武器庫のミミ

方針を渋々決めたトレバーにジンガは自虐の笑いを浴びせつつ勧めた。


「ああ、そうすると良い。くれぐれも我らにのようになるなよ」

「それは大丈夫だ。うちは基本トップダウン方式だからな」


自嘲で返すようにトレバーが答えた。

その答えを聞きジンガは少し考えこんで提案し始めた。


「さて、ここで色々教え込むと介入問題になる。そこでだ。……おい、アンドレア」

「はい、ご主人様」


先程の間抜け顔がエプロンで手をぬぐいながらやって来た。

間抜け顔に向き直ったジンガはペンを取り、メモを取りながら話しだす。


「例の六人衆、まだご健在か?」

「へぇ、大広間には行って無いですけれども未だご健在かと思います」

「くれぐれも部屋を出た突き当りの部屋には行くなよ」

「へぇ。畏まりました。あの方々の住まう大広間ですもんね」


アンドレアはトレバー達を無視しつつ問いかけに真摯に答えた。

満足げにジンガは次の問答に移った。


「そこで尋ねたいのだが、お前に広間の鍵は預けてあったな?」

「やだな、御主人の上着のポケットにいつも入っているじゃありませんか」

「おお、そうだったな。アンドレアは賢いなぁ」


誘導されているアンドレアは褒められて踏ん反り返る。

意図を読んだトレバー達も拍手して盛り上げる。


「そういえばアンドレア、武器庫の担当はミミだったな」

「はい。ただ、いつも鍵は開いてるから掃除しておけと言われますよ」

「部屋を出て次の四つ辻を右の部屋だったな。彼は三、四組程度、武器が無くなっていても気にしないから困ったものだ」

「まぁ、ミミ様はずぼらですから」


笑うアンドレアは茶器を下げながら答えた。

肩を竦めながらジンガは鼻で笑う。


「お前に言われたら心外だとミミは怒るだろうが、私も同意するよ」

「ありがとうございます」


 礼を言って奥にアンドレアは食器を洗いに行った。

上着のポケットから鍵を取り出してトレバーに投げ渡す。


「そういうわけだ諸君、健闘を祈るよ」

「ああ、そうだ。ジンガ、お礼をさせてくれ。気に入ると良いのだが」


 立ち上がって握手を求めたジンガにトレバーがキャリアーをオープンさせた。

そこには新鮮な柑橘類、葡萄、林檎にジュースのタンクが積まれていた。


「おおっ、これは!……素晴らしい香りだ! 瑞々しい光沢……ああ、なんて日だ」

「例のミミにも分けてやってくれ。あの人が居なけりゃこの出会いは無かった」


久方振りの果物に感激するジンガにトレバーは微笑む。

するとトレバーの手をジンガは真顔でサッと掴むと握手をする。


「ああ、そうしよう。……では、トレバー」


指をパチっと弾くとジョナサンとブラウンの動きが止まった。


「なに?!」

「記憶を消さしてもらった。なに、この世界についてのみだ」

「ああ、俺は?」

「口が堅そうなのと異世界の人間だからな……知っておかないとアムシャスとは話せん」


少し驚いたトレバーは止まったままの二人を見る。

記憶操作の理由に納得した。

たしかにこの世界がーとか言われたら正気を疑う。


「そうだな……ちなみに一つ聞きたい。例の六人衆の件だが……」

「六つの武具と一斉に単独で戦え。そして勝てば彼らはお前の配下となる」

「六つねぇ……なんとかするか」


 例の六人衆の件を聞いたトレバーは困惑しながらあの部隊を思い出した。

ウォリアーに並ぶ強敵、特別攻撃戦隊キットクルンジャーの連携攻撃である。

幾度も叩きのめしても立ち上がって来るタフネス。

一つの技を起点とした爆発的な攻撃力の連携攻撃。

詰めに定評のある合体攻撃。

嫌な思い出逆転劇経験負け戦だが、対策は練れそうだ。


「じゃな、ジンガ、縁があったらまた会おう」

「ああ、アムシャスと六人衆が遭遇すれば一戦あるぞ……。またそれも一興、再会の時を楽しみにしているよ。異世界の戦士よ」

「やれやれ、この世界最強生物と戦えってか?……おもしれぇ、その前に六名様お相手してくるぜ」

「彼等にもよろしくな」


 トレバーを送り出し、指を弾いてジョナサン達を解放した。

眠るアガト達をトレバーは起こすと一足先の外へ出た。


「それではジンガ、ありがとさん」

「ジンガ、ありがとねーっ!」

「ああ、機会があればまた会おう」


 何も知らない二人は笑顔で握手し、出て行った。

笑みを浮かべジンガは一行を送り出した。

扉を閉じるといそいそと林檎を取り、思いっきりかぶりつく。

目を閉じて甘みと酸味を堪能しつつ感動のあまりソファに倒れ込んだ。


 部屋を出た一行はそのまま武器庫に向かった。

六人衆対策とジョナサンやブラウンの武器お宝をゲットする為だ。


「トレバー、六人相手にするってえらにゃーか大変だろ?」


自分を当てはめて、ブラウンがゾッとしながら尋ねた。

ブラウンの恐怖に対してトレバーは苦笑しながら答える。


「正直、大変だぜ、少しでもダメージを喰らったら、そこから畳みかけられて終わりだ」


 自身の経験から或る程度のテンポとパターンに入ったらまず完封できる。

だが、相手は六人だ。

ほんの些細な切っ掛けで逆転された事は多々あった。

油断せずに一人ひとりを完全に潰す。

これがトレバーが考える唯一の策だった。

話の通りに角を曲がり、武器庫に入る。

やはりカギは掛かっていないが、一人で整理をしている男が居た。

この男も白いタキシードを着ていたが、汚れるのが嫌らしくエプロンを付けていた。


「何者だ?! 貴様ら?!」

「お前さんがミミかい? デカい口の魔術師と知り合いの?」


 無造作に入って来たトレバー達を男は一喝した。

如何にもチャラい。

お調子者な顔立ちだが性格は悪くなさそうだった。

その顔をみて宥める様にジョナサンが問い掛けた。

その途端、驚くと同時に目を輝かせた。


「おっ、おまえらあの男の知り合いか?」

「ああ、昔つるんでいたよ。お前さんの話を聞いてたんで尋ねて来た」

「おお、野郎は元気かぁ?」


エプロンを外し、手袋を取るとミミは握手を求めて来た。


「ああ、オレンジジュース飲みながらのんびりしてたぜ」

「なぬっ!? マジマジマジなのぉ?」


オレンジジュースと聞いたミミがトレバーの呟きに反応した。

餌をお預けされた犬のように挙動がおかしくなる。


「お前さんの分はジンガの所に置いてある。堪能してくれや」

「おう、ありがとなー、心の友よ! じゃ、適当に漁ってくれ」


 何しに来たのかわかっているらしく、スッとエプロンを投げ捨てる。

労働意識の薄さに唖然とするトレバー達を置いて出て行った。


「チャラいなー」

「チャラいね」

「あんなんでいいのか? 魔人の社会は!」


その背中を見ながら一同は呆然としていた。

だが、時間もないし、他の魔人が友好的とは限らない。

早速、武器を吟味し始めた。


「えーっと、何々? パブロのヌンチャク・ハンマー? 要るかよ!」

「お? 守護神の盾だ……。無茶苦茶レアもの、国宝級だでぇ!! 」

「剣玉フレイルって……使える奴いるのか?」


 三人がそこら中を物色しはじめた。

だが、防具は兎も角、奇妙な武器ばかりであった。


「おいおいおい、これで何と戦うってぇ? 自分を武器化する理由が分かったぜ」

「でも、こんなのを駆使できる奴は超絶技巧を持った超戦士だぜ?」

「自重より遥かに重く長い剣玉を振るう人間か……こわっ!」


呆れるトレバーはジョナサンの指摘を受けて納得し、恐怖した。

そこにアガト達が長い刀を引っ張り出してきた。


「にいちゃぁん! こんなんあったよぉ?」

「かっこいいよぉ? これ」


 口々に勧めながら一振りの太刀を差し出す。


「お? 刀か?」

「どれ、みせてみ?」


太刀を受け取ったジョナサンがシュッと刀身を抜いてみた。

幅広で刀身に平行線状の板目の模様が付いた豪壮な太刀であった。

根元の反りが強い反面、先に行けば弱くなる。


「こんなにすげぇ太刀は見た事がねぇ」


刃紋は金属の粒子が見えそうな程大きくくっきりと出ていた。

溝があり、軽量化する為に付けられたと思われた。

柄にあるなかごを抜き、たがねを見る。

そこには見た事の無い文字で銘が刻まれていた。

「光世作」

そう刻まれた銘はただの太刀ではないと思えた。

興奮冷めやらぬジョナサンに背後から声が掛かる。


「そりゃそうだ。現在、地上にあるのは僕らが残したり、教えた技術の延長か真似なのだから」


 部屋へ溜息交じりでミミが戻ってきて詰まらなそうに答えた。


「あれ? 果物喰いに行かせんの?」


ご機嫌斜めを察してブラウンが理由を尋ねた。


「ああ、運悪くジンガが林檎食ってた。……アイツ、食事の邪魔すると激怒するんだよ」


 久しぶりの林檎を堪能している最中に踏み込んだミミは見事にジンガの落雷にあった。

とほほと言わんばかりにミミが呟く。


「あ? 技術が真似? マジで言ってんのか?」


技術云々の話を聞いたジョナサンが聞き返す。

今までの自分達が聞いていた話と違うからだ。


「ああ、アムシャスが大気や海、大陸を担当し、生物は俺らが担当したのさ」

「マジでか!」

「ああ、お前らが知恵つけて、農耕や狩猟が出来る頃まで面倒見たんだぜ?」


驚くジョナサン達にミミは笑いながら話す。

これではジンガの記憶操作が台無しである。


「それでオサラバだったのにアムシャスの野郎がごねるからエライことになっちまった」


ヤレヤレとミミは首を振る。

その一部始終に警戒するトレバーが居た。

ここで記憶をまた飛ばされては面倒だ。

武器の選定ついでに話を通すことにした。


「で、その剣は?」

「剣じゃねぇ太刀だ。三池典太と言う大業物だ。魔を祓う力がある。」

「へぇ!? 貰っとけ!」

「ああ、持って行け、まだ四、五振りあるから黙っといてやる」


 トレバーの誘いにのったミミは調子に乗り始める。

しめしめと思いつつ、トレバーは六人衆対策も相談することに決めた。


「なぁ、大広間の六人なんだけど……」

「アイツらとやるのか? やめとけやめとけぇ、ブーツのマッカランは散歩好きだから単独で仕留められるが、後の五人は俺らの中でも凄腕揃いだぞ」

「ほぉー、そんなに凄いのか?」


 感心しながらトレバーは腰からスキットルを差し出す。

中身は汎用性を考えてスピリタス九六度のウォッカにしてある。


「お? あんがと……くぅ、いいねぇ……まずリーダーのスコットは籠手になってる。常に先頭に立ち、戦い、指揮する。戦闘力も防御も高い」

「ほうほう、そりゃ凄いな。その次は?」

「剣になっているニールセンだ。冷静なサブリーダーで攻撃力が最も高い。防御が甘いけどな」


話をテンポよく聞き出しながらトレバーは対策を練り始めた。

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