再集結

 副官に連れられノインの元にやって来たクレア達は片膝をついて控える。


「お館様、クレア以下六名罷り越しました」

「連戦で疲労困憊の所、済まない。諸君らに緊急で一仕事やって欲しい」


粗末な椅子に腰掛け、ノインはクレア達に向いて話を切り出す。

横の机の上にバールー連山を模した菓子、その周りには金貨、銀貨を駒に状況を把握していた。

クレア達を近くに呼ぶと机を指しながら任務について説明し始めた。


「現在、我々魔王軍は敵ジャクルトゥ本部に攻勢中なのだが、敵の抵抗が強くてな。奴らの面妖な防衛隊によりかなりの被害が出ている。そこでだ、諸君らは転移後、爆撃や戦闘を避けながら搬入口にたどり着き、敵防衛隊を駆逐せよ」


そこまで一気に説明するとクレアが手を上げた。


(!? クレア!)


その動きを見た副官が嗜める表情を作る、だが、クレアは怯まない。


「何だ? 言ってみろ?」


ノインは一瞥すると質問を許した。


「は、ありがとうございます。 敵の種類に規模、搬入口に居る敵の詳細な情報を頂きとうございます」

「うむ、確認していないけれど三〇匹のヘリや戦車?とかいう乗り物で一〇名以上の集団だと見つかって襲って来るらしい。搬入口も目標は三百人程度の半分人の様な化け物怪人どもらしい……」


 そこまで答えてノインは口ごもった。

リスクの高い任務だと逃亡の可能性がある。

詳細と言われて実は多脚戦車パーカー君悪夢の人食い魔物三百体元バクシアン隊とは言えない。

最近はメソッドやワーズとつるみだしてよりタフで洗練された考えをする様になった。

しかも、ただでさえ過酷な任務ばかりを言い渡して、現在ろくな褒賞も与えていないと来ている。

ラゴウやヴァンダルの所への移籍か傭兵部隊として独立されても文句は言えない。


 更に聞き出そうと口を開いたクレアの視界に一人の男が現れた。


「ノイン様、バリアスめでございます」


クレア達の背後にあのバリアスが音も無く控えていた。

上質なローブを身に着け、魔力増幅の宝石が埋め込まれた杖を背後に回した。


「お? おお来たか、バリアス。以前査定で組んだクレア達に合流、協力して敵を排除せよ」

「畏まりました」


どちらかを刺客として送るつもりだったが、こうしてチームとして当たらせれば十分だ。


「……またよろしく頼むよバリアス」

「ああ、此方こそ」


さらに情報や援助を引き出させるつもりだったが、ノインはここで打ち止めにする気らしい。


「では、後は任せた。健闘を祈る」


後は副官に任せ、ノインは状況把握と指示に集中する。

副官の速やかな合図で全員その場から下がった。


「クレア、いい加減にせんか、幾らノイン様とは言えあまりに図々しいと処されるぞ」

「副官、まだ隠してる事あんだろ? 言ってくれよ。私達は勝ってみんなで帰りたいんだよ。死体で帰りたくねぇからな」


 すぐに苦言を口にする副官をクレアは追及する。

新兵の頃からの上司だ。

その信頼関係は長く、深い。


「ちっ、かなわんな……良いか、あくまで独り言だぞ……。森に居る戦車とやらは蜘蛛のゴーレムモドキで侵攻部隊の調査大隊を殲滅した物と同じものだ。それが複数確認された」


渋々、歩きながら副官は呟き始めた。

テーター家の家風は情報漏洩には厳しく、必要な案件でも余分な情報はあたえて貰えない。

場合によっては極刑もありうるが、信頼のおける上司と部下の絆が成せる忖度であった。

そして蜘蛛のゴーレムモドキと聞いてバリアスの目に怒りが滾る。

アドバンス達の仇と認識したのだ。


「問題は搬入口に居る守備隊だ。元人間達らしいが、我々を襲って食う。アンデットの様に増えんだけマシだが食った分だけ回復してまた襲い掛かる。中央にはがいるそうだ」

「三百と聞いてたけど実質三千以上か……そりゃアタシらにお鉢が回ってくるわけだ」


副官は困った顔で搬入口の相手について話すとクレアは苦笑して答えた。

クレアに向き合うと副官は敬礼して語り始めた。


「とはいえ貴様らが我らの陣営、否、ノイン様の鬼札ジョーカーである。我々も全力で支える」

「鬼札ねぇ……ノイン様に伝えておくれ。鬼札は分かったからちゃんとしたご褒美と暫く呼ばないで休暇ねと」

「分かった分かった……だが、クレア、死ぬなよ」

「アホかぃ! 縁起でもない事言うんじゃないよ。じゃね。準備に入るよ」


 クレアは手を上げて挨拶すると用意された待機室に入った。

外には逃亡防止の見張りが居るようだった。

少なくとも数万の軍勢でようやく倒せる相手を七名で倒すしかないらしい。


「さて、ルクレベッカ、彼氏メソッドに蜘蛛ゴーレムと守備隊について情報貰っとくれ」

「はい、姐さん」

「とりあえず、みんな準備に入っとくれ。それと上級な装備や機材は副官かノイン様名義で買え。今なら多少の我侭も許してくれるさ」


 椅子にドカッと座ったメンバーたちにクレアは急かした。

そしてドアを開けて外で監視するお供に声を掛けた。


「お目付け役さん、上級将校用の食事を七名分、それと高級装備目録持ってきて」

「はぁ?」

「いいから、いいから、ツケはに頼むよ」


 困惑する監視役をパシリにしてクレアは生き残る策を模索し始めた。

切り札であるバリアスは目の前に居る。

後はどうやって生き延びるかだ。

溜息交じりで椅子にクレアが座った。

車座でチームが座り、ちょっとした会議のようになった。


「姐さん、メソッドに連絡したら、援護に来るって」

「あー、それは助かるけど情報は?」


ウオッチでやり取りしたルクレベッカにクレアは頭を掻きながら情報を求めた。

予想外の申し出だったが、これで脱出か切り札の手段が出来た。


「多脚砲塔っていうんだけど、脚を伸ばしてる時は動的索敵って言うのしているからその時は動かない方が良いだって。蛇男は知らないけど知ってる幹部かもしれないって」


困惑しながらもルクレベッカは教えられた情報を出す。


「知らないけど知ってる幹部って……なんじゃそら」


 ネネが苦笑しながら突っ込みを入れる。

するとルクレベッカは口をとがらせて言い返す。


「だって、あの幹部たちって追い詰めらると変身するんだって、切り札みたいなもんだから。ただ彼や扇の女キルケー達は変身できないんだってさ。鬼神だけはいつも全力だからするんだって」

「ふーん、そうか……」


ルクレベッカの反論を聞いたネネはあの武闘家川崎舞の姿を思いだす。


(アイツ、変身してたな……つまり、普通の時より強いんだ)


 ライバルの強化服姿を見て気合いが入る。

少なくとも退屈はしなくて済みそうだ。

その会話を遮る様にケータリングの食事がお目付け役たちによって部屋に運びこまれる。

確かに中身は上級であった。


「ヘェ……肉多めのシチューとローストチキン、上質なワイン、チーズに白パン」

「フルーツバーまで付いてるよ」

「嫌味なほど上等だねぇ、みんなしっかり食っときな……」


 まるで最後の晩餐見たいだと思い、選択を失敗したとクレアは後悔した。

だが、少なくとも生き残る策は仕込んでおくことにした。

外で監視するお目付け役に顔を出して伝令を頼んだ。


「ウチのに伝えてほしいんだけどね。メソッド曰く、守備隊の蛇男は幹部らしいって伝えて置いて」

「はぁ? それでい良いのか? 自分で副官殿に伝えればいいだろう?」


その意味が理解できないお目付け役は困惑の症状を浮かべる。


「行きたいけど、アタシら今から前線だからさ。だから頼むよ」


 そういってクレアは言い訳を混ぜて伝える。

これで幹部と言う餌に釣られたノインが出張ってこれば対戦のリスクは軽減する。

出世よりそこそこ安全な仕事と報酬があればいい。

見えないようにほくそ笑むとクレアは出撃の準備に取り掛かった。








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