罪と罰

 自分達の立場に当惑するアムシャスとジンガにスコットの悲しみに満ちた声が問い掛ける。


「待ってくれ! それじゃ俺達は何のために武具にまでなってここに居るんだ!?」


ジンガたちに続き六人衆の纏う雰囲気が重苦しく沈む。

そもそも彼等は神々が約束を守り、ともに撤収して居ればここ世界に居る事もない。

ましてや、その後の苦しい地下生活も、内乱同士討ちで命を落とすことも無かったのだ。


「運が悪かった、だけでは済まされたくないよな? それでも真実を知った上でどうするかだぜ?」


 苦笑したトレバーはスコットたちに語り掛けた。

改造してまで生き延びて戦う理由は本人変わり果てた人間しか理解しえないのだ。

だが、透明化を外し、美味しいネタに食いついたペーレオンは饒舌に捲くし立てる。


「六人衆の方々、残念ですが現時点でお助けする力は私には御座いません。ですがアムシャス龍帝と魔人の力、それに予想外ジャクルトゥ研究があれば肉体再生は可能……そうですよね? 大佐?」

「正直分からんが……可能性は否定しない」


技術関連は担当外堕天の守備範囲ゆえにトレバーはやんわりと返答した。

天地創造を行った奇蹟の力に悪魔の技術が加われば神の御業完全復活をも再現できるやもしれない。

やりきれない表情のジンガがアムシャスに向かい問い掛けた。


「ではアムシャス、彼らの復活に協力して頂けるのだな?」

「ああ、本体は動けないが、重力や環境、元素精製操作ぐらいはこの状態でも可能だ。全力で協力させて貰おう」


そこで疑問を感じたトレバーが話の腰を折る。


「アムシャス、動かなかったり拒絶する理由は分かった。それでいてエラく気さくに協力してくれるけど……アンタなんで正直に言わなかったんだ? その後のいけ好かない応対は?」

「いや、正直に伝えて協力を申し出たはずだ。クロード達に伝え……!」


 最後まで言う前にトレバーと意識体は顔を見合わせた。

それと同時に出入口から竜人たちが大挙して現れた!

武装し、幾重に整列して水晶の前に防衛の陣を引く。

そして入り口から怒号と共にクロードが現れた。


「キサマラァ! 良くも我らが大帝様の玉座を汚してくれたなぁ!」

「クロード! 俺の客人になんて無礼を……! 猛省しろ!」


 穏やかな表情の意識体が毅然とクロードを叱りつけた。

突然の叱責に面食らいながらクロードは抗弁を始めた。


「ですが、聖上おかみ! 私は聖上の御意志、御命令を忠実に実行したまで!」

「どこが忠実なんだ?! ここへご招待しろと申しつけてなにゆえに出頭になる? それにだ! 魔人陣営の方々への連絡もその内容も俺が聞いていた事と違う。これで多大な命の損失が起こったんだ! 全ての真実を提示したうえで役職を離れろ、後日責任を追及する」


怒気をはらんだ追及にクロードの雰囲気が怪しくなる。

雰囲気を察し、トレバーがクロードのキャラを踏まえて弄りに掛かった。


「おいおいおい、俺は雇われフリーランスだが雇用主への報告はちゃぁぁぁぁんとするぞ? なぁ、ブラウン」

「そうだて! うちのラクウェル様にてっきとーな事口走ったら城内にようおらんわ」


頷きながらブラウンも賛同した。

それが呼び水となりクロードが爆発した。


「貴様ら下賤な種族と一緒にするな! 聖上は神の化身である。我々はその偉大な大帝の一族也! いかに聖上が許しても俺は許さん! 約定? 協力? 聖上が何故貴様らなんぞにお力を振るわねばならぬ? 図が高い控えおろう!」


爆発したクロードが一気にまくし立てた。

そこでジンガが真実を引きずり出す。


「その立派な貴公がアムシャス殿の名代をしていたと?」

「ああ、貴様らの文句なぞ受け付けん……だが、神の力を以て攻めて来られると厄介だ。故に早い段階で内通者を作り、相互監視案を飲ませたのだ。そして内通者を焚き付け口封じついでに反乱を起こさせた。いやぁこれが容易い事容易い事、この世界の猿より劣るわ」


 饒舌にしゃべるクロードにアムシャスの顔が怒りよりも悲しみの色が濃くなる。

自分の子供達に裏切られ、そのどす黒い本性を目前に突きつけられたのだ。


「その口ぶり、龍帝や魔人達が丹精込めて作ったこの世界に情はないのか? 邪神や魔王が荒らしまわっても無関係だと?」


猿と言うキーワードでジョナサンの眉間に深い皺が入る。


「当たり前だ! この猿! 我らは龍帝の一族! この世界が無くなってた創造神の世界に還るに決まっておろう!」


 嘲笑とともにクロードは言い返すとトレバーが笑顔で意識体に話しかけた。


「アムシャス、アンタんところの井の中の蛙、俺らにヤキ入れさせてくんねぇか?」

「かまわない……先に忠告しておこう。を使うな。それを使った武器も無効だ」

「ハッ? 反応炉の事か?……おもしれぇ! ハンデ付スーツ無しでもボコってやんぜ」


 いきなり反応炉を指摘されて戸惑うが、トレバーは拳を鳴らし始めた。

その後ろでジョナサンが腰の典太の位置を直す。


「おい、トレバー、敵をこちらにも回せ。 このクソトカゲ叩き斬ってくれる」

「アガト坊、テュケ坊、ジンガとアムシャスを頼むで?」


盾を持ち、剣の抜くとブラウンは二,三回肩を軽く回してほぐした。


「ブラウン卿、カッコつけるのは良いが我々は映像だけでここには居ないから大丈夫だ」

「は? 映像? 意味わからんが……まぁ、行って来るわ!」


 取り敢えず的外れだったことは理解したらしい。

照れくさそうに前に出る。

そこでクロードの殺意が滾った視線にぶつかってしまう。


「さて、始末してやろう、全員……」

「まてぃ! 此の無礼者ッ!」


クロードの号令を皆まで言わせない絶妙なタイミングでトレバーが一喝する!


「なっ?!」

「偉大なる大帝の玉座を血で汚すつもりか! このバカ野郎! 今すぐ死んで詫びろ!」


いつもウォリアーに言われているタイミングでの一喝でクロード達が怯みだす。

しかも彼等にとってアムシャスは神同然、その玉座での不敬な行動は万死に値する。


「表に出るぞ。このハチュウ人類ども、大雪山〇しで投げ飛ばしてくれる」


 怯んだ竜人達を押しのけてトレバー達は外へと向かう。

すでに竜人達の一部は恐れ慄き始めていた。

自分達の指導陣クロードたちが実は聖上を蔑ろにしていた事実に気が付き始めていたのだ。

トレバー達を追いかける足取りもどことなく浮足立っていた。

竜の水晶の間にはジンガとアムシャス、そしてアガト達が取り残される。


「アムシャス殿は既にお気づきでしょうな……。お二方、失礼ながら私と話をして貰えないでしょうか?」


アムシャスに断りを入れると神妙な顔でジンガはアガト達と向き合った。



 意気揚々と表に出たトレバー達は戦場の選択を間違った事に気が付いた。

周囲の森から様々ドラゴンの群れが現れ、上空には無数のワイバーンが所狭しと旋回する。


「あら、ドラゴンちゃん一杯だがね」

「ワイバーンも居やがんの……さて、何処から行こうか?」

「大佐、クロードをお願いします。我々は雑魚……まぁ何とかしますか」


ブラウンが苦笑し、ジョナサンは典太をおもむろに抜いた。

迫りくるアースドラゴンへペーレオンが魔力をチャージしつつトレバーの背中を押す。


「ああ、さっさと始末してくれるぜ」


六人衆がピタリと身体に装着されたトレバーはリアクターを止める。

竜人達の先頭に立つクロードを見つけ向かって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る