本部へ

 騒然とする魔人達を置き去りにして、トレバー達すたすたと出口に向かう。

その背中へジンガが声を掛けて止める。


「まぁ待てトレバー、我らの総意を持っていけ。それとポータルリング脱出の指輪テレポートリング転移の指輪を渡そう」

「ん? 人にやらして戦わねぇ奴が俺は一番嫌いなんだがな?」


貰えるものは貰うが、漁夫の利を狙う小悪党が嫌いなトレバーは振り返って睨む。


「そう言うな、奴の意思次第で我らも動く。それに他の緊急案件もあるのでな」

「なんだよ? それは?」


 視線を浴びたジンガは苦笑しながら指を鳴らす。

御盆を持ったアンドレアが二つの指輪を載せて運んできた。

紅い石と青い石の銀細工で作られた指輪であった。

グローブを外して指に着けると目の前に四つの映像が浮き上がる。


海で豪快に泳ぐ海皇。

どこかの大空を舞う巨鳥。

孤島の火山で巣食う大女王蜂。

そして砂漠を疾駆する巨大な狼。


「これらの調査がある。こいつ等も異世界から来た可能性があるのでな。しかもこの世界の武力では彼らを止められん」

「二体も増えてるな……シャレにならん」


 映像を見たトレバーが冷や汗をかいて呟く。

此処に来るまでに厄介な生物が二体も増えていた。

しかし、伊橋が蜂と交戦したと聞けば間違いなく挑戦しに行くだろう……。

映像を見ながらジンガが重々しく呟く。


「世界へ影響も出た。それでもアムシャスは動かない……そこでお前に会って動かなければ我々は動く」


 その言葉を聞いた魔人たちも同じように頷く。

単にビビっているわけではなく、既にそこの意思統一は取れているらしい。

一同の様子を見たトレバーは茶化し始めた。


「お? 終末戦争か?」

「いや、地母神にチクる。我々は無駄死にはしない。やるのなら効果的に死にたいのだ」


 苦笑したジンガにトレバーは呆れかえった。

しかし、まともにやっても勝てないのは明白であった。

魔人達はアムシャスや有害因子を世界からの排除が達成すれば良いのだ。

その結果が死であってもそれで満足なのだ。


「それじゃ、その総意とやらを渡してくれ」

「うむ、……それではこれを持っていけ。奴に会った時、地面に投げろ」


大き目のコインの様な円盤をジンガは投げて寄こした。


「なんじゃこれは?」

「メッセージカードみたいなものだよ。喧嘩状でもあるがね」

「喧嘩状って任侠映画じゃあるまいし……」


円盤を見ながらトレバーが笑う。

そこにミミが話し掛けて来た。


「おい、六人衆をよろしく頼むぞ。ちゃんと話を聞いてやってくれよ?」

「ああ、任されて……ってどうやって話すんだ?」

「念話……って無理か……メリッサ! 通訳頼む」


 困惑するトレバーにミミは騎士に向かってそう頼んだ。

すると兜が浮き上がり、トレバーにゆっくりと装着された。


「コホン、さっきはよくもやってくれたわね。約束だから仕えてあげるけど舐めた真似したり、ふざけた真似したら承知しないぞ?」


いきなり耳元で少女の声で恫喝され、トレバーが面食らう。


「はぁ?! こりゃ凄い……分かったよ。とりあえず全員に挨拶したい」


驚きつつ、トレバーの周囲に集合する様に頼む。

全パーツが兜に寄り添い集まる。


「ご苦労様。改めて挨拶する。俺はトレバー・ボルタック、皆今後ともよろしく頼む」

「あ? 誰がお前についていくと決めた? 勝ったからって調子に乗るなよ?」


 いきなり籠手、リーダー格のスコットも恫喝を始めた。

全体の雰囲気では全員ほぼ納得していない様子だった。


「敢えて言う、魔法が使えない俺に六人がかりで負けたお前ら……マジで調子良いな」

「「「「「なに?!」」」」」

「体術とからくりだけで数的不利を覆して勝った。これでアムシャス討伐?……冗談だろ?」

「ぐっ」


驚きの事実に痛罵を混ぜて叩き込むトレバーに六人衆は絶句した。

それに追い打ちをかけたトレバーの痛罵は止まらない。


「それで負けた相手に仕える誓約なのにちょーしこくな? お兄ちゃん立派だねぇ? それでこそポンコツどものリーダーですわ」

「マテコラ、俺は兎も角、仲間を馬鹿に……」

「するなって? リーダー矢面に立たして自分はだんまりしてるような奴らなどポンコツでも勿体ない! 恥を知れ!」


そこまで言われた六人衆は完全に沈黙した。


「最初、俺はお前らが配下になってくれれば魔王さえ単独で一蹴出来ると思った。だが、俺一人で潰せるお前らでは話にならん。ミミが直して、ジンガが送り出してくれるから連れて行くだけだ。二人の顔を潰すのであればお前らここで置物してろ。俺は単独でアムシャスに会う」

「まて、待ってくれ、私はカリームと申す。ボルタック卿、卿はアムシャスと一戦交えるつもりか?」

「卿……まぁいい。俺の助手たちと仲間を拉致ったあげくに上から目線は気に食わん」


胸甲のカリームの丁寧な物言いに少し驚きながらトレバーは答えた。

その答えを聞いたカリームは同行を申し出た。


「では、私を連れて行ってほしい。大概の魔法は弾く」

「おい、カリーム! ずるいぞ!」


申し出を聞いたスコットが文句を告げるが、剣のニールセンが茶化す。


「ウチのリーダー様は馬鹿過ぎて本懐を忘れてしまったらしい。私、ニールセンも同行希望だ」


ニールセンの言葉には笑いを我慢した雰囲気が感じられた。


「御託はいいんだよ。来るのかこんのか?」

「「「「「傘下に入ろう」」」」」

「おし、命令は厳守、但し、契約としてアムシャスとの対戦を誓約しよう」

「承った。今後ともよろしく」


いい加減馴れ合いに飽きたトレバーは一方的に誓約をし、了承された。

集合を解散するとジンガが一行に手を挙げた。


「それでは異世界の戦士に勝利と栄光を」

「「勝利と栄光を」」


魔人たちがジュースの入ったグラスで献杯をする。


「おう! ありがとよ。また会おう」


献杯に手を挙げてトレバーは答えて外へ出た。


「卿、リングは使わないのですか?」


集合は解かれたが、伝達役として未だに兜、メリッサを頭に着けていた。


「ああ、そうだな使い方を教えてくれ。それと、卿はやめろ。大佐で頼む」

「分かりました。大佐」

「うん、それでいい。卿ッて柄じゃねぇしな」

「畏まりました。使いたいときに指輪を握り、外や街の風景を思い出せば飛びます。赤は脱出、緑は転移です」

「成程、分かった。回数制限は?」

「人間なら一日一回程度は可能かと」


 メリッサはまだトレバーの正体を知らなかった。

苦笑しながらトレバーは注文を付けた。


「メリッサ、兜の形状は変えれるか? 視界の感覚が慣れていないんだ」

「エッ……可能ですがどうしましょう?」


 原型がクローズヘルムでバイザーが上部の視界を遮るのだ。

最も頭にトサカが付いたデザインは馬鹿っぽくて嫌なのもあった……。


「そうだな、バンダナか鉢金はちがねってわかるか?」


床に指でトレバーは絵を描いて見せた。

メリッサは納得し弾んだ声で答えた。


「はい可能です! では……こんな感じで……」


 白銀の輝きがモーフィングしながら形状を変えていく。

額の部分を守る様作られた日本幕末の装備、鉢金をトレバーは此処で提案した。

変身後でも付けられる頭部防具はそれぐらいしかひらめきが無かったのだ。


「では、私達も?」


カリームが意向をくみ取って尋ねて来た。

困惑する前にトレバーは先に考えを伝えた。


「ああ、ただ、俺の変身後はスーツの形状が変わることもある。後日、形状とマッチアップして考えよう。此処の能力が存分に奮えるように」

「畏まった」


 短く答えるカリームに頷くとトレバーはチームを集合させ、ポータルリングを握った。

数秒の後風景が歪むと視界に光が溢れ、オアシスの近くに一行は出現する。

しばらく振りの地上であった。


「「おおっ! 気持ちいいっ! これよ! これが地上の風よ!」」


 数千年ぶりの光と風に六人衆が歓喜の声を上げた。

各々分離すると浴びるように飛び回って身体を回す。

オアシスに向かいながらトレバーは本部に連絡を取った。


「俺だ。首尾はボチボチだ。状況は?」

「大佐、お疲れのところすまんな、伊橋が捕まった」

「はぁ?! どいつもこいつも……こちらもな」


いきなりの堕天からの報告にトレバーは呆れながら一連の情報を教えた。

それに反応したのは堕天ではなかった。


「大佐、実に興味深い……アムシャスの所に向かってくれたまえ! 我々をここへ送り込んだ黒幕を暴け!」


 割って入って来たのは大首領であった。

何時もの冷静な言動が徐々に怒りを帯びていく。

トレバーの推測通りに大首領の怒りに火を着けたようだった。

しかし、それを堕天が諫める。


「恐れながら大首領、ここでガマッセルの敵陣に最優先でダメージを与えておきませんと……。アムシャスとの開戦は多面作戦を強いられることになります。元の世界のように……」

「ぐぅぅ」


堕天の諫言を聞き、複数の敵との開戦を避けたい大首領は絶句した。

そこでトレバーも提案した。


「大首領、例の巨獣もいるからおいそれとは魔王も攻めてこれない。ここで打撃を与えて時間を稼いだ方が得策だ。も増えるしな。アムシャスについては終わり次第着手する」

「……わかった。しかし大佐、君はしばらく帰ってこれないだろう?」

「フッ……およびとあらば光の速さで帰るぜ。後詰めは任せろ」


献策を聞いた大首領はとりあえず納得した。

しかし堕天はトレバーの言動にやはりイラついていた。


「相変らず無礼な男だ。何でも良いが既にキルケー率いる第一陣は出た。速く戻って来い」

「了解」


 通信を切り、全員に集合を掛けた。

その眼前に巨大な物体がいつの間にか存在する。

音も無く、気配もなく、忍び寄った動きもない。

死を運ぶ死神……トレバーは思わずそう感じた。

大樹の根っこを丁寧に嗅ぐ、銀色の体毛をしたスケールの著しく狂った狼が居た。

他の巨獣並みにかなりでかい。

尻尾の先まで合わせれば全長一キロはある。

トレバー達が乗って来た砂漠トカゲをおもむろに咥え、咀嚼し始めた。


(噂の巨獣か……クソデカいな……)


内心呟くとメリッサが話し掛けて来た。


「大佐、ジンガから調査に入るからくれぐれも仕掛けるなよ? と連絡念話がありました」

「やるかよ。何かわかったら教えてくれ。じゃあなと伝えろ」

「了解です」


観察しながら指輪を取り出す。

青い石を握った時、狼と視線がぶつかった。


(俺を認識しやがった。さっさと飛ぶか)


 六人衆の連携訓練代わりに仕掛けようかと思った。

だが、ジンガとの義理もある。

大人しく指輪を握り、本部の入り口を思い浮かべる。

視界が再び歪み、瞬時にしてトレバーは久しぶりに本部入り口に帰って来た。

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