来訪者?
六人衆を装着したトレバーは微妙な姿の自分を見たくなかった。
出来れば
その周囲でジョナサンとブラウンが物欲しそうにクルクル回る。
「おー、ナックルガードにブレードストッパーかて!……かっちょええなぁ」
「この兜、ブレスもできる女性秘書? ……羨ましい」
どうやら六人衆を見て羨んでいるらしい。
腕もさることながら武具の良さが戦場の生存率を高める事を知るが故にだ。
二人の態度に徐々にイラついて来たトレバーは仏頂面で命じた。
「テュケ、アガト」
「はぁい、見様見真似のだぼぅふれいむとるねいどっ!」
「直伝! うぉりあーきっくっ!」
ジョナサンはテュケに往復ビンタされ、ブラウンは股間を下から蹴り上げられる。
「「おぅっ!?」」
「お前らたるみ過ぎだ。アムシャスの本拠でウラヤマーしてんじゃねぇよ。俺らこれから一戦かましにいくんだからよう」
「トっ、トレバー?……ジョー……ま、任せた」
痛恨の一撃を貰ったブラウンは二の句が継げず。
悶えるような痛みに脂汗を垂らして倒れる。
「いやさ、戦うのは良いが……最強生物相手に勝算はあるのか?」
「ねぇよ。やってみてから策考えるのさ」
「はい? 大佐?」
悶えるブラウンの代わりに質問したジョナサンにトレバーはあっさりと答えた。
だが、六人衆は違った。
答えに動揺し始める。
「えーと、
めんどくせぇと思いつつ、各自に指示を出し、会議をやり始めた。
「俺らの仲間や知り合いでアムシャスの現在の正確な情報持ってる奴はいないはずだ。だろぅ?」
「ええ、居ません。だからと言って……」
「俺は必ず勝ちてぇんだよ。本当は負けるのは嫌だ。だが、死ななきゃ次は有る!」
「大佐、俺は乗るぜ」
トレバーの説明にブラウンの手に収まっていたスコットがやる気を見せる。
賛同を得たトレバーはメリッサ達を説得に入る。
「ああ、俺らがどの程度、奴に打撃を与えられるか? 奴の攻撃方法は? 全く分からんと来た」
「ですが!」
「彼を知り、己を知れば百戦
伊橋にキット、それに今回の黒幕、倒すべき敵は居るし、今後も増えるだろう。
アムシャス程度で終われるはずはないのだ。
「面白れぇ、最後までお供するぜ、大佐」
「はっ? スコット!」
「俺もだ大佐」
テンションの上がるスコットをメリッサが嗜める。
それに触発されたか無口なウコが口を開いた。
「良いねぇ、お前ら、初手で勝てりゃいいが、そうも簡単じゃねぇ。とりあえずペーレオンに合流しよう」
「ペー?」
トレバーから聞いた事のない名前を聞いてブラウンが怪訝な顔をする。
それを見てざっくりとトレバーは説明した。
「落語家じゃねぇぞ? ペーレオンだ。魔王軍から投降して来た魔法使いだ」
「なにっ!?」
即座にジョナサンが反応した。
勿論、戦闘的にだ。
そう来たかと苦笑しながらトレバーは再び説得に入る。
「うちのジジイとボスが承認したそうだ。俺らには魔法の対策は不可欠だからな」
「だからと言って……」
「あー、典型的マッドサイエンティスト。……分かりやすく言うと勉強大好き野郎だから
「むぅ」
何も言えなくなったジョナサンを見てトレバーはヤレヤレとため息をつく。
実際、スパイ衛星により情報の検証はされていた。
近日中にウルトゥルやガマッセルから反抗作戦が開始されるのは確認済みだ。
船団が出来上がった頃に巡航ミサイルで藻屑にすると堕天から立案される。
そして魔王軍が疲弊したところでウルトゥルから進攻する予定となった。
その頃までにトレバーは
大首領の特命でここへ遠征に来たのでキルケー達に任せっきりで不安が募る。
新兵は兎も角、武器は自分でキチンと確かめないと気が済まないのだ。
とっとと調査と龍帝を始末して戻らなければならない。
六人衆を展開し、偵察させながらペーレオンを呼び出す。
「何ですかな? 大佐」
「こちらは合流した。そちらは?」
「興味深い生態ですな。しばらく逗留したいぐらいで……それとアムシャスの居場所も判明しました」
「ほう、そりゃいいな、監獄の樹の上で落ち合おう」
「畏まった」
六人衆を駆使し、合流地点まで竜人たちに見つからずに到着した。
監獄の屋根に乗ると作動させ上へと釣り上げる。
檻に入って見つかったらそのまま拘束されるが、そこまで間抜けではない。
止まった所で蔦を登り、道路の様な太い枝で休息をとる。
「お待たせした」
下から声がしたかと思うと宙に浮いたペーレオンが姿を現す。
その瞬間、ジョナサンが殺気と共に柄に手を伸ばす。
動きに気が付いたトレバーは間に立ち、諫めた。
「おい、ジョーよせって……お疲れ、ペーレオン。バティル城付き騎士、みゃーみゃーおじさんことヤママルハ卿、んで隣で殺気立ってるのはウルトゥル抵抗軍所属、ジョナサン・レス・ポール師だ」
「おお、貴方が不死身のレス・ポールかっ!? 魔王軍で
猫さんミトンを手にはめるとペーレオンは興奮気味に握手を求めた。
殺気立っていたジョナサンは猫さんミトンに拍子抜けしながら握手をする。
するとブラウンとアガト達が文句を言い始めた。
「だっ・れっ・がっ・みゃーみゃーおじさんだて! 普通に紹介せんか!」
「にいちゃぁん! ごはんまだぁ!?」
「おう、みゃーみゃーは置いといて、ほい、
「うわぁぃ!」
背中のザックからペットボトルの水と煉瓦大の戦闘糧食を出す。
質素なエネルギーバーだが完全栄養食になっていた。
全員に配るとトレバーは竜人族の状況をペーレオンに尋ねる。
「それで状況は?」
「先程のクロードを筆頭に竜人族数千が我らを捜索している。だが、見つからない事にイラついて範囲を悪戯に広げ出している。おかげで集落には老成体と幼生体程度で突破は容易い」
密林をペーレオンは指差すとその隙間に捜索隊が密林を右往左往しているのが分かる。
よもや最初の地点で全員休んでいるとはクロードたちは全く気が付いていないだろう。
後でクロードは始末するとして本命をトレバーは尋ねた。
「そのまま広げてもらうのは楽で良いな。それで目標は?」
「ピラミッドに居るそうですが……ん? コホン、流石に警備が厳重で参りました」
「はぁ? おみゃーさん透明になれるのに?」
初めて食べるレーションの味に困惑しながらもペーレオンは報告する。
そこでブラウンが不思議そうに尋ねた。
「良い質問ですね。匂いだけは何ともしがたいのですよ。周囲にダイアーウルフやデス・コヨーテの巡回があり、おまけのワイバーンの巣まで作られたら流石に
「なるほどって……面倒なのが一杯おるがね!」
どこぞの解説者の様にペーレオンは説明した。
無音でなければ派手に一蹴してお邪魔しただろう。
一方、ブラウンは冷や汗を垂らす。
タイマンで初めて何とか出来る力量の差なのだ。
「まぁ、ダイアーウルフやコヨーテ一群屠ったらマスター認定、
「おみゃー、ワシを殺す気かて、戦力として期待しちゃかんわ」
苦笑しながらブラウンは指摘する。
だが、ペーレオンは違っていた。
「いやいや、卿らに前衛に張って貰えれば私が一掃出来る。もちろんその逆も然り………」
「まとめて一掃するのは勘弁な」
腕を組んだジョナサンが無表情で吐き捨てた。
するとペーレオンは一瞬、考えて答えた。
「幾ら私でも敵地で人類側最強級の貴方を雑魚ついでに葬る事など出来ませんよ。やるなら大規模戦闘で最大級の魔法を使ってやりますね」
猛るジョナサンを評価しながらもペーレオンはその感情を一蹴した。
それを聞いてジョナサンもフッと笑う。
「上等だ。少しでも外してみろ罵声と共に斬捨ててやるぜ。まぁ、後衛は任せたぞ」
(素直じゃねぇな……このおじさん共は)
水を飲みながらトレバーは内心呟き、最大の懸念材料をペーレオンに尋ねた。
「なぁ、ペーレオン。あのクロードの交錯なんだが……」
「あれですか……大佐もあの竜人も悪ふざけでないのは分かってます。何らかの因子、要因があるのですが……申し訳ない、私の知る限りでは分かりませんな。六人衆の方々は何かありませんか?」
「んー、似たような現象を昔に見たような気がするんだけど……」
返答に困ったペーレオンに話を振られ、メリッサがかつての記憶を思い出そうとする。
メリッサの言葉にスコットがある事を思い出した。
「昔ねぇ……そうだ! 最初の内乱で首謀者を殴ったら、両方とも電撃で撃たれたように弾かれた事が……」
「あれは派手に弾かれたが今回のは風船みたいにふわりとしていた気がする」
昔の事を思い出したスコットの指摘に対し、今回の現象も至近距離で見ていた戦友である
「反応が異なるだけで意味合いは同じ事だ。派手か優しいかでは無いよ」
参謀担当でもあるニールセンが指摘した。
調子にスコットは熱を帯びだして発言する。
「てことは、同じ世界から来たって事か? おかしいじゃないか、追加で
「むぅ!?
困惑の声でニールセンがスコットをおちょくり出すとトレバーはたしなめた。
「おい、漫才やるなら黙ってろ。メリッサ、ジンガに繋がるか? 過去の内乱でそう言った事例があったか調べてもらえ……勿論」
「大佐の事は伏せますよ」
「流石、上出来だ」
メリッサはそつなく対応し、トレバーを感心させた。
だが、こうも思っていた。
(俺の事だとバレバレだろうがな……)
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