奮戦! バクシアン隊

 信徒と呼ばれる部下達と共にバクシアンは中央搬入口に着いた。


「お待ちしておりました。配置はすでに終えております」


姿を見た堕天隊の副長は歩み寄り、バクシアンに伝えた。

搬入口の両脇にはトーチカが増設されており、機関砲が上下に二門、迫撃砲らしき筒も見えていた。


「うむ、上空の敵の排除を頼む。堕天殿が来たら交代してくれると助かる」

「了解です。博士が来ましたら撤退を願います」


 一番若い信徒に着ているガウンを渡し、気合いを入れたバクシアンは道着姿で前に出る。

本来の世界なら舗装された道路が山道へと向かうが、ここでは森で途切れていた。

そして目の前に広がる森の奥では何かが無数に蠢く。


「手榴弾をくれ」


 苦笑したバクシアンは傍らの信徒長副長に要求するとすかさず二つの手榴弾を手渡す。

徐にピンを抜き、両手首のスナップだけで二つの手榴弾を森の奥に投げる。

数秒後に爆発音が無数の魔物の叫び声と共に周囲へ戦闘開始を告げた。


「全員構えよ! 十分に引き付けてから撃て、砲撃は大物にとって置け」


トーチカや信徒たち号令を出すと自身は目立つ中央で巨大な数珠を振り回す。

その姿を見て信徒長はボソリと呟く。


「坊主頭で数珠振り回してりゃ、そりゃ和尚って言われますって」

「何か言ったかね?」

「はい、高野山の方ですか?」

「比叡山と言って貰おう。さぁ焼き討ちタイムだ!」


 嫌味交じりの皮肉も信徒が相手では天然ボケ担当に変わるバクシアンが発砲の号令を出す。

迫ってきた魔物達が以前と違い、銃撃を耐えて突っ込んで来た!


「ンッ! ハッ!」


先頭の豚顔のオークを正拳で殴り飛ばし、銃弾を弾いた横のリュカオンも蹴り飛ばしてその鎧を見る。

鈍く輝く薄い金属が表面に張られていることに気が付く。


「ん?……これは?」


 呟きながらバクシアンは飛び掛かって来るゴブリンの頭を無造作に掴む。

そのまま四股しこを踏むように片足を上げ、ココナッツクラッシュの様に自分の膝に叩き付けて粉砕する。

そこでまじまじと鎧の金属を観察した。

装着したイヤフォンから堕天隊の副長から悲痛な声で通信が入る。


「バクシアン様! 鎧にチタニウムの合金、もしくはアルミ合金が張られています! 耐弾性が付加されております!」

「焦るな、まず掃射で脚を狙え、そこに鎧はない。堕天殿ならそう指示するだろう。動きが止まったら焼け!」

「はっ!」


 意外にも冷静な指揮をとりつつ、バクシアンは先頭に立つ。

分かりやすい立ち位置戦闘指揮官である為、次々に迫る魔物を文字通り薙倒していく。

信徒や戦闘員も指示に従い、掃射して移動力を奪ってから焼殺、射殺する。

燃える死体がバリケードになり、徐々に遮蔽物を生み出す。


それと同時に戦士、騎士系の前衛部隊が盾を構えて隊列を作る。

耐弾性を前面に出して押しつぶす戦法に出た。

様々な種類、色合いの盾を寄せ合いながらジリジリと寄って来るとバクシアンは笑みを浮かべた。


「テケリちゃん! でませぃっ!」

「ミ゛ミ゛ィィィィィ!」


 待っていた好機にバクシアンはテケリちゃんを召喚し、一気に前線を崩す。

足元の大地にいきなり闇が円を穿つ!

吸い込まれるように前線の戦士や死体が墜ちていく!


 後衛の魔術師、レンジャー達が遠距離攻撃を始める。

始まると同時にテケリちゃんは後方に下がる。

同じ轍は踏まなかったのだ。

的が居なくなり、代わりに攻撃した事で位置が戦闘員達にバレた。

銃撃を受けて一瞬森が静まり返る。

汗で光る頭部を手ぬぐいで拭きながらバクシアンは副長に指示を出す。


「至急、怪我人の搬送と補給を済ませろ。堕天殿はまだか?」

「はっ、まだ医務室です」


幾分申し訳なさげに副長が申告した。

答えを聞いたバクシアンは微笑み、信徒長に手ぬぐいとマテ茶のボトルを交換した。


「よいよい、堕天殿には世話になっておる。ここで借りを返しておかねばのう。……して、大公殿は?」

「現在、本部周辺の森を爆撃、銃撃して回っています。ただ、確認された敵は数万、此方に向けて進軍中との事です」


冷えたマテ茶を一気に飲むとバクシアンは溜息を吐いた。


「いよいよもって死ぬ気で御奉公せねばならんか……信徒よ! 我らが神に祈りと贄を捧げよう!」

「イアイヤイアイヤ! ンガウグング!」


 バクシアンの号令と共に信徒たちは恍惚状態で意味不明な真言を唱えだす。

その真言を身に受けながらバクシアン自身もトランス状態になっていく。

異様な状態に突入した守備隊の前に魔王軍第二陣が現れた!


「我が主、我らが神ヨ! 異界ノ生、珍味を捧ゲましョうぞ! てケりぃちゃん!」


既にイントネーションが人外に移行したバクシアンがテケリちゃんを呼ぶ。


「ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛」


 再び現れたテケリちゃんがバクシアンの半身に纏わりつくように覆いつくす。

それを見た魔王軍は一斉に攻撃を始めた。

面倒な敵テケリちゃん兜首幹部と共にいるのは好都合だからだ。

攻撃が始まるとバクシアンは落下していた格納庫の鋼鉄製の構造材を見つけた。

大地に刺さった構造材にテケリちゃんが付いた手を無造作に伸ばす。

じゅるじゅるじゅるじゅるとテケリちゃんが腕の形に延び、構造材を掴む。

ズボンッ! と構造材を一気に引き抜くと魔王軍を無慈悲に横薙ぎにした。


――グバジュ!


 鉄材で横薙ぎにされた攻撃陣は訳の分からない断末魔を叫びつつ下半身だけにされた。

恐慌状態で突きっ込んで来た魔王軍を再び横薙ぎになぎ倒す。

だが、散発だった反撃の魔法が徐々に密に、途切れなくなってきた。


「うオっと、危なイ!」


構造材を斜めに突き刺し、遮蔽物にして魔法を防ぐ。

その隙にバクシアンは搬入口のバリケードへ身を隠す。


 まだこちら側の負傷者は少ないが敵は圧倒的に多い。

クリムゾン隊の攻撃を森林に潜みつつ潜り抜けてくるのだ。


「焼き払ウのも手でハあるが……住民達の食料供給地ナればナぁ」


 実はトレバー達がボクドーに向かった直後、当面の戦略について方針決定がなされた。

余程攻め込まれない限り、なるべく森は潰さない。

提案者はバクシアンで堕天は渋々了承する。

何故ならば、森や山自体が近隣住民達の重要な食料供給地であった。

そこで採取される材木はもちろん、山菜や木の実、獣まで様々な恵みがあった。

森と言う生命線を潰せば住民からの反感ヘイトが生み出す。

それは敵意となり自分達に跳ね返って来る事を大首領は恐れた。


「人類科学の悪の権化である我々が自然保護に配慮するなんて……本当にたちの悪い冗談だな」


 会議に参加していた堕天は苦笑してそう呟いた。

だが、バクシアンには別の意思があった。

全ては神の御心ままに……捧げられるものなのだ。

全ての生き物、人間、草一本、微生物さえも神の供え物生贄という考えであった。


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