魔の山へ

 トリネコの迷宮最下層にいるジンガへ辛うじてつながり、調べておくとメリッサに返答があった。


「答えが出るまでの創意工夫を期待するぞ。と伝言がありました」

「あの野郎、人のアイディアを盗む気だな……」


にんまりと悪戯っぽく笑うジンガを脳裏に浮かべつつ、トレバーはボヤく。

向こうではブラウン達が武器庫から持って来た装備お宝をペーレオンが鑑定していた。


「これは……守りの盾ですな。防御力も世界指折り、かざすと軽症の外傷なら治癒する業物ですよ」

「おおぉ! でゃーじにせにゃかんわ……」


 ペーレオンの鑑定にその場を転がって喜ぶブラウンにトレバーは注意する。


「おい、転がり過ぎるとみゃーっとか叫んで枝から落ちるぞ」


今後の対策を立てるべくトレバーは寝そべりながら集落を観察する。

気が付いた事をメリッサ達に伝えてグループワークするのだ。

農耕する竜人族を見てトレバーは早速疑問を上げた。


「道具とかは普通に使えるのだから、戦闘では武器が有効では?」

「我らの内戦時ではほとんどの武器を弾きました。ただ矢は長距離のみ有効でした」

「そうことなら飛び道具か……ライフル持って来さす訳に行かないか……」


冷静にニールセンがした返答をトレバーが受けて発想をひねり出す。

そこにスコットが付け足し始める。


「ちなみに魔法の類も無効だったぜ。投石は? あれなら手頃だぜ?」

「供給しやすいが決定力に欠ける。牽制や雑魚向きだな。それにアイツの腕なら大概弾くぞ」


スコットの意見を聞きながらもダメだしする。

やり取りして行くうちに時間だけが過ぎていく。

内心焦り出すトレバーにマッカランブーツが呟いた。


「まてや、反乱者にブレスや斬撃は効いたぞな? ニールセンよ」

「あー、紐を使った絞殺もやれたぜ? 弾かれるの上等で」


スコットの力技案に鼻で笑いながらニールセンは返答をする。


「ふっ、確かに……だがご老体マッカラン、大佐はブレスも斬撃も飛ばさない。突撃バカスコットに至って問題外だ」

「いや、打撃がダメなら力技での投げや関節があるな……ニールセンそれで行こう。スコットやりおるな」


拍子抜けするニールセンにドヤ顔をするスコットがトレバーは見えた気がした。

方針が決まった所で通信機がなると堕天からの通信だった。


「大佐、例の山を調査してくれ」

「あー、やはり気になったか?」

「気が付いたか……うむ、我らが本拠地と同じだ。これは大首領も興味があると言っておられる」

「畏まった。鬼神大佐、調査に入る。……ぶっ壊しても怒んないでね」

「ああ、本部も援軍も用意した。覚悟して行くがいい」


意味深な物言いで堕天は通信を切った。


(味方の癖に大層な物言いだこと……)


言い回しに苦笑しながらトレバーは一行に出発を急かす。


「おい、出発するぞ」

「畏まった。少々お待ちを……」


 懐から革袋を取り出すとジョナサン達の装備を一つ一つ収納し始めた。

その動作にトレバーは目を剥いて驚く!


「なんじゃその四次元ポ〇ットは!」

「ポケットではありませんよ。これはフィールドワーク用の収納袋です。荷馬車一台分の容量が有りますよ」


トレバーの驚き様に苦笑しながらペーレオンは説明をした。

物理理論を超越したその袋にトレバーは目を輝かせる。


(これさえありゃ、武器はもちろん密輸し放題だぜ……)


 高火力な魔法や六人衆の様な魔法器よりこういったものの方が組織として使い勝手がいい。

大量の麻薬を運び込んでは敵対組織の資金源である麻薬の価格を下落させる。

爆発物を用意し、ガードの硬い政府中枢部にて設置、起爆させてまとめて暗殺したりできる。

仕事は破壊工作まで多岐にわたる為、こういったツールは垂涎のアイテムだった。


「それは良いな……後でウチの連中に仕組みを教えてやってくれ」

「畏まった。では参りましょう」


ブラウン達の戦利品を収納し終わったペーレオンはゆっくりと立ち上がる。

隣では真新しい装備になったブラウン達が立っていた。


「どや? 世界最高峰の装備一式だでよ?」

「馬子にも衣装とはお前の事だな、ブラウン」


 新調されたブラウンの鎧は動きを妨げる事無い様な工夫が施されている。

脇や腹部は薄く細かく編み込まれた帷子と折り重なった装甲で守られていた。

全体的に青みが掛かった銀色に輝くのは強固な魔法障壁が成せる光沢を放つ。

中身はどうであれ、外見はまごう事なき正統な伝説の騎士である。


 かたやジョナサンは装備と呼ぶに似つかわしくない風体であった。

最上級防御魔法が印綬された真っ黒な革のコートに赤い薄いシャツを粋に着こなす。

革パンツはかなり上質で動きやすく防御力も高い。

ブーツも短時間なら浮遊の魔法も使えるらしい。

漆黒の衣装を身にまとい、細身の腰に差す大太刀は大典太……。

奇妙な出で立ちの戦士が立っていた。


 元々、決闘者系職業デュエリストの最高峰ゴッドオブアリーナの装備に制限はない。

身一つ、拳のみで戦う者。

鋼鉄の重装甲に身を固めて戦鎚を振るう猛者。

どちらも正しく、どちらも間違っている。

一対一の闘いにおいて極めた技と力で闘い抜いた者が正しいのだ。

究極の決闘者、闘技場の神となった日からジョナサンへの職業モラル、マナー等の制約はなくなった。


 それなのに革鎧や鋼鉄の胸鎧を身に着けていた。

抵抗軍の司令から懇願されたものあるが、大物食い狙いと一対多による戦闘を戦い抜くためだ。

如何にジョナサンでも大物や多人数との戦闘では必ずダメージを受ける。

それが積み重なったり、致命打になれば敗死が待つ。

ダークロードになる迄、死ぬわけには……負けるわけには行かないのだ。

愛刀も失いつつたどり着いた魔人達の武器庫にてこの装備を見た時、確信を得た。

これならばより高みへ行けると!

そしていまペーレオンから鑑定結果を聞き、大当たりだった事に歓喜した。


「なんかなー、ギタール持たせてステージに立たせたい」

「うるせぇ、俺は闘士だぞ? そんなところに立つか!」


 ジョナサンの姿を見たトレバーはギタリストスタイルの様な姿を弄る。

それを真面目にジョナサンは切り返す。


「まぁ、ええて、早速行こみゃぁ、そいで作戦は有るんか?」

「ない。出くわした敵を適当に始末して入口を探す。アガトにテュケ、索敵と侵入口探しは任せたぞ」

「はーい」


索敵任務をアガト達に一任するとペーレオンが異論を唱えた。


「大佐、いっそ陽動で集落を落とし、後顧の憂いを断って山に向かっては?」

「それも考えたが、集落やってる最中に山を固められたら面倒だ。それにペーレオン、幾らお前さんでも高威力の魔法を沢山は撃てないだろう? お前さんの魔法が切り札だ。温存して置け」


 無効化した自分の戦闘力はニールセンで代用できる。

しかし、強大な魔法が撃てるペーレオンを集落殲滅で魔力浪費は勿体ない。

少なくともアムシャスと対峙した時に勝てる要素、撤退時の牽制は必要なのだ。


 トレバーの戦術に納得したペーレオンは透明化すると先に下に降りる。

周囲に敵がいないのを視認し、トレバー達を下ろす。


「さて、敵は?」

「向こうの林に居るよ。あっちならいないよ」


肩に座るアガトが指さす方へトレバー達が移動する。

次々と竜人族を避けて進んで行く。

森を抜けると歩き固められた道に出る。

道の表面を観察しながらトレバーは呟く。


「竜人達が通った道か……」

「この道に並行して進めばええがね」

「え? ああ、そうだな……」

「なんだて? おみゃー? ワシがふざけた事言っとるって?」


 まともなことを言い出したブラウンにトレバーは少し驚く。

それに気が付いたブラウンは逆の意味にとり始めた。


「違うって、いいアイデアだと思ったんだよ。なぁ? ジョー」

「まぁな……」

「ほらって……テュケ?」


その場を収めようとジョナサンに振った時、何かに気が付いたテュケが空へ指を差す。


「にいちゃん! 隠れて! これ……ドラゴンだよ!」

「「何ッ!」」


一斉に道脇の草叢に飛び込み、様子を窺う。

緑色の体躯に長い首、爬虫類の様な顔に似つかわしくない勇壮な巨大な角に鋭く並ぶ牙が鈍く光る。

身の丈の三倍以上もある翼を広げ、上空を滑空し、今日の獲物を探す。


「ペーレオン、竜と戦ったことは?」


どこに居るか分からないが近くにいると思い呼びかけた。


「いえ、ありません。ただ研修として従軍した際、魔王とヴァンダル将軍がスノードラゴン狩りしていたのを見た事があります」

「お? そこか……魔王も鬼おじさんヴァンダルも豪快な暇つぶしをするもんだな」


背後から声が聞こえて思わずトレバーは苦笑し、呟く。


「わざわざ危険な生物であるドラゴンを狩るなんて蛮勇、魔王とその盟友と幕僚しかできませんよ。もっとも幕僚に至ってはしぶしぶでしょうがね」


ペーレオンは呆れながら答えるが、終生のライバルであるドレド局長の手腕を思い出す。


局長なら鼻歌交じりで数匹を解体し、呪術やアイテム製作のレア素材を回収するだろう。それも要らない部分は部下に払い下げ……あのバケモノ……いつか完全に負かしてやる!)


 見えないなりに掌の金属球を握りしめ、魔力を充填させた。

こういった革新的アイテムをペーレオンが開発しても、翌日には完全上位互換品を正規品としてラゴウへ献上する。

驚異の天才ドレドはペーレオンにとって超えるべき壁であった。

こうして見聞を広め、戦闘で応用、発想を鍛えて研究室にいる天才を凌駕する。

その一念で魔王軍を辞めてまでジャクルトゥに移籍したのだ。


 多忙でより濃くなった顎鬚を掻きながらトレバーはドラゴンを見つめた。


「ほんじゃまぁ、ブラウンの二つ名増やすかな……」

「ごめん、マジで勘弁して……」


 最近、戦慣れして来たブラウンが久しぶりに全力で拒否した。

この世界の住人たちにとって畏怖と強さの象徴に挑むのは余程の馬鹿か伝説の勇者しかいない。


「まぁ、スキュラは死なないけどドラゴンは死ぬから大丈夫だろ?」


後ろでジョナサンがあくびをしながら肩を回す。

賛同二人で開戦待った無しの所にペーレオンがたしなめた。


「お待ちを、なるべく内密に潜入して山を探索するのでは?」

「あー、そうだな、大暴れしてドラゴンのデータ採取して調査はしてねぇと爺様怒るから真面目にやるか」


 諫言を受け入れたトレバーは諦めて道に並行して進みだす。

その背後でブラウンは密かに安堵の息をした。

この後に彼はジョナサンと共に伝説になる事をまだ知らなかった。







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