降下作戦

 堕天は司令室にて状況の確認をしていた。

トレバー一行のモニターをしつつ、各部署から送られた書類をタブレットで目を通す。

この後は怪人開発に入る予定であり、明日にはバティル城にて情報交換と打ち合わせ予定だ。

此の多忙な中、モニターしながら椅子に座り、運営状況と敵情報の報告を受けていた。

三名の司令部付き担当者に指示を出しながら、先程上がって来た魔王軍の上陸用船団の報告を受ける。

衛星写真の分析ではじきに配備が整うとの事だった。


「それでは巡航ミサイルを二百発準備したまえ、整い次第ガマッセルとウルトゥルの造船場に発射、殲滅して差し上げろ」

「はっ!」


司令部付きの通信担当が指示を各部へ伝える。

すると別の担当が指示を求めて来た。


「キルケー様が率いるウォリアーとヴァージョン弐タイソンの一団が出発したいと連絡がありました」

「待たせておけ。ミサイル発射は最優先だ。それとヴァージョン弐は長い。適当な名前で呼べ」


出来れば伊橋達はとっとと本部から出ていってほしい。

少し渋い顔で堕天は返事をした。

話を振られた担当者は少し黙った後、口を開いた。


「……畏まりました。V2では如何でしょう」

「どこぞのミサイルかユニットみたいだな……仕方ない……バトラー、ライダー、シューター、ナイト……ナイトにしよう」

「マスクドナイトですか?」


提案に苦笑した堕天はブツブツと名前を上げて行き、具合がいい名を上げた。

席に戻った担当官は各部署に通達するべく再度確認した。


「ああ、あの男、変に礼儀正しい所があるからな……まぁ、兵器の名前など適当でいい」

「了解です。通達出します」

「うむ」


担当者が通達作業に入った瞬間、警報音が鳴り始めた!

堕天はモニターを凝視する担当者へ速やかに尋ねた。


「何事かね?」

「はっ、本部へ超高度にて超大型航空機が接近中です!」

「ふむ、メソッドか……ミサイル発射を中止! 迎撃態勢に入れ!」

「はっ!」


担当者は指示通りに迎撃指令を発布する。

すると別の担当者が声を上げた。


「敵、降下兵を投下しました。……視認した兵によると飛行系モンスターと武装した兵士の混成型だそうです!」


 相手は元幹部にして基地担当エンジニアのメソッドである。

基地設備を使った盗聴やモニター盗撮等のスパイ活動は容易いだけで無かった。

此の基地の弱点、抜け道を把握しているだけでなく、堕天や鬼神の戦術パターンも熟知していた。


「ある程度の距離で迎撃したらシャッターを閉じろ。戦闘員に銃火器を持たせて待機させておけ! それと陽動で第一格納庫を開けて置け」

「はっ!」


 堕天は超高度で敵が接近すれば高射砲ではなくミサイルで迎撃の傾向が高い。

ミサイルはエンジン付きの物体には反応するが、生体には反応しない。

そこで機体全面に張り付かせ、迎撃と同時に飛行型で急速降下させる。

降下に気が付いた基地迎撃システムは銃座を出す。

作戦通りに射程外で停止する。

射程外ならば銃座は出るが発砲してこないのだ。

システムが混乱する間に本部周辺へ武装兵を着地させるのが策であった。


「出発前のウォリアー達に金のインゴット渡金で依頼して第一格納庫で迎撃! バクシアンは水源地へ、キルケーはナイトと共に遊撃として機能させろ! 敵が増えれば私も出る!」

「はっ!」


 早い段階での侵入を想定した堕天は幹部達へ出撃の指示を出す。

ウォリアー組の中村は兎も角、ゲンナジーの格闘能力は上級怪人並みである。

一応、援護も配備させた。

雑魚に簡単に倒される事は無いと踏んだ。

ゆっくり息を吐くと堕天は司令室の椅子に座り、戦況を見守る事にした。


 いきなり開いた格納庫のゲートへ魔物達が一斉に侵入する。

待機場ハンガーには黒いスーツに着替えたゲンナジーとウォリアー達が居た。

半袖のスイムスーツ状の形状に青いラインが入ったスーツはばっちり似合う。

開発部から防護用のスーツを開発参加のボーナスで貰ったのだ。

斬撃や刺突、火焔や苦手な電撃を防ぐ保温性の高い服にゲンナジーは気に入った。


「こんなの良いのが、着られるなんて俺は運がいい」

「油断するなゲンナジー、こいつ等ジャクルトゥを信用すると改造されるぞ」

「ああ、気を付けるぞ……ウォリアー、お客だぁ」


 心配になったウォリアーは窘めるとゲンナジーは素直に肯定し、身構えた。

二人を見つけた魔物達が一斉に襲い掛かってくる。

飛行系で構成された魔物達は高さを保ち、ブレスや風で攻撃してきた。


「チッ! 一匹ずつ潰すか!」


敵を見据えたウォリアーは膝を曲げ、魔物達に向かい跳躍しようをした。

その魔物達が横合いから銃撃を受け落ちて来た。


「なっ!?」

「おい、ウォリアー! チンタラしてんじゃないよ!」


壁に設置されたデッキにはクリムゾンに率いられた直属の戦闘員が武装していた。


「貴様! しまった罠……」

「てめぇ馬鹿かっ! うちらが撃ち漏らした敵を始末しろや! ボケェ! カス! キリキリ動け!」


一瞬、クリムゾン達へ慌ててウォリアーは構えるが、言い終わる前にクリムゾンに罵倒された!


「おっかねぇねぇちゃんだなぁ……まぁ、楽で良いやっとぉ!」


 上から転がり落ちて来たロックデーモンを動き出す前にゲンナジーは全力で殴り潰す。

その次に騎士の格好をしたソードマンが着地し、すぐにウォリアーへ襲い掛かる。

振り下ろされた剣をウォリアーはレーザーブレードで叩き折る。

すぐさま防護に入った盾を拳で打ち抜き、ヘルメットごと顔面を飛ばす!


「ホントは私らだってお前なんかと組みたかねぇの! さっさと始末しての援護に行かなくちゃぁ!」


 飛行系モンスターは必死で戦うクリムゾン達に目標を変える。

距離を保って攻撃をするが、飛び道具の性能差で次々と落とされていく。

謹慎中のクリムゾンが独房から出されたのは数時間前だ。

トレバー達が見た山の調査、近隣の大型魔物に対抗する必要性を堕天は推察した。

対策援軍として大首領に恩赦を求めたのだ。


 出所後、落ち込んでいた所に援軍としてトレバーへの援護任務は張り切らざるを得ない。

だが、援軍準備中、キルケーばりに恋路を邪魔しくさるメソッドの横槍今回の攻撃に激怒した。

堕天からの指示もあり、部下を引き連れて激戦区の格納庫へ来たのだ。


「ほらほらほらほら、とっとと降りて始末されちゃえよ! あたしゃ時間が惜しいんだよ!」


銃弾の雨に怯み始めた魔物達にクリムゾンが挑発する。

弾切れになったライフルを横に捨てると隣の副長が絶妙なタイミングで装填済みのライフルを渡す。

そこへ別の部下が火炎放射器を持って来た。


「大公様、副長、博士から使用許可出ましたぜ!」

「良し、おめーら、近づく奴は全部燃やせ! 一応、ウォリアーと客人には当てんなよ!」

「了解っす!」


両脇に放射器を配備して護衛につかせる。

ほぼ優勢な感じだったが、そこに魔王軍の切り札が降下して来た。

コンテナ状の金属の箱が煙幕と共に大型輸送機から射出された。

ドンピシャの角度で格納庫に侵入したそれは銃弾を弾きながら落下する。

着地直前に超高圧に圧縮されたガスを出して荒々しく着地した。


「ん? なんじゃいなこれはぁ?」


黒装束の盗賊らしき戦士の頭部を上段蹴りで蹴り飛ばしたゲンナジーが声を上げた。

その物体に見覚えがあったウォリアーはコンテナへ身構える。


「ジャクルトゥの強行陸揚車だ。乗っているのは援軍、それも切り札級だ」


 大概、鬼神を始めとした幹部級と新型怪人を劣勢時に投入して来る兵員輸送車だ。

並みの銃弾、火力では損傷を受けない。

装備された無限軌道キャタピラーと再上昇出来るガス圧は突貫攻撃に便利であった。

その箱の横がスライドされ、大型バスターソードとともにワーズが降り立つ。


「言ったろ? しつこいって」

「言ってたな、しつこいって」


苦笑してゲンナジーは指摘するとウォリアーも首を振りながら肯定した。


「ウォリアーとやら! 鬼神はどこへ消えたっ!」

「お前程度に教える義理は俺にはないな」


指を差して詰問するワーズにウォリアーは即答で返す。

その言い草にワーズの顔が紅潮して行く。


「隊長殿、落ち着いてくださいよ。前回のバリアスはしっかりしてましたよ」


 激昂し始めたワーズの肩をポンと叩き、クレア率いる小隊チーム捨て駒が降りて来た。

工作員のルクレベッカを始めとした全員が今回は揃っていた。

落ち着きを取り戻したワーズが今度は恥ずかしさで赤くなりながら、クレアに礼を告げる。


「う、うむ、済まぬ。さて、私はここで暴れさせてもらう。貴殿らは例の動力室とやらに向え」

「了解です。それじゃルクレベッカ! 案内は任せたよ」

「はーい」


 黒いジャンプスーツのルクレベッカが戦斧を構えたクレアの横でナイフを構えた。

一行が出入り口に向かうとそのゲートがゆっくりと開く。

そこからキルケーとバクシアンに挟まれ、マスクドナイトが現れた。

コンテナ射出をみた堕天はすぐに幹部達を向かわせ、自分も席を立って向かう。

一つの突破口を用意したおかげでそこへ敵が集中して押し寄せた。

それが功を奏し、別に潜入した敵はほとんどおらず、勝負どころと見たのだ。


「おやおや、扇のねぇさん、また会ったねぇ」

「そりゃ、アタシらの家に上がり込みゃ居るだろうさ」


キルケーを見つけたクレアが声を掛けると辛辣な言葉が返ってきた。


「つれない返事だねぇ、ルクレベッカ、ネネと一緒に行きな、うちらもここで遊ぶよ」

「はい、姐さん」


ナオミとジョゼが構え、マロリーが呪文の詠唱を始めた。

その横を小走りでネネとルクレベッカが通り抜けるとまたゲートが開く。

今度も二人、ゲートから出てるる。

その内の一人を見てネネはにやりと笑った。


 一人は白衣姿の堕天、もう一人は気合いの入った表情の川崎舞であった。


「この娘がメソッドの想い人か……さて、どうしてくれようか」


 優しく微笑みながら堕天はこの後のルクレベッカに対する処遇を考えていた。

怪人や生体部品に改造するのもよし、人間爆弾化して奴もろとも始末も良い。

笑みの裏側には邪悪な目論見が渦巻いていた。


 一方で作業服姿の舞はネネと再び対峙する。

余裕の表情でネネが構えた。

獲りそこなった獲物がまた来たのだ。

今度は完全に仕留めるつもりであった。

その態度を見た舞に闘志が点火する。


(舐めてる! 今度こそ負けないっ!)


 右腕に付けたウォッチに触るとその手をバックルに当てる。

小型のリアクターが開き、強化スーツが展開した。


「「なっ?!」」


その場にいたゲンナジーを除く全員が目を剥く。

黒いスーツだったが頭部だけはまだ試作状態らしい。

フルコンタクト空手の頭部防具の様な赤いヘルメット仕様になっていた。


(ほう? あれでリベンジするんかぁ? 頑張れ……)


 事情を舞から聴いて強化服の対打撃の検査官を務めたゲンナジーは目を細めた。

検査官と言っても強化服を着た舞と容赦なく全力で組手をするだけのものだ。

お陰でマーマン族の猛者であるゲンナジーと全力でやってもダメージが全く無かった。

あとは実戦でネネにリベンジするだけであった。






 





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