六人衆

 ミミから粗方の情報を聞き終えたトレバーは武装選択を始めた。


「なぁ、魔法防御の品か防具ってあるか?」

「発動前に詠唱を邪魔する奴か発動後に防衛する類かならある」

「両方見せてくれ」

「贅沢な奴め」


その要求に苦笑しながらミミは机の上にマントにお守り、護符、小瓶などを出してきた。


「そらよ、対人から魔物、アムシャス専用まで用意してある」

「簡単に説明を頼む。今度はワインも付けるから」

「めんどくせーなぁ、分かった。よく聞け」


ワインに目がくらんだミミはざっと魔法防御について教授し始めた。

一度成立した魔法は力、現象を必ず発動する。

防御法は二つ、トレバー達が今まで使って来た詠唱が終わる前に潰す。

もう一つは受け流すか軽減する方法だ。


「魔法には四大元素に光と闇がある。その相克関係を利用して増幅、軽減させるんだ」

「召喚護符や瓶に元素を詰めてばら撒くってやつ?」

「そういうこった。それだけでも弱体化する化け物が居るし、強化されるのも居る」

「アムシャスは?」

「アイツは無属性だ。この仕組み造った張本人で魔法の類、全部無効にしてやがる。世界破壊装置とはよく言ったもんだ」


 出来の悪い家庭教師のようにミミはトレバーの質問に答えていく。

その隣では感心しながらも武器を漁るブラウン達がいた。


「この防具一式持っていったら大金持ちだで? ジョー?」

「ああ、対魔法の刻印が巧妙に施されている。並大抵の魔法は弾くぜ」


目をぎらつかせながらブラウン達が防具を弄った。

対魔法つきの防具はレアもので家宝にするぐらいの品だ。

そこでブラウンが気が付いた。


「なぁ、ミミ、アムシャスに対抗するなら無属性の魔法にした方が良いのになんで他の属性があるんだ?」

「ああ、それか……まぁ残念な話だが、反乱者や人間達から進攻があったんでな」


 終わりのない任務に嫌気がさし、一人、また一人と地下世界から去って行った。

そのうちにアムシャスが好きにやるなら自分達もと動き出した。

地上に出て王朝を起こし、より戦力を得るために襲いに来る者。

迷宮内で徒党を組み、人間を率いて反乱を起こすものも居た。

同じ世界から来た者への攻撃は無効になる。

代わりにこの世界の人間や生物に攻撃させるのだ。

その為に愚民に知識や技術を教え、鍛え上げ、広める。

確実に世界の文明に影響を与えていた。

敵意に満ちた彼等を平定、鎮圧するのに対応した武器が要るのだ。


「ふぅ、色々勉強になるぜ」


 脳裏に脂ぎった笑みのメソッド同じ世界の住人を思い出しつつトレバーは自嘲した。

その言葉にミミは勘違いをしていた。


「まだまだあるぜぇ?」

「いや、もう十分だ。例の六人衆対策せにゃならん」

「マジでやるのか?」


 先程、ジンガとのやり取りを聞いたミミはもう一度聞き返した。

ジンガ親友が強硬派である彼ら六人衆と親しいのは知って居る。

だが、彼らを売るような真似はどうにも納得できなかった。

負けるはずがないと思っているのか?

別の思惑か?

困惑しながらミミは自分ならの前提で対策を提示し始めた。


 そしてトレバーが対策を参考に武装を選択する。

上部サブアームには悪魔のウォーメイスと称する武器を二振り持たせた。

下部には対魔法処理した特殊カイトシールドとタワーシールドを装備した。

両手には対攻城用ドカチンハンマーを手にもつ。

アガト達には本部に送る対魔法用の品々を背負わせた。

アムシャス用の護符やお守りも中に入れておく。


「打撃メインで防御もばっちりだ」

「相手はヒヒイロカネにダイヤモンドコーティングしたボディだ。思いっきりぶったたけ!」

「おう!」


 送り出したミミは心中複雑であったが、盟友ジンガの思惑に賭けたのだった。

その後ろでは武装を整えたジョナサン達が居た。


「じゃな、ミミ! あのバカタレ今度連れて来るぜ。帰り用のテレポートスクロールもありがとな」

「ミミありがとね。これ全部家宝にするでよ!」


新調した鎧と装飾品に身を包み、複数の品々括り付けた姿にミミが苦笑した。


「お前ら、少しは遠慮しろよ……たく、またなゴロツキ共!」


トレバーの後を追うように二人が出ていく。

一行を見送り、テーブルの帳簿を弄るとミミはジンガの部屋に向かって行った。


 大広間の前に立ったトレバーは殺気立った雰囲気を察知した。

確かに何かいる。

今まで感じた事の無い何かを感じた。


「アガト、テュケ、今から指示を与える。良いか?」

「うん」

「あいっ」


そのただならぬ雰囲気にアガト達は真剣な表情でトレバーを見た。


「もし俺に万が一の事があったら、アガトはテュケと共にジョーと一緒に脱出、本部に行き、キルに情報を与えて服を新調して貰え」

「う、うん! 分かった!」


一瞬、絶句するが、アガトは指示を守ると伝えた。


「アガト、継続契約を望むならキルに聞いてみろ。それから訓練は忘れずにな、以上だ」


そこまで言うと今度はテュケに向き直った。


「テュケ、お前は本部のキルに合流し、情報を与えて指示を仰げ」

「あいっ!」

「じゃ、ジョー、いっちょぶちかまして来る。こいつ等をバティル城まで頼むぜ」


 追いついて来たジョナサン達にトレバーは送迎を依頼した。

だが、ジョナサンは首を振った。


「バティル城?! あのバカが居る所なんぞに行くかっ! ボケっ! テメェで連れて行けや」

「いや、ジョー、そんな無茶言ったらイカンてー」

「あ? むちゃでもなんでもかちゃ良いんだよ!」


ごね始めるジョナサンにブラウンが取りなす。

しかし、ジョナサンは強引に押し切った。

彼なりの叱咤激励らしい。


「おう、まぁやってみるさ。ギタールも頼むぜ」


 アガトに背負わせたギタールを一瞥し、トレバーは両開きのドアを開けて入った。

埃の積もった大理石が床に敷き詰められ、踏み出すたびに埃が浮き上がる。

かなり高い天井から年月を経て使われなくなった黄ばんだシャンデリアが釣り下がる。

聖堂バシリカ式建物のようなテニスコートより広い空間がトレバーを迎え入れた。


「さて、噂の英雄さん達はっ……アレか……」


分厚く奥まで続く長い机の向こう、奥まった中央に何かが座っていた。

舞いあがる埃に気が付き、マスク代わりのマフラーを鼻と口に当てる。


「汝、何者だ」


何処からともなく声が聞こえる。

男とも女ともわからないが、怒りが幾分混じっているとトレバーは感じた。


「さて、六人の誇り高き戦士よ。俺の名はトレバー・ボルタック! 鬼神大佐と呼ばれている。……俺は最高の部下を求める。……率直に言う、俺んとこ来ないか?」


大声でトレバーが宣言すると両脇の燭台に青白い炎が灯った。

その座っていた物の正体が件の鎧一式と分かった。


光を浴びたクローズドヘルムは白銀に輝きだす。

紅蓮の炎をあしらった胸甲ブレスプレートにはスカート下部装甲が無かった。

次に籠手が目覚め始める。

手の甲にあるルビーへとエメラルドとブルーのラインが絡み合うように光り始めた。


「はいはい、皆さんさっさと起きてねぇ、俺も最初っからマジになるからぁ……チェェェェェンジッ! ウォリアァァァァァァァッ!」


 負けじとトレバーが変身して部屋を白く染め上げる様に輝く!

変身に呼応する等に傍らの長剣がすらりと抜き出る。

柄の部分には鉤状の鍔、その中央にある赤い菱形のルビーが赤く発光し始めた。

大き目のカイトシールドが回転して自身についた埃を掃い、先の刃が出てくる。

そして天井から今、帰って来たらしい上質なブーツが鎧の前に降りて来た。


「皆さん、おそろいで? それじゃあっ!」


 言うが早いか鬼神は速攻を決めた。

一気に間合いを詰め、ヘルムと籠手をメイスとハンマーをフルスイングする!

全力で殴り飛ばされたヘルムと籠手は石壁に弾かれ凹んで地に落ちた。

胸甲はメイスをドラムロールの如く連打で床に叩き付ける。


 その隙に剣と盾が左右から横殴りに襲い掛かる。

下部アームを動かし盾で防ぐ。

だが、手数は向こうが多い。

鬼神のボディに盾を掻い潜ったブーツの爪先がめり込む。


「ぐっ!」


急所を狙われ、スーツ越しの衝撃に鬼神が耐える。

ブーツの二撃目を避けるために一度後ろに下がろうとする。

頭上に殺気を感じ、手に持ったハンマーを上にぶん投げる。

予想していた追撃を避けきれず、腹筋で蹴りを受けながら後ろに飛ぶ。


 頭上に居た籠手は魔法のチャージに入った所をハンマーで弾かれ邪魔されていた。

本来は前衛で切り込み担当だった。

しかし、分析・後衛担当の兜が初回で倒される状況になる。

ならば戦力は落ちたが手数で圧倒すればいい。

籠手はそう考え、念話で指示を出す。

再び横合いから剣と盾が襲い掛かる。


 それを鬼神は跳躍し躱すと一気に上空の籠手に迫った。

メイスで再度チャージし始める籠手を叩き落とし、盾で挟み込む。

動きが止まった所を両手で掴み、ワンツーのテンポで下へ全力で投げつけた。

拳を大理石の床にめり込ませて籠手が沈黙する。

鬼神は想定した作戦通りの手順で攻め込んで行く。


 六人衆のうち、攻撃魔法を使うのは兜、籠手、剣の三つであった。

幾ら鬼神が魔法防御を高めても集中攻撃されれば容易に穴が開く。

そこで、こちらの素性と手口が分からないうちに叩く。

此方の弱点、攻撃法が知られてしまえば危険だ。

初手で最低二体は潰すつもりであった。


 属性魔法攻撃主体なのは兜、最初にこれを潰す。

そのフォローに回る筈の魔法を始め多彩な攻撃とリーダーの籠手を二番目にする。

物理メインだが魔法も使う剣は三番目の順番だった。


(さて、剣だが……!)


威嚇する胸甲と盾に隠れていた剣が上下に刀身を勢い良く振られた。

盾や胸甲がブラインドになり、剣圧と衝撃魔法が鬼神に向かう!

着地と同時に横っ飛びで剣圧を避け、盾で衝撃魔法を受けた。


「ムッ……結構来るな……」


 盾越しに来る衝撃に鬼神は思わず感想をつぶやく。

背後から足を揃えてブーツのドロップキックのような蹴りが飛んできた。

だが、これはメイスで払い除けた。


「ふぃ……次ィ!」


 思わず口走ったその瞬間、胸甲が顔に向かって襲い掛かってきた。

動きの遅さにパンチでのコンビネーションで迎撃しようと構える。

間合いに入る直前、胸甲は騎士が身に着けるサーコート踝丈の上着の様な前掛けを垂らす!


(?!)


 その怪しさに鬼神が慌てて横っ飛びで躱す。

ちょうど鬼神の胴体があった空間を剣が豪快に薙ぎ斬る。

しかし、そこで隙を見せてしまった。

対応が遅れた右上部サブアームの前腕を盾が壁に叩き付けた。


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