援軍

 身構えるトレバー一行に容赦なく竜人部隊が襲い掛かる。

まずブラウン達へドラゴンたちが一斉にブレスを吐く。

普通の騎士や戦士の一行パーティーならたちまちのうちに灰となっていただろう。


「よいっしょぉ!」


 轟炎や氷寒、電雷に毒気が入り混じった確実なる死の吐息をブラウン守りの盾が完全に防ぎ切る。


「ブラウン、肩借りるぞ!」


助走をつけてジョナサンが飛び上がり、盾でブレスを防ぐブラウンの肩を踏み台にした。

上空から迫る数体のワイバーンの首を瞬時に斬り墜として蹴り飛ばす。

その死骸がブラウンの前で折り重なると同時に爆発の魔法が竜の群れの中心で炸裂し、打撃を与える。

少なくともこの一行は普通ではなかった。


 なんだかんだ言ってもブラウン達は幾多の魔物達との戦いを潜り抜けて来た。

技もさることながら、その武装は魔人達神の代理人の手による最高技術の武具結晶である。

同等神の使徒レベルの攻撃でなければダメージはほぼない。

ましてや後衛のペーレオンは元は魔王陣営で屈指の実力者である。

竜の群れとまともに戦える力、伝説の勇者一行級戦闘力を示していた。


 その後ろでは竜人達とトレバーが切り結んでいた。

アドバイス通りにリアクターを切る事でトレバーは竜人達を殴り倒す。


(あー、全力で殴り飛ばしてぇ!)


何故殴れるのかと言う謎は一旦おいて置いて内心愚痴を零す。

改造にて強化された筋力で全開にして殴れば確実に粉砕できるが、こちらの拳や関節を痛める。

強化服は出力コントロールや肉体防護も兼ねているのだ。


スコット籠手! ニールセン! 周囲の雑魚を排除しろ! メリッサ! 上で俺の背後を警戒しろ」


ウコを片手に某アメコミヒーローの様に殴り倒していく。

強化服が使用全力で戦闘できないのは残念だが負ける事は死んでも嫌だ。


クロードは配下の竜人をトレバー達に差し向けつつ、疲労するのを待っていた。

ただそれにも誤算は有った。

トレバーの正体が改造人間である事。

武具になった六人衆の純粋な憤怒が自分に向いている事を分かっていなかった。

護衛を薙倒しながら向かって来るトレバー達にイラつきながら地の利を活かす。


「至急、援軍を呼べ! 全員で圧し潰せ!」


本拠地ゆえにまだまだ戦力は揃っている。

伝令が届いたらしく、背後や横合いから次々と敵が湧いて出た。

だが、六人衆は余裕で駆逐していく。


 元々、アムシャス最強の生物との決戦を想定しているのだ。

其の手下の竜人程度は排除出来なければ龍帝と戦えない。

数はめちゃくちゃ多いが彼等にとっては想定内の事だ。


「おい、クロード! お替り持ってこい! 無ければお前の番だ!」

「やかましい! 全力で潰してやるわ!」


ジャブで怯んだ竜人のエラを掴むとトレバーは軽々とクロードの足元に投げ飛ばした。

その言葉にムカつきながらクロードが次の部隊を差し向ける。

槍で武装した竜人たちが複数の足音を立てて迫る。

その足音と別に上空からやって来る爆音をトレバーの聴覚が捉えた。


「?! 全員伏せろ‼」

「はっ?」

「マジか?!」

「仕方ありませんな」


 何かに気が付いたトレバーの警告にブラウン、ジョナサン、ペーレオンが各々速やかに地面に伏せた。

同時に、ドラゴンの群れの真ん中に明らかに規格外の大きさの長距離弾道弾ICBMが爆風と共に着弾した!

それにより、周囲のドラゴンや樹木を薙倒して原始林の真ん中に巨大なクレーターが出来る。

地面に突き刺さった弾道弾からハッチが爆散し、真っ赤な騎士型のロボットが出てきた。


「大佐ぁ……返事してぇ、反応が消えてるのぉ!」


 スピーカーからクリムゾンの泣き声で呼びかけられるが、爆風の衝撃で全員身動きが取れない。

それどころか着弾が警報の代わりになり周囲のドラゴン等の巨大生物が集まって来た。


「おい、トレバー! 大佐ってお前の事だろ?」

「そうだて! はよせんか!」


爆風をやり過ごしたジョナサンとブラウンはいち早く立ち上がり、昏倒した竜たちに致命傷を与え首を落として回る。

トレバーはベルトのリアクターを入れる。

ところが肝心のOS基本ソフトが起動しない。


「ちょ、ちょっと待て! こんなに時間かかるのか!?」


いつもは起動した状態で渡されていたので気にしていなかったが、此処まで立ち上げが遅いとは思っていなかった。


六人衆に防衛を任せ、兎に角クリムゾンに接触を試みた。


「おーーーい! 大公!.......てかクリムゾーーーン!」

ダートレバーが居ない世界……。まさかそんな世界があるなんて……」

「あ、あの大公さーーーーん? おーねーがーいだから外部マイク入れてくださ――――い!」

「何となく声が聞こえる……あの人との絆がこの奇跡を生むのね……」

「何となくじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ! 早く気が付け! このバカ!」

「そうね。コイツら皆殺しにしてから私も逝くね」

「はぁ!? ち、ちげぇぇぇぇぇぇぇよぉ! マジで勘弁せぇ!」


 妄想の世界にどっぷりと浸かったクリムゾンにトレバーの叫びは届かない。

横から突進して襲い掛かって来たドラゴンに左手に装備した盾を差し出す。

盾に仕込まれたパイルバンカーが射出され、カウンターとなり頭部ごと串刺しにした。

そこにブレスが吐かれるも、串刺しにしたドラゴンごと盾にして防ぐ。

攻撃を受けつつ背部から機体専用のハンマーが取り出された。

剣や槍だと脂が着くと切れ味が落ちる。

レーザーブレードだと消費電力もあり継戦能力が落ちる。

ハンマーなら打撃力も継戦能力も高い。

物理攻撃が効く相手にはもってこいだった。


「死にさらせぇぇぇぇぇぇェェェ!」


 いきり立った雄叫びを上げクリムゾン専用機が竜の群れに殴り込んで行く。

肩に装備されたバルカン砲が上空のワイバーンを次々と落とし、ハンマーを振るう。

修羅の様な攻撃にワイバーンやドラゴンが次々に屠られていく。

だが、ようやく態勢が整ったブラウン達を別の方面からの群れが見つけた。


「おい、普通アレクリムゾンに向かうんちゃうの?!」

「弱い所を狙うのは戦闘の基本だぞ」


 派手に暴れるクリムゾンを尻目にブラウンがボヤく。

ジョナサンが苦笑して解説し、横に生えていたシダ類の様な樹木から巨大な葉っぱを切り落とす。

その巨大な葉っぱで刃に着いた脂を拭うとブラウンとジョナサンが剣を構える。


「やれやれ、人気弱いもんは辛いでいかんわ」

「ああ、弱いくせに竜のキルマークなら現時点で人類最高数に到達してるけどな」


ブラウンの愚痴にとうとうジョナサンも乗る。

事実、今日だけで倒したドラゴンの数なら魔王陣営幹部達と同じぐらいだろう。

そこに沈黙していたペーレオンが加わった。


「さてお二方、人類最多数は良いのですが……ここからが正念場ですよ」


 魔道具にチャージしつつ、ペーレオンが傍らに視線を向ける。

ブラウン達が視線を追った途端に足元に伝わる振動がその質量を物語る。

視線の先には遠近法が狂ったかと思える存在が居た。

先程まで倒していたドラゴンより明らかに巨大で風格のある竜の群れが接近していた。


「なんじゃぃありゃ!? 超大物だがね!」

「エンシェント級のドラゴンですね。今まで倒してきたのが数百歳程度の青二才、本物のドラゴンが彼等ですね。記述ではありましたが実物と対戦するのは初めてです」


赤銅しゃくどう色や深碧しんぺき色に輝く鱗で全身を包み、黒く鋭い爪を大地に突き立て、巨体で樹木を薙倒す。

口の周りには豊かな髭とそれにつながるような鬣が長い尻尾までつながる。

天に向かって伸びる二股に分かれた角は王冠ともいえる気品があった。


「うひぃ、アレを今から? あのゴーレムクリムゾン専用機じゃなくて?」

「大公殿のお力を合わせてもギリギリ互角でしょうな。あの一体とね」


呆然とするブラウンにペーレオンは冷静に戦力分析をして呆れたように微笑む。


「来るぞ!」


構えたジョナサン達に向かってエンシェントドラゴンは怒りの咆哮を上げた!






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