英雄と悪党たち

 トレバーは立ち上げに苦慮しつつニールセンウコを使い竜人達と交戦していた。

ところがエンシェントドラゴンの登場で戦況の不利を即座に判断した。


(ちっ、まだクリムゾンと連携取ってりゃ勝ち目もあるが、こいつは不味い)


ブラウン達とクリムゾン達と合流してエンシェントドラゴンと対峙すればまだ何とかやれる。

此のままでは各個撃破されかねない。


 そこに立ち上げ音と共にウオッチが連動して起動し始めた。


「おぉ、ラッキー! おい! クリムゾン! 聞こえるか?!」

「ああ、幻聴が聞こえるぅ、幸せ……」


聞き惚れてラリっていてもクリムゾンは的確にドラゴンを屠っていく。

活を入れるべく怒鳴って気合いを入れた。


「アホゥ! しっかりしろ! まだ俺は生きてる! 大物が接近中だ!」

「ああ、もうダメ、彼は死んだの、戦死したの……」

「あ、そ、俺、死んだのならキルへ……」

「殺すぞ!貴様!」


咄嗟のNGワードでクリムゾンはドスの効いた殺意に満ちた声で現実に戻ってきた。

竜人達と切り結びながらトレバーはアドバイスを送る。


「しっかりしろ! 後方にペーレオンとお仲間がいる。連動して事に当たれ! それとビームは使うな!」

「え?! 大佐、なんで?」

「わからん。リアクターを使った武器兵器類は無効にされるっぽい。ニールセン任せた」


竜人の増員が来たのでトレバーはニールセンを独立稼働させ、腰のマチェット山刀で立ち回る。

火力が増したおかげで殲滅範囲が広がった。

その一方でクリムゾンはバルカン砲の連射をやめ、ハンマーのみで立ち回り始めた。


「むー、実弾タマもつかなぁ」

「なるべく物理でもたせろ。ジジイにミサイル出させる」

「それがね……大佐……」


 クリムゾンはエンシェントドラゴンのブレスをジャンプして避ける。

チャフで簡単な目くらましを掛けつつ、距離を取った。

そして、メソッド達により二度も本部に攻撃を受けた事、バクシアン隊が全滅した事を伝えた。


「マジかよ。あのオッサンはそう簡単に倒せんぞ?」

敵の女幹部ノインだって、最後に致命傷を受けて即座に撤退したそうだよ」

「あー、アイツか、単騎で戦うのは厳しいな」


 事も無げに通信をしながらトレバーが切りかかる竜人の頭部をマチェットで刎ねた。

その脳裏には魔法攻撃ノインの雷撃の凄まじさを思い出し、納得する。

あの攻撃を受けつつ、致命傷を負わせたバクシアンの力量に感心しつつ、一秒黙祷をささげた。

そして堕天を呼び出し、兎に角、援護を出させようとした。


「なんだ? 今、バティル城だ」

「ミサイル寄越せ! 衛星レーザーでも構わん!」


迷惑そうに応答する堕天にトレバーはいきなり直球で要求した。

それでは堕天に刺さらなかったらしい。


「ふん、援軍送ってやったろう? 今は交渉中だ! 邪魔をするな」

「足りんわ! クリムゾンの機体モニターで戦況観ろて! このたわけがー!」


徐々に蝕んていたブラウンの方言がトレバーの言語を脅かす。

その方言言い方が気に障ったらしく堕天がボソリと呟く。


「あ? 調子に乗るなよ、小僧」

「乗るかー! アホウ! 兎に角見て判断しろ! リアクター切るからな、連絡はクリムゾン経由で頼む!」


眉間に皺を寄せた堕天は殺意を滲ませながらウォッチを切った。

忌々し気に後方で控える副長にモニターの準備を指示する。


 やり取りを終えた堕天はバティル城の会議室で資源調達の交渉に来ていた。

いきなり漂い始めた堕天の殺気に調整担当で随伴する川崎舞がたじろぎながら尋ねる。


「は、博士……? 大佐からですか?」

「ああ、あの小僧。いつか〆てくれるわ。リチャード王、ご無礼をお許しください」


殺気を何とか誤魔化しつつ、リチャードを始めとしたバティル城の面々に謝罪する。

差し向かいに座るリチャードは爽やかな笑顔で答えた。


「いや、先生、私は一向に気にしてはいない。彼はあの魔王と対峙できる男なのだろう? 今どこに?」

「奴ですか? 奴はアムシャスブンタの大陸におります」

「「なんと!!??」」


 その名前を聞いた王家サイドは一言呟き、絶句してしまった。

知らぬこととはいえこの世界最悪の禁足地に同盟の幹部がいるのだ。

キョドる王家側にやむを得ない理由を舞が伝えた。


「何でも、ヤバマルハさんとレス・ポールさんと助手のおチビちゃん達が人質の上、龍帝の元に来いと言われたらしく……」

「ヤバマルハぁ? あの愚才がとんだ迷惑を……」

騎士団長上司として申し訳ござらん」


所属の騎士であるブラウンのやらかしに、血相を変えたラクウェルとデボンが頭を下げる。

そこに隣の部屋にモニターのセットを終えた副長が報告に来た。


「うむ、代用品は有ったのか?」

「は、白い布をスクリーン代わりに、タブレットのアプリを弄り映写機としました」

「うむ、相変わらずそつがないな」


 直属の部下として最年長である副長は大概の事はこなせる。

そうでなければとっくに怪人研究の素体になっていただろう。


「隣に映像を用意させました。皆で戦況を見てみましょう」


 堕天は一度会議を中座し、横の広間へ皆を案内する。

椅子が並べられ、その前にはスクリーン代わりのキングサイズのシーツが掛けられていた。

最前列に座った堕天は腰掛けると鼻で笑う。

輸送機と衛星での映像を見て敵戦力ワイバーンを知った。

そして部下からの文献調査報告でドラゴンの存在を知ってトレバー達の戦力でギリギリと判断した。

そこで敵の大きさを勘案し、クリムゾン戦闘ロボを援軍として送る事を決めたのだ。


 いかに敵が巨大で多くても六人衆と鬼神大佐ならば駆逐できる筈と予想した。

堕天は映像を見た途端、動きを止めて自分の目を疑う。

文献には最大一〇メートル程度と報告を受けていた。

実際二〇メートル以上の厳めしいドラゴンの群れが暴れまわる。

堕天の横の椅子に置かれたタブレットを挟むように座ったラクウェルも目を丸くしていた。

その視界にはエンシェントドラゴン相手に勇敢に立ち回るブラウンがいたのだ。


 騎士団末席に使いっ走りとして辛うじて座らせてもらえる男が火炎の吐息をがっちりと防ぐ!

その背後で骸骨のような魔導士が手を合わせて魔力の矢を作り出し、竜へ投げつける。

深々と刺さった矢に怯み、竜は苦痛の叫びを上げた。

その横っ腹を衣装のような軽装を着た初老の戦士が疾走しながら太刀で大きく切り裂く!

ダメージを受け、倒れた竜の首をブラウンが伝家の銘釼でとどめを刺し、次の竜へと向かっていく!


「嘘だ……あのヘタレが……」


首を振り、現実を否定しながらデボンが呟く。

以前、シモンから聞いたスキュラ退治も笑って否定した。

実際、証言があるにもかかわらず騎士団では大笑いのネタだった。

それが大間違いであり、随一のヘタレが巨大な竜の群れ相手に伝説の騎士級の大活躍を繰り広げる!


「仕方ない。本部に連絡、味方に被害が出ない様に衛星で目標確認し爆撃せよ」

「はっ!」


 呆然と映像を見るバティル城の面々を横目に、考えを改めた堕天は後ろに控える副長に指示を出す。

映像を見ながら、新たな研究材料を入手する為に輸送機と調査隊として出向く気を起こしていた。


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