傲慢の代価

 強化服を装着し、ネネへ殺気を漂わせて構えた舞を観たクレアは即座に方針を変更した。


「ルクレベッカ、ネネ! こっちに戻んなぁ! 砂塵で行くよ!」

「「あい、姐さん!」」


何らかの合図だろうか?

クレアを中心に右にネネ武闘家、左にナオミ剣闘士が脇を固めた。

その隙間をジョゼとルクレベッカが埋め、背後にはマロリーの配置した隊形になる。


「これは良い、纏めて潰せそうだ……っ?!」


 侮って一歩ずぃっと前に出たバクシアンへクレア達がいきなり仕掛けた。

ジョゼとルクレベッカが同時にナイフを投擲し、微笑を浮かべたバクシアンは両手で払う。

投擲の目的は動きを止める事とは知らずに……。

止まった所にネネが中段蹴りを放つが、これは左足を上げてガードする。

そこまでは余裕だった。

ガラ空きになった右脇をナオミのショートソードがズブリと下から貫く!


「はぐぁ?」


 余りに単純で速やかな手際の良さに驚いたバクシアンは残された息と共に喀血した。

トドメの戦斧の刃が頭上に迫る。

それを堕天の杖が弾いて防ぐ。

閃光をマロリーが放ち、クレア達は間合いを取った。


「和尚!」

「バクシ師匠!」


膝をつくバクシアンにキルケーとナイトが駆け寄る。


「キルケー殿、わしは仏教徒ではないとあれだけ言っておろうが……。それとナイト、その呼び方はやめてくれ。爆死師匠と聞こえてしまうだろうが」


深々とショートソード貫かれ、バクシアンは致命傷を貰ったはずだった。

血泡を吐きつつもしっかりとした口調で苦情をぶつけた。

そこへ杖を拾った堕天と舞が合流する。


「大爆死だな、和尚? キットクルンジャーに不覚を取って以来か?」

「堕天先生、ここで弄るなんて凄い余裕ですね」


苦情を聞いていたらしく平然と堕天が過去の失態を織り交ぜて弄る。

舞はナイトと共に相手を見据えて構えつつ、その剣呑さに呟く。


「舞、君は余裕が無さ過ぎるよ。幾ら苦杯をなめた相手とは言え君には技研みんなの力が付いている。きっちり倍返しして差し上げろ。バクシアンはしばらく休め」

「博士、済まぬ」


ニコリと笑いながら堕天は舞を叱咤し、バクシアンを庇うように立つ。


「分かりました。倍返し承りました」


ゴーグル越しにネネと視線が交錯した。

闘志の籠った瞳を見たネネはクレアに一言呟く。


「姐さん」

「ハァ……ネネ、此処は我慢しとくれ。あの爺さん、かなりの食わせもんだよ」


 闘志に呼応するネネを溜息混じりにクレアは諫めた。

戦前に授かったメソッドの予備知識は、クレア達に正しい選択へと導く。

煽った堕天の意図、クレア達の連携を崩して戦闘を有利にする事を見破ったのだ。

クレア達がチームで戦う事は攻撃力と手数を増やす為だ。

ジャクルトゥの幹部は強力な全体攻撃を持つキルケー以外は連携攻撃チームプレーに弱い傾向がある。

キットクルンジャー戦隊で戦えば手数に処理が追い付かず攻撃を貰う。

一気に畳みかければ下手をすればバクシアンに続く負傷者が出るかもしれない。

そこで因縁の有るネネと舞を煽り、分断して崩す策をとったのだ。


「ふっ、流石、殴り込んで来るチームは度胸とが違う。敬意を表して自己紹介させてくれ。私は堕天、ここの副指令的な仕事をしている」

「アタシは暁のクレア、ウルトゥルのノイン・テーター公付きの戦士だ。爺さん、時間稼ぎはまだ要るのかい? 坊主の傷は治ったのかい?」


 ここでもクレアは見事に堕天の裏の意図を見抜いた。

時間を稼ぐことでバクシアンの回復させる考えを見切った。


「ほほう? そこまで見切ったのは素晴らしい。だが、対策はあるのかね?」

「この腐れジジィ、捨て駒稼業舐めんじゃないよ!」


 クレアの激昂と共にゲートが衝撃音と共に崩落する。

頭上から大量の鉄材や岩と共に巨大な鑿のように平ぺったい物体が降って来た。


「みんな! 隊長さんも!」


予めわかっていたかのようにクレア達は合図と共に背を向けてコンテナへ向かう。

追いかけようとしたキルケーとナイトは降って来た構造物に阻まれる。


「ちっ、もう来たのか、今度は潰してやるぞ。マスクド抜け作!」

「名前を間違えるな! パシリ隊長!」

「お前ら子供かぁ?!」


 崩落する構造材を避けて対峙するウォリアーとワーズは子供の様な言い争いを始めた。

そのレベルの低さに呆れたゲンナジーはツッコミを入れる。

降り注ぐ瓦礫を余裕で潜り抜け、ワーズはコンテナに到着すると巨大なマジックアームがコンテナをガシッと掴む。

同時に上から大音響で恫喝が飛んできた!


「堕天! 俺のルクレベッカに手を出すんじゃないっ!」


崩れた格納庫の上部から縦に並んだ巨大二連スコ-プが堕天達を捉える。

怪ロボットに乗ったメソッドがマイク越しに怒鳴り散らす!


「ふん、モテない中年メソッド分際で戯言を吐きよるわ」


 悉く策を読まれた堕天は面白くもなさそうに吐き捨てた。

情報を集めていたメソッドは先制ミサイル攻撃による船団破壊作戦を知る。

メソッドの情報を聞いたラゴウは撤退したウルトゥル抵抗軍の隠し港で船団を構築する様に指示を出す。

完成した船は夜中、密かに漂うスキュラの海域へ移動させる。

こうしてスパイ衛星の目から逃れさせていた。

そして造船場では囮のハリボテ船団をゆっくり作らせておく。


 しかし、海域から出航してもミサイルで撃沈の可能性もある。

ラゴウへの手柄が欲しいメソッドはルクレベッカに頼み、クレア達に話を持ち掛けた。

チームによるジャクルトゥ本部への攻撃を提案したのだ。

魔王への根回しついでに失態続きのワーズを巻き込んで戦力を増やす。

メソッドが見て来た堕天の戦略傾向をクレア達とワーズで精査し、対策を議論、対策を練る。

そこで妙案が生まれた。


 飛行部隊と降下部隊という餌を巻き、本命の突撃部隊を投下する。

先手を打つ傾向がある傲慢な堕天はすぐに幹部を動かし、雑魚を一点に集めて高い火力で粉砕する。

最後は幹部達で絶望した本命部隊を美味しく叩き潰す。

そういう策で来ると読んだ。

ならばわざと幹部戦力を集め、が無い事を確認する。

勝ち誇った所に切り札であるメソッドの巨大怪ロボットを降下させ、格納庫を破壊させるのだ。


 しかし、エースパイロットであるクリムゾンの存在が問題になった。

彼女ならロボットやマシンの性能が二世代くらいのスペック差があっても余裕で撃破する。

クリムゾンが出撃すれば、メソッドが幾ら頑張っても負ける。

だが、ミサイル攻撃前ならクリムゾンが操るロボットやマシンは配備の問題で簡単には出せない。

そこでギリギリのタイミングで降下作戦を決行したのだ。


 策はドンピシャとハマり、第一、第二格納庫はメソッドの怪ロボットで破壊された。

最後っ屁代わりにミサイルを一斉発射し、岩肌に設置してあった対空兵器を全て潰す。

欲を言えば第三格納庫も破壊したかったが止めて撤退する。

すでにクリムゾン隊は格納庫から姿を消していたからだ。

脚部と背部のロケットエンジンに点火させメソッドのロボットは逃走に移った。

上空にはフレアをばら撒きながら巨大輸送機が迎えに来る。

レーザー誘導された怪ロボットが輸送機に回収された頃、ようやく第三格納庫が開き始めた。


「オイ! コラタコ! アタシが来たからって逃げんじゃねぇ!」

「あ、キルケーに寝取られそうな墜落女王ですよね? 頑張らないと奴のハーレムにも入れないぞー?」

「んだとごらぁぁぁぁぁぁぁっ!? 降りて来い! 粉砕してくれる!」


 最新型の専用機、赤い騎士の様なロボに乗ったクリムゾンは通信機越しに挑発した。

だが、彼女にとってのNGワード満載で仕返しされて激昂する。

そこに意外な援軍が来た。


「オイコラ、ポンコツ三等兵にハーレム作れる甲斐性があったら、とっくの昔に私ら孕ましてるよ! お前よりも野郎は純情だからどっちつかずなんだよ! バカヤロウ!」


通信にキレたキルケーが割り込み、突然メソッドをやり込める。

いきなり割り込まれたメソッドは慌てながら反撃を始めた。


「へへっ、イケメンの正妻である余裕があるからそう言えるんだよ! 振り向いてもらえない人間の気持ちなど分かって……」


最後までメソッドに言わせず、キルケーが罵倒する。


「知るかこのカバ! 振り向いてもらえないのなら頑張れ、それでもダメなら次だボケ! いつまでもウジウジウジウジいってんじゃねぇ! おい、ひんにゅー! さっさと準備してへなちょこ大佐救ってこい! アンタしか出来ないんだから!」

「誰がヒンニューだ! ゴルゥラァ! 言われなくとも分かってるよ! チッ あんがとよ崩乳!」


 怨敵の意外な援護にクリムゾンはあっけにとられるも罵倒し返した。

舌打ち交じりの礼と共に……。

その後、気を取り直して発進準備を指示する。


「副長! ジェネレーター接続、ヒートソードとビーム兵器の使用許可と発進許可貰え!」

「へい、しかし博士から瓦礫の排除を優先に動けと……」

「……くっ! 分かった。至急、第一格納庫に残骸を集める」


副長の伝達を大人しく返す。ここで癇癪起こしても無意味だからだ。

今頃第三格納庫へミサイルが搬入され、すぐに発射されるだろう。

その頃までに準備を整え、射出させようとクリムゾンは頭の中で段取りを始める。


 その足元ではヘルメットを脱いだ川崎舞が点になったメソッドの輸送機を見つめていた。

辛うじてネネと対峙は出来た。

だが、まだ本格的にやり合ってはいないし、スーツも未完成だ。

その頃までにすべてを仕上げようとする。


「舞、どうしたの? 中に入るよ?」


戦闘態勢を解いたキルケーとタイソンが舞を呼ぶ。

それを合図に雪がちらつき始めた格納庫へ作業員達が片付けに入って来る。


「はい、キルケーさん、私も駐屯に付き合ってもいいですかね?」

「あ? ああ、博士か大首領に具申しておくよ」


 舞の唐突な申し出にキルケーは一瞬戸惑うが、コーチは多い方が良いとの判断した。

だが、キルケーはタイミングが悪い事をまだ知らなかった。

司令室で敵に出し抜かれ、真顔で怒りに震える堕天と口論になるとは……。

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