破滅に対する抗い

 頭上のオーロラを見たクロードはギョッとして周囲へ叫ぶ。

以前の邪神襲来を思い出したのだ。


「竜人の衆よ! 聖上を! 聖上を守れ!」

「死にさらせ! この野郎!」


必死に声を上げ、指示を出すクロードに虚を衝いたトレバーが斬りかかる。

思わずクロードは太い両腕でガードする。

その腕に手傷を負わせ、強烈な斬撃は右の牙や左の角を切り落とす。


「わからんのかぁ?! 邪神が! 邪神が来るのだぞ!?」

「知るかボケェ! とっとと死にやがれ!」


 邪神の先触れに動揺を隠しきれないクロードにトレバーは容赦無い殺意と暴力を振るい始めた。

メリッサがブレスで目潰しをして視界を奪い、スコットが耳に入り聴覚と平衡感覚を奪う。

ニールセンが眉間に根元まで刺し貫き、切り裂く。

クロードが視界を取り戻した瞬間、トレバーが全力で拳を振るい、眼球を破裂させた。


「ぐがぁぁぁぁぁ、やめろ!」

「喧しい! 止めてほしいってか? じゃぁ死のうかぁ!?」


戦闘意欲が消えかけたクロードにトレバーが宣告する。

上昇するとスコットに印を作らせ、後方にはメリッサとニールセンを配置させる。

気配を探してふらつきながらもクロードは頭上にいたトレバーを見つけた。


「くたばれやぁ! ひっさぁつレイス・ブレット!」


 掛け声を共にウコとカリームが防御魔法を掛け、魔法耐性と硬化させる。

メリッサとニールセンがブレスと魔法で回転を掛けながらトレバーを打ち出す。

打ち出された後、スコットとマッカランが目標修正と加速を掛けた。

人間大の弾丸となったトレバーは自らも回転し貫通力を増して眉間の傷に踵からぶち当たる。

眉間を貫通し、気管を破壊しながら心臓の真横に到達した。

だが本来は鬼神大佐状態で成立する大技であった。

着弾の衝撃で右足は踵も膝も破壊されてはいるが興奮状態で痛覚はない。


「動けよ! リアクター始動!」


 周囲の組織に圧迫された状態のトレバーはリアクターを祈るように起動させる!

暫くの沈黙の後リアクターが始動する。

その途端、周囲に猛烈な電撃が走るもののトレバー自身に影響は全くなかった。

OSが起動するのを確認し、変身のコマンドを入れた。


「チェェェェェェェンジ! ウォリアァァァァァァ!」


変身が始まると同時に電撃が激しくなり、同時に激しい振動が発生する。

鬼神に変わった時、外部に向かい爆発的な外力が球状に発生する。

爆発的な力クロードの体内を破壊した。

心臓に直接ダメージを与えられたクロードは胸をかきむしりながら悶え苦しむ。

圧迫される負荷に耐え切れずにそのまま苦しみながら事切れていった。


 周囲の肉の色が変わり、熱量生命力が失われていく中を鬼神はマッカランの力を使い上昇し始めた。

気管から喉に出てだらしなく開いた口から這い出る。

徐々に小さく、元の竜人に変わっていくクロードの遺体に目もくれずに鬼神は片足で立ち上がる。

周囲を警戒しつつ、駆け寄ってくるブラウンたちを見つけると変身を解く。


「おい、トレバー、大丈夫かて?」

「ああ、悪いが肩を貸してくれ」


トレバーは傷だらけのブラウンの肩を借りて、本部に連絡をする。


「俺だ、戦闘は終わった。それとこの現象オーロラは?」

「目下、調査中です。あと三〇分程度で救護隊が到着します。それに乗って帰還をお願いします」

「分かった」

「いや大佐、少しお待ちを、連絡を本部につなげてほしいのですが?」


通信を切ろうとするトレバーを制止したペーレオンがこの現象について報告した。

するとオペレーターが堕天に切り替わり、指示を出し始めた。


「大佐、ペーレオンは今すぐにアムシャスとジンガの二人に協力を仰いでくれ。場合によっては魔王軍の休戦か和睦もある」

「「なんだってー!? タワケかて!」」


内容を聞いたブラウンとジョナサンがびっくりして異議を唱えた。

今まで散々酷い目に遭わされて来て、共通の敵邪神が出てきたから休戦とは納得いかないだろう。


「その気持ちは分らんでもない。俺もウォリアーと組むなんて想像しなかったからな。仮に邪神が来るのであれば、敵は一時でも少ない方が良いわな」

「むむぅ」

「だがよぅ」


 頷きながらトレバーは提案すると眉間に皺を寄せて二人は口ごもった。

二人の葛藤も理解していたトレバーは激しい痛みを放ち始めた右足を気にしつつ、分析を始める。

魔王軍の全貌はわからないが、かなりの戦力が損耗しているだろう。

こちらと合わせたとしても足りない可能性がある。

しかし、あの傲岸不遜そうな魔王ラゴウが簡単に首を縦に振る事はない。

そう読んだトレバーは苦笑しつつ、ブラウンたちと共にアムシャスの所へ向かった。


 水晶の間に入ると意識体とジンガ、そして何かに怯えるアガト達がいた。

入って来た一行を見た意識体は辛そうに尋ねる。


「クロードはどうなった?」

「始末したよ……」


問いかけにトレバーは短く返した。

満身創痍の姿に申し訳なさげに意識体は頭を下げる。


「俺の眷属がご迷惑をおかけして申し訳ない。ジンガ殿、トレバー君」

「まぁいいさ、ところで……」

「ああ、邪神の件だろう? こちらでも確認した。椅子に座ってくれ」


トレバーは話を急かすとジンガが同調した。

横にいる意識体も頷きながら椅子を用意し、会話に入る。


「オーロラについては俺も確認した。それで……当然戦うんだよね?」

「勿論、だが、問題が一つある。魔王軍だ」


 意識体の問い掛けにトレバーが当たり前だろと言わんばかりに答える。

魔王軍の存在を思い出した意識体とジンガが目を見開く。

最大の勢力を持つ魔王軍と人類側、龍・魔人連合が加われば邪神に勝てると予想した。

期待をし始めたジンガ達にトレバーはプロ傭兵らしく現実味のある情報を提示する。


「ところがだ、派手にやり合ってるから損耗が激しい。仮に俺らと手を組んだとして、勝てる相手なのかも分からん」

「そうだな、例の巨獣にちょっかい掛けて痛手を受けているらしい。邪神については文献だけの情報だけが頼りなわけだ」


ジンガが腕を組み困った顔で情報不足を嘆く。

そこにペーレオンが苦笑しつつ提案を始めた。


「はい、私が所属していた開発担当局でもウルトゥルのテーター公と共同で巨獣の調査しておりました。しかし、魔王軍の傾向としまして功名心が強いので……邪神ついても仰る通り、ただ、各地の邪神痕の調査をしてみればよろしいかと?」

「えっ?! あんなとこ行ったら死んでまうぞ?!」


 驚いたブラウンが止めに入るが、トレバーが頷いて追随する。


「そうだな、調査ロボットでサンプルを採取し精査すればなんかわかるかもな」

「何かわかれば教えてくれ、対抗か中和元素を生成できるかもしれん」


後ろに控える仲間とやり取りしながらジンガが答えた。

そこに何かに気が付いたらしい意識体が口を開いた。


「お迎えが来たらしい。すまないがブラウン君、ジョナサン君は席を外してくんないか? トレバー君と話がしたいんだ。術師のペーレオン君だっけ? 君も頼むよ」

「分かりました。龍帝陛下、お目に掛かれて光栄でした」

「えっあ? ワシ……失礼! 私も恐悦至極に存じます。陛下」

「また、お会いしとうございます。陛下、それでは失礼いたします。」


意識体が席を外してくれと頼むと三人は頭を下げて退席しようとする。

その背中に意識体は言葉を掛けた。


「いやいや、うちの不始末で迷惑をかけてすまないね。そうだ。これを持っていきなよ」


意識体は袖に手を入れると巨大な爪と牙が二対繋がった首飾りを三つ差し出す。

三人に手渡しながら声をかける。


「エンシェントドラゴンの牙と爪で作った首飾りだ。大概の魔物はその覇気で逃げる。詫びとして持って行ってくれ。それと数々の竜を仕留めた君らに私から龍を救った者ドラゴン・セーバーの称号を与える。俺への面会許可証遊びの誘いと思ってくれ」

「えっ、も、もったいないお言葉だがね」

「有難く頂きます。陛下」

「有難き幸せにございます」


「それじゃ、外で待っててくれ話を聞いたら俺も行く」


三人は意識体から首にかけて貰い、恐縮しながらトレバーに急かされ去って行った。






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