意外な救い
闘技場に降り立ったトレバーに向かい、鬼兵達が襲い掛かる。
余裕の笑みでトレバーは周囲の状況を一瞥した。
「ニールセン」
一言、名前を呼んで右手を横にかざす。
掌にシュルリと
そのまま剣を握り、横に軽く振った。
剣風は斬撃になり迫る鬼兵を薙ぎ払う。
その攻撃を貴賓席のラゴウ達やキルケーが目を剥いて驚く。
ただ、まだ攻撃は終わって居なかった。
「スコット、ニールセン、メリッサにウコ。あそこで取り囲まれた間抜け達と単騎で必死こいてる大幹部様を援護しろ。マッカラン、カリームは変身するから強化を頼む」
指示と共に六人衆は一斉にトレバーから一斉にパージし、目標たちへ飛来した。
スコットたちは一斉にウォリアー達の包囲を破壊し、キルケーの周囲で護衛に入る。
「チェンジウォリアー」
ボソリと呟いたトレバーは瞬時に鬼神となる。
スーツやブーツが追加装備、装甲となり装着された。
包囲が破れた空間から一部始終を見たウォリアーが拳を握り締めた。
また大幅強化してきたライバルに怒りの炎が燃え滾る。
「あれが噂の鬼神って奴かぁ……倒すのに骨が折れそうだぁ」
驚きと好奇の目でゲンナジーが呟く。
その拳が鬼神の強さを感じ取り、
隣でタイソンは鬼神を呆然として見ていた。
そこで通信越しに一喝される。
「おいタイソン! 死にてぇのか?! 新兵らしくしゃんとしろ!」
「はいっ! 大佐っ!」
通信で鬼神から一喝され、タイソンは気合いが入る。
必死で戦うタイソンを遠目で見てクスリと笑いながら鬼神は貴賓席へ歩き出す。
「相変らず舐め腐りやがって……アレは私が貰うよ」
再びラゴウは
「輝くべき大気の精霊王に聞こゆ。大地の竜脈へ血の盟約をもとにかの力与へたまへ! 爆豪雷」
ウルトゥルに上陸したときに撃って来たあの最大級の落雷が鬼神に落ちて来た。
周囲を白い闇と轟音が染め上げる。
あの時は回避しながら攻撃を当てるのが精一杯だった鬼神は真っすぐ歩き続けていた。
「ノインちゃーん? まっさか好きな男の前で
「なんだと?!」
平然とおちょくる鬼神にノインは驚く。
爆豪雷の直撃を喰らって生きている生物はそういない……はずであった。
驚愕の表情を見た鬼神は地面を蹴り、貴賓室へ疾走し始めた。
この機会で魔王の首を獲るためだ。
だがしかし、もう一人の盟友はそれを許さなかった。
「ムン!」
貴賓席から強大な気を纏ったヴァンダルが飛び降りて来た。
嬉々として腰から大剣を軽々と抜く!
自慢の大剣をヴァンダルが上段から豪快に振り下ろし、垂直の斬撃を飛ばした。
「うおっと!? ワーズの野郎より手強そうだな……俺は鬼神大佐、アンタは?」
「ガマッセル領主、鬼兵団団長、ヴァンダルと申す。得物をよべ! やり合おうぞ」
自己紹介しあうと嬉々として対峙した。
援護に回っていたスコットたちを呼び、強化パーツとして装着する。
「おまたせぃ、それじゃ、お礼で先手譲ってやんよ。全力で来い」
「ぬかしよる。後悔するなよ!」
頭上で大剣をヴァンダルが軽々と回す。
そのまま上段から全身の膂力を載せて振り下ろす。
ドンと言う鈍く響く衝突音と共に
「おぉ、こうでなくてはなぁ……」
うんうんと何度も頷きヴァンダルはそのまま押し込む。
盾がズレると同時に中段から薙ぐようにヴァンダルに襲い掛かる。
手首を返し、ヴァンダルは剣を難なく受け止めた。
だが、その剣で徐々に圧し潰そうと鬼神が力を入れる。
それをヴァンダルは二の腕を軽くバルクさせると強引に弾き飛ばす。
「中々の剛腕だが技は……。拳が流儀だったな?」
少し残念そうに呟いたヴァンダルは大剣を収めた。
おもむろに拳を握り、構える。
「さぁ、掛かって……」
皆まで言わせず、鬼神がその顔面をバグンと殴り飛ばす。
揺らぐ身体を追いかける様にボディ、アッパーを繰り出した。
強烈なコンビネーションを喰らいながらもヴァンダルはカウンターを放つ。
右顔面へのフックをまともに入れられたが一回転して威力を消して立つ。
「中々の馬力だが……剣にしとけよ。残念ながらそれで互角だ」
少しも残念でなさそうに鬼神は抜刀を勧めた。
そのやり取りはいきなり終わりを告げる。
間合いの中央にラゴウが魔王爆砲を撃ち込んだのだ。
「ラゴウ!」
怒りと驚きが混じった形相で盟友を見た。
位置が分かればと鬼神が剣と籠手を強襲させる。
しかし今度は攻撃コンビをノインが迎撃する。
「ヴァンダル! もう時間いっぱい! ここで全部潰すよ!」
邪魔をされてムカつくヴァンダルをノインが宥める。
確かにジャクルトゥの攻撃部隊の中核がほぼそろっていた。
まだ戦力は残っている。
鬼神に戦力を集中させるより、弱っている他を潰した方がはるかに良いのだ。
事実、既に第一陣で来た部隊はキルケーとタイソン以外は全滅していた。
「ちっ、まだ五百ほど残っているか……? ニールセン! スコット! マッカラン!」
鬼神は剣と籠手を呼ぶとブーツを作動させ一気にキルケーの横に着地した。
「ほい、ただいま、さて、抜け作と合流してバックレるぞ?」
「何、余裕かましてんのこのポンコツ! 魔王と幹部が揃い踏みなんだよ? 首が獲れるようにキリキリ働け!」
「嫌、無理だ、ヴァンダルとノインは全員で何とか出来るが、魔王は倒せん。余力と対抗装備がない」
突っ込んで来る鬼に
そのままウォリアー達の援護に向かわせ、剣と盾で中村を救出した。
「いつになく弱気ね? どうしたの?」
何時になく冷静な鬼神にピンと来たキルケーが尋ねた。
「ちょい極秘情報が入ったのとアガト達が拉致られた。この後、救出に行く」
答えた後、いきなりキルケーを抱きかかえ、後ろへステップする。
二人が居た場所に大穴が爆風と共にできあがった。
ラゴウの魔王爆砲の一撃だった。
『下手糞ぉ!! タイソンの槍捌きの方がマシだぜっとぉ!』
ヤジりつつ、砲撃で出て来た石を掴むと全力で投げる。
砲撃を中止して高速で飛んでくる石を難なくパシッと掴む。
手に血がにじむのを見てラゴウは再び砲撃準備に入った。
「マジで? 誰がやったの? 魔王?」
「ちがう、ブラウン風に言うならアムシャスのくそたわけだ」
吐き捨てるように答え、目の前の鬼兵を蹴散らしてウォリアー達に合流した。
「抜け作、また安っぽいスーツ着てんなぁ? メソッドの奴?」
早速、ウォリアーのペラッペラのスーツを弄り出した。
「うるせぇ! お前んところのクズ、習字紙級装甲の全攻撃型寄越しやがったんだよ!」
「あー、アイツ、退職したからね。ウチにはカンケーないねっ!」
プイッと別の方向を見て知らん顔で鬼神は答えた。
その間に周囲で包囲していた鬼兵達を籠手と剣、兜と盾で駆逐する。
当然、ラゴウの砲撃やノインの魔法は適当なタイミングで潰す。
鬼神やウォリアーが石を投げつけては邪魔するのだ。
しかし、その前にヴァンダルが剣を掲げて盾になる。
「すまぬ!」
「まぁ良い。次は聞かぬぞ?」
対決の邪魔した事をラゴウは謝ると溜息混じりでヴァンダルは許した。
「ちっ! 全員バックれるぞ! あれ食らったら全滅だ!」
周囲を察知した鬼神は脱出策を考える。ただ策が無い!
ウォリアータイプに一人ずつ背負って飛ぶとノインの魔法に叩き落される。
闘技場をぶち抜いて行くのは時間と手間が掛かる。
最終手段で大技の三連ウォリアーキックに賭けることにした。
「おい、お前ら! 博打打つ……ん?」
突如巻き起こった突風と頭上の影に振り仰いだ。
そこには一瞥しただけでは分からない巨大な何かが居た。
ただ、ウォリアーと中村、引き気味の視野が持てたラゴウ達は何かわかった。
「これが
ヴァンダルの横でラゴウは観客席に止まる巨大な鳥を凝視する。
ノインも風で乱れる髪を指でかきあげ、視界から避けると呟く。
「海王も迷惑な存在だけど、コイツも中々の大災害ね……」
魔力チャージはそのままで狙いを定める。
その気配を察して覇凰は一喝する様に啼く!
"ギッ!"
その一喝でノインの動きが止まった。
(ヤバッ!? 言霊に強い神霊力がある?)
魔力チャージが止まり、ノインは印を結ぶ。
身の危険を感じて即座に防衛の呪文を展開する。
しかしラゴウは怯まずに魔王爆砲を構えた。
対照的に鬼神達は背中に自分の相棒を背負うと一気に覇凰に向かって飛ぶ!
どさくさに紛れて安全圏まで逃げきるつもりだ。
「おい、中村、マジで大丈夫なんだろな?」
「任せーっ! ウォリアーの助太刀のお礼に来てくれたんだよ!」
「凄いな……この羽根一本売れば一生楽隠居だ……」
鬼神の心配も中村のうさん臭さもタイソンの商人魂に霞んでいた。
ウォリアーは苦笑がてら再度跳躍し背中に到達する。
続いて鬼神にタイソンも背中のゲンナジーを下ろしてその場にへたり込む。
途端に鬼神の一喝が飛ぶ!
「コラァ! そのざまはなんだ!? 次に起こりそうなことに対応せんかッ!」
「はっ!」
瞬間に直立姿勢をとり、その場で振動に耐えるように足を広げた。
「バカヤロウ! 貴様! 抜け作か?! 次、飛ぶかもしれんのだ。羽毛にしがみ付け!」
「はっ!」
慌ててタイソンはその場に伏せて羽毛にしがみ付いた。
「おい、アンタぁ、いくら何でもきつかねぇかぁ?……立ってる抜け作だなんてそんな奴……!」
タイソンに怒る鬼神を窘めようとゲンナジーは同じように立っているウォリアーを見て絶句した。
「ん? なんか変か?」
「馬鹿……こんな奴に苦戦してたなんて……」
困惑するウォリアーを居たたまれない表情でキルケーは嘆く。
その途端、大きく揺れながら覇凰は上昇を始めた。
力強く羽ばたき、巻き起こる烈風は衝撃波と化して闘技場を破壊する。
貴賓席のラゴウは爆砲を放つが、怯みもせずに覇凰は悠々と飛び去って行った。
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