龍帝の真実

 通路を抜けると巨大なアリーナ状の巨大な空間になっていた。

座席の様に階段の様な作りになっており、さしずめドーム型野球場を彷彿とさせた。

その中央に涙滴ティアドロップ状の巨大なクリスタルが宙に浮かぶ。


「アムシャスブンタ、ジャクルトゥ特別攻撃部隊デスブリンガー隊長、鬼神大佐ことトレバー・ボルタック推参してやったぜ」


 一喝する様にトレバーは名乗りを上げた。

同時にブラウンたちが柄に手を掛けて身構える。

背後から親し気に声が掛けられた。


「やぁ、トレバー君。初めまして、俺がアムシャスブンタ……の意識体だ」


声に反応し振り向くと羽織と白い着流しを着こなした短髪の男が腰掛けている。

細身の身体が着流しによりより細く、それでいて粋に見えた。

東洋系と思われるたおやかな眉に細い目、微笑を絶やさない口元が印象的だった。


「あんたが……」


トレバーが呟くと同時に六人衆が動き出す。


「お? この雰囲気は地母神様の魔人衆の方々か? こりゃいい! 椅子に腰掛けて話をしよう? そこのも座って話をしよう。久方ぶりの会話でお茶……が欲しい所だな」


 来客にテンションが上がった意識体は笑って席を勧める。

不可視の術を見破られたペーレオンも絶句しながら術を解く。

いきなりその場に現れた椅子には座らず、怒り始めたトレバーが詰問に入る。


「この俺に出頭せよと命じたのはアンタか?」

「んー、出頭とは穏やかじゃないねぇ? 俺は丁重に招待してとは命じたけどね」

「あ? おまえんとこのクロード、〆て良いか? 躾がなってねぇぞ」


緩やかに答える意識体へ間髪入れずにトレバーが文句をぶつけた。


「あー、済まないねぇ、うちの小僧共は外界を知らないからねぇ。井の中のって奴さ。そんな小僧は大人な大佐に〆て貰っても良い……けれどそれで直ると思う?」


 言葉の刃を巧みにかわし、意識体はそのまま佇む。

緩やかな雰囲気にイラつきつつ、どう仕掛けるかトレバーは模索する。

その間を埋めるべく意識体はその場いた一行に和やかに話しかける。


「まぁ、クロードは叱っておこう。それよりの方々もお話ししましょう」

「おいおいおい、ちっと待ってくれ。ジンガから預かりものをして来た」


話が先に進む前に、トレバーはジンガから託されたコインの様な円盤を床に叩き付けた。

円盤が割れると粒子が立ち上り、一人の男を形どった。


「トレバー、六人衆よ。世話になった。初めまして龍帝殿、私がジンガ・レッティ喧嘩状だ」


円盤から現れた白いスーツの紳士ジンガは眉間に皺を寄せながらアムシャスと対峙する。

だが、それでもアムシャスは笑顔で応対した。


「おーっ?! 監察官殿。これがお初かな? その後ろの気配は……他の魔人の皆さんかぁ? 俺がアムシャスブンタの意識体だ」


その気さくさにジンガでさえも拍子抜けする。

負けじと気を取り直し、ジンガが詰問に入った。


「さて、アムシャス殿、我々の帰還の約定を反故にした挙句、先の邪神降臨の際に立たなかった理由をお聞かせ願いたい」

「はぁ? あれ? 事情説明してないのかな? 兎に角、まずはアレなる水晶の檻をご覧あれ」


 頭を掻きながら苦笑しつつ、意識体は涙滴状の水晶を指差す。

全員が水晶を見ると意識体は説明を始めた。


「確かに俺も約定仕事が終われば帰還は知っている。だが、創造者は俺に破壊装置の役割も持たせた」

「それは我々も知って居る」

「だけどさ、俺は封印されてて、あの水晶の中に居るのが俺の本体なの」


その告白に全員が目を凝らす。

水晶に外部からの光が差し込むと中に確かに何かが存在している。

禍々しい牙を備え、窮屈そうに翼を畳んで眠る様に身動きしない巨大な魔竜が居た。

それを見てブラウンが驚いた。


「うはっ!? 外に居るドラゴンどもが可愛く見えるがねぇ!?」

「元々竜族は任務遂行のため、作業要員と汎用生物重機として造ったんだ。真面目に創造者に似せて作っちまうとまずいんだ。とんでもない姿のになるんで参ったよ。そこで視覚ビジュアル的にマシな自分に似せたんだ」


 苦笑しながら説明するアムシャスに冷静に聞いていたジンガが問いを返す。


「それで動けないと? 偉大なる龍帝の貴方が!?」


大袈裟な手振りでジンガが挑発する。

しかし、額を掻きながらアムシャスはバツが悪そうに返答する。


「ああ、恥ずかしながらね。この世界の神が俺の創造者に反抗心を抱いた時、俺と本体が同体となり破壊に移る。それまでは固定された置物なんだよ。帰ることも動く事さえままならねぇのよ」

「それでそちら側の上とは?」

「勿論、没交渉。神は俺達創造物に何の興味も示さない。俺達の気持ち、願いなど汲み取る事は無い。ジンガ殿達もそうだろ? 問いかけても無視、本当にやれやって奴さ」


 呆れたジンガがさらに問い掛けるとアムシャスは悟ったように答えた。

アムシャスが語る真実に全員が黙り込んだ。

そこでせせら笑い出す男がいた。

トレバーだった。


「まぁ、神様なんざそんなもんだろうよ。悪魔の方が生物人間を気にするだけ優しいのさ」

「トレバー、罰当たりな……って、そういやお前さん悪党悪魔側だったな」

「まぁな、神は人がいなくてものうのうと生きていける。所が悪魔は神の産物がいないと神の無能さを証明堕落への誘惑ができない。悪魔もまた神の掌の中なのさ」


トレバーの口ぶりを窘めようとしたジョナサンが本性正体に気が付いて苦笑する。

悪びれる事もなくトレバーは愁いを帯びると絶句するジンガを見つめた。

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