ペーレオンと言う男

 火元とみられる現場にトレバー達は無防備に降り立った。

そこにいきなり襲い掛かる亜人竜人を文字通りの上段蹴りで一蹴する。


「んだ? このハチュウ人類は? 俺、ゲッ〇ービームは出せないんだがな」

「大佐、ゲ〇ター? についてはあとで教えてくれ。これは竜人と呼ばれる亜人だ。現物は初めて見るが……魔道士ギルゼンの世界亜人類集の記述と同じだ」


気絶した竜人を摘まみ上げ、ペーレオンは嬉々としてつぶさに観察する。

何やら喚いてこちらに迫る気配竜人たちを感じ取ったトレバーは六人衆をパージした。


「メリッサは此処で情報中継を、他の五人は騎士と戦士、妖精と小鬼を探して守れ!」

(了解、みんな頼むよ!)


一斉に六人衆は展開して動き始めた。


「お優しいのですね。大佐」

「ペーレオン、俺は医者じゃねぇ。戦士だから生きてる限りは助けるが、虫の息なら見捨てるぜ。覚えときな」

「了解だ。私も同じ様に頼む」

「ふっ、頼まんでもしてやるさ」


無駄口を叩く二人の周囲を十重二十重に殺気立った竜人が取り囲む。

その囲みから先程の竜人が現れた。


「ほほぅ? 逃げ出さずに出頭するとは殊勝な心掛けだ」

「その物言い……てめぇか? 俺の助手と仲間連れ去ったトカゲ野郎は?」

「ト、トカゲだと!」

「エリマキトカゲのバケモノと違うのか? お前の名前、ジ〇ースって言わねぇの?」

「私の名はクロード! 偉大なる龍帝の末裔にして従僕、そして戦士だ」


キレながらの自己紹介をトレバーは興味なさげに鼻を小指でほじって聞き流す。


「ほう? 竜人とはアムシャスブンタの眷族か……これは初耳だ。では大佐、私は見聞に入らせて貰う。そこのクロードとやら、我々のガイドをしたまえ」

「舐めるな! 下賤の輩ども! 我らが成敗してくれる!」


天然なのか挑発なのか分からないペーレオンの要求にいともたやすくクロードは激昂する!

クロードは爪を伸ばし、トレバーに襲い掛かった。

クロードに向かい、踏み込んで迎撃の右ストレートをトレバーは放つ!

本来ならストレートがクロードの鳩尾を貫くかトレバーの頭上に爪が振り下ろされるはずだった。

それが大した衝撃もなく緩やかに弾かれ、爪は手櫛のように前髪をく。


「「なっ!?」」


驚いて二人は交差する様に避けて顔を見合わせた。

お互い気迫の入った必殺の一撃だった。

それがじゃれ合うような攻撃に変わりお互いに呆然とする。


「!?……大佐! ここは私に任せて頂きたい! 貴殿は捜索へ行ってほしい!」


何かに気が付いたペーレオンはトレバーに捜索へ行くよう勧めた。

足手纏いにまた成り下がったトレバーは苛立ちながら茂みに向かう。


「ヤバくなったら念話で呼べ、六人衆を助太刀させる」

「ああ、そうさせて頂こう」


懐から二つの鈍く光る金属球を掌に握り、トレバーの背後に立つ。


「では、竜人の方々……我が妙技を味わって頂こうかッ!」


掌の二つの球がクルクルと回転する。

片手で印を結び、ペーレオンが詠唱を始めた。

その動きを察知して竜人たちは即座に飛び掛かった!


「ヴァレンス」


詠唱無しで呪文を唱えると地面から揺らめく炎が三つ吹き上がる。

炎はペーレオンを照らし、焙る様に周りを回る。

さしずめ舞い踊る様に……。


いきなり出て来た炎に少し触れた竜人は一気に火達磨になり周囲を転がり、火を消す。

それを見ながらペーレオンは今頃になって詠唱をし始めた。


「バンバラ ライバ ラパ 我がため君のためかくて上へ、かくて上へ我がある、君がために」


 球が鈴の音の様に鳴り、回転する速度が上がる。

金属球は呪文の際、魔力放出の代替え装置らしい。

先に呪文を封印し、発動後に後追いで詠唱し補填するのだ。


一度、防御魔法が作動すれば、次の魔法は撃てない。

少し離れた場所で竜人たちは一斉にブレスを吐いた!


「善人たちはどこへ消えた。神々はどこにいるのか? 都で生きる英雄は? 増大する敵と戦うために……ボウニー!」


雷撃、火焔、氷雪、石化などペーレオンに様々な色の吐息が迫るがその前に壁が立ち攻撃を阻む。

それを見たクロードは攻撃指示を出す!


「それで打ち止めだ! 全員で掛かれ!」

「偉大な龍帝の末裔たる竜人の知性とはその程度らしいですね。あの魔王の末端にも成れませんよ」


罵倒したペーレオンは消えかかった炎の柱に手をかざし、詠唱を始めた。


「全てはうつろひゆく、何一つ 同じくいられず、誰もがうつろひゆく、一人にて同じくいられず……クロウフォウド」


 詠唱を聞いたクロードは目を剥いて絶句した。

幾ら狭い社会僻地の南の大陸とは言え、魔法を此処まで連射する魔法使いなど聞いた事は無い。

魔法の三連射は流石に常識外れだ。

しかも周囲を取り囲む竜人や樹木が一斉に老化を始めた。

難易度の高い大技である時空魔法を詠唱し成功させたのだ。


「ひけぇ! 魔法の影響外まで撤退だ!」


 慌ててクロードは撤退を指示し、竜人たちは即座に逃げ出した。

時空魔法は範囲魔法の場合、影響下から逃げれば最低限の被害で済む。

但し、影響下に居れば死を通り越して骨も残らないだろうが……。


 竜人たちは慌てて撤退を始めた。

それ見てペーレオンは表情を出さずに色々な意味で安堵する。

もうじき二番目の魔法が消失する。

連射性は良いが、実は有効時間はかなり短いのだ。

適切な呪文を選択し、効果的に敵にダメージを与えて戦術的効果を引き出す。

ブラフに近い攻撃である。

それゆえになまじ知性が高いと思っている馬鹿には有効である。

今は彼らの生活水準を調査するのに時間が欲しい。

知識欲と研究、ペーレオンの目的はそれに尽きる。


 正直、全てを知り全ての謎を解き明かす事で喜びを覚える性質だ。

このような自分を気に入ってくれ、加入を進言してくれた堕天博士は尊敬出来る存在だ。

彼らは自分の知らない別次元のカラクリや薬剤を知っている。

ペーレオンはそれも知り尽くした後、メインディッシュを頂く。

その堕天が信奉する大首領は何者なのかが知りたいのだ。


 大広間で声だけで的確な命令を下し、姿を見せない。

叡智は組織の根幹をなし、様々な兵器や武器の設計、改造にその手が入っている。

知力の巨神……堕天はそう評価していた。

一度お目にかかり、お話を聞いてみたい。

その為に忠誠を誓い、黙々と実績を積み上げるのだ。


 懐から別の玉を取り出したペーレオンは無造作に地面に叩き付ける。

煙が立ち込めると不可視インビジブルの呪文を唱え、姿を消す。

あまり交戦時間が長いと魔力が尽きてしまう。

ここは一度消えて、ゲリラ戦法で混乱を継続させる手に出た。

上手くいけば、アムシャスブンタの情報も採取できるだろうと踏んだのだ。


「消えた? 探せ! 遠くには行っていないはずだ! 物音と気配で察知しろ」


怒りで顔を赤くして命令を下すクロードの頭上でペーレオンは居た。

透明化を施し、浮遊してその様子に笑みを浮かべる。

小躍りする様に集落の方へ歩いて行った。


 その頃、後方の騒ぎを聞いたブラウンが立ち止まった。


「後ろが騒がしい……? トレバーが来たんだて!」

「そんなにバカッやで来るわきゃねぇ! 馬鹿言ってねェで走れよ! 俺たちゃ北も南も判んねぇと来てるのに……」


 立ち止まったブラウンにジョナサンが怒鳴って愚痴を零す。

ガマッセルの密林なんかより遥かに密なジャングルでは方向感覚も狂っていた。

ただ真っすぐに走るだけで追いつかれたら終わりだ。

必死で走るその横をスィーと荷物を持ったアガト達が走って行く。


「お? アガト坊! テュケ坊! 無事だったか!」

「おじちゃん達も中々逃げ足早いね」

「おう! 罠だらけの迷宮でゾンビに追われるよりマシだて!」


 つい最近のピンチより楽勝らしく、ブラウンが余裕の軽口を叩く。

必死に逃走する一行の目の前に小川が見えて来た。


「うおっ?! 川!?」

「おい、川に沿って走るぞ!」


川の周囲はぬかるんではいるが草木は少ない。

それに下って行けばより大きな川か湖、そして海に出る。

出口が見えて来た所に追手も来た。


 「抜け! 速攻で倒すぞ!」


 抜刀して抜き打ちしながらジョナサンはブラウンに叫ぶ。

典太の軽さとそれに似合わない切れ味は怖くなるほどの快感を伝える。

それを理解し、取り込んで戒めとする。

を超えるべく、ジョナサンは歩き出した。


「はよ言やぁ! わや駄目になってまうがね!」


 指示を聞いたブラウンは襲い掛かる爪を避けて、剣の柄でドンと腹を殴る。

魔人達の武器庫で新調した魔法の盾で怯んだ竜人を殴り倒し、剣でトドメを差す。

あのヘタレが堂々と渡り合っている。

称号スキュラ退治に対し、徐々に実力が追いつきつつあった。


「猪口才な奴め、逃げるぞ」


成長を見て取ったジョナサンは憮然と呟き、走り出した。

ムカついたのではなく、叱咤の代わりだった。

ここで褒めたらこいつはそこで成長が止まる。

より高みへ昇って欲しい。

それが変な所で不器用なこの戦士のやり方であった。


「ジョー! 危ない!」


走り出したその前にいきなり竜人が飛び出しブレスを吐き出す!


(チッ! もろに消し炭か!)


覚悟して後方に仰け反る。

少しでも火焔の被害を減らすためだ。

尻餅をついたジョナサンの視界をオレンジ色の火焔が埋め尽くす!


「くっ!……ん? なんだ?!」


 全身を包む高温に耐え……るはずだったジョナサンの前に何処からともなく盾が現れた。

悠々と竜人が必死に吐く火焔を弾く。

長く火焔を吐き終え、喘ぐ竜人の頭上に剣がサクっと無造作に突き刺さる。

いきなり飛んできた武器群にジョナサンやブラウンは戦闘態勢を整える。

どう考えても勝手に武器が飛んでくるのはおかしいとの判断だ。

そこに竜人の追跡隊が追いついて来た。


「人間どもをぶち殺せ!」

「メリーッサ! 全員オールレンジ攻撃!」

(了解ですが……大佐、その意味不明な技名止めてください。混乱します)


 そこに六人衆を伴ったトレバーが乱入して来た!

たちまちのうちに追跡隊を蹂躙し始める。

メリッサの苦情を憮然として聞き流したトレバーはジョナサン達に手を上げる。


「「兄ちゃん!」」

「おう、生きてたか、遅くなって済まんのー」

「お、お前、質の悪い冗談見たいな速さで助けに来たな……」

「そらみぃ! ワシの言った通りだがや!」


悲鳴を上げて竜人たちが駆逐される中、アガト達はひっしとトレバーに抱き着く。


「おい、こいつらが……?」

「コイツら言わない。彼らが六人衆の皆さんだ。ガマッセルで魔王をチビらせた実力の持ち主たちだ」

「マジか……そいつはイカスぜ……ん? ガマッセル?」

「先約で処刑されそうなが居たのでな、実力査定がてら救出して、やり合って来た」

「マジかて……ここに居ても……どっちも……嫌だ」


 魔王と対峙タイマンか龍帝の捕囚か……。

真剣にブラウンは悩みだした。


「アホやってんじゃねぇ、その龍帝にヤキ入れに来たんだよ……そこでブラウンほっぺ貸せ」


言うが早いかブラウンの頬を摘まみ、抓る。


「いただだだっ! 何するんだで!?」


頬を押さえたブラウンが抗議の声を上げるが、トレバーは小首をかしげた。


「おかしいな、こうして攻撃できるのに……」


 先程のクロードとの交戦の現象が解明されない限り、勝ち目がない。

トレバーは改造されて以来無かった負ける事への恐怖を思いだしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る