尋ね始めた。


「はい、えーと大首領の部下の方に質問、ベルトの動力源は大首領の一部を使ってない?」

「……ノーコメント」

「分かった。有難う」


明確な答えではなかったが、正解であった。


「俺が大佐にリアクターを使うなといったのはそこ。危害を与えないように反発力が発生するのであれば動力源を切って戦えば戦闘できると思ったから。仮にそれでもダメならトレバー君達を守るため、俺が竜人全員を強制削除すればいい。アイツ、根元の方だから消すとほとんど消えちゃうからな……」


 饒舌に解説していたアムシャスはクロードの事を思い出し、表情が曇った。

その言動にカチンと来たらしく、変身を解いたトレバーが噛みつく。


「あ? 守って? ざけんなよ。俺や六人衆が弱いと思ってんのか?」

「これは失礼、トレバー君達は兎も角、ブラウン君達が危ないんだよ。お分かりだよね?」


プライドを傷つけた事に気が付き、すぐにアムシャスは訂正した。

戦っても無駄だと知っている為トレバーは憮然とする。

トレバーの苦戦に納得した堕天が今度はアムシャスに尋ねた。


「では、龍帝殿にお伺いす同じ破壊装置として存在する我々が何故、この世界に転移してきたのか? 御答えを頂きたい」

「そこは謎なんですよ。実は任務の性格上、俺達は前のモデルに会う事は決して無いんです。先行モデルがいるという知識として与えられているだけで、こうして遭遇するなんて聞いた事が無い」

「ほう? では、我々がこうして来たのは事故か手違いだと?」

「いや、そう言い切れはしません。そちらの世界の主が意図的に排除したのかもしれない。創造神の力を排除できるまで主が成長していれば出来る。但し、その意図は我々には皆目……神の考えてることが分かればこんなに苦労はしていない」


 あくまで可能性を口にしあうと全員が黙り込む。

兎に角、全員帰れる当てはなく危機邪神が迫っているのだ。


困った顔でトレバーは頭を搔くと横で震えるアガト達に気が付いた。


「おい、アガト、テュケ、何ビビってんだ?」

「兄ちゃぁぁぁん! 怖いよぅ!」


真っ青な表情で泣くアガト達が必死にトレバーにしがみつく。

助手として幾多の戦闘を乗り越えてきた二人が此処まで怯えることにトレバーは困惑する。

その背後から更に薄くなった姿のジンガが二人を見詰める。


「仕方あるまい。この小さな存在があの巨獣達の一部と知ってしまったのだから……」

「おいジンガ、マジで言ってんのか?」


 二人の頭を優しく撫でながらトレバーはそのまま振り向かずジンガに尋ねる。

ジンガも腕を組み、眉間に皺を寄せた。


「マジだ。採取した巨大狼の毛髪、例の覇凰との会話にサンプル羽毛と皮膚、爪の欠片を分析した。そのデータも驚愕だが……それはさて置き、仲間の一人が興味本位でこの世界にて、我らが知りうる全てのデータと照合させた。……その結果……」

「うちのチビ達に行きついたと……」


 ジンガの説明にトレバーは理解を示す。

頭を下げてジンガは謝罪した。


「そう言う事だ。最初、私は二人が正体を隠していると思っていた。所が全く知らなかったらしい。しかもいきなり真実を伝えて怯えさせてしまった。私の過失だ。申し訳ない」

「大丈夫だ。お前らは俺らの助手だ。契約しただろ? しっかりしろ」

「だって兄ちゃん!」


謝罪に頷きながらトレバーは二人を叱咤する。

アガトが顔を上げて抗弁すると、それをたしなめ始めた。


「キルも言ってただろ? モテる男は生き様がカッコいい。それには男を磨くんだって」

「うん……」

「今がその時だ。怖いけど歯を食いしばって立つんだ」


 肩を軽く叩き、トレバーが激励する。

二人は泣くのをやめて顔を上げた。


「うん、僕ら鬼神大佐と戦魔女の助手だもんね。勇気出さなきゃ」

「そうだ。しっかりと頼むぜ」


涙を拭いてテュケが頷くとトレバーが笑う。

それを見ながら消えかかるジンガが声を掛けた。


「もう時間がない。落ち着いたら一度ここに来てくれ。お土産も忘れずに頼むぞ」


一方的にまくしたてるとジンガは完全に消えていった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る