覇凰との対話

 勢い良く飛翔する覇凰から振り落とされまいと全員必死にしがみ付く。


「ひぃぃぃぃぃぃっ! しぬぅぅぅぅぅぅ!」


中村に至っては致死的なレベルの冷気と空気抵抗の中でウォリアーに張り付いていた。

またウォリアーのスーツも申し訳程度の防護性能ゆえかなりキツい。

中村を掴んでいるのは良いが各部関節のモーターが凍結したりして不具合が出やすい。

だが、中村が張り付いている部分にリアクターがあってお陰で無事だった。

それを何とか稼働させる事でお互いの生存性を維持していた。

一方で鬼神とキルケー、タイソンとゲンナジーも同じ状況でしがみ付く。

こちらは防護性能が高い分だけ楽であった。


 雲を抜けて抵抗が緩む。

翼を広げた覇凰はブレーキを掛けながら着陸態勢に入る。

標高の高い岩だらけの山頂へ着陸した。


「着いたらしい。降りるぞ」


全員の無事を確認し、鬼神は音を立てずにキルケーと共に岩場に降りる。

その風景に鬼神はギョッとして周囲を見渡す。

見た事のある風景、バール―連山のジャクルトゥ本部に近い山頂の湖であった。


「さみぃなぁ、おいぃ!」


上半身裸のゲンナジーが鼻水を垂らして文句を言うとタイソンが背中を向ける。


「リアクターで加熱させますからあったまってください」


リアクターで全身を加熱させ、ゲンナジーと中村が必死にしがみ付く。


「あったけぇ……」


タイソンにしがみ付いて中村がしみじみ呟く。

呆れながら鬼神はウコに応急治療を指示する。

凍傷気味になっていたからだ。

鬼神達の頭脳に何者かが語り掛ける。


(ナツカシイニオイガスル……キサマラニナニモノダ)


「ん?!」

「えっ?!」


 鬼神はキルケーと顔を見合わせ、視線を感じた方へ顔を向けた。

そこには覇凰がジッと鬼神達を見つめていた。


(ウシロノオトコモニオイガスルガウスイ。オマエタチフタリハコイ。ナゼダ)


" さて、なんの匂いか分からないが、俺たち二人? "


(ソウダ、キカセヨ。ソノニオイハナンダ? ワレヲイザナウ、ヨビヅヅケル)


鬼神も覇凰も互いに困惑していた。

そこでキルケーが尋ねる。


" 貴方はどこから来たの? 目的は何? "


(ソレモワカラヌ……タダ、ナニカヲウシナイ、サガシテイル)


" 俺らは元の世界とここに送った奴を探しにアムシャスの所に行くわけだが……お前さんどうするね? "


(ソイツニアエバワカルノカ?)


" 確証はない。だが、仲間を連れて行かれた。助け出さないとな "


(ソレニワレハカンケイガナイ!)


" 確かにな……そうだ! トリネコの迷宮のジンガに会え! 奴なら何かヒントをくれるかも "


(ドコダソコハ?)


" ウルトゥル大陸の砂漠の真ん中にある大きな木の根元だ。 ついでにお前さんが行くと伝えておく "


(フム、カンシャスル)


" こちらこそ助かったよ "


(ウシロノオトコニモツタエテクレ、スケダチカンシャスルト)


" 分かった "


会話が終わり、覇凰は頷くように首を縦に振る。

そして位置を変え翼を広げて飛び去って行った。


「メリッサ、ジンガに念話飛ばしてくれ。空の覇王に紹介したからよろしくってな」

「了解」


 即座にメリッサに依頼してジンガへメッセージを送った。

その間に本部に連絡する。


「本部? 俺だ。上の水源地に厚手のコート四着と迎えを寄越してくれ。くれぐれもクリムゾンは出すなよ!」

「なに?! 俺は行かねぇぞっ!」


本部に拉致られると思い、ウォリアーは抵抗する。

それは織り込み済みで、きちんと理由も付けた。


「お前は兎も角、中村と助っ人の兄さんゲンナジーは凍死しかねん。これは応急的措置だ。お前は此処で立ってなさい」

「なにぃ?!」

「二歳児並みのイヤイヤモードされてもみんな困るんだよ! さっさと乗れ!」


そこに兵員輸送ヘリが飛来し、着地する。


「大佐ぁ! お待たせしやした!」

「おう、大公とこの副長か! 手間かけてすまんな」


ヘリのスライドドアが開き、ブランケットを持った戦闘員達が鬼神とタイソン以外を保護する。

但し、怨敵ウォリアーにはブランケットを叩き付けるように投げつけた。

全員ヘリに乗り、早急に本部に運び込まれた。


 到着すると鬼神は治療室に運ばれる一行と別れて変身を解く。

部下から水のボトルを貰うと一気飲みしてトレバーはようやく一息つく。

少し気合を入れて大首領に報告に向かう。

トレバーが入った広間には堕天が座って待っていた。


「お帰り大佐、新兵の初陣はどうだった?」

「準備不足と不適切な戦場過ぎだぜ? アレでは全員犬死にだ」


 いきなり大規模戦闘へタイソン新兵達を行かせた堕天に苦言をぶつける。

小競り合い程度の戦闘でも戦死者は出ただろう。

しかし、生き残りは経験や自分の特性を活かした実戦的な戦闘法が身につく。

出撃は研究室内でのスペックだけで判断したと看破したのだ。


「そういうな、コレでも反省している」

「どうだかな……また作れば良いと思っているからしょっぱい駄作しかできないんだぜ?」


全く反省の色が見えない堕天に対し、現場の戦力を浪費されてムカつくトレバーが嫌みを言う。

口論がエスカレートする前に大首領が止めに入る。


「大佐、説教はそこまでにしておけ、それと紹介する人物がいる。……入りたまえ」


 控えの間の扉が開き、緑のローブ姿が現れた。

頭を下げ、ゆっくりと堕天の横に来たのはあの魔法使いペーレオンであった。


「おいジージ、俺に魔法使いを紹介して頂けるのかい?」

「初めまして、私は先程採用になったペーレオンを申します。貴方のお噂は魔王軍でも評判でしたよ」


服装に似合わない可愛らしい猫のマークのミトン付けた手を差し出す。


「出撃したお前と入れ違いで訪問して来た。話を聞いて大首領から採用の了承を得た。ちなみに直に触れると体力吸われるぞ」

「それでミトンか……まぁ、いいや、鬼神大佐だ。宜しくペーレオン」

「宜しく、大佐……周りにいる魔人の方々は六人衆の皆様か?」

「ああ、今から待望の龍退治だ……救助を待ってるのが野郎ばかりなのが残念だけどな」


ヤレヤレと言わんばかりにトレバーがボヤくとペーレオンが蒼色の目を輝かせる。


「大首領! 大佐! 早速お願いがある! アムシャスに会うのならぜひ同行させてほしい!」

「はぁ? カチコミに行くんだぜ? 物見遊山と違うんだぞ?!」


ペーレオンの懇願にトレバーは驚くが大首領と堕天は違った。


「うむ、行って来るがいい」

「道中、大佐の援護を頼むぞ」

「はっ! ありがとうございます。必ずや貢献して見せましょうぞ」


深々と感謝をするペーレオンにトレバーは苦笑をした。


「とにかく早速動くぜ、一時間後に出発だ」

「畏まった」


威風堂々とペーレオンが歩く姿にトレバーはどちらが幹部か分かんなぇなと内心ボヤく。


 ペーレオンを先に行かせてトレバーは開発課に行き、新型スーツを受け取りに行く。

開発課のドアに入ると怪我から復帰した川崎舞が部屋に居た。


「おう! ケガは大丈夫か?」

「お陰様で生きてますよ。……アレが本物の殺し合いなんですね。助かってよかった」


道場で常々言われて来た本当の命のやり取りを知った。

舞は辛うじて生きながられた事に心底感謝した。


「まぁな、向こうも精鋭だったらしいな、よくやったぜ。……キルケーも褒めるぜ」


笑って褒めると舞は苦笑する。


「キルケーさんもトレバーさんがよくやったって褒めてくれるって言ってました」

「そりゃ、それだけいい仕事したって事だよ」

「そうなのかな……なんか自信もなくなって、怖くなっちゃって」


 大概の相手はやっつけられると自負していた舞が徹底的に死の手前まで追い詰められる。

それだけ相手ネネとの力量は離れていた。

しかし、再び相まみえる可能性もなくはない。

その時、自分は戦えるのか?

あれ以来、何度も自問していた。


「そうだ。舞、新型の説明してくれ」

「えっ? はい、先ほど六人衆さん達のデータを合わせてよりフィットした形になってます」


 先程の形状のデータを取り、スーツにより適合させたのだ。

動きを阻害しないように六人衆には形状を変えてもらう。

そうする事で動きやスピードに対応できるようにした。

また、リアクターや防御性能をアップデートしてある。


「武器は無いよな?」

「ああ、両リストにワイヤーが付いてます。片手で総重量二トン程度は余裕で引っ張れますし、アースやワイヤーソーにも変わります」

「ああ、その程度でいい。伊橋みたいにレーザーブレードは要らない」


溜息交じりでトレバーは呟く。

つけたくても籠手が着くので邪魔になるからだ。

そこに舞が何かに気が付いた。


「あ、その伊橋さんですけど、着ていたスーツの管制ソフトの出来が良くて山川君たちが解析しているらしいですよ」

「ほう? ウイルス無いの?」

「ウィルス汚染の可能性も含めて調査中だそうです。汎用性や反応良くて私達でも使えるみたいです」

「ほー、それはいいな」


 メソッドが作った火力全振りスーツは防御力が既製品の服並みの脆さである。

元々スーツは改造人間の能力を引き出すために有る。

しかし、超人的な出力や能力の為に通常の素材や構造では耐久性が無い。

それを素材やナノテクの衝撃吸収材、ダメージコントロールプログラムで防護していた。

今回、防護を捨てたメソッドは最低限のセーフティ安全装置のみを入れている。

防御力の代わりにリアクターや関節に抜群の安定性と繊細さを出せる補正プログラムが組んであった。

それにより、瞬発力や反応速度、可動性が上がりブレード等の増設が自由になる。

但し、超高熱を発するウォリアーキックは自爆攻撃と同じだった。


 その尖り過ぎた補正プログラムを解析して従来のモノに組み込む。

強化服の完全な基礎管制システムとして開発するのが山川の狙いであった。

例えばアガト達の強化服は試作品の一つだった。

コンパクトサイズで耐火、潜水、衝撃には強いが筋力強化は付けていない。

強化を付けると制御できずに事故身体の強制捩じりが発生するのだ。

それがメソッド版には解消されているのだ。


「じゃ早いとこ開発してくれ。戻って来たら使わせて貰うぜ」

「分かりました。その時は稽古に付き合ってくださいね」

「おお、了解した。……そうだ。ついでにタイソンの指導も頼む」

「ゴティア君ですね。了解です。キルケー教官とビシビシ鍛えますよ」

「ひーっ、次会うときにはアイツ生きているかねぇ」


 二人の美女教官にフルボッコで鍛え上げられるタイソンを笑顔で憐れむ。

そこに通信が入り、輸送機の準備が整ったと連絡が入る。


「じゃ、龍退治に言ってくるぜ」


鼻歌交じりでトレバーはスーツを片手に出て行った。

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