乱舞する拳


 転がる蛇人間の首を見つけた堕天が歩いていく。


「バクシアン」


無表情で跪いて首を抱きかかえた。

その隙をナオミとネネは逃さずに突っ込んで来るが、堕天の頭上を影が飛び越えてくる。


「たーっ!」


 気合いと共に一回転し、ネネに飛び蹴りを見舞う。

それを見たナオミが追撃を警戒し、横っ飛びに避ける。

だが、難なく上段回し蹴りで合わせると両者間合いを取り構えた。

スーツは前と同じだがマスクは間に合ったらしい。

鬼神よりコンパクトになったマスクをつけた舞が急襲したのだ。


 舞の急襲により、一気にクレア達は身構え警戒する。

ネネは舞との戦いで手一杯になる。

この少ないメンツで堕天と戦うのだ。

その堕天は徐々に人間バクシアンらしくなる蛇人間の頭部を抱いていた。


「すまん、お前に無理をさせた……」


無表情の堕天は目を閉じさせ、自らも目を閉じ、静かに冥福を祈る。

そして杖をくるんと回し、クレア達に向かう。


「最高幹部の爺さんか……やれやれ面倒な相手だねぇ」

「貴様ら、明日以降の太陽は見れんぞ」


堕天の雰囲気と聞いていた実力にクレアはこのクソヤバイ状況に苦笑する。


 その隣で派手な打撃戦を舞とネネは繰り広げていた。

開戦当初、舞は体捌きや払いでネネの攻撃をいなしていた。

以前生身なら三回ガードしたら両手は骨折してそのまま貫かれていただろう。

今は互角に

だが、決定打が撃てない。

普通の突きや蹴りではネネは気にせずに攻撃してくる。

しかし、溜めの要る強い攻撃はカウンターを入れてくるため、早々打てない。

決定打が撃てなければネネには勝てない。


 そこで舞はガードを捨て、スーツの耐久性に賭けた乱打戦に出た。

笑みを浮かべながらネネは戦いに乗って来た。

顔面に右ストレートを入れたら相手はローキックを入れる。

ガードの下から脇の斜め上に向かい中段蹴りを入れる。

手応えを感じながら回転を使い、バックハンドブローに載せて叩き返される。

ドドス、ドスンと鈍い打撃音が奇妙なリズムで響き渡る。

しかし、そのリズムは唐突に終わりを告げる。

ネネの上段蹴りを喰らい、舞のマスクの左側半分が割れたのだ。


 強化服のマスクは簡単には割れない。

そう言ってもで割って来るは居た。

対策データはあるが、対応できる素材もなく新規開発が追いつかないのだ。

マスクの割れた部分から見える舞の瞳が驚愕で見開く!

ここをネネに突かれれば間違いなく死ぬ。

ネネの笑顔がより深くなる。

猫が獲物ネズミを見つけたような佇まいであった。


 それでもお互い引く事は無い。

お互い数十センチの位置で踏み込んで、全力でネネと舞は拳を振るう。

ネネの拳は的確に舞の顔面を捉え、そのまま首を吹き飛ばす。

……筈であった。

舞はネネの攻撃を予測していた。

敢えて力を溜め、右に首を曲げてネネの拳を辛うじて躱す。

マスクは派手に粉砕され、後ろに飛ばされたがまだ戦えた。

パンチの戻る時にしゃがむと腰を据え、必殺の技を繰り出す。


「破ッ!」


 裂帛の気合いと共に顎、コメカミ、鳩尾と喉元に高速四連突きを叩き込み、感覚と呼吸を壊す。

軽いが素早い攻撃にネネは目を見開き、よろめく。

そして、もう一歩踏み込んだ舞は怒涛のラッシュを始めた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」


 拳と手刀、肘に膝、踵に足刀、全身全霊で両手両足を駆使する。

その全ての攻撃をネネはもろに喰らい続ける。

隙の無い連続攻撃で反撃が出来ない。

だが、その目は死んでいない。

蓄積するダメージに耐え、攻撃が途切れた瞬間に全力のカウンターを狙っていた。

それが分かっている舞は反撃する隙を与えずに必死で連撃を加え続ける。

そして激闘の終わりは唐突に告げられた。


 決着を待てない輩は両陣営に居た。

別方向から飛来した二発のミサイルが堕天と舞の近くで着弾し、両陣営に間合いを取らせる。


「ルクレベッカぁ! 無事か?!」


怪ロボットで飛来したメソッドがクレア達の前へスライディングする様に着地した。

堕天と対峙する様に立つとマイクでルクレベッカの無事を確認する。

その背後にミサイルが飛来すると背部からバルカン砲が飛び出て迎撃する。


「舞は下がって‼ おい! クソデブ! 良くも舐めた真似し腐りやがったな? ぶち殺してくれる!」


発射口から煙を出すパーカー君に乗ったクリムゾンが接近する。

舞のダメージを見て危険を感じ、救出に来たのだ。


「全員取り付け! ネネは俺が拾う!」


 クリムゾンの接近に慌てたメソッドはクレア達に指示するが、打撃を喰らい続けたネネはその場で昏倒していた。

手からワイヤーを発射し、ネネを括ると手の中に引っ張り上げる。


「ネネに治療を!」


クレア達はロボットの掌に飛び乗ると応急手当を始めた。

それを愛おしそうに手を重ねて守ると威嚇のバルカン砲を周囲へ乱射しつつ上昇を始めた。


「逃がすかぁ!」



クリムゾンは引き金を引き、パーカー君の副砲である四〇ミリバルカン砲を撃つ。

怪ロボットの装甲は金切り音の様な音を立てて辛うじて弾丸を弾く。

その一発の跳弾が手の中へ飛び込む。


「くっ!?」


咄嗟にネネを庇ったクレアの横っ腹に破片が捻じ込まれる。


「姐さん!」

「落ち着くんだよ! こんなもん薬ぬっとけばいいんだよ!」


応急薬を傷口に塗りつつクレアはチームを引き締めた。


「メソッド! 急いで!」

「分かっている!」


 状況を把握しているが回避運動を辞めた瞬間、パーカー君のレーザーキャノン襲って来る筈だ。

必死でチャフやフレアに煙幕をばら撒きつつ、メソッドは逃走に入る。

ちょこまかと動いてターゲットロックに苦慮していたクリムゾンに堕天は別の指示を与えた。


「は? 掃討に移れって? 今ならあのクソデヴ墜とせるよ?」

「バクシアンが命を懸けて作った時間だ。メソッド風情に使うより、立て直しとここに居る敵の兵力を潰した方が良い」

「ああ、けど」

「頼む、それが終われば大佐の援護がある。早急にやれ」


 有無を言わせず堕天はそう言い切った。

自分が不甲斐無いばかりに奇妙な性格だったが貴重な友を失った。

その友が作った時間を浪費したくない。

堕天は部下に搬入口の防御力の向上とバクシアン隊の遺体を収容せよと命じた。

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