上陸する魔軍
バティル城を中心とした情報網が整備したお陰で魔王軍再襲来は瞬く間に沿岸部の港や街に伝わった。
住民達は恐怖するが、沿岸部に船が見えたと同時にミサイルが飛来し、大半の船団を海の藻屑と変える。
その攻撃の凄まじさはまさに堕天の怒りだと
だが、その内の二割は上陸に成功し、すぐに近場の森へ移動した。
ラゴウ達の指示通りに森や山岳部に潜伏し、呼応する好機を待つのだ。
上陸成功の報告を大広間でラゴウ達は配下から受けた。
マンダゴアの地図を囲んでの軍議中であった。
「予想通り、陸戦の二割上陸出来たね。ポータルは持たせてあるのかい?」
「ああ、ドレド特製の一方通行型だが三〇名は送れる」
隣に座るノインの問いかけにラゴウは頷き内容を告げる。
向かいに座るドレドは内容に異議を唱えた。
「申し上げます。私としましてはかなり不本意な品でして、量産性を重点にしております。双方向で千人単位も可能ですがね」
相変らず毒々しい水玉のローブを着たドレドは不満げに修正をする。
人数やラゴウやノイン級でも一日一つ程製作するのがようやくである。
それを魔王軍所属の魔法職全員で量産し、一〇〇名用ポータルが複数出来上がった。
また、ポータル一式でも結構大きく、荷馬車二台分の機材が要る。
主に荷馬車隊を送るため三〇名しか送れないのだ。
揃いもそろってめんどくさい曲者が集まっているのをノインは呆れながら報告があるのを忘れていた。
「はいはい、済まなかったねぇドレド、所でラゴウ、アンタに頼まれた
「死んだか?」
「いや、修行について来ただけでなく、今アーク・ウィザードの昇格試験をやっているよ。エライ逸材送って来たね」
「ほう、そこまで化けたか」
意外な成長にラゴウは少し驚いた。
死刑宣告したようなものであったが、
それと同時に配下の魔法職の強化方法を見直そうと思った。
まだ手勢の中には第二第三のバリアスが眠っている可能性もあるのだ。
ラゴウ達が軍議をする広間に複数の影が現れた。
今回の立役者ワーズとメソッド達がずらっと入口に控える。
「陛下、工作部隊、ただいま帰還いたしました」
「うむ、ご苦労」
ワーズは先頭に立ち、その脇をメソッドとクレアが固める。
ラゴウへ片膝をついて頭を下げた。
続いてワーズは戦果の報告にうつる。
「今回の攻撃で敵幹部達を相手に交戦し、相手の格納庫二つ程叩き潰しました。これでミサイル攻撃は……」
「してきおった。船団は想定通り二割残った」
「くっ、申し訳ございません。もう一つも潰しておけば……」
戦果報告も上陸作戦の被害を聞いてワーズは臍を噛む。
「まぁ良い。想定内であるし、今回は我ら鬼兵団が参戦する。上陸すればこちらのモノよ……。して、意中の相手は居たかね?」
悔しそうなワーズに対し、ヴァンダルは腕を鳴らし、因縁の鬼神についても尋ねる。
「いえ、ウォリアーとやらは居ましたが姿を見せませんでした」
「探り出した情報によると今、奴はペーレオンなるモノと一緒にアムシャスブンタの所へ……」
「何だと!?」
ワーズの報告に被せるようにメソッドが答える。
途端に驚愕の表情でラゴウとドレドが席を立ってメソッドを見た。
あの逸材、ペーレオンがジャクルトゥに移籍した事は二人にとって想定外の行動であった。
その上、ジャクルトゥ陣営がアムシャスブンタに接触した事も事態を深刻化させる。
基本的にアムシャスブンタ達は世界の事について無関心だ。
助力を懇願してもまず断るだろう。
だが、万が一の事がある。
流石にラゴウは何時もの癇癪を炸裂させるべくメソッドへ向く。
「いえね。奴は人質を取られているらしく。奪還ついでに倒すと息まいており……ルクレベッカに尋ねた所、世界最強生物とやり合うこと自体自殺行為と言われまして……」
言い訳がましく報告していたメソッドはラゴウが出す
宣告される前に呆れ果てたノインが口を開いた。
「何、あのバカ、マジで自殺しに行ったようなもんじゃない。アムシャスに喧嘩売りに行ったのなら協力はあり得ないわね」
「自分もそう思います。仮に帰還出来てもアムシャスは絶対に許さないでしょう。結果的には有利かと?」
空気を読んだワーズも怒れるラゴウへ働きかける。
二人の意見を聞いたラゴウは珍しく堪忍する事にした。
メソッドがもたらす知識や情報は自軍に有利に働く、事が済めば始末すればいいだけだ。
「メソッドよ。お前は今後得た情報をワーズに必ず伝え、精査して報告せよ。ぬかったら処す」
「はっ、ははぁ!」
「陛下、私をアムシャスの所へ、使いと偵察に行かせてください」
「ならぬ、貴様には前線での指揮を任せたい。ヴァンダルやノインと共に奴らの本部を叩け」
ラゴウは冷静にそう言い放つ。
これまでもいくつかの機会は与えた。
しかし、
「はっ、畏まりました」
ここで未練がましく懇願すればラゴウから死が宣告される。
本部を襲えば奴も慌てて帰って来るだろう。
切り替えの早いワーズは念話を使いつつ編成の段取りにはいった。
「部隊が形成されるのは何日ほどかかる?」
「二週間程度で三万の部隊が連山付近の森に潜伏できるかと」
「それでいい。三週間でもう一万増員せよ。俺も出向く」
ラゴウはドレドに行程を尋ねた。
思ったよりも速かったため増員を命じ、自分も出陣すると宣言した。
「おいおい、お前は後ろで座って居ろ」
「そうだよ、あんたが襲われて倒されたら終わりじゃない」
ヴァンダルとノインは呆れて制止にかかる。
ただでさえ
取り分が少なくなるのは嫌なのだ。
「やかましい! 出ると言ったら出る」
「もう、言い出したら聞かないから」
一喝したラゴウにノインは諦めて肩を竦める。
「兎も角、準備が出来た部隊から夜間に転移させろ。そして身を隠しつつ、バールー連山へ向かえ」
「畏まりました」
書記官役のドレドは各方面へ念話で指示を出す。
出征する部隊は隠し港で待機していた。
メソッドがコーティングや作成した超々ジェラルミンの鎧と盾や装備した騎士が隊列を組む。
チタン合金のチェーンメイルを装備した戦士、ケブラー繊維のローブを着込んだ魔道士がゲートの前で待っていた。
荷馬車の後、次々にゲートを潜りマンダゴアへ向かう。
目的は全軍を投入し、完膚なきまでにジャクルトゥを壊滅させた上でマンダゴアを制圧する。
ラゴウの意志を実行するべく、ドレド経由で動員令が発動された。
育成機関にもそれは伝わり、その時点を以て昇格儀式や試験は受付を終了し動員に入った。
ウルトゥルのノイン直轄機関において昇格試験の終わった鐘が鳴る。
閉ざされた両開きの石造りの門が開いていく。
手を使わずに自身の魔力のみで開ける試験だ。
勿論、魔力を滑らせる作用がある石造りの門だ。
しっかりコントロールされた高威力の魔力をグリップさせて開く。
その扉から出て来たのはあのバリアスであった。
上半身は裸でかなりやつれてはいたが、以前よりきつくなった目線と素人目にもわかる魔力を纏う。
無表情な係員が現れバリアスに簡単に合否を告げた。
「バリアスよ。汝にアーク・ウィザードの称号を授ける」
「有難く承ります」
短く答えたバリアスに係員は指令を与えた。
「魔王様の御下知だ。ワーズ様の元で前線に立ち、ジャクルトゥ本部を落とせと仰せだ」
「畏まりました」
「ここで登録、隠し港で装備を整えてマンダゴアに渡れ」
「はっ」
係員の伝達に相槌を打ちながらバリアスは魔力に殺気を混ぜ合わせる。
(バティル城での借りを返す絶好の機会……逃さぬ!)
疲れ切った肩や首をほぐして鳴らしながらバリアスは試練の間を出て行った。
一歩外へ出ると
かといって、ここにじっとしていれば爆撃か魔王からの処刑命令があるかもしれない。
準備が出来た者から慌てて転移呪文で移動していくのだ。
「登録所は?」
「そこの角の建物だ。急げ! 開戦まで時間はないぞ!」
慌てて行く深紅のローブを着たハイ・ウィザードにバリアスは道を尋ねる。
一気にまくし立ててハイ・ウィザードは小走りで走って行った。
無言でバリアスは上半身裸のまま、登録所に入っていった。
「新人、最終組か……名前は?」
水晶玉をクッション付き台座に置いた係員らしき男が居た。
事務方の魔道士らしく、喧騒とは無関係にのんびりと台座付きの机に座る。
何かの帳簿らしい紙の綴りを捲りながら名を尋ねた。
「バリアス」
目の前に立つとバリアスは淡々と答えた。
「うむ、アーク・ウィザードか……水晶玉に手をかざせ」
言われたとおりに片手をかざすと静電気の様な電撃が水晶玉と掌に走る。
その動作に頷いた係員は笑顔でバリアスに告げた。
「登録が終わった。アークウィザード・バリアスよ。貴殿の今後の活躍に期待する」
「ありがとうございます」
「では衣服に着替えて準備に入れ、呪文は図書館で契約してくれ」
「畏まった」
礼を告げたバリアスは登録所を出て、自室に向かう。
修業中、寝るだけの部屋だったが衣服は有る。
服に着替え、魔法を契約し直して前線に向かう。
散々煮え湯を飲まされたジャクルトゥに報復するのだ。
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