メッセージ

 鬱蒼と生い茂る樹木の上でトレバー一行は息を殺して、気配を消した。

竜人たちの警備隊が気付かずに下を通る。

先程壊滅させたダイアーウルフの群れの残骸を発見し、調査に来たのだろう。

ダイアーウルフの群れやワイバーンに遭遇し、手早く始末する。

六人衆の高火力魔法や能力で瞬殺する度に悲鳴を聞きつけた警備班がやって来る。

それを隠れてやり過ごすため、全然進まない。


 気配が消えた事をアガトが確認すると堪りかねたブラウンが文句を言う。


「なぁ、まーそろそろ頃合い見て潜入せんかね? わしゃエライ疲れたがね」

「しゃーねぇ、ウルフやワイバーンは人間とみると襲って来やがる。始末して進むしかない。但し、竜人は人並みの感覚だから隠れれば何とかなる。だろ? ペーレオン」


ブラウンをトレバーは嗜め、発案者のペーレオンに話を振る。


「ええ、私が読んだ文献ではその記述がしてありました」


透明の状態でしかも浮遊したままペーレオンは話す。

宙に浮いた状態で呪文と唱え遠距離へ火を放ち、注意を引く。

こうして攪乱をしながらトレバーは周囲を窺う。


 アガト達に動きはない。

周辺に敵は居ない事を確認して踏み込むことにした。

音も立てずに地面に着地したトレバーは周囲を探る。

索敵担当のアガト達を信用している。

だが、訓練と実戦によって本能にまでなった所作であった。


 合図をして全員を降ろし、ペーレオンに逆サイドの最大距離で着火させる。

最後の誘導をして逃亡に入ったと思わせて手薄にさせた。

念押しして警備隊が消えたのを見て、山の出入り口に向かう。

動きが一番遅いブラウンとアガト達を先行させ、周囲にメリッサ達遠距離担当を護衛させた。

その後でジョナサンとトレバーは後方から動く。


 難なく全員入口に到達する。

トレバーは入口の柱に手をつき、気配を探った。


『おお? 自ら来るとは中々の勇者だな!』


脳に電撃が迸るように直接メッセージが響き、動きが止まる。


「なにっ!?」


 手を離したトレバーは瞬時に戦闘モードに入った。

拳を軽く開いて身構え、周囲に気を張った。

変身しないのは手の内を隠す為と敵の情報を知るためだ。


「どうした?!」


トレバーが見せるいきなりの挙動にジョナサンでさえも驚く。

イラつく表情を見せながらトレバーが呟いた。


「直接、頭の中に会話をぶっ込んで来た奴がいる」

「念話ちゃうのか?」

「俺に念話は出来んよ」


 剣を抜いたブラウンが通路の先を凝視しつつ尋ねたがトレバーは否定した。

敵意を持つ存在どころか一行以外の気配はない。

薄気味悪さを抱いたままトレバーは先を進む。

石造りの通路は下に向かい、さらに奥へ一行を導く。



 通路は耳の気圧で一定の深度まで到達した事を教えた。

そこで直角に曲がり中央に向かう。


「なんだて……この寒気は?」

「昔、ウルトゥルのバガーヴァンズ山脈に登ったことがある……あのクソ寒さと違う何かを感じる」


 異質な寒さにブラウンが疑問を口にすると大概否定に入るジョナサンが珍しく同意した。

これにアガト達が頷く、体温的には寒くない。

己の魂が寒さを訴えるのだ。


「とっととアムシャス燃やして暖を取ろうぜ」


改造人間であるトレバーでさえ寒気を感じるらしく、歩きながら徐に壁に手を触れた。


「おいおいおい、俺的にも熱は欲しいけど薪代わりは勘弁な」

「なっ?!」


手を思わず放す。

そして訝しがりつつ壁に手を当てる。


「おーい、聞こえるか? まぁ俺のとこに来いや。話をしよう」

「お前、何もんだ?」

「はぁ? クロードには招待と案内する様に頼んだが……仕方ない。俺がアムシャスブンタだ」


 衝撃の名乗りにトレバーは呆然とするが物言いに何処か親近感があった。

とりあえず相手の誘いに乗ってみる。


(分かった。とりあえずこのまま行けばいいんだな? それと例のクロード達には伝えないでくれ。面倒だから)

「おお、それでいい。クロードの件は分かった。こちらの手違いがあるらしい」


気さくで話が分かる感覚に猛烈な親近感と違和感を覚えた。

この得も言われぬ表情のトレバーに全員の視線が刺さる。


「例のメッセージはだそうな、六人衆は装備形態で俺につけ。いざとなれば暴れるぞ」

「「マジで?!」」

「兎も角、護衛も居ないらしい。急ぐぞ」


 困惑しながらも言い放つとトレバーは先へと進む。

六人衆が後を追いつつ、トレバーに装着されていく。


「ジョー、あれ良いなぁ」

「俺、メリッサだけで良いからほしいわ」


しみじみブラウンが呟き、ジョナサンが肯定する。

アガト達がついていくのに気が付き、慌てて追いつこうと走る。

トレバーが進んで行く通路は分岐もなく、じきに終わりを迎えた。






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