第三の男

 ウォリアースーツの男が呼びかけ、怪人達が後に続く。

緩い雰囲気そのままに最後列の鬼兵達へ襲い掛かった。

先頭で突っ込むスーツの男の両脇に怪人が二人付き、突撃を補佐する。

右側にはカマキリを模した細い身体の怪人が横殴りの棍棒をかわす。

かわした直後に独特のフェイントを交えて手の高周波ブレードで切り裂く。


 左にはサイの様なガタイのいい怪人が斧を受け止めて殴り倒す。

スーツの男は中央で鬼を殴り飛ばしながら奥へと進む。

後続の怪人達も次々に鬼に襲い掛かる。


「ほらほらっ! 右のカエル! もっと機敏に! カブトムシも!」


最後尾にはキルケーが的確に指示しつつ援護攻撃を行う。

観客席は大盛り上がりだが、貴賓席のワーズも我慢の限界に来ていた。

ラゴウの横に片膝をついて嘆願する。


「陛下……お願いが……」

「ヴァンダル」

「行け」

「感謝いたします!」


 ワーズの願いを汲んで主催者のヴァンダルの顔を立てる。

バティル城での続きをしてなんとしても鬼神を仕留めたい!

その一念を知るヴァンダルは許可をして行かせる。

面白くないのはノインだ。

因縁は彼女にもあるのだ。


「ちょっと……お前らなんでアタシに行かせない?」

「切り札は後に決まって居よう? なぁ? ラゴウ」

「おお、そうだな、ノインは最後に出陣すればいい。格が違うからな……」


貴賓席で轟雷を落とされるのは勘弁してほしいらしくヴァンダルが取りなす。

ノインは一瞥してフンと顔を振り、椅子に座って足を組む。


「ああ、ゆずってやんよ。あれは獲物鬼神じゃないから」

「「なに?!」」


ノインの指摘でヴァンダル達は驚く。

実際に対戦しているのはワーズとノインしかいない。

そのため、ウォリアースーツの男は鬼神と思い込んでいたのだ。


「みてな、ワーズがその正体を暴いてくれるよ」


闘技場へ顎をしゃくってノインは笑みを浮かべる。

また強敵が出て来た。

暇潰しには最高の相手だと思っていた。


 闘技場に降りたワーズはその正体に気づかずに鬼兵の列に飛び込む。

愛剣バスターソードを抜き、列に沿ってジャクルトゥの部隊へ向かう。

接近に気が付いたカエルタイプの怪人が伸びる舌でバスターソードを奪おうとする。

鞭のように唸りながら高速で向かって来る舌を横薙ぎで切り払う。

そのままダッシュで接近し、その猪首を刎ねる!


「全員、派手にやんなっ! アタシは若いイケメンと遊んでくよ!」


怪人達に全力戦闘を指示し、キルケーは自分と対峙するワーズに向き合う。

戦闘スタイルと手強さはトレバーバティル城との一戦で知っている。

扇を片手に開き、鞭を持ち威嚇した。


 既には無駄だと証明したワーズは怯まずに突っ込む。

鞭を切り払おうとした瞬間に紅蓮の火焔が渦巻いて向かって来た。

間一髪、横っ飛びで躱す。

後方に居た鬼達の数名は巻き添えを喰らっただろう。

鞭は牽制と囮で、本命は扇の火焔放射攻撃であった。


「そらそらそら、さっさと燃えちまいなぁ!」


今度は牽制で扇をあおぎ、火焔で追い詰める。

予測される移動ポイントの奥へ鞭を放つ。

狙いはワーズではない。

後ろで身構える鬼兵の手だ!

鞭で叩かれて思わず戦斧を落とす……。

火焔を避けたワーズの頭上へ!


「!? フリージングブレード!」


 落下する戦斧を前へ踏み込んで避ける。

次の手を予測し、叫びながらバスターソードを両手で握り上段から振り下ろす。

向かって来る火焔を切り裂き、火焔攻撃を回避して見せた。


「流石、ウチのポンコツ三等兵鬼神大佐とやり合うだけは有るわね」

「ふん、貴様なんぞに構っている暇はない!」


 せせら笑うキルケーに牽制の斬撃を放つとワーズは背を向けた。

怪人部隊の先頭に居るウォリアースーツの男へ向かう。

そこでワーズの目的に気が付いたキルケーは怪人達に指示を出す。


「アイアンスパイダー! ニードルモスキート! そいつを連携して足止めしろ!」

ヤヴォールはい!」


 部隊の中の四人が振り向き、ワーズに攻撃を仕掛けて来た。

アイアンスパイダーと呼ばれたフルフェイスマスクの男達が身構える。

顔に四つのカメラを持ち、口には何かの噴射する管が出ていた。

ニードルモスキートはその場で口から針らしき物を装填する。

スパイダーが接近するワーズの足と手に向かって糸を吐く!

飛来する糸をサイドステップで避けた所をモスキートの針が襲う!

高速で飛来する針をワーズは難なくバスターソードで弾く。

歩みを止めないワーズに対し、スパイダーたちが身体を張って止めようとする。

がら空きの頭を上段から切り裂き、マスクが割れて男の顔が出て来た。

その顔は川でトレバー一行に絡んで来た盗賊の兄貴分だった。


「あぅ……いてぇよぅ」


 割られた顔が涙を溜めて絶望を形取る。

ワーズは呟きをまったく気にせず、他の三人を両断に仕留めた。

そこで溜めを作る。

先頭の男へ一気に迫るためだ。

しかし、その必要は無かった。

乱戦の中、ワーズへ拳ごとスーツの男が突っ込んで来る!


「きさまぁ!」


勢いの強い、馬力のある拳をバスターソードで受け止める。

そこで相手が鬼神でないことに気がついた。


「何者だ?!」

「五月蝿いっ!」


 問答無用で殴り掛かる男をワーズは仕留めようと振りかぶる。

その背後から巻き添え上等の必殺技をブチかましてきた。


「全員散開! フレイムトルネィド!」


 一気に仕留めるべく、キルケーはフレイムトルネードを放ってきた。

ウォリアースーツはこの程度のダメージなら立ち上がって来る。

しかし、ワーズや周囲の鬼兵達に相当なダメージを与えるだろう。

紅蓮の炎に巻かれ、鬼やワーズ、ウォリアーが宙を舞う。

キルケーは扇のレーザーブレードを構えるが、恐ろしい殺気を真横から感じ後方へ飛ぶ!

思わず殺気の方向に構える。

そこには緑色の魔力を右手に集約させていたラゴウが居た!

必死に鞭を振るい、手近な鬼兵を捉えると盾にした。


――ヴォン!


 不気味な緑色の光弾をラゴウがピッチャーのように投げる。

不愉快な振動の光弾が当たる直前にキルケーは鬼兵を光弾に蹴り飛ばす。

蹴った反動を使い、キルケーは鞭で別の鬼兵を捉えて素早く逃げた!

緑の光弾が鬼兵に当たるときっかり二秒後に身体が爆散した!


(誘導アンチマテリアル弾かよっ! シャレにならんわ!)


 鞭に巻かれて苦しむ鬼兵に扇のブレードでトドメを差してキルケーは内心で愚痴る。

こちらジャクルトゥチームには狙撃が出来る長距離攻撃持ち担当は居ないのだ。

それより先程飛ばしたウォリアースーツの男を心配して探す。

改造後の初陣に当たる男は舞と二人掛りで実戦訓練したが、まだまだ甘いのだ。

トレバーならまず戦場に出さないレベルであった。

しかし、致命的な戦力不足ゆえに出してきた。

但し、堕天にとってはトレバーをも超える逸材で、現時点の最高傑作であるらしい。


「勝手に死なないでよね……まったく」


キルケーは貴賓席で攻撃を始めたラゴウとどうやり合うかを考え始めた。


 一方、スーツの男はワーズと共に戦場のもっとも激しい場所に飛ばされた。

そこはウォリアーとゲンナジーが鬼兵相手に暴れまわる中心に墜ちる。


「なんだぁ? ナニが飛んできたぁ?」


ワンツーで棍棒ごと鬼兵を粉砕したゲンナジーが目前に落ちて来た人間に身構えた。

背後のウォリアーも目の前で立ち上がる剣士へ構える。

見知った顔、ワーズだった。


「貴様、メソッドと一緒に居たやつだな?」


バスターソードを支えに黒焦げになった鎧を脱いだワーズが立ち上がった。

上半身余分な脂肪が無い、鍛え抜かれた身体が闘志で膨張パンプアップする。

その視界の中央にウォリアーを捉える。


「貴様か……鬼神の偽物ばかり作りおる」

「ふっ、俺に言わせれば後発の奴こそ偽物だがな! まぁいい、見逃してやるからさっさと消えろ」

「なんだと?!」

「鬼神しか相手にしないを倒しても面白くもなんともないからな」


 牢獄での無礼を戦場で叩き返されたワーズの顔が赤く染まった。

地面に突き刺したバスターソードを抜いて強引に横に薙ぐ。

しかし身体はフレイムトルネードの火傷と墜落のダメージでキレがない。

余裕で避けたウォリアーから腰の入ったストレートを貰う。

胸板に拳の跡をつけられたワーズは血反吐を吐きながら鬼兵の列に吹っ飛ばされた。


「連れて帰れ! また来たらトドメ差してやる!」


怒りの形相で立とうとするワーズを鬼兵が担いで退場させた。

背後のゲンナジーは苦笑して弄る。


「お優しいこって、ああいう輩はぁしつこいぞ?」

「今度は潰すだけだ。鬼神と間違えるなんて失礼過ぎる」

「そういやぁ、目の前のこいつも似てるよなぁ……」


 目の前に墜ちて来たスーツの男がやっと立ち上がった。

受け身が出来ずにモロに叩き付けられたらしい。

カラーリングや一部の形状は違うが確かにウォリアータイプだった。


「貴様、何者だ?!」


鬼神や自分と同等の改造人間がまた出て来たのだ。

同時にウォリアーの心に憤怒の炎が燃え盛る。

問いかけを聞いた男はフェイスガードとゴーグルを開けていきなり挨拶する。


「この前、ボグドーで命を助けて頂いてありがとうございましたッ! タイソン・ゴティアと申します!」

「エッ!?」


 仮面を外した男の顔はあのボクドーで搬送されたタイソンであった。

その顔を見たウォリアーは一瞬、呼吸が停止する。

やり取りを隙と見た鬼兵達が一斉に襲い掛かる!


「話は後にしましょう! とにかく切り抜けましょう!」


フェイスガードを下ろしたウォリアー・タイソンが襲い掛かる鬼兵を力任せに殴り飛ばす。

困惑しながらゲンナジーも応戦して答える。


「敵は沢山だから味方で良かったがぁ……焼石になんとやらって奴だぁ」


 かなり減ったとはいえまだ千鬼ほどは残っていた。

連れて来た怪人達ももう二、三人しか生き残ってはいない。

キルケーに至ってはラゴウの攻撃を避けながら戦っていた。

既に戦況はジリ貧になりかけである。


 その上空に一人の男が浮かんでいた。


「さて、メリッサ、さっき言ってた連動魔法をやってみようか?」

「畏まりです。大佐、先程教えた印をスコットと結んでください」

「おう! じゃ、メリッサ、ニールセン、ハクション〇魔王にヤキ入れるぞ!」


浮かぶ男、黒い鎧に身を包んだトレバーが号令をかける。

籠手、兜、剣が自立して動き、所定の位置に入った。

籠手とトレバーが独特の指の形を作り、輪を作る。

輪の後ろの位置に兜と剣が着いた。


「行くぞ! ブリザードスラッシャー!」


 トレバーの掛け声と共に兜が粒子の唇を作り、ブレスを吐く。

剣は後方に下がった後勢いよく突きを繰り出す。

吹雪になったブレスに真空の刃が混ざり合う。

その吹雪が印を結んだ輪に入った途端に圧縮、拡散されて打ち出された!

狙いは貴賓席のラゴウ達!


 迫る氷結の嵐に気が付いたラゴウは攻撃をやめ、片手で防護壁を作った。

そこへノインが席を立ち加勢する。


「これは凄い。ラゴウ、アンタそれで防げると思ってんの?」


微笑みながらノインは優雅に両手を挙げ、紅い魔力と青い魔力を放射して防護壁を三重にする。

そこにブリザード・スラッシャーがぶつかる!

防護壁が一気に崩壊するものの貴賓席は無事であった。

その代わり、周囲の観客席は紅白に染められる!

瞬時に氷結した者、真空の刃に切り裂かれ血を噴き上げた者が倒れていた。


「チッ、防ぎやがったか……まぁいい、威力テストは満点だ」


魔王への奇襲は失敗したが、威力にトレバーは納得したらしい。

再度、装備を装着し直して騒乱の闘技場に降り立った!




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